その投稿、ちょっと待って! ビジネスパーソンの「SNSトラブル護身術」

総務省が発表している『情報通信白書』(平成29年版)によると、SNSの利用率はすべての世代で上昇しているようです。

その投稿、ちょっと待って! ビジネスパーソンの「SNSトラブル護身術」

総務省が発表している『情報通信白書』(平成29年版)によると、SNSの利用率はすべての世代で上昇しているようです。

特に20代に限定すれば、SNS(LINE、Facebook、Twitter、mixi、Mobage、GREEのいずれか)を利用している人の割合は、なんと97.7%にも達しているのだとか。

グループ内でのメールでのやりとり、書き込みや画像投稿など、コミュニケーションの輪を広げてくれるSNSですが、使い方を少しでも間違えると炎上して誰かから批判を浴びたり、個人情報が拡散されたりと、大きなトラブルに見舞われてしまいます。

SNSにまつわるトラブルには具体的にどんなことが多いのか、IT法務に詳しい服部啓法律事務の深澤諭史弁護士に話を伺いました。

20代の利用率は、ほぼ100%――SNSトラブルには気をつけて!


「SNSにまつわるトラブルで広く知られていることでいえば、やはり不謹慎投稿でしょうか」

IT法務に詳しい深澤諭史弁護士(服部啓法律事務所)はそう話します。

フォロワーを増やしたい。あるいは、自分の投稿にたくさんの「いいね!」が欲しい。

注目を集めたいばかりに「○○をやってみた!」系の画像・動画を投稿してトラブルになり、世間を騒がせるようなケースは、時折耳にするところですよね。

「傾向としては、こうしたケースは中高生(子ども)に多いですね。男の子の場合は突拍子もない行動をして誰かに迷惑をかける、女の子は服を脱ぐ……基本はこの2パターン。普段の生活では人から意見をもらうシーンが少ないのに対し、SNSはフォロワーからの反応がダイレクトに返ってきますから気持ちよくなってしまうのでしょうが、何ごとも冷静に判断していただきたいですね」

社会人のSNSトラブルとしては、勤務先や取引先に迷惑をかける……そんな事案が頻出しているといいます。

「ビジネスパーソンの中でわりあい多いのは、SNSへの投稿がきっかけとなり、うそがばれるというものです」

体調が悪いので今日は休みます――そう言って病欠扱いになっているはずなのに、本人のSNSにはつかの間のバカンスを楽しんでいる投稿が。これが仮病ならば、投稿した本人の問題なのでしょうが……。

「最近は、新型うつ病(非定型うつ病)を患っているケースもあり、会社を休むことで体調を取り戻す人も多いですから一概に投稿した本人が悪いとは断定できません。しかし、病欠中にSNS投稿やブログ更新をして、それが会社の上司・同僚の目に留まった時に、あらぬ疑いをかけられてしまうのは仕方のないこと。実際に、そうした問題が後々、労働訴訟などで取りざたされることもあるんです」

さらに、悪気なくやってしまいがちなのが「出張の報告」。日頃めったに赴けない地への出張にテンションが上がり「仕事で○○なう!」「○○に来た!最高!」――そんな投稿、していませんか? しかし実は、その出張先の情報は勤めている企業やクライアントの機密であり、これをみだりに話すことは、守秘義務に違反するかもしれません。

プライベートでないかぎり、こうした投稿は控えたほうが無難でしょう。

「会社にまつわるSNSトラブルで最も怖いのは、こうしたトラブルがその方の明確な失点として証拠になってしまうことなんです。

法律的に考えてもそうそう起こることではないですが、万が一、会社との間でなんらかのトラブルを抱えてしまった場合、この時の失点が証拠として残ってしまうのが、SNSの怖いところですね」

悪意ある誰かのターゲットに――本当に怖い「個人の特定」


また、SNSに投稿した画像から、悪意のある“誰か”のターゲットにされることも……。

「最近は首からセキュリティ付の社員証をぶら下げている人も多いですよね。営業職の方や移動時など、社名の入った社用車に乗る人もいるでしょう。社外であっても、業務時間中に会社の名前が分かる状態で行動をしていると、まれに悪意のある誰かからマナーが悪かったなど問題行動として判断されることが起こりえたりもします。そして、その姿を撮影した写真がSNSで投稿され、いつの間にか拡散し、会社や個人が特定されてしまう……。

SNSのある今の時代は、1億総監視社会であると自覚しなければいけません」

とくに最近は、モザイクアプローチという方法で、個人が特定されることもあります。

モザイクアプローチとは、一つひとつはたいしたことはない情報でも、複数組み合わせることで個人の詳細情報(住所、勤務先、出身校等)を導きだせるというもの。深澤さんも「個人のSNSを持っているならば、“その日”に投稿した情報ではなく、“その日まで”に投稿した情報の履歴に気を配らなければいけません」と注意喚起しています。

