給与明細読むとき要チェック! 「控除」の基本知識

給与明細、よく読まずにそのままにしてしまっていませんか?

給与明細読むとき要チェック! 「控除」の基本知識

給与明細、よく読まずにそのままにしてしまっていませんか?

自分の給与明細になにが書かれているのかきちんと知っておくことは、デキる社会人への第一歩です。今回は一般的な給与明細の用語のなかでも、とくに分かりにくい「控除」について、社労士の榊さんにお聞きしました。

給与明細に書かれている「控除」とは


一般的に、給与明細は「支給」と「控除」、2つのパートに分かれています。

支給には、基本給や通勤手当といった固定給の項目および、時間外労働手当、休日出勤手当、歩合給といった変動給の項目がありますが、いずれもなじみのある項目だと思います。また、支給項目の合計が、いわゆる「額面」ということになります。

一方で、控除については、額面の支給額からさまざまな理由で会社が天引きをする項目が記載されています。

しかしどのような控除項目があり、また、控除金額はどのように決まるのか、なじみが薄い方も少なくないでしょう。そこで今回は、控除の仕組みについて説明をしてみたいと思います。

控除の内容


控除は、「法定控除」と「法定外控除」に分けられます。

(1)法定控除


まず法定控除ですが、その名が示す通り、社員の賃金から会社が法律上当然に控除できる控除項目という意味です。

法定控除には次の6種類がありますので、表にまとめてみました。

法定控除項目 控除額の計算方法 (本人負担分)
健康保険料 標準報酬月額×保険料率(都道府県ごとに決められた率で、約5%)
介護保険料 標準報酬月額×保険料率(全国一律 1.58%)(40歳以上のみ)
厚生年金保険料 標準報酬月額×保険料率(全国一律 8.914%)
雇用保険料 額面×0.5% (建設業などは別料率)
所得税 「月額表」「日額表」という国税庁が出している表に当てはめる
住民税 市区町村から通知された額(前年の所得による)


※標準報酬月額=額面の賃金額を、一定の幅で区切った表に当てはめたもの。また、各項目の負担率は平成27年度10月の数値で、今後改定される場合があります。詳しくは各省庁や自治体のサイトなどで最新の負担率をご確認ください。

具体的な数字のイメージとしては、社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料)だけで額面の約15%、さらに所得税と住民税が額面の5%程度加わって、法定控除額の合計で約20%前後が額面から控除されると考えてください。

1カ月分の賃金に対する法定控除額の例
簡易的な試算になりますが、次の条件に基づきAさんの1カ月分の賃金に対する法定控除額を試算してみましょう。

◎Aさんの条件
・額面支給額 29万円/月 (固定給のみで、非課税の通勤手当は含まない)
・標準報酬月額 30万円 (額面29~31万円のレンジは標準報酬月額30万円となる)
・東京都内の会社に勤務 ⇒健康保険料 本人負担料率 4.985%
・平成2年9月15日生(25歳)
・扶養親族 なし
・住民税控除額 12,000円/月

健康保険料→30万円×4.985%=14,955円
介護保険料→40歳未満なので対象外
厚生年金保険料→30万円×8.914%=26,742円
雇用保険料→29万円×0.5%=1,450円
所得税→6,420円 (額面から社会保険料を控除した額を月額表に当てはめて計算)
住民税→12,000円

控除額合計   61,567円

このような計算結果になり、月度賃金の額面29万円に対する控除額は、約21.2%となっています。

(2)法定外控除


次に法定外控除ですが、上記に列挙された社会保険料と税金以外の控除項目だと考えてください。

会社によって項目も金額もさまざまですが、社宅費、財形貯蓄、従業員持株会の拠出金、労働組合費、社員旅行積立金などが代表的な法定外控除項目ではないでしょうか。

控除についてチェックすべきポイント


それでは、具体的に給与明細を読むときに、控除についてどのようなポイントをチェックすればいいのでしょうか。

◎各保険料が自分の給料から控除されているか


まず、健康保険、厚生年金、雇用保険の各保険料が自分の給料から控除されているかを確認しましょう。

保険料が控除されていないということは、会社が各種社会保険に加入手続をしてくれていない可能性があります。

健康保険の未加入については、保険証が届かないことで分かりますし、厚生年金も健康保険の保険証が届けば必ずセットで加入しているので大丈夫です。

この点、トラブルが多いのは雇用保険です。

雇用保険は、本来であれば加入時にハローワークから発行された被保険者証を会社が本人へ交付しなければならないのですが、原則として在職中に必要となることがないので、慣習的に退職時まで会社が預かっている場合も少なくありません。

