ビジネスパーソンの新常識。80文字で相手に伝わる文章テクニック

「あなたは、相手に伝わる文章を書けていますか?」

ビジネスパーソンの新常識。80文字で相手に伝わる文章テクニック

「あなたは、相手に伝わる文章を書けていますか?」

この質問に対して、自信を持って「YES」と答えられる人はそう多くないのではないでしょうか。

「一流企業に勤めるビジネスパーソンでも、日本語が乱れている人は多い」と指摘するのは、『世界のどんな職場でも評価される無敵の働き方』の著者であり、株式会社J&G HRアドバイザリーの代表取締役社長としてグローバル人事組織マネジメントコンサルタントに携わる篠崎正芳さんです。

今回は、そんな篠崎さんが提唱する80文字で伝える文章テクニック「プロジェクト80(エイティー)」をご紹介します。「プロジェクト80を活用すれば、言いたいことを分かりやすく伝えることができるだけでなく、世界で通用する仕事力を手に入れることができる」と篠崎さんは言います。

20代のビジネスパーソンがぜひとも身につけたい、その文章テクニック。 自分の文章に自信が持てない人は、このテクニックを活用して伝わる文章力を手に入れてみてはいかがでしょうか?

80文字の文章術「プロジェクト80(エイティー)」の2つのメリット


篠崎さんが、「プロジェクト80(エイティー)」を推奨するようになった背景には、日本の企業社会における大きな問題点がありました。

「日本企業では『物事をハッキリ言わない』という文化がまん延しています。空気を読んでゆるく表現することは、良好な人間関係を保つための気遣いだったりしますが、それは世界基準で見るとナンセンス。なぜなら、言いたいことが相手に伝わらない可能性が高いからです」(篠崎正芳さん:以下同じ)

相手を気遣うあまり、柔らかく表現することが企業の文化になってしまっている現状…。これこそ日本企業が打破しなければならない課題であり、その解決を図るためにはプロジェクト80が最適なのだそう。そこでこのテクニックを取り入れることによって、以下の2つのメリットが得られると篠崎さんは言います。

1、コミュニケーション効率が高まる


「一文を短いメッセージにすることで、相手が理解しやすい文章になります。メッセージの伝達度が高まるということは、コミュニケーション効率が高まるということ。『言った、言わない』などのミスコミュニケーションがなくなれば、仕事がスムーズになり残業を減らすことにもつながりますよね」

2、英語に翻訳しやすいメッセージになる


「80文字以内の短い文章では主語・述語の関係性がハッキリして、自然と論理的なメッセージになります。整った短い文章は、英語に翻訳しやすいのも大きなメリット。そのためプロジェクト80によって、世界に通用する仕事をするためには欠かせない能力が身につきます。伝わりやすい日本語の使い方を覚えれば、英語の習得スピードも高まりますよ」

プロジェクト80を実践するための5ステップ


続いて、実際にプロジェクト80を実践するためのステップを5つに分けて、篠崎さんに解説していただきました。

1、80文字以上の文があれば分割する


「自分が書いた文章の一文の長さが80文字以上になっていた場合は、分割してそれぞれが80文字以内になるように調整します。ワードの文字カウント機能を使えば、すぐに該当部分の文字数が分かりますよ」

2、一文の中に主語・述語があることを確認する


「主語・述語が1ペアになっていることが前提です。ただ日本語の特性上、前文の主語と同じ主語の場合、その主語は省略しても構いません」

3、それぞれの文を接続詞で適切につなぐ。もしくは接続詞を使わずにつなぐ


「接続詞を適切に使うと、文章がスムーズにつながります。接続詞がなくても意味が通じる場合は、省略しても大丈夫です」

●接続詞の例

したがって・そのため・だから(順接)、しかし・ところが(逆接)、そして・さらに(追加)、また(並列)、または・あるいは(選択)、一方で・他方・逆に(対比)、なぜなら(説明)、つまり・要するに(言い換え)、ただし(補足)、例えば(例示)、さて・ところで(話題の転換)、など。

4、論理の流れが自然であることを確認する


「これは、文章中に行間をつくらないということ。つまり、文章と文章の間にスペースを空けないという意味ではなく、自分では“当たり前”だと思っていることも、省略しないで丁寧に説明されているかどうかということです。読み手からすれば、案外知らないことや書き手と認識のズレがあることも多い。一歩ずつ歩を進めるイメージで論理的に飛躍している箇所がないか確認し、該当部分があれば新しいメッセージを作成しましょう」

5、メッセージの論理と構成を再点検する


「文章を書き終えたら、読む相手をイメージして頭から読み直します。いわゆる推敲という作業ですね。声に出して読むほか、印刷して紙上で読んでもいいでしょう。重要な文章であれば翌日など時間を空けて読み返すと効果的です」

