オフィスに人がいない…!? 社員200人、全員リモートワークする「キャスター」の働き方

「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、オンラインアシスタントサービスや個人事業主のマッチングサービスなどを手がけているのが、株式会社キャスター。

オフィスに人がいない…!? 社員200人、全員リモートワークする「キャスター」の働き方

「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、オンラインアシスタントサービスや個人事業主のマッチングサービスなどを手がけているのが、株式会社キャスター。

キャスターでは、200名を超える従業員全員に出社の義務がありません。つまり全員「リモートワーク」「在宅ワーク」で勤務をしているということ。

本当に社員全員が出社をしないで、業務を円滑に回すことができているのでしょうか? 同社代表の中川さんに、「リモートワークという働き方」について伺いました。

近年、高い注目を集めるリモートワーク。仕事とプライベート、どちらの充実もかなえたいと考えている20代のビジネスパーソンの皆さんの中には、興味がある方は多いかもしれません。そもそも、リモートワークは仕事と生活にどのような効果をもたらすのでしょう。今回の記事を通じてリモートワークについて理解を深め、自身の理想の働き方をかなえるきっかけにしてみませんか?

キャスターは「労働に革命を起こす」ために生まれた

 


--社員がフルタイムでリモートワークができる「フルリモートワーク経営」という珍しい働き方を選択しているそうですが、まずは簡単に事業内容を教えてください。

2014年9月に「労働革命で、人をもっと自由に」というビジョン、そして「リモートワークを当たり前にする」というミッションを掲げて創業しました。同年の10月にはベンチャー・中小企業向けに、自社で雇用する在宅ワーカーが業務のアシスタントを行うBPOサービス(ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略。企業の事務作業やオペレーション業務の外注サービスのこと)の「CasterBiz(キャスタービズ)」をリリース。

2017年5月には「Remote Style(リモートスタイル)」という、フリーランスのクリエイターのマッチングサービス、2017年9月には「REWORK(リワーク)」という新しい働き方に特化した求人掲載媒体を開始しました。

「新しい働き方」を軸に、人材業界の総合領域を内包する会社を目指して事業を進めています。

--展開するサービスで「新しい働き方」を促進させるにとどまらず、御社内でも「新しい働き方」に力を入れています。

そうですね。現在の社員数は100名程度、業務委託を含めると200名以上が在籍していますが、全員、出社義務はありません。オフィスは一応ありますが、15名程度しか入れない広さなので、基本的に各自が働きたい場所で働いています。フレックスタイム制も採用しており勤務時間も各自で決めます。

--チャットが日常のコミュニケーション代わりなのですね。「リモートワークを当たり前にする」を掲げて、事業と自社組織、両面で取り組まれているようですが、どうして「リモートワーク」に特化した会社を立ち上げたのですか?

きっかけは私の前職時代にさかのぼります。ソーシャルメディアの「投稿監視」という、ソーシャルセキュリティ事業で営業を行いながら、BPOビジネスの新規立ち上げをする事業企画部に在籍していたときのことです。2014年当時、各地にコールセンターを置く手伝いをするうちに、徐々に人材不足の問題が浮かび上がってきました。コールセンターの立ち上げをしようとしても人材が集まらない。それなりの費用をかけてCMを打ち、なんとか確保できるという状況でした。

そこで「クラウドソーシング」と呼ばれる、オンラインで仕事を受発注するサービスを活用して在宅ワーカーたちに仕事を依頼することにしたんです。つまり人材不足問題をリモートワークの活用で解決しようと考え、事業化することにしました。

--BPO業界における人材不足の課題を解決するために立ち上げたサービスだったのですね。当時「リモートワーク」への注目はそれほど高くなかったのではないかと思いますが、どうしてそこに注目したのでしょうか。

人材不足の課題を解決しようと考えたら、残された選択肢は4つだけ。シニア、女性、外国人、そして在宅者を巻き込むことです。その4者に対して横断的にアプローチできるのが「リモートワーク」だと考え、事業の軸にしようと決意しました。

