女性バーテンダー花田美咲がたった1年で一流になった理由

ザ・プリンス パークタワー東京の33階に位置するバー「スカイラウンジ ステラガーデン」。窓からはきらめく都会の摩天楼と東京タワーが目の前に広がります。そのカウンターでバーテンダーとして働いているのが、青森県出身の24歳・花田美咲さん。

女性バーテンダー花田美咲がたった1年で一流になった理由

ザ・プリンス パークタワー東京の33階に位置するバー「スカイラウンジ ステラガーデン」。窓からはきらめく都会の摩天楼と東京タワーが目の前に広がります。そのカウンターでバーテンダーとして働いているのが、青森県出身の24歳・花田美咲さん。

バーテンダー歴1年にもかかわらず、初めて作ったオリジナル・カクテルが、「2013 ビームサントリー ザ・カクテルアワード」のリキュール部門で最優秀作品に選ばれ、翌年2014年に開催されたHBA(一般社団法人ホテルバーメンズ協会)東京支部主催第8回創作「カクテルコンペティション」でも、オリジナル・カクテルが優勝作品に選ばれるなど、今注目の若手女性バーテンダーです。

そんな花田さんですが、実はもともとバーテンダーになるつもりはなかったそう。父親がホテルに勤めていたことから、ホテルでの仕事に憧れを持ち、ホテルマンを目指し、進学のために上京したそうですが、彼女はなぜ、バーテンダーとして生きる道を選択したのでしょうか。そして、なぜ最速でキャリアアップできたのでしょうか。その理由を探ります。

人生を変えた1杯のカクテル


─ホテルマンを目指し上京したそうですが、なぜバーテンダーの道を選んだのでしょうか?

花田美咲さん(以下、花田):専門学生時代、先輩にホテルのバーに連れて来てもらったんです。バーなんて初めてでしたし、夜景のきらめくラウンジは大人の社交場といった雰囲気で、自分なんて場違いなんじゃないかと緊張していました。

何を注文すればよいか分からなかったので、「自分に合ったカクテルを」とオーダーしたんです。目の前でシェーカーを振る女性バーテンダーの姿はカッコよくて、華やかでした。作ってもらったカクテルはとてもおいしかったし、透き通っていて見た目もキレイで……。私もこんなカクテルを作ってみたい。そして、ここで働きたい。バーテンダーになりたい!って思ったんです。

実は、その初めて行ったバーが、今働いている「スカイラウンジ ステラガーデン」なんです。

最速のキャリアアップを選ぶも結果は……


─大会で1位になるまでの経緯を教えていただけますか?

花田:専門学校卒業後に、20歳でザ・プリンス パークタワー東京に入社しました。1年目はカクテルを作らせてもらえないので、ホールでの接客や会計など、地道な業務をこなしながら、営業後にカクテルの練習やお酒の知識を先輩に確認する日々でした。

そんなある日、上司に「今年のバーテンダー試験で合格したら、カクテルを作ってもいいぞ」と言われ、猛勉強。1回で実技と筆記試験をパスし合格しました。それが21歳のときです。

試験を合格してすぐに、技術を競う大会に出場したのですが、ほぼ初めてカクテルを作るような腕前だったので、結果は予選の時点で約20人の中ビリ。本選に進めませんでした。そんな中、私と同じ専門学校を卒業した同期のバーテンダーが1位で予選を通過して、本選も2位という華々しい結果を出していて、あのときは、ビリだったことがまず恥ずかしいって思いましたし、先を越されて悔しい!って気持ちでいっぱいになりましたね。

失敗からの快進撃。ビリから1位に


─その同年に開催された「2013 ビームサントリー ザ・カクテルアワード」のリキュール部門で、みごと1位に選ばれましたが、その原動力はなんだったのでしょうか?

花田:やるからには、「ホテルの名前を汚してはいけない」という思いがありましたし、プレッシャーもありました。なので、大会までの3カ月間、本当に毎日練習しました。勤務前の早い時間にバーに来て練習、勤務中も空いている時間を見つけては練習、家に帰ってイメージトレーニング。休日もバーに出勤して、空いている場所で練習させてもらっていました。

「ココベール」 マリブ、ティフィン、バタースコッチキャラメルリキュール、生クリームを混ぜ、上にココナッツパウダーと食用花エディフルフラワーをブーケに見立ててのせた、ウェディングドレスの花嫁をイメージしたカクテル。ココナッツの「ココ」にウェディングベールの「ベール」からネーミング。



─受賞したときは、どんな気持ちでしたか?

