「やりたいことができないから会社を辞める」は後悔する? 奥田浩美が語る、20代のためのキャリア論

働き方の価値観が多様化する流れのなかで、今の仕事に満足がいかずに会社を辞めたいと考える人が増えています。

「やりたいことができないから会社を辞める」は後悔する? 奥田浩美が語る、20代のためのキャリア論

働き方の価値観が多様化する流れのなかで、今の仕事に満足がいかずに会社を辞めたいと考える人が増えています。

しかし、『会社を辞めないという選択』という著書をお持ちの奥田浩美さんは「短絡的に『今やりたいことができないから、会社を辞める』というのは、後で後悔しやすい」と語ります。

それでは、「今の仕事に満足がいかずに会社を辞めたい」という悩みとどう向き合うべきなのか。奥田さんに話を聞いてみました。

20代は得意なことを増やしていく時期


-「今の仕事に満足がいかずに会社を辞めたい」という悩みを持つ若者が増えています。このような悩みに対して、どう向き合っていけばよいのでしょうか?

「私は、20代のうちは自分が好きなこと、自分が向いていると認識していることを仕事にしている必要はない、と思っています。

なぜなら、20代のうちにやりたいことや、得意だと思っていることのみを信じて仕事をしても、自分の仕事の領域は広がっていきません。この考え方で仕事を選ぶと、長い目で見たときに人生の職業選択の可能性を狭めることにもつながります。20代はできること、得意なことを増やしていく時期なんです」

-やりたいことをやろうとする前に、まずはできることを増やそうということですね。

「はい。誤解をしてほしくないのは、私は『夢を持つな』とか『やりたいことをやるな』と言いたいのではないということです。自分がやりたいと思う領域だけを目指すのではなくて、それに加えて、まずは人から頼まれた目の前の仕事が得意になるように努力する。そうすれば、自分のキャリアはより豊かなものになってくるはずです」

-なぜ、そういう考えを持っているのでしょうか?

「今の20代って『自分の中の軸を持って、天職をみつけよう』とか、『強みを持とう』と就職活動時代に言われすぎたあまり、わずか20年の人生で自分が得意だと思えることを決めてしまいすぎなのだと思います。

自分が得意だと思えることからはみ出さないように生きると、自分の強みを先鋭化はされる一方で、年を重ねたときに可能性が先細りすることもあると私は思っているんです。

なので、自分が得意じゃないと思えることでも、頼まれたら、まずは前向きにやってみたらいいのではないかと思うんですよ。自分の可能性に限界をつくらないで、そこから広げていく努力をする。そうすることで、40代50代になったときに大きな武器になっていることってあるんです」

仕事の意義は、経営者視点で考えると見えてくる


-とはいえ、今自分が担当している仕事に意義を感じることができない人たちもたくさんいます。そうした人たちはどのような意識を持つことが必要だと思いますか?

「私の会社員経験は1年半ですが、入社した会社で自分が与えられている役割に意義を見出せなくなりそうになったとき、自分より立場が上の人からの視点で今の仕事の意義や担うべき役割を考えるようにしていました。

つまり直属の上司から見た私、課長クラスの人から見た私、事業部長から見た私、といった具合に自分とは違った人が私のことをどう見ているか、どう動いてほしいのかを意識的に考えるようにしたのです。

たとえば、私が新卒で入社した国際会議を運営する会社で、開催に数億円かかっている大掛かりな会議の運営に関わったことがありました。

新人である私は、出席される方の名前を名札に入れる作業から始めるわけです。見方によれば、単純労働にすぎない作業です。でも私は、この名札を誰が何のために使うのかを意識的に考えて、小さな工夫を積み重ねました。

そういう末端の工夫でも現場の問題が大きく改善されたり、より運営がスムーズになることはあります。それが上長の目に留まって、もっと大きな仕事を任されるようになったんです」

-単純作業として、仕事に取り組むのではなくて、全体から見てどういう工程を担っているかを意識することで、与えられた役割の意義が分かるということですね。

「そうです。会社の中で、どんどん成長して任されるような人間になるためには、『組織の中の現場での役割』を筋立てて考える必要があると思います。全体の流れを俯瞰して考えたときにはじめて『今何が足りていないのか』を気づくことができるのです」

目の前の仕事で成果を出せれば、望む仕事はやってくる


-そもそも自分が希望する部署に配属されなかった場合は、どのように仕事と向き合ったらよいのでしょうか?

「社内の別の部署を希望していたため、今の配属が気に食わないという人もたしかにいるかもしれません。けれど、目の前の仕事で成果を出せない人に本人が望む仕事がやってくるわけはありませんよね。

与えられた仕事を完璧にこなすのは大前提です。その上で、自分に会社にとって役立てる強みがあると思う場合、今、自分が勤めている会社は何が問題になっているのか、ということを意識するべきです。これも先ほどお話した、『経営者目線で考える』という話につながってきます」

-経営者目線で考える、というのは会社全体の事業について考えるということですか?

「はい。例えば会社がどういう事業で成功していて、どういう部分が伸び悩んでいるかを調べ上げて、自分が会社に役立てることを上司に提案をしていくことで、やりたい仕事が実現するかもしれません。

もし直属の上司とそりが合わないといった場合は、自分が憧れる部署の上司とご飯をセッティングして、お話をすればいいわけです。まずは自分がやりたいと思うことを会社のニーズに近づけて考える。それが見えたら声に出してみる。そうすることで道が開けることはあると思います」

起業の前に会社勤めのメリットを冷静に考えてみる必要がある


-今やりたいことができないというだけで、20代で起業や独立を選ぶのはよくないと感じていますか?

