人や企業が多く集まる東京。そこには最先端があり、仕事面においてもエキサイティングな環境に身を置くことができる。
しかし、生活面では必ずしも暮らしやすいとは言い難い。子育て世帯にはなおさらだ。高い生活コスト、待機児童問題、ワンオペになりがちな育児環境……。
今回お話を伺った(株)エスツーの土門さんは、そんな生活面の環境改善を求めて地元秋田へUターンした。その反面、自身のキャリアをどうするかという点では悩んだことも多かったという。「希望する仕事が見つからず、一度は異業種への転職も覚悟した」そう語る土門さんのUターン転職エピソードに迫ります。
【プロフィール】
土門 悠(どもん ゆう)さん
1984年生まれ。秋田県出身。埼玉の大学へ進学後、東京のアパレル企業へ就職。自社ブランドのエリアマネージャー、ディストリビューター、EC担当者として11年勤務後に、地元秋田へUターンし2018年4月(株)エスツーへ転職。現在は2017年10月に新設された同社開発拠点「a.doc(エードック)」にて、東京のクライアントECサイトのデータエントリーチーム立ち上げを手掛けている。10歳・8歳・3歳のパパ。
家族のために、東京でのキャリアを手放す覚悟で決意したUターン転職
―― 東京を離れようと思ったきっかけは何ですか?
「家族」です。3人の子どもを東京で育てていくというのは、なかなか大変なことも多いなと感じていました。
ひとつはお金面。池袋に住んでいたこともあり、家賃をはじめとした生活コストはどうしても高くなりがちです。また子どもが小さく、妻には育児に専念してもらっていたので、共働きという選択肢もとりづらい事情がありました。
―― 特に区内の家賃相場は、地方出身者からするとびっくりほど高いですよね……
もうひとつは「頼れる親族が近くにいない」こと。妻も私も秋田出身で、どちらの親も離れて暮らしてたので、困ったときに頼れないんですよね。私が仕事に出ている間は、家庭のことはすべて妻に任せざるをえません。もし妻が風邪でもひいたら、それだけで身動きが取れなくなってしまいます。
また、両親も高齢になってきたため、お互いに頼れるように近くに住もうと思ったこともUターンしようと決めた理由のひとつでした。
―― では、仕事面では東京を離れる理由はなかった?
そうですね。仕事に対して不満があったわけではありません。前職の会社には残念ながら秋田支社がなかったので、秋田に帰ろうと思ったら転職するしか方法がなかったんです。
―― なるほど。地方に転職するにあたって不安はありましたか?
年収が下がることは覚悟していました。維持はできないだろうなと。
ただ「どれくらいなら下がってもOKか」というラインは引いていました。秋田に移ることで家賃などの生活コストを抑えることはできますから、年収が下がったとしてもトータルで生活の質が変わらなければ問題ありません。そのラインを守れていて、周囲に頼れる人がいればなんとかなると思っていました。
―― 給与相場だけで比較してしまうと地方はどうしても不利ですよね
あと、自分のキャリアについても悩んだかな。このまま東京にいれば描けたキャリアも、秋田に戻ることで実現できなくなるかもしれない。東京でがんばった11年がゼロになるんじゃないかと不安になったことを思い出します。
また「Uターン=都落ち」みたいなイメージも正直ありました。東京での生活に満足できていれば秋田へ戻る必要はないはずですから。周囲からの見え方どうこうではなく、自分の中で東京に対する心残りのようなものがあったのは事実です。
「地方におもしろい仕事はない」のではなく、「あるけど見つけられない」だけ
―― 一度は異業種への転職も覚悟したそうですね。
いざ転職活動をしようと思ったときに感じたのは、「秋田のローカル求人情報がほとんどない」ということ。特に私がやっていたECディレクターのポジションは東京メインなところもあるので、ハローワークなどで探してもほとんど見つかりませんでした。唯一食品関係のECをやってる会社を見つけて応募したくらいです。
転職サイトでも探しましたが、都心の求人が中心で……。営業や製造職の募集は多くあったので、未経験でしたがチャレンジするしかないか、と考えていた矢先に、地元の知り合い経由でエスツーの存在を教えてもらったのです。
―― お役に立てずすみません……。もっと地方求人をお預かりできるよう頑張ります!