さらに深澤さんが「就職・転職を考えている方にもう1つ注意喚起したい」というのは「SNSは履歴書にもなる、ということ」。

「TwitterやFacebookは、学生時代の投稿も残り、昔羽目を外して遊んでいたなどの記録を、転職の受入先がチェックしていることだってあり得ます。たとえ匿名で投稿できるSNSでも、モザイクアプローチを使えば個人を特定するのは容易なことですから」

過去の勤務先から名誉毀損で訴えられる!?


転職活動時のSNSトラブル――最悪の場合は、法的な問題に発展することも起こり得ます。特に怖いのは、過去に勤めた企業から名誉毀損で訴えられるケース。深澤さんも「実は、法律的なトラブルとしてこうした案件がとても増えている」と警鐘を鳴らします。

「SNSに限らず、最近はやりの転職系クチコミサイトでも多いのですが、過去に勤めていた会社の評判を著しく低下させる投稿・書き込みをしたことにより、名誉毀損で訴えられるケースが非常に多いのです。特に、クチコミサイトでは『良いところ』『悪いところ』両方の書き込みを求められるパターンが多いので、過去の勤め先に不満があるからといって不平不満を並びたててしまうと、元の勤務先から名誉毀損で訴えられることがあります。

こうした名誉毀損を覆すには、それが社会的な大きな関心事であり、かつ、相当の根拠があることを示さなければいけません。しかし『職場の空気が悪い』『サービス残業が多い』ということはきちんとした根拠を併せて論ずるのが難しい。裁判で負けるケースも多くあります」

刑法230条によるところでは「いくら丁寧に、両論を併記したとしても、また、真実であろうがうそであろうが、公然と、書かれた相手の社会的評価を低下させること」が、一定の例外を除けば、名誉毀損罪にあたります。刑法上では3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金が科せられ、さらに民事では、その書き込みによって被った被害金や慰謝料の支払いを命じられることもあります。弁護士費用なども含めれば、数十万~百数十万円の出費になってしまうのです。

正しくSNSを利用して、自分を守ろう


深澤さんのお話を総合すると、SNS利用時に注意したいポイントは以下の6点です。

(1)注目を浴びたくて――は危険! 不謹慎投稿に気をつけよう

(2)病欠時のバカンス投稿が会社とのトラブルに発展するケースもある

(3)気軽に出張の様子を報告するのは禁物! 守秘義務に反することがある

(4)勤務時間中のあなたの行動が、悪意ある誰かのターゲットになるかも!

(5)SNSでの過去の投稿が「履歴書」になると肝に銘じよう!

(6)転職時にはクチコミサイトでの書き込みが訴訟に発展することがあるので気をつけよう


「リアルな場所にせよインターネットにせよ、人が集まる場所にはトラブルがつきものであり、誰しもが被害者にも加害者にもなり得る。どちらの立場にせよ、『どうすればいい?』といった相談をネット上でしても気休めにしかなりません」

だからこそ、深澤先生は「大きなトラブルになる前に、われわれ専門家に相談してほしい」と訴えます。

「今は、経済的に余裕がない人がトラブルに見舞われた時に活用できる弁護士費用の立て替えも行う“法テラス”のような仕組みもあります」

深澤先生は、IT法務に注力するウェブサイト「IT法務.jp」を運営。ITにまつわる法的トラブルに見舞われた人向けに合理的で迅速な法律サービスを提供しているそうです。

「法律は一部だけをかじっていても、まったく役に立たない」とは深澤先生の弁。後悔先に立たずの言葉通り、法律にからむ諸問題はただちに専門家に相談を。

自分の身は自分で守る――20代のビジネスパーソンの皆さんは、今回お伝えしたことを気に留めながら、楽しく正しくSNSを利用してくださいね。


(取材・文:安田博勇)

識者プロフィール


深澤諭史(ふかざわ・さとし)
2006年、明治大学法学部法律学科卒業。2009年、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了。最高裁判所司法研修所修了、弁護士登録(第二東京弁護士会)、都内法律事務所勤務・参画を経て、服部啓法律事務所参画。弁護士としてIT法務(システム開発紛争、インターネット上の取引トラブル、インターネット上の誹謗中傷・風評被害対策)、労働事件を中心に取り扱う。『その「つぶやき」は犯罪です 知らないとマズいネットの法律知識』(共著、新潮新書)がある。

※この記事は2017/10/23にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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