そのため、退職時に雇用保険証をもらおうとして、初めて雇用保険に加入していないことが発覚するケースがあるのです。

このようなことにならないためにも、給与明細は支給項目だけでなく、控除項目にもしっかりと目を通し、必要な保険料が正しく控除されていることを確認しましょう。

◎自分は社会保険にきちんと加入できているか


なお、保険料が控除されていても100%安心はできません。

保険料だけ天引きされ、実際には社会保険への加入手続きがなされていなかったというようなケースも皆無ではないからです。

もう少し具体的に説明をしますと、雇用保険に関しては、私が過去に関与した会社でも、経営者の方に悪意はなかったのですが、手続き上の勘違いがあり、会社としては雇用保険に加入させたつもりで賃金から雇用保険料は控除されていたものの、入社時から数年にわたって雇用保険に加入していない社員がいたことが発覚した事例がありました。(この際は、入社時にさかのぼって加入手続きを行いました)

また、厚生年金保険においても、平成19年12月19日より、「厚生年金特例法」が施行され、給与明細から厚生年金保険料が天引きされていたにもかかわらず厚生年金の加入がなされていなかった人を救済し、年金記録を回復させる扱いが始まっています。
(参考:「厚生年金特例法の施行について」日本年金機構

厚生労働省が平成27年1月27日に公表した「厚生年金保険の保険給付及び保険料の納付の特例等に関する法律の施行状況に関する報告」によると、法律の施行時から平成26年9月30日までの間で、厚生年金特例法に基づく年金記録の訂正は、88,956件も行われています。

本当に自分が社会保険にきちんと加入しているか心配な場合で、会社にも聞きづらいときには、社員本人が年金事務所やハローワークへ直接の確認をすることも可能ですので、少しでも不安を感じたら、ぜひ問い合わせてみてください。

◎違法な控除項目が天引きされていないか


次にチェックしたいのは、逆に、違法な控除項目が天引きされていないかということです。

労働基準法上、賃金には全額払いの原則があり、法定控除以外の費用については、労働者代表と労使協定を結んだ項目以外を控除してはならないというルールがあります。

そのため、たとえば社員の同意なく、会社の一存で親睦会費や社員旅行積立金などを控除するのは違法だということになります。

また、就業規則の懲戒規定に根拠のない罰金や、社員が会社の備品を壊した場合の損害賠償金を賃金から控除することも違法です。

確かに、社員が会社に損害を与えた場合、会社は社員の過失の度合いに応じて損害賠償を請求することができます。

しかし、その損害賠償額を、会社が支払うべき賃金から相殺として控除することはできないということです。

仮に、「損害賠償金を控除する」という労使協定を結んだとしても、そのような内容の労使協定自体が、法律上、適法なものではないと判断されます。なぜなら、下記の厚生労働省の通達により、労使協定によって法定外控除できる項目の範囲が制限されており、罰金や損害賠償金は社員の賃金から控除してよいものではないと、厚生労働省は判断しているからです(労基署の指導もこの通達に基づいて行われます)。

「購買代金、住宅、寮その他福利厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ、労使の協定によって賃金から控除することを認める趣旨である」

(昭和27年9月20日 基発675号)


賃金は労働者の生活の基本となるものですから、このように、賃金からの控除には法律上、厳しい制限が加えられています。もし、自分の賃金から違法な控除がされているようであれば、まずは会社の人事部などへ確認をしてみてください。

それでも解決しないようでしたら、給与明細を持って労働基準監督署へ行き、相談をしてみましょう。

まとめ

 


いかがでしたでしょうか。いままで「控除」についてとくに意識していなかった方は、ぜひ次の給料明細で、控除の項目を確認してみてくださいね!

著者プロフィール


榊裕葵(さかき・ゆうき)
特定社会保険労務士(あおいヒューマンリソースコンサルティング代表) 上場企業経営企画室出身の社会保険労務士として、労働トラブルの発生を予防できる労務管理体制の構築や、従業員のモチベーションアップの支援に力を入れている。また、「シェアーズカフェ・オンライン」に執筆者として参加し、労働問題や年金問題に関し、積極的に情報発信を行っている。


※この記事は2015/11/20にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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