パクチーハウス東京が提案する、旅するように人が触れ合う生き方、そして働き方

小田急小田原線・経堂駅から歩いて3~4分ほど。経堂農大通り商店街に「パクチーハウス東京」はあります。

パクチーハウス東京が提案する、旅するように人が触れ合う生き方、そして働き方

小田急小田原線・経堂駅から歩いて3~4分ほど。経堂農大通り商店街に「パクチーハウス東京」はあります。

ここはすべてのメニューにパクチーが使われているパクチー料理専門店。「相席推奨」というこだわりを持つこのお店は、同店を経営する「株式会社旅と平和」代表取締役社長・佐谷恭さんが2007年にオープンさせました。

「交流する飲食店」というコンセプトに込められた思いとは? そしてなぜそれが「パクチー専門」だったのでしょうか? 佐谷さんにお話を伺いました。

約50カ国を旅して感じたコミュニティーの必要性


パクチーハウス東京は「相席を推奨」する飲食店です。そのため、友だち同士で来店したら、別のグループと同じテーブルにつく、なんてことが頻繁にあります。とてもユニークな料理が提供されていることもあり、席を共にした別のグループの注文が気になって、それをきっかけに話に花が咲くなんてこともあるのだとか。過去には同店のパーティーをきっかけに知り合った人同士が、会社を興したこともあったそうです。

2007年に同店をオープンさせた理由として、株式会社旅と平和の代表取締役社長・佐谷恭さんは「コミュニケーションを活発にするのが目的だった」と話します。

「株式会社旅と平和」代表の佐谷さん



「多くの人が毎日家と会社を往復し、その間に何千人・何万人の人とすれ違っているわけです。しかし1日のうちにしゃべる人の数は数人程度……。それではあまりに悲しいし、そんな毎日が続けば自分が何のために生きているのか見失ってしまうかもしれません。そうしたことが積み重なっていっているから『うつ病が現代病になっている』だなんて言われてしまう。自分のいる状況を打破してもらうには、家と会社の往復の途中に、気軽に人と話すことができる、何か特別なコミュニティーが必要だと思いました」(佐谷さん、以下同)

佐谷さんは京都大学総合人間学部の出身。大学在学中から現在まで、およそ50カ国を旅してきました。その道中では外国のゲストハウスに泊まらせてもらいながら、さまざまな人と交流を繰り返してきたといいます。

パクチー専門店にした理由


「特別に僕がフレンドリーというわけではなくて、お世話になった人たちの家が自然と交流できる場所だった」という佐谷さん。自身が旅で得た貴重な体験から「旅をすることとは誰かと交流し、話をすることなんだ」と定義するようになります。

こうして2007年8月9日(パクチーの日)に「株式会社旅と平和」が設立され、「パクチーハウス東京」がオープンしました。

ではなぜ「パクチー専門店」だったのでしょうか?

「パクチーはあくまでも“メディア”なんです。旅をして交流することの重要さを僕が真面目に説いたところで、きっとすぐには分かってもらえない。パクチーは好き嫌いが分かれる食材ですし、とてもニッチな飲食店だと思いますが、だからこそ、場所に関係なく勝負ができると思いました。仮にパクチー好きな人が1%しかいないとしても、世界人口70億人のレベルで見たら7000万人もいることになります。世界中探してもここにしかない、パクチーを求めて7000万人が集まるコミュニティーならば、きっとどんな飲食店と勝負しても勝てるんです」

コワーキングスペースの運営、マラソン大会も主催!?


パクチーハウス東京のある建物の3階は、コワーキングスペース「PAX Coworking」(パックス・コワーキング)になっています。こちらは2010年7月にオープンしました。「パクチーハウスが『食べる時間のなかでコミュニケーションをとれる』とするなら、『仕事の時間のなかでコミュニケーションをとれる』のがPAX Coworkingです」。

また佐谷さんは地元にどう貢献するかということも考えています。「パクチーハウス東京を目的に経堂まで来た人に、もっとこの近辺を周遊してもらう方法はないか」と考えた末、2012年2月「経堂マラソン」を主催するようになりました。

これは「パーティーするようにマラソンしよう!」というコンセプトを掲げたランニングイベントです。パクチーハウス東京をスタート&ゴール地点に、制限時間8時間のなかで各自が設定した自由な距離を走り回り、走っている最中は同じTシャツを着た参加者同士で交流を図ります。

イベント中はSNSのグループページで、参加者の写真などがシェアされます。道中で立ち寄れる経堂区域の飲食店では、給水ポイントならぬ「給○ポイント」(○の中に入るのは、ジュースだったり食事だったり……店によってさまざま)のサービスが受けられ、ゴール後にはパクチーハウス東京でパーティーが催されたそうです。

2015年の東京シャルソンの様子



「経堂マラソン」は、2013年に「世田谷シャルソン」(シャルソンは「ソーシャルマラソン」の意)、2015年に「東京シャルソン」に活動が発展。さらには東北復興支援事業として2014年から「ウルトラシャルソン」が開催されるなど、佐谷さんはシャルソン創始者として他の地域とも積極的に連携し、活動を日本全国にまで波及させています。これまでの4年半の間、全国120回以上のシャルソンが開催されたのだとか。「シャルソン」は今、地域活性を促進するランニングイベントとして注目が集まっています。

仕事にも「旅と平和」を見つけられる!?


飲食店での交流、仕事場での交流、そして地域での交流……と、佐谷さんはさまざまなアイデアで、旅することの楽しさを私たちに知らせてくれます。そんな佐谷さんは、働くことの意義を次のように説いてくれました。

「極端にいえば、会社を辞めることですべてが始まると思うのですが(笑)、もちろん好きな仕事ならば続ければいいと思います。けれど、もしも働くなかで少しでも疑問に感じることがあるならば、一度でもいいからそれを口に出してみて、一歩前に進むことを考えたほうがいい。 残業ばかりするのではなく、勤務の時間を半分にして違うコミュニティーにも顔を出してみるとか……。僕が旅先で出会った人には、たとえプー太郎でも魅力のある人がたくさんいました。きっと人の魅力は、働き方で全て決まるものではないと思うんですよ」

「パクチーハウス」の英語表記は「paxi house」。「pax」は平和の意味で、「i」は旅人の象形文字を表しています。きっと誰の日常的な風景のなかにもある「旅と平和」。皆さんも探してみてはいかがでしょうか。


識者プロフィール


佐谷恭(さたに・きょう) 「株式会社旅と平和」代表取締役社長
1975年生まれ。幼い頃から積極的に国際交流をし、京都大学総合人間学部在学中の19歳のときに旅を始める(現在までの訪問国数約50カ国)。2004年「旅と平和」をテーマにした論文で英国ブラッドフォード大学大学院(平和学専攻)を修了。富士通株式会社では関西の新卒採用の責任者、株式会社リサイクルワンでは創業期のセールスマネージャーを務める。株式会社ライブドアの報道部門立ち上げではリーダーとしてチームを率いた。2007年に「旅と平和」を創業。著書に『ぱくぱく!パクチー』(情報センター出版局)、『つながりの仕事術「コワーキング」を始めよう』(洋泉社新書、共著)などがある。

※この記事は2017/01/25にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

page top