労働に関するさまざまな問題が取り沙汰される昨今、生活スタイルや価値観の多様化に伴い、働き方の変革が必要不可欠であることは、今や明らかだといえます。なかでも根深い課題とされているのが「長時間労働」について。
厚生労働省が定める時間外労働の限度をゆうに超えるほどの長時間労働は、一体なぜ生まれてしまうのでしょうか? もちろん各企業が抱える事情は多種多様であり、どうしても長時間働かざるをえないケースはあるかもしれません。しかし、本来する必要がない残業や休日出勤が存在するのも事実。
そこで、企業や自治体向けにワークスタイル変革支援事業を行う「あまねキャリア工房」の代表であり、『職場の問題地図 ~「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方』の著者である沢渡あまねさんに、必要ない残業や休日出勤が生まれる根本原因から具体的な改善策までを取材。働き方に疑問や不満を持っている方にこそ、読んでほしいエッセンスを凝縮しました。
必要ない業務が生まれるのは「会社の仕組み」と「個人」それぞれに原因がある
「世の中には必要な残業や休日出勤がある」、それを大前提としたうえで、必要ない残業や休日出勤が生まれる一番の理由について、「井の中の蛙になっているから」と沢渡さんは言います。
「これは、世の中の仕事の仕方を知らないからということ。これまで多くの企業を見てきて、一番に感じるのがこの点です。それを踏まえ、3つの具体的な原因をお伝えします」(沢渡あまねさん:以下同じ)
1、時代遅れの仕事の進め方
「前任者の仕事のやり方を引き継ぎ、何年もそれを変えない企業は案外多いもの。ですが、実はITの仕掛けを使えば5時間の業務を30分に短縮できたなんて事例も多いのです。いつまでたっても仕事のやり方を変えないというのは、集団時代遅れとしか言いようがありません」(同)
2、改善後の世界を知らない
「たとえば、ダラダラと長引く進捗報告だけの会議が定番化してしまっているような企業では、『そもそも改善後の良い状態』をイメージできないため、会議の内容を変えようという発想が生まれないんですよね。これも時代遅れと同様に、会社の仕組みに問題があります」(同)
3、反発を恐れて意見を言わない
「皆、どことなく『この仕事のやり方はおかしい』『この会議ムダじゃないか?』『なんで仕事終わっているのに皆帰らないの?』などと疑問に思っているだろうに、誰も言い出さない、言えない。特に人の入れ代わりが少ない老舗部署、生え抜き社員ばかりで転職者が少ない部署に目立ちます。異論をとなえること=空気を乱すことと思って黙ってしまう。どうしてもなじめない人は、黙って去る(辞めていく)のみなんです」(同)
反発を恐れて言いたいことを我慢してしまうのは、「根底に無関心があるから」と沢渡さんは問題を指摘します。社員同士がお互いを知ろうとせずリスペクトがないことが、閉鎖的な空気を生み出してしまうことにつながる。それでは、いつまでたっても働き方が改善される日はやってこないですよね。
ここが肝! 働き方の変革に欠かせない3つの意識改革
必要ない業務が生まれてしまう原因を踏まえ、働き方改革のためにどう意識を変えるべきなのでしょうか? 沢渡さんのアドバイスは非常に明確でした。こちらも3つに分けてポイントをご紹介します。
1、こだわりを捨てる
「明確な目的がないのに時間をかけてこだわっている仕事って、案外多いんです。やたらとレイアウトに凝った資料を作ったり。受け手からすると、実はもっと簡単な資料で十分な場合も大いにあります。そういった“こだわり”を一度捨ててみましょう。仕事には“手抜き”が必要だと覚えておいてください」(同)
2、プライベートでワガママになる
「日本人の皆さんは、これが非常に苦手だと思います。『金曜は飲み会があるから、夜の会議は勘弁してください』と気軽に言える雰囲気が大事。私は建前と本音の働き方改革があると思っていて、「面倒くさい」とか「嫌だ」と感じることをなくしていく本音の改革を行ってこそ働き方は良くなるはずです。
それは怠けることとは違います。たとえば雪が降って交通機関がマヒしたら、早起きしていつもより早い時間の電車に乗るよりも、すぐ済ませなくていいことは後回しにしたり、テレワークで補ったりすればいいのです。そのほうがむしろ生産性が上がるかもしれない。さらに本当に電車に乗らなくてはならない人を優先することにもつながり、結果的に社会にも優しいんですよね」(同)
3、仕事以外の活動を広げる
