当時26歳だった若者は、なぜ大手企業を辞めて“世界一周ダンスの旅”に出たのか

早稲田大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社した中込孝規さんは、4年間勤めた後、世界一周の旅に出ます。「世界中の子どもにダンスを教えたい」その思いだけで、英語も話せなかった中込さんは日本を飛び出しました。

当時26歳だった若者は、なぜ大手企業を辞めて“世界一周ダンスの旅”に出たのか

早稲田大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社した中込孝規さんは、4年間勤めた後、世界一周の旅に出ます。「世界中の子どもにダンスを教えたい」その思いだけで、英語も話せなかった中込さんは日本を飛び出しました。

なぜ中込さんは大手でのキャリアを捨てて、今の仕事を選んだのでしょうか?

充実していた会社員時代。しかし、夢が捨てきれなかった。


「会社では通信教育講座を販売する部署で、入会用の郵便チラシを作る仕事をしていて、自分のアイデアが漫画や冊子になり、すごく楽しかったんです。でも、5年後、10年後を考えたときに、自分が目指したい方向とはちょっと違うなって思いました。

僕は、入社前から自分で何かしたい、という気持ちが強かったんです。夢を語り、それを形にして仕事にしたい……と。父が自営業で工場を経営しているという影響もあり、そのときは起業したいと思っていました」

中込さんは、高校生のときにストリートダンスを始め、大学時代はダンスサークルに所属。オールジャパン学生ダンス選手権大会の大学生部門で優勝したり、東京ディズニーランド、東京ディズニーシーのショーに出演するなど、学生時代はダンス活動を積極的に行っていました。子どもたちにダンスを教えるキッズダンス教室の講師も行い、保護者からも好評だったとか。その経験が就職をしてからも強く印象に残っていたそうです。

大手企業を辞める決意となった子どもたちの笑顔


「子どもにダンスを教えたい」。その思いが日に日に強くなる一方で、忙しい毎日の中で行動に移せず二の足を踏んでいたという中込さん。そんなとき、ある転機が訪れます。

「知り合いに誘われて、教育に関心のある人たちが集まる交流会に参加したんです。前向きな人たちばかりで、そこで『やらない理由はないから、やりなよ』と背中を押してもらったんです」

土日の休みを使い、ボランティアでキッズダンス教室を再開。笑顔で踊る子どもたちの姿を見て、このときに中込さんの決心が固まりました。

「夏に上司に退職を告げて、2014年3月に会社を辞めました。高校生からの夢だった世界一周をしながら、いろいろな国で子どもにダンスを教えることにしたんです。不安はまったくなかったですね。むしろ、やりたかった夢がかなうことにドキドキ、ワクワクしてて。あ、でもさすがに『本当に会社辞めたんだ』って1日くらいは不安になりましたけど(笑)」

“世界一周ダンスの旅”から学んだ大切なこと


退職して日本を出た中込さんは、まず英会話を身につけるためにフィリピンへ2カ月の語学留学をします。

「どうしたら子どもにダンスを教えながら世界一周ができるのか、はじめは分からなかったんです。そこで、まわりの人にいろいろ聞いていたら『学校の売店にいるおばちゃんは顔が広いから、相談してみたら』って言われて。さっそく事情を話したら、近所の子どもたちに声をかけてくれて、ダンスに興味がある子どもたちが15人くらい集まってくれたんです。それが海外でダンスを教えた最初の経験です。これがきっかけとなり現地の子どもと仲良くなって、よく遊ぶようになりました。すごく良い笑顔を見せてくれるんですよね」

子どもの笑顔はいつでも輝いている。触れ合うことで世界観が変わった。


その後も訪れる国々で子どもにダンスを教えながら、自身も路上でダンスをしたり、それがきっかけでその国の大きなお祭りに呼ばれるなど、ダンスを通じて世界中の人たちと交流していくなかで、中込さんはあることに気付きました。

「まず、“子どもたちは世界中、どこに行ってもみんな同じ”ということは衝撃的でした。海外でもシャイな子はシャイだけど、踊って見せると『何それ!』って目を輝かせて、参加しはじめる。みんな純粋なんですよ。だから世界中の子ども同士ってすごく仲良くなれるだろうなって思ったんです」

それが現在のアフリカと日本の子どもをインターネット中継でつなげるワークショップのヒントになったとか。

「そして、どの国の人もその土地で笑ったり悩んだりして生きているということを肌で感じることができました。特にアフリカって、遠くて未知なイメージがあったんですけど、みんな自分たちと同じように生きているんだと、いい意味で世界の見かたが変わったんです。その中で、自分の国を出て、働きたい国で働く日本人や外国人もたくさんいて。