リモートワーク注目の背景、そしてキャスター社の実態

 


--キャスター創業以来から現在に至るまで、リモートワークは高い注目を集めるようになりました。どのような背景があるのでしょうか。

やはり政府が2015年に正式な方針として「テレワーク推進計画」を打ち出したことが大きいと思います。

例えば、通勤に長い時間をかけている方が、結婚や子育て、介護など、ライフスタイルの変化を理由に時短勤務の選択を考えているとします。時短勤務になると1日6時間しか働かないため正社員より給料は下がる。さらに通勤に往復2時間もかけていると、結果として家にいる時間はそれほど増えない。となれば、仕事をやめざるを得なくなることも。政府としては仕事をやめないでほしいですし、働き手としても通勤の負担がなく、正社員と同水準の給料がもらえればうれしい。そこの利害がマッチして注目を集めているのだと思います。

--とはいえ、全員がフルタイムでリモートワークをするのは難しいように思えますが…。御社では、どのように実現しているのでしょうか?

リモートワークかつフレックスタイム勤務が可能なので、都心で働きたいけど地方から出られない方、何らかの事情で定刻にオフィスに出社するのが難しいという方が社員、業務委託などさまざまな形で勤務しています。よく「生産性の管理はどうしているの?」と外部の方からは質問を受けますね。

従業員ごとの業務レベルにもよりますが、システムのみで生産性を管理することも、チャットで日々のコミュニケーションを通じて生産性を管理することも、両方あります。オフラインでのコミュニケーションがないからこそ、業務量がごまかせないんですよね。例えばチャットでの動きだけでも、誰がどの程度働いているのかはすぐに分かってしまう。仮に「あのプロジェクトの調子はどう?」という質問をするとします。もし「まだ着手していません」と言われた時、オフィスにいる場合では「きちんと出社して働いているし、他の案件も頑張っているから仕方ない」と思われる可能性もありますよね。ですが働いている様子が見えない分、オンラインでの仕事は成果が全て。「言われたこと、できていないんだね」でおしまいです。

ドライに聞こえるかもしれませんが、これは本来の働き方として正しい姿だと割り切っています。余計な情報がないから評価軸がブレないし、社員は成果に責任を持つからこそ働き方の自由を選択できるという構造です。

リモートワークは大企業には不利? リモートワークの本質的な変化とは



--一般的な企業においては、リモートワークはどのようなメリット・デメリットがあると思いますか?

メリット・デメリットは大企業と中小企業で異なります。実は大企業にとって、リモートワーク普及はデメリットのほうが大きいもの。リモートワークは、人材不足という課題を解決する手立てとして有効です。しかし既存の採用手法、例えば新卒一括採用などで優秀な人材を採用できる就活で人気の大企業にとっては、採用手法の風向きが変わることはデメリットです。規模が大きければリモートワークを実施するための体制改革も難しい。仮に「大企業に入ってリモートワークで働きたい」と思って仕事を探しても、現状では見つけにくいかもしれません。

--「働き方の変化」ではなく、「人材採用構造の変化」なのですね。

一方で中小企業はメリットが多いといえるでしょう。例えば地方に行くと特殊な地場環境が多く、女性に就労の選択肢がないことも珍しくありません。極端なことを言えば、公務員か一次産業以外の選択肢がない上に、その土地の最低賃金で働かざるを得ないという場合も多い。そのため若者が地方にとどまることは少なく、職を求めて都会へと移住してしまっている状況。スタートアップや中小企業は、組織変革を行うコストが大企業に比べると低く済むので、リモートワークを導入しやすいんです。今後事例が増えて研究も進めば、ますます導入を検討する企業も増加するのではないでしょうか。

働き手にとっては、ライフスタイルの変化に伴って地元を離れたり、移住したりする必要もなく、魅力的な企業の求人を手にすることができます。先ほども述べたように、通勤時間の削減や通勤による疲労の軽減も見込めますよね。最低賃金での労働という選択肢をとらなくても、自分に最適な働き方を選択できるのです。

リモートワークはこれまでの働き方とは、全くの別物

 


--これまで一般論をお伺いしてきましたが、御社で実際に働いている方はリモートワークに対してどのような感想を抱いているのでしょうか?