「もちろんスタートアップのハードルが低くなった時代なので、『自分一人で独立したい。仲間と会社を起こしたい』という気持ちはすごく理解できるし、健全だと思います。

ただ長い目で人生を見つめたときに、大きな資本があり、優秀な人材や情報のリソースが眠っている企業に勤めているにもかかわらず、あえて辞める必要がどのくらいあるのかをもう一度冷静に考えてみるのもいいと思います。少なくとも短絡的に『今やりたいことができないから、会社を辞める』というのは、後で後悔しやすいと思います」

-最近では大企業でも副業やダブルワークOKという会社も出てきましたね。

「大企業は優秀な人材こそ、外に出ていってしまうという課題を抱えているでしょうから、副業やダブルワークOKという方向性にかじを切ることはすごく理解ができます。

また、今まで『部署が違うから関係ない』、『他部署のことはわからない』となっていた物事も、社内の横のつながりがどんどんフラットになって、他部署を巻き込んで業務を進めるケースが増えていくはずです。

こういう流れを理解していれば、やりたいことができないから会社を辞めよう、と考える前に、そのやりたいことをいかに社内で実現できるかを考えて、提案していったほうがいいと思うんです」

それでも会社を辞めたかったら、辞めればいい


-会社を辞めて自分のやりたいことをやろうとする前に、自分のできることを増やして、そこから社内でやれそうなことをまず考えるべきだというお話でしたが、それらを踏まえたうえでも辞めたいと感じた場合はどうすればよいでしょうか?

「これまで私が話したようなことをすでに実践していて、それでも今の会社にいたくないのであれば、転職なり仲間と起業するなりしたらいいと思うんです。『会社を辞めないという選択』という本を出していて、こういうインタビューも受けておきながら、元も子もないことを言いますが」

-それはどうしてでしょうか?

「きちんと考えた上で自分が選んだ道というのは決して後悔しないでしょうし、プラスの方向になるようになんとか自分で人生のかじを切っていくはずですから。

私自身、10代のころは先生になりたいと思って教育学部に進学した人間です。そこであるとき、『このままでは何かが違う』と思ってインドに留学して、国際会議の会社に勤めるという道を選んだわけです。

今でこそ『それって、何がすごいの?』って思われるかもですが、1980年当時、教育学部まで行った女性が進路を急激に変更して、インドに留学するというのは、結構な決断だったんですよ。

私にとってその選択が、自分の人生で主体的に選択をした初めての経験でした。当然、親や周囲の反対もあって、覚悟のいる決断でしたが、それをしたことで、人生に対して、きちんと自分が選択しているという実感を持てたんです」

-それがこれまでの起業家人生のベースになっているのですね?

「そうかもしれませんね。ITに特化したイベント会社を26歳でつくったときはそこまで緊張しないで、あっけらかんとしていました。それは既に人生の大きな選択を20代前半でしていたからなんですね。

しかも齢50を越えた今、大学で講演など、ある意味では教育に近い仕事を行ったりもするので、不思議な縁を感じています。結局、当時直感を信じてインドに行ったことで、回り回って10代のころ目指していた教師に近いこともやれているんです」

 

日々仕事に行くことも、自分が選択していること


-岐路に立って、大きな決断することで広がる人生もあるということですよね。

「そういうことです。私の著書のタイトルの意味は『あなたは今の会社にいることを、毎日選択してますか?』という問いかけなんですよね。

自分が不満や愚痴をこぼしながら、会社にいることを『選択してない結果』としているようなそぶりをしてるけど、そうではない。起業した人が『私は起業の道を選びました!』って声高にいうものだから、それが積極的選択に思えるだけなんです。

実は皆さんが、今の会社に毎日出勤していることも消極的ではあっても『選択』です。そのことをもっと自覚的に捉えないといけないと思うんです。少なくとも私は今、会社の代表としていろいろな案件を抱えているけれども、どのプロジェクトを立ち上げるときにも、必ず『選択』と『決意』をしているつもりです」

-会社に勤め続けるにしろ、転職するにしろ、仕事に対して主体的に選択していく意識を持つことが必要だということですね。

「はい。起業や独立だけが華々しい人生の選択ではなくて、日々仕事に行くことも自分が『選択』していることです。そういう意識を持って、時代の流れを読みながら自分のできることを増やすように仕事をしていれば、必ずや道が開けると私は思っています」

自分は毎日の仕事を「選択」できているか


時代の風を読みながら、そのときの自分ができる最善を選択して、自分ができることを広げていく。このように能動的な気持ちで取り組める人こそが、『やりたいことを実現する人』になるのかもしれませんね。最後に質問です。あなたは毎日の仕事を「選択」できていますか?

撮影:本田正浩

著者プロフィール


奥田浩美(おくだ・ひろみ)
株式会社ウィズグループ、株式会社たからのやま代表取締役。1989年、インド国立ボンベイ大学(現ムンバイ大学)大学院にて社会福祉課程を修了。MSW(Master of Social work)取得。国際会議の運営会社に入社。1991年、ITに特化したイベントサポート事業を設立。2001年、株式会社ウィズグループを設立。2013年には株式会社たからのやまを設立。


※この記事は2015/10/23にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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