コピーライターってどんな仕事? “コピーライター代表”、“噂”の長谷川哲士さんに聞いてみた!

企業や商品のブランディングを目的とし、印象的で頭に残りやすいキャッチコピーを日々生み出す日本語のスペシャリスト。今回は、そんなコピーライターの仕事内容とその魅力に迫ります。

コピーライターってどんな仕事? “コピーライター代表”、“噂”の長谷川哲士さんに聞いてみた!

コピーライターという仕事について、あなたはどんなイメージを持っていますか? 

好きなキャッチコピーがある人や憧れのコピーライターがいるという人もいれば、名前や存在はなんとなく知っているけど、説明が難しい……という人もいるでしょう。「短い言葉を考えるだけの仕事なんて、簡単そう」と思っている人もいるかもしれません。

キャッチコピーを考えるのもコピーライターの仕事ですが、実はそれは仕事のごく一部でしかなく、他にも多くの業務があります。コピーライターが日々どんなことを考え、心に刺さる名コピーをどのように生み出しているかは、あまり知られていません。そこで今回は「株式会社コピーライター」の代表兼、「株式会社 噂」のCEO、長谷川哲士(はせがわ・てつじ)さんに、そのお仕事内容を伺いました。

雰囲気ではなくきちんと「機能」する言葉を


取材の前、長谷川さんは名刺を差し出しながらこう言いました。

「はじめまして、うわさの長谷川です」

「株式会社 噂」の長谷川さんから単純にあいさつをされただけなのに、なぜだかとても印象に残ります。ただの名刺交換がまるでキャッチコピーのようです。社名について伺ったところ、「噂の長谷川ですって言ったら面白いじゃないですか?」とにやり。長谷川さんは名刺交換で会話のネタになる仕掛けを取り入れているのだそうです。

「僕は噂の他に、株式会社コピーライターという会社の代表もやっています。2015年まで働いていた面白法人カヤックを退職して、自分で会社を立ち上げる時、どんな社名にしようかずっと考えていました。最初は『てつじの株式会社』にしようと考えていました。なぜかというと、社会人だと苗字で呼ばれることが多いけど、下の名前で呼ばれると親しみを感じやすいから。まるで高校の同級生と話しているような気分になれるので、みんなにそう呼ばれる会社名が良いんじゃないかと思っていました」

「だけどある時、『株式会社コピーライター』という名前を思いついて。この社名なら、たとえばメディアで自分の名前と会社名がセットで出る時に『長谷川哲士(企業名)』が『長谷川哲士(コピーライター)』となるのが面白いし、検索にもよく引っかかるし、『コピーライターの代表です』って言えるし……。いろんな場面で機能する名前だと」

「なんとなく自分の好きな単語を会社名にする人が多いけど、コピーライターの仕事自体が、雰囲気で気持ちがいい言葉を書く仕事だと思われがち。だからこそ、会社名は雰囲気だけではなく機能する名前をつけないと、自分の働く姿勢が適当になってしまうんじゃないかと思ったんです」

 

言葉こそが企画。コピーライターの仕事の魅力とは?


たしかに、コピーライターと聞いてまず思い浮かべるのは、広告に載っている印象的なフレーズを考える人、というイメージかもしれません。しかし長谷川さんのお話を聞いてみると、それだけではないことが分かります。

「すでに企画は決まっていて言葉だけを考えるという、一般的なコピーライターのイメージの業務だけじゃなくて、企画から考えることも多いですね。この前は日比谷花壇さんとのお仕事で、『親孝行メーカー』という診断サイトを作りました。お花は1年の中で母の日ぐらいしか売り上げが伸びないため、誕生日は親に花を贈る日にしようというプロジェクトです。そこで診断サイトの結果の中に『自分の誕生日に感謝の気持ちを込めて、両親に花を贈りませんか』という提案を入れたんです。だからコピーを考えるというよりは、企業から相談を受けて、その問題に対して提案をする仕事というイメージですね」