このプロジェクト80の法則を踏まえ、修正前と修正後の文章を読み比べてみましょう。両者の脳に定着する情報量の違いを意識してみてください。

●修正前

「納期を守る」ということは、約束した期限に期待された質を伴って仕事が完了しているということなので、当然、仕事の期限は大切ですが、期待されている仕事の質もとても大切です。通常、この質についての理解に迷いがある場合は不安になって、期限すら守ることができなくなってしまうので、期待されている仕事の質について不安を取り除くことが納期を守るうえで一番大切ですから、不安がある場合は仕事を引き受ける前に必ず私に確認するようにしてください。

 

●修正後

「納期を守る」ということは、約束した期限に期待された質を伴って仕事が完了していることです。当然、仕事の期限は大切ですが、期待されている仕事の質もとても大切なこと。通常、人はこの質についての理解に迷いがあるとき、不安になって仕事に取り掛かるのが遅れてしまいます。その結果、期限すら守ることができなくなってしまうのです。したがって、納期を守るためには、期待されている仕事の質についての不安を取り除くことが一番大切です。このような不安があるときは、仕事を引き受ける前に必ず私に確認するようにしてください。



修正前は2文で構成された文章が、修正後は6文になっています。適切な接続詞を使うことで、自然に文章が区切られ、読みやすくなりましたよね。文章全体の文字数は修正後のほうが増えたものの、一文に込められたメッセージがしっかり頭に入ってくるはずです。

また、修正後の文章には、修正前に省かれていた「質に不安があると仕事に取り掛かるのが遅れるから」という期限を守ることができなくなる理由が付け加えられています。そうすることで論理的な流れが出来上がり、読む人がスムーズに理解できるよう導いてくれる文章になるのです。

自分の意思を表現してこそ、初めて存在価値が生まれる


冒頭で篠崎さんが指摘したように、物事をハッキリ言わないことが当たり前になると、意見を言うどころか、人は自然と考えることまでやめてしまうのだとか。メソッドを活用する前段階として「自分の意見や考えを持つことが大切」だと、篠崎さんは教えてくれました。

「プロジェクト80は、あくまでもコミュニケーション効率を高めるための一つの方法にしかすぎません。一番大切なのは、その方法を使って自分が何を実現したいのかということ。ゴールを定め、自分なりの意見や考えを持つことができなければ、プロジェクト80は何の意味も持たなくなってしまいます。

とくに世界で活躍したいと願う方であれば、なおさらでしょう。世界では自分の意見や考えを持たない、言わないことは、その人の存在価値がないことを意味することにもなります。20代の若きビジネスパーソンの皆さんには、勇気を持って自分の考えを主張できる人材になっていただきたいですね」

一人ひとりの考えや意見にはそもそも正解などはなく、自分の考えや意見でどれだけ多くの人を納得させ、どれだけ多くの人から共感を得ることができるかが重要なこと。「一般的にはこうだから」「〇〇さんが言うには」と、他人から借りた意見を話しても、自分の市場価値は上がりません。世界を舞台にビジネスを展開している篠崎さんのアドバイスだからこそ、説得力がありますよね。

仕事で成果をあげるために、有効的なプロジェクト80。この文章術を通じて身につく「自分の意見を持つ癖」、またそれを相手に伝えることを日頃から意識して実践すれば、きっと業務が今よりもスムーズに進むはずです。そうして身についた能力は、いつの日かあなたを世界に通用するビジネスパーソンへと導いてくれるかもしれませんね。


<取材・文:小林香織>

識者プロフィール

 


篠崎正芳(しのざき・まさよし)
1963年生まれ。(株)富士銀行、外務省在外公館派遣員(在豪州日本大使館)、全日本空輸(株)、日本能率協会コンサルティング(株)、マーサージャパン(株)取締役兼グローバル人事戦略コンサルティング代表などを経て、2007年より現職。日本企業を対象に、人事組織マネジメントのグローバル化・現地化、および、日本人のグローバル人材育成の分野において、日本国内および海外拠点で豊富な経験を有する数少ない日本人グローバルコンサルタント。日本国内および海外でのセミナー、講演、寄稿多数。主な著作に、『無敵の働き方』(朝日新聞出版/2017年)、『グローバル人材養講座 Global Business Sense & Method』(IEC社/2012年)、『世界で成功するビジネスセンス』(日本経済新聞出版社/2009年)がある。米国 ICF(International Coach Federation)認定コーチ。社団法人中国ビジネス総合研究所顧問。

※この記事は2017/09/06にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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