仕事で失敗してしまった、今の仕事を続けることに行き詰まりを感じている……はたらいていれば、誰もが一度は体験することですよね。
そんなときに大切なのはインプット……ではなく、アウトプット!?
30冊の著書を手がけ、メールマガジンやSNSを中心に精神医学、心理学、脳科学の知識、情報をわかりやすく発信している、精神科医の樺沢紫苑氏にお話をうかがいました。
アウトプットはなぜ大切?
――仕事をするうえでインプットが大切だというのは分かりますが、アウトプットがより大切であるというのは具体的にはどういうことでしょうか?
それは、アウトプットをすることで初めて脳が重要な情報であると認識し、その情報を長期保存しようと努めるからなんです。
どんな専門書やビジネス書でも、ただ読んで内容を頭に入れるだけではなかなか実にならないということですね。
「読む」、「聞く」などのインプットに対し、「話す」、「書く」、「行動する」などがアウトプットの一例となりますが、何かを書くときは、できれば手書きするのが理想です。
手の筋肉を使って書けば“運動性記憶“として、その内容をより覚えておきやすくなるんです。学んだ内容を覚える方法には“書いて覚える”、“声に出して覚える”などがありますが、これらもこの運動性記憶で説明できます。
とはいえ、ブログやSNSで日記などを書こうと思ったらパソコン、スマートフォンを使うことがほとんどでしょうし、必ずしも手書きでなければいけないということはありません。私も両方を使い分けています。
3行のポジティブ日記から始めよう
――スマートフォンでもよいということであれば、通勤帰りの電車の中でもなにかできそうです。うまくアウトプットをするためには、どのようなことに気を付ければよいでしょうか。
手軽に始められるものとしては、日記をつけるというものがあります。自分の思いや感じたことを文章として形にするのは、いい練習になりますよ。
きちんと文章にできれば、それを伝えることもできるはず。日々のコミュニケーションや会議の場などでも、スムーズなやり取り・発言ができるようになっていきます。
――日記の内容はどんなものでもいいですか?
まずは"ポジティブ日記"から始めてみましょうか。
具体的には「その日よかったこと」を「3項目」、1項目1行で書いてみてください。
今日は電車で座れた、お昼ごはんで入った店がおいしかった……どんなささいなことでも構いませんので、必ず3個書いてください。そして、書いたらすぐに寝てしまいましょう。
――そのくらいなら書けそうです! ところで、書いたあとにすぐ寝るというのはどういう意味があるのでしょうか?
実は、寝る前の15分間に考えたことはすごく記憶に残りやすいんです。"記憶のゴールデンタイム"と言われることもありますね。
そのゴールデンタイムを前向きな気持ちで終えられれば、ゆくゆくは翌朝に「今日もちょっといいことがありそう」と思えるようになります。
反対に、寝る前に不安や心配ごとばかりを抱えてしまうと、交感神経が活性化されて寝付きが悪くなってしまいます。「不安で眠れない」というのは医学的に説明できるんですよ。
そして、これがよくないことだというのは説明の必要はありませんよね。
体調管理も日記でできる!?
――ポジティブ日記に慣れてきたら、どのような日記をつければよいでしょうか。
その日のことを丁寧に追うばかりが日記ではありません。見て楽しかったドラマや映画の感想を書いてみてはどうでしょうか。
とはいえ「おもしろかった」、「泣けた」だけでは十分とはいえません。"なぜ自分がそう感じたのか"を掘り下げて書いてみてください。
登場人物の行動を見てそう感じたのか? それとも演出のおかげ? 自分にも昔似たようなことがあった? ……など、常に「Why」(なぜ)を突き詰めていけば、自然と書けると思います。
そうした行為は思考力を養うだけでなく、自己洞察力を深めることにもつながります。
――自己洞察力というのは……?
言葉通り、自分自身のことを洞察する能力です。この力がないと、自分の体調すらうまく把握できなくなってしまうことがあります。
これは医師としての私の経験からですが、睡眠障害を抱えている方の中には「自分は毎晩充分睡眠を取れている」と考えておられる方も結構いらっしゃるんです。
そして、その認識を正せないままでいると、無理をしすぎて結局倒れてしまう……。自己洞察力がしっかり養われていないと、そういうことも起こり得ます。
――きちんと日記をつけるという行為が、そうした負のスパイラルを遠ざけるというわけですね。
ポジティブ日記を付け続ければ、少しずつ前向きになっていきます。
それまでやっていなかった仕事に挑戦しようと思えたり、休日には友人の誘いに乗ってちょっと遊びに行ってみようかと思えたりなど、公私にわたってよい影響を及ぼすでしょう。
そこに適切な自己管理・体調管理もできれば、かなり変わってくると思いますよ。
アウトプットに反省は不要!
仕事中だけでも、上司や同僚とのコミュニケーション、会議での発言、資料の作成やプレゼンなど、さまざまなアウトプットがあると思います。
ここでもうひとつお話しておきたいことがありますが、もしそれらがうまくいかなくても、反省する必要はありません。
――反省する必要はない?
反省という言葉には、"申し訳なさ"などの感情が込められていますよね。自己成長をうながすには、そうした感情はまったく必要ないという意味です。
なぜ失敗したのか? なぜ成功したのか? それだけを突き詰めて次に生かせばいいのであって、別に落ち込む必要はありません。
自分の弱点が分かるというのは、むしろおトクなことですよ!そのくらいの考え方でいいんです。
――日記で培った"Whyを突き詰める"行為が、そこで活かされるというわけですね。
そうです。だから私は、"仕事は仕事、遊びは遊び"と線引きする必要なんてないと思っています。
余暇の趣味が仕事に役立つこともあるし、仕事もするからこそ、趣味に興じるひと時がより楽しくなるんです。
スケジュール張に「この週はこの映画を観にいく!」などと“趣味のためのto do”を書くのも、いい目標になりますよ。
――ありがとうございました。
小さなアウトプットが自分を変える!
仕事ができるようになるためには、とにかくインプット――とばかり考えていましたが「本当に重要なのはアウトプットにこそある」という樺沢氏のお話は、まさに目からウロコでした。適切なアウトプットをしてこそ、インプットした内容が記憶として定着するんですね。
手軽に初められるポジティブ日記がちょっとずつレベルアップに繋がる。文章を書くのが苦手だ、という方も、1日3つ、1行ずつであれば苦もなく始められるのではないでしょうか。
続けていくうちに、「日記を書くために何かいいことがないか自然と探す」状態になれば些細な出来事も楽しみになり、ちょっぴり人生に彩りが生まれるかもしれません。
「日本一、情報発信をする精神科医」として知られる樺沢紫苑氏はこれまでに30冊の著書を手がけており、その最新作となる「学びを結果に変える アウトプット大全」はサンクチュアリ出版から1450円(税別)で好評発売中。
今回お話いただいたアウトプット術の詳細が、医学的根拠や見地を元に語られています。
ひとつの項目が見開きで完結しているので、ちょっとした空き時間にも読み進めやすいのも魅力です。
現状になんとなく閉塞感を覚えてしまっている方は、それを打破するための一手として手に取ってみてはいかがでしょうか。
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