「これはとくに管理職の方に実践してほしいのですが、趣味を楽しんだり勉強会に参加したり、仕事以外の活動を増やしてみましょう。管理職が率先して外に出てメリハリのある働き方を見せることが部下のモチベーションUPにもつながりますし、社会の多様性を部下に教えることもできますよね。それに、仕事以外の活動が忙しくなるとダラダラ残業している場合ではなくなるので、自然と働き方が変わってくると思います」(同)
若手ビジネスパーソンに向けて、明日から実践できる4つのこと
さて、ここからは主に若手の読者に向けて、明日から実践してほしい4つのポイントを沢渡さんが伝授します。企業が変わるのを受け身で待っているのではなく、まず自分が動くことで何らかの収穫があるはずです。
1、業務の棚卸
「お互いの業務内容を知らなければ、ムダに気が付けない状態が生まれてしまいます。まずは、自分の仕事内容ややり方を整理して自己開示できるようにしておきましょう。これが冒頭でお話しした『井の中の蛙』にならないために、第一にやってほしいことです」(同)
2、ムダをムダと言える空気づくり
「ムダと思っていながらもそれが言えないなら、話し合いの場をつくってみるといいですよ。場をつくるのはリーダーや管理職の役目なので、若手社員は『話し合いの場を持ちたい』と意見を発信してみてください。オススメのやり方は、定例のグループミーティングに10分でもいいので改善案を話し合う場を設けること。これなら実践しやすいと思います」(同)
3、自らの働き方を改善し成果を出す
「組織のなかで新しい働き方を実践するのは勇気がいることかもしれませんが、まずは自分が働き方を変えてみないことには何も始まりません。集中するためにデスク以外の場所にこもって仕事をする、新しいWEBツールを使ってみるなど小さなことからで構いません。職種にもよりますが、テレワークをしてみるのもあり。必死にやって成果を出せば、周囲は認めざるをえなくなります」(同)
4、社外に向けた働き方改革のアピール
「少し組織的な話になりますが、働き方の改革を実践していることを広報誌や自社ブログなどを通じて社外に発信することによって、世間からの見られ方を変える方法です。広報に働きかけるだけではなく、思いに共感してくれる人を集めて社内でチームを作って盛り上げるなど、やり方は十人十色。
社内だけでがんばるのではなく、社外から『ワークライフバランスを重視する会社』だと見られるようになれば、会社のマジョリティーが変わり協力者が徐々に拡大するはずです」(同)
沢渡さん自身も過去に大手企業の一社員として勤務していた際、働き方改革を率先して行った一人でした。当時「ウチは育休明けの女性社員にしかテレワークを許可していない」と人事に言われるも、「そんなのおかしい! 僕はやる!」と言ってテレワークに踏み切ったそうです。そこで成果を出したことで、その後、続々とテレワークを実施する人が増加。今ではテレワークがスタンダードな働き方になったのだとか。
まとめ
「なるほど」と納得すること尽くしだった、今回の取材。ワークスタイルの変革を望むなら、「面倒なこと」「嫌なこと」と真正面から向き合い、一つ一つ改善していく以外に方法はないかもしれません。
先駆者には障害がつきもの。しかし、あなたが勇気ある一言を発することで、賛同者が次々と手を上げてくれるのではないでしょうか。さぁ、今こそ働き方の改革を!
(取材・文:小林香織)
識者プロフィール
沢渡あまね(さわたり・あまね)/あまねキャリア工房代表 業務改善・オフィスコミュニケーション改善士
1975年生まれ。日産自動車、NTTデータ、大手製薬会社など16年間の経験を経て、2014年秋より現業。業務プロセス改善・インターナルコミュニケーション改善・働き方改革の講演・コンサルティング・執筆活動などを行っている。
NTTデータでは、ITサービスマネージャとして、ITオペレーションデスク・サービスデスクの立ち上げと運用管理・改善を手がける。企業での新入社員・中堅社員・管理職の育成も行う(これまで指導した受講生は1,000名以上)。
著書に『職場の問題地図』(技術評論社)、『新人ガール ITIL使って業務プロセス改善します!』・『新米主任 ITIL使ってチーム改善します!』(C&R研究所)などがある。あまねキャリア工房公式ホームページ:http://amane-career.com/
※この記事は2017/01/11にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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