給料が下がっても豊かになれる? ベトナムで働く幼稚園教諭が驚いた「幸せな職場」

日本から約6時間のフライトで到着するベトナム。東南アジアに位置し、美しいビーチやハロン湾など、雄大な自然と素晴らしい景色を楽しめることで、毎年多くの旅行者が訪れます。

給料が下がっても豊かになれる? ベトナムで働く幼稚園教諭が驚いた「幸せな職場」

日本から約6時間のフライトで到着するベトナム。東南アジアに位置し、美しいビーチやハロン湾など、雄大な自然と素晴らしい景色を楽しめることで、毎年多くの旅行者が訪れます。

そんなベトナムで、今年2016年の4月から働くことになったのが、幼稚園教諭の乗京有希さん(31歳)。彼女はなぜこの土地、ベトナムで働くことを決心したのでしょうか。そして、ベトナムで働くことで気付いた日本との働き方の違いなども伺いました。

「そうだ、海外で働こう」20代最後に一大決心


乗京さんは京都で生まれ、4人兄弟の中で育ったしっかり者の長女。従兄弟も乗京さんより年下で、小さなころから年下の面倒見が良かったため、母親に「将来は、幼稚園や保育園の先生の仕事が向いているかもね」と言われていたそう。

「そんなこともあって、保育士や幼稚園の先生になることしか考えていなかったですね。中学のときに職場体験で行った保育園の先生が『毎日すごく楽しい。この仕事を選んで良かった』と話していたことにさらに背中を押され、何の迷いもなく、この職業を選びました」(乗京さん、以下同じ)

短大を卒業した乗京さんは幼稚園に就職後、保育園、託児所、ベビーシッター、学童保育など、保育に関する一通りの仕事を経験してきました。そんな乗京さんはなぜ海外で働くことを選んだのでしょうか。

「前の職場の環境に恵まれなくて、他の幼稚園を探そうと思っていたのですが、当時29歳という年齢もあって。30歳を手前に成長したい!と考えたとき、『大きく環境を変えて、どうせ働くなら海外で働いてみよう!』『ブッ飛ぼう!』と“ノリ”と勢いで決めました(笑)」

そこで2015年の8月からインターネットで求人情報を調べたところ、多くが「四大卒」「自動車運転免許」などの条件があり、乗京さんの持つ資格で募集していた職場は限られていたそうです。「逆に選択肢が限られていたので楽でした」と笑う乗京さんですが、海外の中でもなぜベトナムを選んだのでしょうか。

「ベトナムという国に、特にこだわりはなかったんです。ヨーロッパとベトナムの募集が見つかり履歴書を送ったのですが、ベトナムの幼稚園から先に連絡があって、そのままスカイプで面接をして受かったんです。
求人を探し出してから2カ月くらいでトントン拍子に決まりました。実は、履歴書を送った当時は、『そもそもベトナムってどこ?』ぐらいの知識でしたけど(笑)」

雑務に縛られない「幸せ」なベトナムの幼稚園

 

どこに行っても子どもたちは素直でかわいい



乗京さんが働くことになったのは、ベトナム最大の都市・ホーチミンにある日系の幼稚園。ベトナム人の子どもも通っていますが、ほとんどが日本人駐在員の子どもたち。5~6年前にできたばかりの新しい幼稚園で、180人ほどの児童を日本人教員約10人、ベトナム人スタッフ約20人で見ています。

日系の幼稚園で、ベトナム人スタッフも日本語を話せるため言葉の問題はなく、職場環境はとても良いそうです。

「幼稚園はほとんど女性の職場なので、日本では上下関係が厳しかったり、イジメが多い職場もあるらしいのですが、ベトナムで働いている日本人の先生は、日本のそういう職場で働いてからベトナムに来たからか、そのようなネガティブな風潮はありません」

そして乗京さんが一番驚いたのは、業務内容の負担の違いでした。

「日本の幼稚園や保育園は雑務が多いんです。私は多いとき一人で27人のクラスを担当していたのですが、子どもを送り出したあとに、掃除をして27人分の記録をつけて、翌日の準備をするので、朝7時に出勤しても帰るのは夜20時過ぎ。忙しいときは23時ごろまで仕事をしていたときもありました」

しかしベトナムの幼稚園には、日本の幼稚園にはないベトナム人の「アシスタント」が常駐しており、彼らが雑務を担当してくれるそう。

「ベトナム人スタッフは保育士や幼稚園教諭の資格を保有していないので、アシスタントとして雑務を担当してくれます。送迎バスの添乗から掃除まで、日本では一人でやらなければならない雑務が軽減されるので、私たち先生はストレスも少なく“子どものことだけに集中して働ける”ということが一番大きな違い。日本と比べてとても働きやすい環境です」

乗京さんは現在、朝7時に出勤し、18時前には自宅に帰ることができるそうです。日本では、拘束時間が長い上に薄給なため、子どもたちのために最良のパフォーマンスを発揮できないことが問題視されている保育士や幼稚園教諭。これは小中高の教員も同じで、日本の教育現場にはブラックといえる職場環境問題が問われています。そのような側面から乗京さんにとって、ベトナムの幼稚園は「幸せな職場」なのかもしれません。

給与額は下がっても豊かな暮らしを得られる

 


ライフスタイルバランスも取れるようになり、ゆったりと生きることができる、それがベトナム



さて、気になる金銭面ですが、現在のベトナムでの給与はいくらなのでしょうか?

