思い通りに話をまとめる交渉術。仕事上の基本スキルを紹介

交渉は、お互いが利益確保のために、商談相手と特定の内容について話し合いを行うことです。営業や給与アップの相談など、社会人にとって必要とされる「交渉」のスキル。 今回は、交渉トレーニングの専門集団スコットワーク株式会社のコンサルタント・増倉洋さんに、社会人なら知っておきたい「交渉術」の基本をお伺いします。

たった5つのポイントで交渉のプロに? 身につけておきたい「交渉術」の基本

交渉は徹底的に相手の立場で考える


まずは、交渉を行う上での考え方を教えていただきました。

増倉さんによれば、交渉をする際の考え方は「徹底的に相手の立場で考えてみる」こと。自分が今売り込もうとしていることは、相手の目で見るとどう感じるか、仮に相手がこの場でOKしたとして、相手は社内に持ち帰ったときに、上司や同僚からどんなことを言われるかを、相手に乗り移ったイメージで考えることが大事だといいます。

交渉術における5つの基本スキル

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次は、実際に交渉をする上での基本となるスキルを教えていただきましょう。

1.質問をする


実は交渉の大部分は、相手への「質問」。しかし、ただ質問をすれば良いわけではありません。

「説得的な質問、誘導的な質問ではなく、相手が何を重要と考え、何を避けようとするかなどを解き明かす質問を続けることが大切です」(増倉さん、以下同)

質問の姿勢も、前述の「徹底的に相手の立場で考える」ことが基本となるようです。

2.相手の言葉を常に要約する


交渉相手が言ったことと自分の解釈が間違っていることは、少なくありません。誤解したまま交渉を進めると話がかみ合わず、時間を無駄にしてしまいます。

「相手が何か新しいことを言ったら、『今おっしゃったのは、○○○ということですね? この理解で正しいですか?』と、必ず返すようにしましょう。相手の言葉をサマリすることによって、言われたことを誤解して貴重な何十分かを無駄にする……ということが避けられます」

3.自分が説明したことも常に要約する


相手は、自分が思っているほど自分の言葉を理解していないもの。「厄介なことに、相手は自分の言葉をよく理解していなくても、理解していたフリをするもの」だと増倉さんは話します。

「そこで、伝えるべき情報については、必ず『もう一度まとめますが……』として、サマリをしましょう。『まとめます』という言葉は相手の注意を引く言葉であり、しつこすぎる、ということはありません。仮にしつこいと思われても、相手が誤解したまま帰ってしまうよりもずっとマシです」

ちなみに、上記3つの基本スキルは一見地味に思えるかもしれませんが、残念ながらこれらをきちんとできる人は「ほとんどいない」そう。

「逆に、これらをきちんとできている人は、交渉パフォーマンスが高い傾向にあります。『相手の情報を注意深くとる』『情報のやりとりの正確さを大切に』という行動が、結果に結びつくのです。この点については、強調しても強調しすぎることはない、というくらい重要です」

4.「順調に進む交渉」に注意する


実は交渉は、自分が事前に考えたとおりに進むことはまずないのだとか。交渉が思いどおりに進んだときほど危険だと、増倉さんは警鐘を鳴らします。

「もし自分が考えていたとおりに、何の抵抗もなく交渉が進んでいるのであれば、何かまずいことが起こっているのでは……と考えるべき。例えば『自分たちの要求はあまりにソフトで、本当はもっと相手に求めることができたのでは?』『この場ではOKされたけれど、相手が社内に持ち帰って上司にひっくり返されるのでは?』などです。“順調に進む交渉”は、交渉としては失敗している場合が多い、ということを知っておくべきでしょう」

5.提案はこちらから行う


まず有意義な質問をし、相手が何を重視しているか、何を避けようとしているのかを理解することが交渉術の基本。そして、それらの情報をサマリし、間違いのないことも確信できたら、こちらから提案をすることが大切なようです。

「提案をした側が常に主導権を握り、パワーを持ちます。相手に最初の提案をさせてしまうと、それで交渉の“原点”が決まってしまうのです。例えば、相手に先に希望価格を言われてしまうと、その価格を中心とした論議になってしまいます」

「交渉」で絶対にしてはいけないこと

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以上の5つの基本スキルを身につければ、交渉で他人に一歩リードできるはず。しかし、交渉の場では、絶対にしてはいけないこともあるそうです。

増倉さんによれば、交渉者が絶対に避けるべきは「無条件譲歩」だと言います。最終合意の意思表示の際にすら「はい、いいですよ」と無条件に合意するのではなく、“どうでもよい要求”を条件としてつけることが大事なのだとか。

(例)
「では最後のお願いなのですが、一度貴社の工場見学をお願いできないでしょうか? それを条件に、こちらとしては合意します」

上記のような、「工場見学」という“どうでもよい要求”だったとしても、条件としてつけることに意味があり、無条件譲歩は「押せばさらにタダでいろいろ出てくる」というサインを相手に送ることになってしまうのだそう。

「相手が良い人ならいいですが、無条件譲歩を拾うことに長けている人が相手になった場合、破滅的な結果になりがちです。交渉者は、常に『小さな要求』をネタとして備えているのです」

知れば知るほど奥深い「交渉術」。これを身につければあなたも一流の交渉人になれるはず!

 

識者プロフィール


増倉洋(ますくら・ひろし) スコットワーク株式会社 コンサルタント/代表取締役。京都大学理学部卒。マイクロソフト株式会社において、アプリケーション製品のプログラムマネージャーとして従事した後、シリコンバレーのスタートアップ企業であるGeneral Magic Inc.にて、ビジネス開発、開発者エバンジェリストなどの役割を担った。プロジェクトマネジメント、IT、グローバル人事制度、リーダーシップ開発などを専門領域として、15年以上の実務とコンサルティング経験を有する。現在はスコットワーク社初の日本人コンサルタントとして、交渉スキルトレーニングなどを実施。著書に『未来をビジュアル化するプロジェクト管理』がある。


※この記事は2016/04/27にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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