世間は空前の猫ブーム。テレビや雑誌、新聞、ネットで猫を見ない日はありません。猫に関連した商品が飛ぶように売れることからも「ネコノミクス」なんて言葉も生まれるほど、猫のかわいさ、いとおしさは注目されています。
ですが、猫は「ただかわいい」だけではありません。実は人を癒やしてくれる「セラピスト」として活躍している猫もいるのです。
今回ご紹介するのは、医療や介護の現場で「セラピスト」として活躍する「セラピーキャット」。海外で新しい治療法として注目されている動物療法、「アニマルセラピー」を猫たちが担っているのだとか。
「セラピーキャット」として活躍する猫たちの仕事、その秘めたる可能性とは? セラピーキャット派遣協会を運営している古川政美さんにお話を伺いました!
人を癒やす猫たち。セラピーキャットってどんな仕事?
―早速ですが「人を癒やす猫」、セラピーキャットのお仕事とは?
セラピーキャットとは、その名のとおり「猫たちとの触れ合いを通じて、人に癒やしを施す」ことです。正式な手法やルールはありませんが、私たちが提供している「セラピーキャット派遣」では、「癒やしのプロ」である猫たちが介護施設を訪問することで、入居されている方たちに「癒やし」を届けています。猫たちと触れ合うことで、リラックスしてくれる方や、もともと猫好きだった方が笑顔を取り戻してくれることが多いですね。
一応補足をしておくと、海外では動物介在医療に認可がおりていますが、日本ではまだ医療行為としては認可されていません。なので、特別養護老人ホームや介護施設などで、医療行為に当たらないレベルで「癒やしの提供」を行っています。
―現在はどのようにセラピーキャット活動を提供しているのですか?
今は2カ月に1回程度、特定の老人ホームを訪問しています。たまに、私が運営している猫カフェにお越しいただいてセラピーキャットと触れ合ってもらうこともありますが、基本的には訪問をすることのほうが多いです。だいたいスタッフ2人と猫ちゃん6匹で訪問して、人間がサポートもしつつ、猫ちゃんと触れ合ってリラックスしてもらえるように配慮しています。
―どんな猫でも「セラピーキャット」になれるのでしょうか?
資格などは必要ありませんが、個人的には「セラピーキャットに向いている猫」はいると思っています。猫は犬と違って、ほとんどしつけができません。遺伝で性格が決まりやすいので、人懐っこい子は最初から人懐っこいし、気性が荒い子はずっと気性が荒いまま。現在のセラピーキャット派遣協会の活動では、私が以前ブリーダーとして育てていた、セラピーキャットに向いている「天性の癒やし屋」とも呼べる猫たちを連れて行くようにしています。
―「天性の癒やし屋」とは、すごいですね! どういうところが普通の猫とは違うのでしょうか?
普通の猫だと、初めての場所や初めての人に会うと緊張してストレスを感じてしまいます。でも天性の癒やし屋気質を持った猫は緊張しないで、誰にでもすぐに懐いてしまうのです。もちろん、全ての猫ちゃんは誰かにとってのセラピストだと思っています。本当に、どんな猫でも「癒やす力」を持っているんですよね。でも、初対面だとなかなか飼い猫のようには懐いてくれませんし、触れ合うのも難しい場合があるので、セラピーキャットに向いている猫と一緒に訪問するほうが効果はあると実感しています。
動物のぬくもりが持つ癒やしの力。注目されている理由とは
―セラピーキャットが注目されている背景について教えてもらえますか?
世間的に知られるようになった理由としては、いわゆる「猫ブーム」が大きいと思います。ここ4、5年の猫ブームで、猫が持つ「魅力」や「癒やしの力」に注目が集まり、その裏側で活動をしていたセラピーキャット派遣協会や、その他医療従事者たちが取材をされる機会が増えてきました。猫好きの方にとっては当たり前だったことが、メディアや書籍で浮き彫りになってきたのです。
あとは「アニマルセラピー」という、動物を活用したセラピー手法が日本で注目され始めていることも、その一種であるセラピーキャットが注目されている一因です。セラピーキャットが誕生したのは、実は猫ブームの少し前。私が始めたのは7年前ですし、おそらくほかの方も同時期か、それ前後の方が多いのではないでしょうか。
アニマルセラピー全般に関していえば、10年前くらいからその海外の事例を知る機会も増えました。セラピードッグやセラピーバードなど、しつけがしやすい動物を医療行為に介在させることで、ヒーリング効果やリラックス効果があることがすでに実証されていて、海外では保険治療も可能な国もあります。
―日本では、医療行為としてのアニマルセラピーはまだ導入されていないのですよね?