私の場合はタイミングが良かったということもありますが、「必ずしも地方に仕事がないわけではない」ということを実感しましたね。
―― あるけど見つけられない、もしくは情報発信されていないだけだと。
はい。エスツーでは「ニアショア」といって、東京のクライアントからシステム開発やEC関連の仕事を受託し、この「a doc」で対応しています。つまり、ロケーションは秋田でありながら、東京の仕事を担当できるということです。
こういった業態はまだまだ多くはありませんが、特にIT領域などでは類似した展開をしている企業も増えてきました。ECのように東京に一極集中しがちな職種であっても、よくよく見渡せば地方でも東京とさほど変わらない環境で、魅力ある企業や仕事を見つけられるかもしれません。
生活面はもちろん、仕事面でも“地方転職”はアリ
―― はたらく場所が秋田に変わって4ヵ月くらい経ちますが、何か変化を感じますか?
生活面では頼れる親の存在もあり、安心して子育てできています。ただ仕事面では“まだ分からない”というのが正直なところです。もしかすると東京に残っていたほうがよかったのかもしれないと思うこともたまにあります。
ただ、 “視座が高まった” というのは現時点でも感じますよ。
―― そこもっと具体的に教えてください!
秋田県の人口は年々減っています。戻ってきて改めて「田舎だな」と感じましたし。だからなのかわかりませんが、「この秋田をどうやって活性化させていくか」ということをいつの間にか考えるようになりました。
東京にいると1300万人いる中の1人でしかありませんが、秋田県は100万人しかいませんし、うち1/3は高齢者。若手の影響力は必然と大きくなります。
だからこそ「自分の経験やスキルをどう秋田で仕事に変えていけるか」ということを考えるようになったんだと思います。エスツーがまだベンチャーであるという点もそれを後押ししてますね。前職は会社自体が大きかったので、その中の1人という感じでしたが、今は入社直後にも関わらず新しいチームの立ち上げを任されていますから。
―― それってキャリアアップじゃないんですか?
私はまだそう思っていません。キャリアアップというと、年収が上がったり売上を拡大できたりという成果がありきですから。数値面で変化を実感できるのはこれからだと考えています。
それに、今任せていただいている仕事は東京でやってきたことと厳密には違う領域なんです。東京の時は自社ブランド担当でしたが、今は東京のクライアントECサイト運営の一端をお任せいただいている形です。前職でのいちメンバーという立ち位置から、組織を作り育てていく立場に役割も変わっています。言われたことをやるのではなく、より自発的に動くことが求められているとも言えますね。
―― 1人ひとりの影響力が大きいということは、地方企業では自主性が必要不可欠ということでしょうか
それは東京でも同じだとは思いますが、より地方だと求められやすい環境かもしれません。人口が少ないことはもちろん、中小企業も多いですからね。
あと、東京だと専門性が高ければそれを活かして転職もできますが、秋田ではそう簡単にいきません。だからこそ自分ができる幅を広げていく必要がある。そういう環境下に身を置くことで、必然と自分のできることや価値を高めていかなきゃという考えになりやすいんです。
そういう意味でも、意図的に地方へ転職して、自分のキャリアの幅を広げていくことは選択肢として“アリ” だと思いますね。生活の質も上げやすいですし。
―― まさにキャリアアップとしての地方転職ですね。
地方でキャリアアップしようと思ったら、東京でのやり方をそのまま持ち込まず、秋田の風土とどうフィットさせるかも考える必要があります。秋田ローカルの良さを認めつつ、東京の経験を活かせるフィールドをどう見つけるか。経験は持っていき、スタンスはリセットするくらいの気持ちの方がいいかもしれません。
秋田に来たことで自身の周囲に対する影響力が大きくなったこと、それにより仕事の幅が広がってきていることは、わずか4ヵ月の間であっても実感できています。今回のUターン転職が、キャリアとして吉と出るか凶と出るかはこれから次第。良い選択であったと言えるように仕事を頑張っていきたいなと思いますね。
会社データ
株式会社エスツー
秋田県秋田市のIT企業。サーバー事業をメインに、ニアショア事業、スクール事業を手掛け、”世界一融通が利くサーバ屋さん”を目指し事業拡大中。
【所在地】
本社:〒010-0001秋田県秋田市中通3丁目3-10 秋田スカイプラザ7F
【社員数】
41名
【事業内容】
サーバーホスティング/サーバーハウジング/データセンター/インターネット回線/上記海外展開/コンピューターシステムの企画・設計・開発・運用業務/ITスクールの運営/ITおよびIoT事業の開発構築及びコンサルティング/インターネットによる広告、宣伝、マーケティングリサーチ
※「この記事は2018/08/09にdodaに掲載された記事を転載しています」
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