「ただ、僕は企画から考える時も、言葉が先に思い浮かぶことが多いです。たとえば女性向けの整髪剤『プロスタイル』の企画を担当した時は、『似た名前の芸人いたな』と思ってノンスタイルの井上さんに出ていただいたり。言葉自体が企画なんですよね」


こうしたアイデアは打ち合わせの最中に思いつくことが多いのだそう。長谷川さんは「ダジャレや大喜利みたいな感じ。コピーや企画の仕事は5秒で納品までこぎつけられる可能性があって、特技がなくてもできるのがコピーライターの魅力」と話します。

「デザイナーやエンジニア、ライターなど、いろんなものづくりの仕事がありますが、どの職業も一つの仕事にすごく時間がかかりますよね。でも、キャッチコピーなら一瞬で思いつくこともあります。実際にはそのコピーの説明などもあわせて考えるから一瞬では終わらないんですけど、それでもその他のクリエイティブ系職種と比較すればずいぶん楽ですよね。それに、デザイナーやエンジニアはパソコンが使えないとできないけど、コピーライターはスマホだけで完結することもありますし、日本語さえできればOKです。言葉は昔から好きだったし、横文字の肩書きでなんかかっこいいし、良さそうだなあ!と思ってはじめたのが、現在までつながっています」

いろんな視点があることを教えるのも、コピーの役割


「特技がなくても誰でもできる」と長谷川さんは話しますが、とはいえ心に刺さるコピーをいくつも考え出すのは難しいもの。長谷川さんは日々どんなことを意識されているのでしょうか。

「いろいろな視点を提示できるように、たとえば日常的なニュースを被害者目線ではなく加害者目線から見てみたり、電車で席をゆずる人を見た時にどうやったらもっと譲りやすくなるかを考えたり。日常的なものを多角的に考えながら生活するようにしていますね」

「ある商品に対していろんな視点があることを教えてあげるのが、コピーの役割だと思います。コピーの話ではありませんが、刻み海苔バサミって商品があるんですよ。刃がいくつも重ねられていて、一回切れば刻み海苔をたくさん作れるというものです。もともとそんなに売れていなかった商品だと思いますが、個人情報が騒がれたころに『シュレッダーバサミ』として売り出したらこれが大ヒット。商品は同じでも、視点を変えることでこんなにも違う。もしかしたらコピーの理想形ってこういうことなのかも、と思います」

「あと、誰かがコピーを見た時に『えっ、これって……?』と思わず足を止めるものになるように意識しています。人の心に届かない、無視されるコピーがほとんどだと思うので、そうならないようにはしたいと考えていますね」

工夫次第で人の心を揺さぶり、感動させることができる。言葉にはそんな大きな力があるからこそ、次のような配慮も欠かさないという長谷川さん。

「今は炎上しやすい時代ですよね。炎上は言葉がきっかけで起きることが多いので、目にとまること以上に、その言葉で人を傷つけないかどうかを常に考えています。もちろん、誰も傷つけない言葉なんてない、とも思っているので、そうした言葉の力に無自覚にならず、考えることが大事だと思っています」

自己PRや履歴書の言葉も、すべてがキャッチコピー


長谷川さんは就活生の自己PRの添削や、キャッチコピーを考える講座を行っていたこともあるそう。「就活の時の自己PRや履歴書の言葉も、考え方次第ではすべてがキャッチコピー」と話します。

「当時、自己PRに書くことが何もないという相談を受けることがよくありました。そんな時に言っていたのは、『話せることがないなら作ればいいじゃん』」

「『ガンジス河でバタフライ』というエッセイがあるのですが、このタイトルってすごくインパクトありますよね。面接で『ガンジス河でバタフライしたことがあります』と言ったらおそらく注目されるはず。それに、これってちょっとお金と時間をかければ誰でもできるけど、誰もやってないことです。だったらそれをやってしまえばいい。行きたい業界に対してアピールできることがないなら、どんなことを書いたら印象に残るのかを考えて、実行してしまえばいいだけだと思うんです。何もアピールすることがない自分を責めても仕方がないので、自分は空っぽだ、と自覚することからはじめてみる。そうすると、見えてくるものがあるかもしれませんよ」