「日本の幼稚園教諭の給与相場よりちょっと低く、私の場合は月に2万円ほど下がりましたが、ベトナムは物価が安いので、東京で8万円のアパートで暮らしていたときよりも、少しお金持ちの気分です(笑)」

現在、乗京さんが暮らす家具付きアパートの家賃は、日本円で2万7,000円ほど。なんと、ベトナムの賃貸物件では、掃除や洗濯は大家さん(もしくはスタッフ)がしてくれるのが当たり前なのだとか(!)。さらにWi-Fiが部屋はもちろん、今は街中にどこでも飛んでいるので通信料はほぼかからず、交通費も外食も格安(タクシー初乗り:約60円~、バス:約25円、バインミー:約50円~、フォー:約150円~)なため、給料は下がったものの、経済的にはベトナムで生活している今の方が生活が豊かなのだそうです。

「仕事後や休日は遊んでばかりです(笑)。ベトナム国内はもちろん、近くのタイ・ラオス・カンボジア・中国にも月1度くらいで旅行へ出かけました。東京で働いているときには考えられなかったことですね」

「幸福度」の高いベトナム人に教えられたこと


ベトナムはその南国ならではの温暖な気候から、人ものんびりしており、おおらかです。世界の“幸福度ランキング”では、アジアの中でも上位に入っています。

「神経質な日本人と比べて、ベトナム人は少し時間にルーズで、小さいことはあまり気にせず、陽気です。例えば、枝豆を食べたら殻を地面や床に捨てるのが当たり前だし、レストランに入っても店員さんが働きながら、自撮りを始めたり、大声で歌い出したり…(笑)」

また、ベトナム人は親日家のため、日本人にはとても優しく接してくれるそうです。そんなベトナム人の気質に魅せられた乗京さんは、日本での生活に違和感を感じるようになったのだとか。

「日本では、働くにしてもプライベートにしても制約や時間に縛られることが多いじゃないですか。この前、夏休みに日本へ帰ったとき『日本って、疲れるな』と思ってしまったんです。『何時にどこに集合』ということですら、ベトナムに来たことで感覚が変わってしまったというか……。ベトナムでは時間を決めても道路が混んでいるので、5分のところが20分かかってしまったりします。そのへんもゆるく寛容で、のびのびと自由に生きている印象がありますね」

パワフルな街と人


今しかできないことだから、今やる



そんな乗京さんに、今の仕事のやりがいと目標について聞いてみました。

「大前提に私は子どもが好きです。子どもの成長を見るのは幸せだし、子どもは世界のどこに行っても同じでかわいいんですよ。よく『子どもが好きなだけじゃ続けられない』という話を聞きますが、私はまず『子どもが好き』という気持ちが一番だと思います。幼稚園の先生って、子どもは小さいからあまり記憶に残らないかもしれないけど、少なくとも子どもの人生に関わる仕事で、『誰かの人生の一瞬の何かになれる』ことへの魅力は常に感じていますね」

実は1年だけベトナムで働いて帰国しようと思っていたという乗京さん。しかし、実際にベトナムで半年間暮らして、仕事をする中で不便に思ったことはほとんどなく、むしろ「今の方がとても楽しいです!」と話します。そこでまず、就労ビザの期限である2年間はベトナムで働くことを決意したようです。

「就労ビザの取得は年齢制限があったり、女性は結婚や出産があるので、時間が限られていると思ったんです。残念ながらこの歳まで結婚がなかったのも海外に行こうと思ったきっかけの一つで、年齢的にも『今しかない!』と思って日本を飛び出しました。やれることをやれるときにやる。だから次の目標は結婚です!(笑)」

まとめ


常に笑顔を絶やさず異国の地でパワフルに生きる姿が印象的だった乗京さん。きっと結婚しても明るいすてきな家庭を築くことでしょう。

彼女のように、成長するために今までと違う世界へ飛び込み海外で働くという選択肢を、あなたも一度考えてみてはいかがでしょうか? そこから仕事と人生の新たな目標、そして生きがいを見いだせるかもしれませんよ。


識者プロフィール
乗京有希(のりきょう・ゆうき) 1985年生まれ。京都府出身。短大を卒業後、東京で幼稚園に就職。約10年間で保育園、託児所、ベビーシッター、学童保育など、保育に関する一通りの仕事を経験する。2016年4月からベトナムに渡り、ホーチミンの幼稚園に勤務中。

※この記事は2016/10/26にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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