「好きな仕事がなくても焦らなくていい」 Zaim代表 閑歳孝子のキャリア観とは?

あなたは理想のキャリアプランを持っていますか?

「好きな仕事がなくても焦らなくていい」 Zaim代表 閑歳孝子のキャリア観とは?

あなたは理想のキャリアプランを持っていますか?

イチロー選手や本田圭佑選手のように、小さいころからの夢を曲げずに実現する姿は魅力的。しかしあなたがもし、明確なキャリアプランを持てずにいるとしても、悲観的になることはありません。「出会った人の影響によって理想を変化させることが、自分の選択肢を広げることもある」と話してくれたのは、約300万ダウンロードを誇る日本最大級の無料オンライン家計簿「Zaim」(ザイム)の開発を手掛け起業した、閑歳孝子(かんさいたかこ)さんです。

彼女は、出版業界の記者を経てWeb業界に転職。本業でWebディレクター・エンジニアを務める傍ら、プライベートで「Zaim」を開発し、社長になったという経歴の持ち主。今回は「明確なキャリアプランがあったわけではない」と語る彼女が、どのような考えに基づき節目の決断してきたのか、そのキャリア観に迫ります。

友人の誘いで、記者からWebディレクターに


―まずは、閑歳さんのキャリアについてお聞きします。大学を卒業後に出版社である日経BP社に入社し、記者として勤めていたそうですね。その後Web業界に転職するわけですが、なぜ紙の媒体からWebに移ったのですか?

「日経BP社に3年ほど勤めた後、友達からWeb業界のベンチャーに誘われたんです。でもそのときは出版の仕事が忙しすぎて、転職のきっかけとなったミーティングへの参加を3度も断ったんですよ。それなのに友人はどうしても、と言うので渋々タクシーで駆け付けたんです。今思えば、それがなければきっと転職はしていなかったでしょうね。ただ、もともとインターネットが大好きで興味はあったので、好きなものに囲まれて仕事をしてみたいと思い、転職を決めました。始めは法人向けの受託開発やパッケージ製品の設計をしていたのですが、3年が経過して技術を覚え始めたころ、『自社サービスをやってみたい』という思いが募り、さらに転職。そこで大規模なアクセス解析サービスの立ち上げを経験しました。とても楽しかったのですが、『もっと多くの人に使われるサービスを自分でつくってみたい』という動機から、個人でZaimの開発・運営を始め、それを法人化して今に至っています」

―多くの人に使われるサービスというと、具体的にどのようなものですか?

「個人向けのサービスということですね。電車でたまたま隣になった人が使っている可能性のあるような、間口の広いサービスをつくってみたかったんです。理由は、営業の力で拡散されることもある法人向けのサービスに対して、個人向けの場合はユーザーの反響が正直で、本当に役に立つサービスでないと生き残れないからです。サービスをつくるのが好きなので、一番難しそうな問題にチャレンジしたい、そう思っていました」

サービス制作のきっかけとなった、ゼミの教授の存在


―ユーザーにとって本当に役に立つかが問われるからこそ、個人向けのサービスにチャレンジしてみたかったと。そうしたサービスをつくろうと考えたのはWeb業界に入ってからですか?

「実は最初に個人向けのサービスを提供したのは、大学4年のころなんです。当時のゼミの教授が、NTTの研究所長をやっていまして、そのころ出たばかりの『iモード』の端末を活用した携帯サービスをつくらないかと提案してきました。『実行できたら、その携帯をあげるよ』って言われたんです(笑)。最初はそんな理由から、ゼミのグループ4人でそのサービス開発に没頭しましたね。教授は本当に自由にやらせてくれる方で、内容などに口出ししてくることも一切ありませんでした。そのおかげで、私たちは伸び伸びとアイデアを出し、実行に移していくことができました。

そこで生まれたのが学生向けにつくられた、授業情報を共有できるサービスでした。このサービスが学生たちの間でものすごい拡散力を持って、うちの大学の95%の学生が利用するまでになったんです」

―95%も! ものすごい数字ですね。

「一日に数百単位の人たちが一気に利用する様子は見ていて面白かったですね。面識のない学生たちが、そのサービスの話をしている光景も目にしました。自分が個人向けのサービスに興味を持ったのはこうした学生時代の経緯もありますね。先生が面と向かい褒めてくださったことはなかったのですが、私の結婚式で主賓あいさつのときに『彼女は学生時代にすごい業績を残した』と、評価してくれたのが本当にうれしかったです」

好きなことが見つからなくても、焦らなくていい


―「自分は必ずこうなる」といった将来の目的を持つことがキャリアにおいて大切だ、ということがよくいわれます。しかしお話を伺っていると、閑歳さんはそのとき出会った人や環境によって、柔軟にキャリアを選択しているように思えます。転職や企業の決断はどのようにしてきたのでしょうか?