やはり「場所に縛られない働き方」にメリットを感じている人は多いですね。例えば、広報の勝見は場所の制約がなくなったことで、旅先で仕事をする「ワーケーション」という新しい働き方に挑戦しています。日中は旅先で仕事をして、終業後以降は自由に旅行を楽しむ。今まで通勤に充てていた時間を、旅行を満喫する時間にチェンジさせているようワーケーションなイメージです。通勤時間が減った上に、自分が本当にしたいことと仕事との両立も可能になるんですね。

一方で、コミュニケーションが全てチャットということに戸惑う社員も少なくありません。これまでに経験したことがない量のチャットを打ち続けるので、チャットを閉じて自分の業務時間を確保するスキルも求められます。ですが、1ヵ月もすれば大抵慣れてしまいますね。今の若者って、顔を見なくてもSNSやコミュニケーションツールで仲良くなることも多いですから適応が早いんです。

オフィスで顔を合わせると、自然にコミュニケーション量が増える。リモートワークではそこをチャットで補てんするので、少し見ないうちに数百件の通知が来ているなんてことも少なくない。最初はそこに適応する必要がありますね。

--オフィスでのコミュニケーション量が減ることで、愛社精神や生産性が落ちるなどの問題はないのでしょうか。

そもそも、リモートワークは既存の働き方の延長ではありません。どうして出社するの? どうして忠誠心が必要なの? という疑問をひも解くと、それは社員の意識を統率するためだといえます。でもリモートワークを実現するためのマネジメント方法を確立していけば、そんな「働き手の意識」も変化していく。つまり、会社への忠誠心で働くのではなく、個々人の目的をかなえることのできる会社を選んで働く。どちらの働き方が正しいとはいえませんが、それはこれから社会や働き手がきっと決めていくのだと思います。

働き方の選択肢を知り、行動することが未来を開く一歩め



場所の制約をなくすことで、働き方の選択肢を多様にする「リモートワーク」。働く場所・時間にこだわらず、個々のワーク・ライフ・バランスを実現できる環境を整備しているキャスターですが、そこには社員が自身の理想とする働き方を実現しようとする意志と、業務で成果を出す強い責任感をもって働く姿があります。200名以上在籍する全社員で「労働革命で、人をもっと自由に」というビジョンを共有し、そこに向かって努力を続けることが、リモートワークを成功させる秘訣(ひけつ)なのかもしれません。



最後に、働き方の選択に迷う20代の方にアドバイスを求めると「いくつかの選択肢を前にして悩んでいるのだとしたら、まずは行動したほうがいい。王道の働き方から外れて、初めて見えることもある。行動してから悩んでください。どういう選択をしても悩みはするんだから」と、既存の常識を突き抜けて、新しい道を切り開いてきた中川氏らしいアドバイスをくれました。

あなたにとって、「新しい働き方の選択肢」がとても魅力的に映っているとしたら。今の働き方から大きくかけ離れるものだとしても、まずは行動をしてみてはいかがでしょうか。もしかするとその選択こそが、これから自分にとってベストと思えるキャリアを切り開いてくれるかもしれません。

(取材・文:大沢俊介/編集:東京通信社)

識者プロフィール
中川祥太(なかがわ・しょうた)
株式会社キャスター代表取締役
20歳の時に知人からの紹介で古着屋を開業。その後ネット広告代理店のオプト社に入社、2012年に退職し大阪へ。イー・ガーディアン社にてソーシャルメディアリスク、オペレーション専門コンサルなどを担当。2014年9月、株式会社キャスター創業。

※この記事は2018/01/19にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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