新たなビジネスを掲げて起業する。ビジネスパーソンにとって憧れであり目標のひとつです。しかし、起業への道のりの途中で予期せぬことが起こったら……皆さんだったらどうしますか?
現在、賃貸不動産レコメンデーションプラットフォームサイトという新形態のサービスを打ち出している株式会社ietty(イエッティ)の取締役CTO、戸村憲史さん。かつて、少人数でこれから起業というときに、なんとクビにされたという経験をお持ちです。クビになってもすぐに立ち上がることができたのはなぜだったのか。そこには、人脈づくりの基本が隠されていました。
人を幸せにするエンジニアになりたい
――戸村さんは株式会社iettyのCTO(最高技術責任者)ということで、経営目線を持ったエンジニアということになります。まずは戸村さんがIT系の仕事を志したきっかけを教えてください。
「子どものころゲームが大好きで、大人になったらゲームを作りたいと思っていました。ちょうど近所に工業高校があり、ゲームを作るならまずはプログラミングの勉強が必要だと考え、迷わずその工業高校に入学。そのまま情報処理系の大学に進学したのですが、大学生になったらあまりゲームをしなくなってしまって(笑)。ゲームをやらない人が面白いゲームを作れるわけがない。じゃあ何を目指そうかと考え直し、ITでみんなを幸せにできたらいいなと。それでSEを目指すことにしました」
――卒業後はやはりIT系の企業に?
「システム開発を行うとある会社に、SEとして入社しました。そこでは受託の仕事がメインで、お客さんから直接要望を聞き、開発し、納品する。システム開発のすべてを経験できましたね。さらにSEとしては珍しく、自社でクラウドサービスを作るプロジェクトも任されました。プログラムを書いて完成させるまでをひとりで行ったことで、ゼロから新しくサービスをつくる面白さを知った。もともといつか独立したいと思っていたし、その時点で入社から4年たっていたので、起業したいという思いが強くなりました」
――起業に向け、まずは何からスタートしましたか。
「ちょうどそのころ、サイバーエージェントがエンジニアを対象に、エンジニアアカデミーという講座を開催していました。Java言語を学べるということだったので、軽い気持ちで参加しました。週に1回、3カ月間というしっかりとしたプログラムで、20人ほどの人たちと一緒に勉強しました。知識を深めたことで自信がついたし、仲間もできた。このまま終わるのはもったいないよねと、そのメンバーで定期的に集まるようになったんです」
――そのメンバーで新たなシステムを形にしようと?
「はい。でもメンバーにデザイナーがいなかったので、今度はアイデアを形にするための勉強会であるスタートアップウィークエンドに登録しました。そこでデザイナーを見つけるつもりが、別のプロジェクトチームに誘われて。引っ張ってくれるリーダー的な存在の人の魅力に引かれ、最終的にはそちらのプロジェクトに移りました。この人についていったら面白いことが起こるんじゃないか、と思ったんです」
いよいよ会社を設立……のはずが、直前にクビに!?
――2つ目の勉強会で出会った方たちと、起業の計画を進めることになったと。
「リーダーと僕と、もうひとり優秀なエンジニアの3人で起業することになりました。ベンチャーキャピタル※1(以下VC)に投資をお願いしようと、いくつかVCを回ったりして。最終的にいくつかのVCから投資を受けられることになったのですが、3人分の給料としてはとても足りなかった。ふたりから『申し訳ないけれど辞めてほしい』と言われてしまったんです」
※1主に高い成長性を有する未上場企業などに投資を行う投資会社。
――一緒にやるつもりで頑張ってきたのに、辞退してほしいと言われてしまった。ショックでしたか?
