1万人に1人の存在を目指して。磨きをかけたい「情報編集力」のスキル

インターネットが身近になったことで、私たちは日々大量の情報を得ることができるようになりましたが、同時に、情報の波に埋もれてしまいがちです。

1万人に1人の存在を目指して。磨きをかけたい「情報編集力」のスキル

インターネットが身近になったことで、私たちは日々大量の情報を得ることができるようになりましたが、同時に、情報の波に埋もれてしまいがちです。

「胃を収縮させるので、痩せるためには冷たい水が効果的」と書かれた記事もあれば、「冷たい水は胃に負担をかけるので、ダイエットには温かいお茶が良い」と真逆の意見が記された記事を目にするなど、情報があまりにも多すぎて何が真実で何が誤りか判断することが難しくなっています。

成熟社会に突入した今だからこそ、情報に惑わされることなく自分で考えて行動することが大事だと、『情報編集力?ネット社会を生き抜くチカラ』の著者である藤原和博さんは話します。

キャリアアップを目指すために必要なのは「情報処理力」ではなく、その情報を自分なりにどう生かすかを考える「情報編集力」が重要であると定義している藤原さん。そこで、「情報編集力」を培うための秘訣(ひけつ)についてお話を伺いました。

「情報編集力」こそが今の社会に求められる能力!


まず、「情報処理力」と「情報編集力」とは何か、その違いについて教えてもらいました。

「僕の著書『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』や『10年後、君に仕事はあるのか?』の中でも紹介していますが、『情報処理力』というのは正解を早く正確に見つけ出す能力のことで、『情報編集力』はインプットした情報と情報をつなぎ合わせる能力のことを指します。

20世紀までの社会は速く正確に“正解に到達する”ことが重要視されていたのです。そのため、日本の学校教育では戦後から70年間も正解主義が貫かれてきました。しかし、時代が成熟社会に移り変わった現在では、ただ情報を処理するだけならITやロボットのほうが迅速に対応できるようになったため、これまで大事にされてきた『情報処理力』よりも『情報編集力』のほうが重要になってきているのです」


藤原さんは、現代における「情報編集力」の欠如は学校教育に問題があると提議していますが…。

「外国では思考力を培うために、小学生のころから討論や自由に意見を述べ合うブレインストーミング、客観的な思考を養うクリティカルシンキングの授業を行っています。しかし日本のほとんどの学校教育では、知的複眼思考の授業は行っていません。

国語のテストでは『作者の気持ちを答えなさい』、もしくは『筆者の気持ちを次の4択の中から選びなさい』という問題がよく出題されています。それだと、自分の頭の中で考えるという自由を奪ってしまうことになるのです。

必ず正解がある中で答えを選択することは、仮説を他人が与えてくれること。

このように、私たちは教育を受ける中で『必ず正解がある』と育てられてきました。塾や予備校へ通って学力だけを高めたとしても、正解の出し方についての『情報処理力』が高くなるだけで、予定不調和のことが起きたときの対処方法を学んでいかないと『情報編集力』は身につかないのです」

自分の仕事に付加価値をつけられる人が会社で評価される


なぜ、社会人こそ情報編集力が必要なのでしょうか?

「ビジネスパーソンとして求められるのは、作業する人ではなくて仕事をする人。人から『ここをやっておいて』と与えられる業務は作業であり、自分から率先して行うものが仕事です。

新入社員が上司から命じられたことをこなすのは、仕事というよりも作業に近い。そのような日々を過ごすだけでは、成長が鈍化し、責任ある職に就くことは難しくなります。そのため自分の成果に対して、いかに付加価値をつけることができるのかが大事になってきます」

ということは、ビジネスパーソンには「情報編集力」だけが求められるということでしょうか?

「作業そのものが無意味ということではありません。場合にもよりますが、どんな会社でも業務の半分以上が事務処理的な仕事だったりします。しかし、仕事は速く正確に物事を動かさなくてはならないため、それを円滑にする事務処理も大事な業務の一つ。

そして与えられた作業を早く済ませることができば、それだけの空いた時間で価値を生み出す仕事ができる。

だから情報処理力が速ければ速いほど、情報編集力を高めることができるという相関関係になるわけです」

なるほど、情報収集力も情報編集力も、ビジネスパーソンにとってはどちらも必要なスキルなのですね。

「情報編集力」を高めるためには「想定外」が必要?