今、僕は世界中に友だちがいます。そのおかげで“日本だけで世界を考えなくてもいい”と気付きました。それこそ先月は仕事でアメリカにいましたし、9月末からはアフリカに行きます。働き方の視野が広くなり、狭いコミュニティーの中の常識にこだわらなくていいんだって確信したんです」

「その会社でしか働けない人間」になるのが怖いと思った


現在の中込さんの仕事は大きく分けて「ダンサー」「日本と世界の子どもをインターネットでつなぐダンスワークショプ」「旅の話を中心とした講演会」の3つ。

世界を旅しながらダンスを教えていた話を中心に、各地で講演も行っている中込さんですが、よくこんな質問をされるそうです。

現地の人たちと“一つになれる”瞬間。それがダンス。


「よく『会社を辞めるのは怖くなかったの?』って聞かれるんですけど、僕は辞めないほうが怖かった。なぜなら、“その会社でしか働けない人間”になってしまうと思ったんです。だから逆に僕は『早く辞めなきゃヤバイ!』って思ってました。大きい企業でしたし、『辞めるのはリスク』って言われてましたけど、辞めないほうがリスクだと思ったんです。

世の中を見ていても、やっぱりずっと安定してる会社や、保証されていることってないんだなと思います。僕は一つの会社や組織に依存するのではなく、自分らしく生きていきたいです」

自分の才能を決めるのは、あなたじゃない


「やりたいことができないと思っている人には、“すべてを捨ててじゃないとできない”と考えている人が多い気がします。たとえば会社を辞めるとか。そんなことはなくて、まずは小さく始めればいいと思うんです。

講演会に来てくれた方で『世界をまわりながら好きなことをやりたいんだけど、好きなことがない』って人がいて。でも、やりたいことがない人は、やりたいことにフタをしているだけの人が多いんです。

よくよく聞いたら3年くらいオペラをやっていて、『好きなことあるじゃないですか!』って言ったら『いやいや人前で歌うレベルじゃないんで……』って謙遜するのですが、才能は自分だけで決めることじゃないと思います。

その話の後、その人は思い切ってGWにバングラデシュの田舎の小学校に行き、子どもたちに歌を教えたらしいんです。『すごい経験だった!』って興奮して報告してくれましたよ。結局考えるだけで動いてない人が多いので、まず動いてみる。それが大切なのだと思います」

思い切って広い世界に飛び込んだから得られたもの。

 

会社の一歩外に出て、広い世界を見る


転職で悩む20代の読者に、中込さんはこうエールを送ります。

「ぜひ、会社だけじゃない人との関わりも持ってほしいと思います。僕は仕事しかしていませんでしたけど、交流会に参加したことで『そもそも自分にとっての自己成長って何なんだろう』と考え直すきっかけになり、世界が開けました。それから、一歩外に出て興味のある場所に足を運んだり、会いたい人に連絡して会ってみたり、いろいろな人に会うことで視野が広まりました。ずっと同じ会社にいるのもひとつの選択肢だと思うのですが、その環境だけにいると気付けないことも多くあると思うので」

今後は、ダンススクールを作り、世界で出会った“カッコいい大人”と子どもたちをつなげるワークショップを開催したい……と、子どものような無邪気な笑顔で答えてくれました。

まとめ


あれこれと迷うぐらいなら、まずは行動を起こすところから。それを見事に実践し自分らしい道を歩きながら、世界を超えて踊り続ける中込さん。守りではなく攻めの姿勢で何事にもチャレンジしていきましょう。新たな世界の扉が開けるかもしれませんよ。

識者プロフィール
中込孝規(なかごめ・たかのり) 世界一周ダンサー。1988年生まれ。早稲田大学商学部卒。ストリートダンス(POPPIN)歴12年。学生時代は、キッズダンススクール講師やディズニーシーダンサーとして活動。大学卒業後は教育系企業ベネッセコーポレーションに就職し、小学生向け事業に4年間従事。 その後、夢をかなえるために会社を退職し、世界中の子どもたちにダンスを教えながらの世界一周を決行。1年半で18か国57都市をまわり、1万人以上の子どもたちにダンスを教えた。アフリカには半年間滞在し、数多くのダンスワークショップを開催。ラオス・ルアンパバーン国際映画祭、ジンバブエ・ハラレ国際芸術祭(HIFA)、タンザニア・ダルエスサラーム国際商業祭など国際的なイベントにもダンサーとして出演した。 2015年11月に帰国し、現在は「ダンスを通じて子どもたちの可能性・世界を広げたい」という思いから日本全国で講演会やダンスのワークショップを実施中。日本とアフリカの子どもたちをインターネット中継でつなぎ、ダンス交流する会も数多く実施している。 ブログ:世界一周!1万人の子どもにダンスを教える旅 Facebook Twitter


※この記事は2016/07/27にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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