戦場カメラマン渡部陽一さんの人生に影響を与えた本4冊

戦場カメラマンとして世界各国の戦地へ赴き、現地の本当の姿を伝えてきた渡部陽一さん。報道の第一線で活躍する一方で、TVでのブレイクをきっかけに多方面でも活躍をされています。

戦場カメラマン渡部陽一さんの人生に影響を与えた本4冊

戦場カメラマンとして世界各国の戦地へ赴き、現地の本当の姿を伝えてきた渡部陽一さん。報道の第一線で活躍する一方で、TVでのブレイクをきっかけに多方面でも活躍をされています。

この春『戦場カメラマンの仕事術』という著書を出版されたばかりの渡部さんは、どのような20代を過ごしてきたのか。そしてどのような本から影響を受けてきたのでしょうか。直撃してきました。

自分の足で戦場を駆け回り、自分の目と耳で知ることに全力を注いだ20代


─20代の時期、仕事にどう取り組んでいましたか?

「20代の私は、現場最優先主義を貫いていました。戦場カメラマンとして現場に入ることに集中し、世界のいかなる国であっても必ず自分の足で現場に入り、自分の目で事実を確認し、そこに暮らす方々の声を直接聞く。そのことに全精力を注いでいました」

─仕事で失敗したことはありましたか?

「戦争報道の現場では、一人ぼっちで戦場を駆け回ることはしません。必ずその国、その地域で生まれ育ったガイドさん、通訳さん、セキュリティーの方、そして自分を含めた最低4人のメンバーでチームを組みます。そのなかで、特に重要なのがガイドさんの人選。一度、時間や資金を抑えようとしたために、不安定なガイドさんをメンバーに入れた結果、いい取材記録を残せませんでした。これは失敗したなぁと思っています」

─20代のうちにこれだけはやっておくべき!と思うことは?

「20代のうちに旅に出てみてください。外国や国内旅行に飛び出すことだけでなく、日常になかに、意識的に非日常を組み込んでいくのです。興味を感じたお店に行ってみる、遠くに暮らす親戚に突発的に会いに行ってみる。このように、繰り返される毎日に変化球を強引にでも入れ込むことで、意識を変えることができますよ」

主人公の姿に、カメラマンとしての自分の姿を重ね合わせた一冊


『怒りの葡萄』ジョン・スタインベック著 伏見威蕃訳 新潮文庫刊


「アメリカの大恐慌時代に、仕事を求めて南部オクラホマからカリフォルニアへ移住しようとする家族の生きる姿が描かれています。主人公は日雇いの仕事をして、日々を生きていく。そんな彼が、生き抜くために怒りを抑え込まなくてはいけないとき、それができなかった場面が印象的で、その姿にカメラマンとしての自分を重ねていました。覚悟を決めるということ、生きるとは耐え忍ぶこと、そして環境によって人は変わり得ること。それをこの本から学びました。このメッセージを思うと胸が揺さぶられます」

旅は私たちに物事の本質を気づかせてくれる


『アルケミスト―夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ著 山川紘矢訳・山川亜希子訳 株式会社KADOKAWA


「羊飼いの少年の旅物語を描いたこの作品は、私に“自分にとって大切なものってなんだろう?”と考えるきっかけを与えてくれた一冊です。旅という時間は、人との出会いだけではなく、物事の本質に気づかせてくれるのだとこの本は語ります。“大切なものは実は足もとにある”というメッセージも忘れられません」

我慢や忍耐には限界がある。でも支配することもできる


『モンテ・クリスト伯』アレクサンドル・デュマ著 山内義雄訳 岩波書店


「無実の罪で投獄された主人公が、自分を罠にハメた人物にその罪を償ってもらうため、復讐劇を繰り広げていきます。その復讐というのが、非常に我慢強く行われていき、人が極限状態に立たされたときにどのような心情に苛まれるのかが描かれています。我慢や忍耐には限界があること、しかし同時にコントロールできるものだと気づかされました」

問題に向き合っていく姿勢に大きな刺激を受けた一冊


『チボー家の人々』ロジェ・マルタン・デュ・ガール著 山内義雄訳 白水社


「チボー家の2人の息子の生き方がつづられた大河小説です。戦時中という極限状態のなかで家族が変化していく様子や、第一次世界大戦の時期に生きた若者の叫びが描かれています。歴史という渦に、人はどのように飲み込まれていくのか、そして人が悩みや苦しみ、問題に向き合っていく姿勢を提示しており、現代を生きる私にも大きな刺激を与えてくれる本でした」

まとめ


今回、紹介してくれた作品は、苦境に立たされた人たちがどう生き抜くか?ということをテーマにした著書ばかり。戦場という極限状態を経験してきた渡部さんならではのセレクトですよね。しかし戦場だけでなく、仕事においても苦境に直面することは多々あります。そんなとき、本の主人公たちから苦境にどう立ち向かえばよいのか学んでみてはいかがでしょうか?

 

識者プロフィール


渡部陽一(わたなべ・よういち) 1972年生まれ。学生時代から戦場へ行き、報道カメラマンとして活躍。これまでイラク戦争のほかルワンダ内戦、コソボ紛争、チェチェン紛争、ソマリア内戦、アフガニスタン紛争、コロンビア左翼ゲリラ解放戦線、スーダン、ダルフール紛争、パレスティナ紛争などを取材。2016年春に『戦場カメラマンの仕事術』(光文社新書)を発売。

『戦場カメラマンの仕事術』(光文社新書)



※この記事は2016/05/23にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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