果たして情報処理力が高い人というのはどんな特徴があるのでしょうか? それについては、以下の特徴が挙げられるのだとか。


・「遊び」があってイマジネーションが豊か

・「戦略性」がある



「『情報編集力』が高い人は、子どものころにたくさん遊んでいた人だったりします。例えば学校から帰ってそのまま遊びに行こうとなったとき、自分より幼い弟が一緒に『僕も遊びたい』と言ってきたら、みんなが楽しく遊べるようにルールを変更しなくてはなりませんよね。

遊びの中には予定不調和なことばかりが起こります。情報編集力を高めるためには、突然のトラブルに対してどれだけ工夫を凝らして対応してきたか、その経験値の数が重要なのです」

では、20代のビジネスパーソンがこれから情報編集力に磨きをかけるためには、どんな経験を積めばいいのでしょうか。

「大人になってから情報編集力を高める場合、ネットの情報だけで満足せず、短期留学や今まで一度も行ったことのない場所へ出向いてみましょう。

今までの自分のセオリーや、道具立てが通用しない世界へ行けば、これまでの知識だけではどうにもできない場面がある。そこから自分を再定義しなければいけないので、おのずと頭の中で再編集をすることができます。

例えば観光ではなく長期で海外に滞在すると、場所にもよりますが、物が盗まれたり、交渉ごとが発生したり、自力で考えてなんとかしなくてはならない場面が出てきます。それらは、思考力を高めるためにはうってつけなのです。

もっと簡単な方法としては月に1冊以上のペースで読書をすること。どんな本を読むかにもよりますが、あるテーマに対して著者が人生のかなりの時間をかけて獲得したことが、1冊の本の中に書いてあります。そうした本を数多く読むことによって、世の中の情報をタテ・ヨコ・ナナメにつなげていけるようになるのです」

答えがないからこそ、今まで頭に詰め込んできた情報をいろいろな角度から引き出し、混ぜ合わせて、自分だけで新たな解をださなくてはなりません。自分が持っていた概念を覆すことが、情報に飲まれず新たな編集力を手に入れることになるのではないでしょうか。

1万人に1人のレアな存在を目指す!


ちなみに、一人前のビジネスパーソンになるためには、その仕事に対して1万時間を費やすことが必要だそうですが…。

「1万時間やれば、その分野において誰でも100人に1人のプロレベルのスキルを得られるのです。これは、マルコム・グラッドウェル『天才! 成功する人々の法則』にもしっかりと書かれています。大事なことは100人に1人のレベルに達したら、最終的には100万人に1人の超エリートを目指すこと。

100人に1人なら努力次第で誰でもなれます。だったら1つの分野だけでなく、2つ、3つの異なる分野で100人に1人のプロになりましょう。そうすることで『100分の1』×『100分の1』=『1万人に1人』の希少性を獲得することができます。

そうして、誰にも負けない絶対的なスキルを身につけることができるのです」

情報編集力を高めることは、すなわち社会人としてそして、自分自身をアップデートしていくことにもつながります。

柔軟かつ多角的に物事を見て、感じて、そして考えることで、新たな発想を得ることができるようになる。そこから自分の仕事に付加価値をのせることができるようになれば、周りのあなたを見る目も大きく変わっていくことでしょう。

(取材・文:真貝 聡)

識者プロフィール

藤原和博さん
藤原和博(ふじはら・かずひろ)
奈良市立一条高校校長。教育改革実践家/和田中学校・元校長/元リクルート社フェロー
1955年東京生まれ。78年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、93年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08~11年橋下大阪府知事特別顧問。14年武雄市特別顧問、16年春から奈良市立一条高校校長に就任。
アクティブラーニングの手本となった「よのなか科」が『ベネッセ賞』、地域活性化手段として「和田中地域本部」が『博報賞』、給食や農業体験を核とした和田中の「食育」と「読書活動」が『文部科学大臣賞』をダブル受賞し一挙四冠に。
10年で1230回に及ぶ人気ビジネス研修講師でありながら、「よのなか科」が手本となっている授業のアクティブラーニング化や学校マネジメントを教える「校長先生たちの校長」としての役割も担う。詳しくはホームページ「よのなかnet」

10年後、君に仕事はあるのか?―――未来を生きるための「雇われる力」

 

藤原和博の必ず食える1%の人になる方法


※この記事は2017/04/14にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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