「引きずることはなかったんですけど、その事業に懸けるつもりだったので、厳しい世界だなと肌で感じましたね。幸いなことにまだ前職を辞めていなかったので、生活の心配はありませんでしたが。ただ、起業の夢が消えてしまったので、また次の機会を探さなければいけなくなった。再び勉強会に参加したりして、いろんな人に会いました。そんな中、クビになったチームに投資してくれたVCの方が、iettyを紹介してくれたんです。『自分は君たちのチームに投資したんだから、最後まで責任を持つよ』とのことでした」
――理解のある方だったんですね。
「その方は日本の方ですが、海外のVCはそういう考え方が多いんです。プロジェクトそのものではなくチームの人間に投資するという考え。プロジェクトは失敗することも珍しくない。失敗してもやりきる力のほうが大事だとされているんですよ」
――紹介されたiettyに入社するというのは、ゼロから起業するという理想とは違う形になりましたが。
「そのころのiettyは、始まって1年経たないぐらいのころでした。CEOの小川はエンジニアではないので、当時は外部に委託して作っていたんです。iettyもエンジニアを探しているということだったし、ここならほぼスタートから関わるようなものだなと。入社後は、みんなで『こんなサービスあったらいいよね』というアイデアを出し合って、現在の形にまで構築していきました」
コツは、好きなジャンルについてしゃべってもらうこと
――戸村さんの最初のターニングポイントは、転職を意識して社外の勉強会に参加したときのように思います。もともとそういったイベントに参加することは好きだったんですか?
「いえ、僕はあまり表に出ることが得意ではないんです。だから勉強会のことを知ったとき、参加するのがおっくうに感じた部分も正直ありました。でも一度飛び出してみたら、それまで知らない世界を見ることができたんですよね。違う業界の人に会って話すのも楽しかった。それからはどんどん出ていくようになりました」
――現在、社員の方たちとはどのようなコミュニケーション方法を取っているのでしょうか。
「自分は人の話を聞くのが得意なタイプなんです。社員の意見を聞いて、いいと思えばすぐに採用しますね。週に1回はみんなでランチに行くし、飲み会にも積極的に参加しています。ベンチャー企業って、やりたいからやっている仕事。目的をみんなで共有するためにも、コミュニケーションは欠かせないと思っています」
――社内外を問わず、人と話すときに気をつけていることは?
「その人が興味があることを聞くようにしています。好きなことを話してもらっているときが、一番その人の人柄が出ると思うので。趣味でもいいし、仕事が好きなら仕事の話を楽しくしてくれてもいい。僕も好奇心があるほうだから知らない話を聞くのも好きだし、なにより知らない世界を知ることができるので」
――戸村さんのキャリアアップは人脈が数珠つなぎのようにつながっていった結果とも考えられますね。人脈を広げたいと考えているビジネスパーソンにアドバイスをお願いします。
「僕は人脈を広げようなんて意図していなくて、偶然つながっていっただけなんです。知り合いが増えていって、それが思いがけない展開になった。人脈づくりを意識してもしなくても、同じ結果だったと思います。ひとつ言えることは、知らない人がいる場所に行ってみることは無駄じゃないということ。僕でもできたんだから、難しいことではないですよ!」
人脈づくりに近道はなし
あと少しのところで起業の夢をあきらめざるをえなくなった戸村さん。しかしそれまでに多くの勉強会に参加していた経験と人脈のおかげで、現在の職場にたどり着きました。ただしこのような運命を引き寄せたのは、もともとの戸村さんに基礎があったから。「ひとつの会社には、少なくとも3年は勤めたほうがいいと思います。それは、長くやらないと全体が見えないものがあるから。僕も最初の会社で学んだことは多いです」と戸村さんも言います。自分を高め、人とのコミュニケーションを楽しむ。そんな基本的なことが一番大事なのですね。
識者プロフィール
戸村憲史/1984年生まれ。東京電機大学 情報デザイン学部を卒業後、CSKに就職。SEとして上流から下流まで一通りを経験し、クラウドサービスの開発から運用までを一人で担当する中でサービス をつくるところから経験したく、2012年にiettyに入社。現在はCTOとしてiettyの開発全ての責任者として従事。
※この記事は2015/07/14にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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