自己PRがないなら作ればいい。これは「自己PRはこれまでの経験の中から書くもの」という固定観念にとらわれていると気づかない、新しい視点です。そして何を書くかという「言葉」ありきで考えるのは、長谷川さんの「企画は言葉」という発想にも通じるところがあるかもしれませんね。

あわせて、コピーライターに興味がある方のためにもアドバイスをいただきました。

「自分の言葉じゃないのですが、コピーライターの大先輩の土屋耕一さんという方が、『使いたくない言葉を持っているのがコピーライター』とおっしゃっているのを聞いたことがあります。たとえば、さっきインタビュアーの方が少しネガティブな感じで『下請け』という言葉を使っていましたが、僕はあまり使いたくないです。仕事は依頼主や間に入ってくれている代理店さんと一緒に作っていくものだと思っているので、形式上は下請けでも僕は自分の仕事を下請けとは呼びません。そんなふうに、普段使っている言葉の中でなんとなく引っかかるものってありますよね。それについて『何が嫌なんだろう?』と考えてみる。そうやって言葉の感度を上げていくことが大事だと思います」

長谷川さんのご指摘で、立場上はその通り「下請け」であっても、相手に引っかかりを与えてしまうネガティブな言葉を無意識に使ってしまったことにはハッとさせられます。「この言葉、意味は正しいけれど本当にこれでいいのかな?」という振り返りを、日常的にしてみるということ。

「そうした言葉への自分なりのアンテナを立てながら、会議の資料を作ったり、就活の時の自己PRを考えてみてください。あとは、街中のアナウンスやトイレの注意書きを見て『こうしたらもっと良くなるんじゃないか』と考えてみる。日常にある言葉に目を向けてみるのがはじまりだと思います」

最後に、長谷川さんにコピーライターの仕事の中で印象に残っていることを伺ったところ、音楽グループ19の初期メンバー、326(みつる)さんのイラストにコピーをつける仕事を挙げてくれました。

音楽グループ19の元メンバーであり、現在はイラストレーターとして活動されている326(みつる)さんが描くイラストのキャッチコピーを長谷川さんが作成



長谷川さんは326さんの「人生は、かけ算だ。どんなにチャンスがあっても、君が『ゼロ』なら、意味がない」という詩が、人生ではじめて好きになった言葉なのだそう。自分に大きな影響を与えてくれた人と一緒に仕事ができたことを、心底うれしそうに語ってくれました。

何げなく使っている一言に、やりたいことのヒントがあるかも


私たちは日々、膨大な量の言葉を目にして、話しています。きっとどんな人にも、好きな言葉や嫌いな言葉はあるでしょう。普段は何げなく使っているそんな言葉たちが、なぜ好きなのか、なぜ嫌いなのか、その理由を少し考えてみませんか? 自分にとって好きだと思える言葉の中に、もしかしたら本当にやりたいことへのヒントが隠されているかもしれません。

(取材・文:小沼 理/編集:東京通信社)

識者プロフィール
長谷川哲士(はせがわ・てつじ)
コピーライター代表と噂のCEO。島根県出身。リクルートに入社後フリー、面白法人カヤックを経て、株式会社コピーライター設立。グッドデザイン賞、文化庁メディア芸術祭、コピーのアワードなどで受賞多数。書いたコピー「息は自らの心とかく。(ロッテ『イートミント』)」「世の中につかれたら、水の中につかろう。(西武園ゆうえんち)」「人類以外採用(サントリー)」「恋人と別れても、オカモトとは別れません。(オカモト『オカモトゼロワン』)」「手抜きしないでね。(TENGA)」「逆風で加速せよ。(GREE)」など。
株式会社コピーライター公式サイト:http://www.copywriter.co.jp/

※この記事は2018/01/26にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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