花田:まさか……と、信じられませんでした。自分の中では100点満中60点くらいだったんです。緊張しやすいタイプなので、手が震えてグラスがぶつかって音が鳴ってしまったり、シェーカーを振っていてもどれくらい振っているか分からなくなってしまったり……演技中は、頭の中が真っ白だったので。

ただ、まわりの人たちには「すごく堂々と演技していて良かった」という声を掛けてもらいました。それは、特に家でのイメージトレーニングがよかったのだと思っています。寝る前に目をつぶって、本番の一連の流れを想像しながら、どの位置に何があるかをイメージして、カクテルを作る所作もエアーで行っていたんです。だから本番で頭が真っ白になってしまったときも、体が勝手に動いて、堂々と見えたのかもしれません。

お客さまに対して誠実に。「分からない」は成長のチャンス


─花田さんがバーテンダーとして心がけていることを教えてください。

花田:無数のお酒がある中で、自分の勉強不足もあって、知らないこともまだまだたくさんあります。お客さまのほうがお酒の知識があり、教えていただいたり、試されることもしばしば。

あるとき、1回だけ知ったふりをしてしまったことがあるんです。でも、お客さまにはそのうそを見抜かれていました。それから、分からないことは分かりませんと正直に答えるようにしたら、お客さまが知識を教えてくださるんです。正直に「分からない」と言うことが、成長につながるということに気づかされました。

分からないって認めることは、悔しいし恥ずかしい。でも、そういう経験をすることで、もっと勉強しなきゃって思うんです。だからいつも、お客さまに対して、常に誠実でいることを大切にしています。

─お客さまから学ぶことも多いのですね。

花田:ほかにも、カクテルを提供したお客さまに、味の感想をヒアリングするようにしていて、その内容をもとに調整を繰り返し、自分のクリエイティビティを磨いていくことを心がけています。

女性だからって、かわいいカクテルを出せばいいわけじゃない。嗜好(しこう)や気分など、そのときに求めているものは十人十色なので、まずは聞くんです。飲んでいただくからには、おいしいことはもちろん、キレイなカクテルを提供したい。オリジナル・カクテルを頼まれたら、その人のための最高の1杯を作りたいんです。

バーテンダーという仕事のやりがい


─バーテンダーとしてのやりがいを教えてください。

花田:自分が作ったものをお客さまに目の前で飲んでいただけて、感想が聞ける。これってすごいことだなって思うんですよ。

バーテンダーって、オーダーをお伺いして、作り、提供して、お話しして、お見送りまで、全部できるんです。ホテルマンを目指していましたが、そこまでお客さまに関われる仕事ってホテルの中でバーテンダーくらいじゃないかなって。

「おいしい」と言ってくださったり、また来てくださったり……、ダイレクトにお客さまに関わり、反応をいただけることがうれしいです。

目指すは世界一。若きホープが考える「仕事」とは


─過去の大会で華々しい成果を残している花田さんですが、バーテンダーとして、これからかなえたい夢を教えていただけますか?

花田:近年、海外の大会が増えているので世界大会に出場したいと思っています。そのためには、もっとカクテルの知識や、海外のカクテルのトレンドを知り、自分のオリジナル・カクテルをプレゼンテーションできる英語力を身につけたい。海外のバーテンダーたちと戦える実力をつけて、世界一を目指したいです。

─最後に、大きな目標へ向けて突き進む花田さんとって、「仕事」とは?

花田:「実験」ですね。私は数多くの失敗を繰り返してきました。でも逆に失敗しないと次がないかな、と思うんです。なぜなら学ぶことがなくなってしまうので。

まとめ


花田さんの技術やオリジナル・カクテルは、なぜそんなにも評価されるのか。その理由は、彼女の仕事の姿勢に隠されていました。学びなきところに成長なし。バー業界の若きホープ、花田美咲の挑戦は続きます。


識者プロフィール
花田美咲(はなだ・みさき) 2012年4月、株式会社プリンスホテル入社。ザ・プリンス パークタワー東京 食堂サービス2「スカイラウンジ ステラガーデン」勤務
<受賞歴>
2013年10月、2013サントリー ザ・カクテルアワード リキュール部門 最優秀賞
2014年11月、HBA東京支部主催第8回創作カクテルコンペティション ジュニアレディースオールデーショート部門 優勝

※この記事は2016/05/18にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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