不満を投稿すれば買い取ってもらえる!?
―御社で買取している“不満”、すなわち価値のある“不満”とはどういったものなのでしょうか。
例えばTwitterにこんなツイートがあったとしますよね。
“昨日コンビニで買ったチョコレートがおいしくなかった”
この不満を聞いて、価値はあると思いますか?
―う~ん……、なんか漠然としていてわかりにくいです。
そうですね。なのでこれは、当社では「価値のない不満」です。Twitterではデモグラ(デモグラフィックデータ)と呼ばれる消費者の属性データがわかりませんし、このツイートからは「どの会社の、何という商品か」すらわかりませんよね。
一方で当社が「価値のある不満」だと考えているのは、
“○○社の『△△』という商品を買って食べたらおいしくなかった”
といったものです。さらにこれが誰の不満なのか、すなわち属性データが付帯していることで、より不満の価値が増していきます。加えて、どのような状況下で起こった等の記載があるとさらに価値が増します。
―なるほど。御社ではこうした不満をどのように収集しているのでしょうか。
スマホアプリあるいはwebで寄せられる投稿からです。あらかじめ無料会員登録いただいたユーザーには、不満投稿時、次の項目を記入していただきます。これらの情報を投稿いただくだけで、次々にポイントが貯まっていく仕組みです。
●不満の内容(記述式)
―おおよそどのくらいのポイントが貯まるものなのですか。
1回あたり1~50ポイントが付与されます。不満がより具体的なものだとポイントも大きくなります。合計500ポイントが貯まると500円分のAmazonギフト券と交換ができるんですが、なかには月に数千ポイントを貯めるユーザーさんもいるんですよ。
不満データを集めてビッグデータとして解析
―そうして集めた不満は、どのように活用されていくのでしょうか。
当社は最大1日4万件の不満データを買い取り、これまでに500万件弱の不満データを蓄積してきました。蓄積された不満データは1つのビッグデータとして当社で解析します。業界ごと、業種ごと、会社・商品ごと、あるいは競合比較などに分類し、定量的統計データとして企業様に提供しているんです。
―具体的にはどのような解析がされているのでしょうか?
例えば、当社で蓄積した不満データを“ラベル付け”していく、というものがあります。
―ラベル付けとはどういったものでしょうか?
文章の構造を踏まえて要約する―すなわち約30~50文字で不満がまとめられた文章から「要は何を言っているのか」を読み取り、それが小売店の不満データならば「品揃え」「価格」「接客」……といった具合にラベル付けしていきます。
これは京都大学の黒橋・河原研究室と共同開発したテクノロジーで、単に特定の単語を拾ってきているのではなく、AIによる自然言語処理によってなされています。
「不満トレンド分析」では、計測期間や商品名を設定し、こうして導き出された解析結果から業界・業種・製品にまつわる不満トレンド分析(どのラベルの不満が多く寄せられているか)に役立てられます。
「クレームよりちょっと下」に価値がある!
―取引企業の反応はいかがですか?
これまでに取引のある企業様は多くが誰もが知る大手メーカーです。自社でマーケティング機能を備えているし、お客様相談室だって設置しています。それでもなぜ当社にお声がけいただいているのか―そのポイントが、不満とクレームの違いです。
お客様相談室に寄せられる情報はその多くが「クレーム」に該当すると思いますが、当社が提供する「不満」は「クレームよりもちょっと下」に位置づけられるものです。例えば、お菓子のパッケージなら「なんだか開けにくい」とか「パッケージでイメージしていた味とは違った」とか。
そうしたことは、わざわざクレームの電話を入れるのもはばかられるじゃないですか。しかし実際には、そうしたことが確実に購買意欲に影響を及ぼすものであり、そこに大きな価値があると考えられます。
さらに付け加えれば、不満データを大量に保有し、かつ、それを解析できる強みが当社にはある。そうしたことを総合的に評価していただいています。
―そもそも、どのような経緯からこのビジネスが生まれたのでしょうか。
株式会社不満買取センターは2012年6月に設立した企業です。実はその当時「買い取った不満や改善点を冊子にまとめ、それを企業に販売する」というビジネスで運用されていましたが、その後、エン・ジャパン株式会社の傘下に入り、2015年4月から新体制のもと、ビジネスモデルをチェンジしたんです。
―ビジョンとして「不満のない社会をつくる」と掲げられていますが、その意味を教えてください。
今はSNSやインターネットからリアルタイムで不満が出てくる世の中ですから、スピード感をもって改善していくことが必要だと考えています。不満が生まれること自体をこの世からなくすことは不可能かもしれませんが、不満が出てもすぐに消える世の中になれば、誰もが不満を不満と感じなくなるかもしれない。そんな社会づくりに貢献したいですね。
まとめ
ビジネスモデルの転換を図り、新規事業としてスタートした株式会社不満買取センター。中村さんは新規事業の種を育んでいくコツとして「当たり前を疑うことが大切」と伝授してくれました。「『不満を集めて、企業に売る』というビジネスも、実は結構シンプルな話。もちろんいかにマネタイズさせていくかということも考えていかなければいけませんが、日常生活の疑問や、日頃感じる不便さに着目し、そこから考えに考え抜けばきっといろいろなところにビジネスチャンスはある」と中村さん。
社会をあっと驚かせるビジネスの種は、実は皆さんの身の回りにも何げなく転がっているのかもしれませんね。
識者プロフィール
中村紘彦(なかむら・ひろひこ)
2006年、エン・ジャパン株式会社入社。企業の中途採用を支援する部署の法人営業として、東京・名古屋で活躍。約50名のメンバーを束ねるディビジョンマネージャーで頭角を現し、2013年度の社長賞年間MVPを受賞。2015年から株式会社不満買取センターへ出向。営業部長として事業推進の要を担っている。
※この記事は2016/12/15にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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