医療認可はされていませんが、アニマルセラピー協会が発足して、動物が人を癒やすという行為自体は認知されてきました。私もアニマルセラピー協会認定のセラピストになり、セラピーキャットを始めようと思ったことが活動を始めるきっかけの一つでした。猫に限らず、さまざまな動物が持つ「癒やし」の力が注目をされていることが、セラピーキャットにも注目が集まっている一因かなと思います。実際に動物介在医療の研究をしている先生が、老人ホームなどを訪問することも増えてきている印象があります。
猫が専門家を超える? セラピーキャットの持つ不思議な力
―「癒やし」効果を期待して始めたセラピーキャットの活動において、どのような効果を感じますか?
やはり、一番大きな効果は「癒やし」が与えるリラックス効果だと思います。私たちがセラピーキャットと一緒に老人ホームを訪問すると、猫が自ら近寄って行ってスキンシップを丁寧に取ってくれるので、皆さん本当に喜んでくださいます。
普段は施設の中で過ごして、動物のぬくもりと触れ合う機会がない方たちなので、セラピーキャットのぬくもり、やわらかさにとても癒やされ、リラックスした表情をされています。
―リラックス効果以外にも、効果を実感されたことはありましたか?
「キャットセラピー」なので、心への影響はもちろんですが、体への影響があった方もいました。指が曲がって硬くなってしまった方が、膝の上に寝転がる猫ちゃんをかわいがりたい一心で、一生懸命指を動かして撫でていたのです。
普段行うリハビリでは、丁寧に伸ばしても苦しそうな顔をするのに、猫を撫でているときはとてもリラックスをして自発的に指を伸ばしていた。その姿を見て、リハビリ専門の先生も思わず「僕の負けだね」と。かわいい猫ちゃんと触れ合うことで、心がほぐれて、体もほぐれたのではないでしょうか。
心への影響を実感した印象深い出来事もいくつかありました。例えば、施設に入居して1週間、あまりの環境の変化に一言も口を聞かないほど落ち込んでいた方が、猫たちが訪れたら彼らを抱っこしながら子守歌を歌っていたのです。まるで赤ちゃんをあやすようにして、本当にうれしそうに子守唄を歌っていて。その姿を見て、介護士の方が本当に驚いていたことを覚えています。
―心も体もほぐれるのが、セラピーキャットなんですね。
猫ちゃんとともに人生を送ってこられた方も、そうでない方も、セラピーキャットと触れ合うことで心から本当にリラックスできるようです。猫を抱き、ボロボロ泣きながら「もう二度とさわれないと思った。本当にうれしいね」っておっしゃっていた方もいました。その方はもともと猫と暮らしていた方なのですが、久しぶりに猫と触れ合うことができたときに思わずこぼれた一言です。私ももらい泣きしてしまって。つくづく猫の力は偉大だなと感じました。
―猫とともに人生を歩んできた古川さん。そんな古川さんが考える「セラピーキャット活動の意義」とはなんでしょうか?
もちろん動物への好き嫌いもあるので一概にはいえませんが、動物が好きな人にとっては単なるの癒やしを超えた、人生に欠かせないパートナーだと思います。それはもしかすると、生きがいともいえる大きなものかもしれませんね。今後もセラピーキャットとして活躍する猫が増えるとうれしいです。
全ての猫がセラピスト
キャットセラピーが世間に注目される7年も前から、セラピーキャットを連れて施設訪問を始めていた古川さん。自身も生まれたときから動物好きで、今は特に猫が大好き。以前はブリーダーとして15年間もの間、猫を産ませて育てるという仕事をしていたんだとか。
そのときの経験とアニマルセラピーの治療方法を掛け合わせることで、本当に癒やしを必要としている人たちの力になりたいと、猫たちと共に施設を訪問しているそうです。猫を愛してきた人だからこそ気づいた「猫が人を癒やす活動」。今後ますます、その活動は広まってゆくのではないでしょうか。
古川さんは「天性の癒やし力は才能」と話す一方で、それでも繰り返し「全ての猫がセラピスト」とも話してくれました。ただかわいいだけじゃない、猫たちの素晴らしい働きっぷり。これからはそんな猫たちの「癒やしの力」に注目して、接してみてはいかがでしょうか。
(取材・文:大沢俊介/編集:東京通信社)
識者プロフィール
古川政美(ふるかわ・まさみ)
一般社団法人キャットセラピスト協会 理事長
猫と遊べるお店『にゃおかふぇ』オーナー
The Intemational Cat Association所属 元ブリーダー
トリマーを経験した後、動物病院等の勤務を経て猫専門ブリーダーになる。ブリーダーを経験する一方で一般社団法人キャットセラピスト協会を開始。現在はセラピーキャットと触れ合える猫カフェを愛知県半田市で経営。一般社団法人日本アニマルセラピスト協会認定セラピスト
※この記事は2017/12/11にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。
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