「私自身、明確なプランを立てて今に至ったわけではありません。学生のころは、将来どうなるかなんて全く見当もつかなかったです。転職等の選択や決断をする際は、目的を持っていましたが、それは環境や出会う人によって変わっていくものだと私は思っています。

現在の就活生たちと話をすると、仕事に対して自己実現を求めすぎていて、少し気の毒だと感じることがあるんです。今の世の中は情報が多すぎる故に選択肢が多すぎます。ましてや現代社会では、新卒のときの選択が、人生において持つ意味として重すぎる感じがするんです。だからこそ、みんな最初の選択に慎重になりすぎてしまうんですよね。膨大な選択肢の中で自分の身を投じるほど好きなものを見つけていくのは簡単なことではありません。むしろ、見つからない人の方がほとんどですよ。だから、自分の好きなことが見つからないからって、そこで焦ってほしくないなと思います。

なかには私と同じように、自分が好きなものにモチベーションを持つのではなく、周りの人の反応の示し方によってモチベーションが上がる人もいます。モチベーションの保ち方は人それぞれです。具体的に○○になりたいと自分を縛らず、何か信念になるものを経験から磨いていったらいいのでないかと思います」

先が見えないからこそ、可能性がある


―明確なプランを焦ってつくろうとするのではなく、経験を積むなかで磨いていけばいいということですね。確かに自分がなりたいものを早い段階で明確にすると、その目標に縛られてしまうこともあります。ちなみに閑歳さんは、将来のご自分のビジョンやプランは持っているのですか?

「自分がつくったものに対して、ユーザーがどう使ってくれているのかという興味は持ち続けていると思います。しかし具体的な職業となるとやはり全く分かりません。ただ漠然と違うことをしていたいなという気持ちだけです。

私の興味が消えてしまう瞬間は、先が見えてしまうときなんです。最初からうまくいくことが分かってしまうと、自分が介在する必要性を見いだせないんですよね。このさき一人で没頭するほど好きなことや、興味を持てるものがなくなってしまっていたらショックですね。恐らくそのマインドを持った自分の姿だけは変わらないと思います」

―なるほど、先が見えないことは焦ったり不安になるべきことではなく、むしろ先が見えないからこそ自分が活躍できる可能性が広がっているということですね。

“人を見る目”と“直感”がキャリアをつくる


―明確な将来のプランを持たないとなると、転職などの選択をする際の判断基準がなくなるように思います。何かキャリアプランの代わりになる判断基準を持っているのですか?

「決断基準はかなり直感もあります。あとは自分が重要な局面で関わる人ですね。上司や仲間など。信頼できる人を見極められるかどうかが結構重要だったりします。人を見る目は昔に比べたら多少はマシになったんじゃないかと思います。とにかくたくさんの人に会ってきましたから」

―見極めて、その人を信じると。その信頼できる人はどのように見極めるのでしょうか?

「私が信頼できると感じる人は素直で正直な方が多いように思います。例えば自分の過去の間違いも正直に認められる人は、強い精神の持ち主だと思います。また隙を見せず勝ち続ける人も信頼できます。両者に共通しているのは、自分の行動への責任を持っていることでしょうか。自分にすごく合う人と出会うと、かなりの確率で分かります。自分の勘を信じることにしています。何をするにしても、自分なりの価値を信じることが、納得がいく決断には必要かもしれません」

いかがでしたか? 明確なキャリアプランを立てる変わりに、自分の直感を信じ、信頼できる人を見つけることでキャリアを築いていくことが閑歳さんの大きな強みでした。変化の激しい現代社会で自分らしい人生を生きていくためには、明確にプランを定めるのではなく、環境のなかで柔軟に対応していくことが有効なのかもしれませんね。


識者プロフィール
閑歳孝子(かんさい・たかこ)/慶應義塾大学環境情報学部卒業後、日経BP社で記者・編集に携わる。Web系ベンチャーを経て2008年にユーザーローカルに一人目の社員として入社。新規Webアクセス解析ツールの開発・企画・UI・デザインなど全般を担当。個人で開発したサービスのひとつである「Zaim」を2012年9月に株式会社化、同年11月にクックパッド株式会社を割当先に第三者割当増資を実施。グッドデザイン2013ベスト100など受賞歴多数。2014年の独立行政法人国際交流基金による日米若手クリエーター交流の派遣メンバー。

※この記事は2014/11/21にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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