企業との上手な付き合い方って?―TWDW2015「『人と企業』の新しい関係について話そう!」レポート

2015年の11月18日(水)~24日(火)の7日間、渋谷ヒカリエ8階をメーン会場に、“働き方”や“仕事”にまつわる国内最大規模のイベント「TOKYO WORK DESIGN WEEK 2015(略称TWDW)」が開催されました。

企業との上手な付き合い方って?―TWDW2015「『人と企業』の新しい関係について話そう!」レポート

2015年の11月18日(水)~24日(火)の7日間、渋谷ヒカリエ8階をメーン会場に、“働き方”や“仕事”にまつわる国内最大規模のイベント「TOKYO WORK DESIGN WEEK 2015(略称TWDW)」が開催されました。

今回キャリアコンパスでは、TWDWで開催された「『人と企業』の新しい関係について話そう!」というプログラムをレポート! 『ほぼ日』で有名な糸井重里事務所でCFOを務める篠田真貴子さん、リクルートグループにて人事マネージャーを務めた佐藤雄佑さん、今回のイベントでモデレーターを務めた株式会社コヨーテ代表取締役の菊池龍之さんの3人によるトークセッションの中から、「企業との上手な付き合い方」を探ります。

イベント名
「『人と企業』の新しい関係について話そう!」

登壇者
佐藤雄佑(さとう・ゆうすけ)
株式会社リクルートエグゼクティブエージェント
エグゼクティブコンサルタント
リクルートキャリア設立時の人事マネージャーとして、「人の成長」にフォーカスした人事制度、組織構築に尽力。現在はリクルートエグゼクティブエージェントにて、経営人財のキャリア支援を行っている。半年間の育休(主夫)経験者であり、現在は仕事をしながら大学院に通う学生でもある。

篠田真貴子(しのだ・まきこ)
東京糸井重里事務所取締役CFO
日本長期信用銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て、2008年10月、ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」を運営する糸井事務所に入社、2009年1月より現職。2012年、糸井事務所がポーター賞を受賞する原動力となった。2015年、「ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」を監訳。

菊池龍之(きくち・たつゆき) モデレーター
株式会社コヨーテ 代表取締役
2011年に株式会社コヨーテを設立。国内外300社を超える採用事例を研究。経営者、人事向けの講演活動や、企業の採用をプロデュースしている。また人事担当者向けの定期勉強会「COYOTE CLUB」を主催。朝日新聞、日経新聞、クーリエ・ジャポン、WIREDなどのメディアでも、その活動が取り上げられている。

 

2人のキャリア


菊池:まずは、今日に至るまでの経歴を踏まえての自己紹介をお願いします。

篠田:初めまして、篠田です。まずは私が新卒のときの時代背景からさかのぼってお話すると、当時は「男女雇用機会均等法」ができて5年目。法整備は整いましたが、まだまだ女性がバリバリとキャリアを重ねる道は少ない時期でした。

それでも20代の私は、国内の大きな組織を経験させてもらったり、その後留学をしたり、「自分の働き方」ができているように思えました。大きな仕事のチャンスも巡ってくるし「自分は仕事ができる」と、少し傲慢(ごうまん)になっていた部分もあったかもしれません。

その後、30歳でマッキンゼーに転職して4年間働きます。このとき初めて、仕事で思ったような業績を残せず、退職勧告を受けるんです。それをきっかけに退社し、2社で働きます。35歳と39歳で子どもが生まれ、働き続けたいが、いろいろなハードルを感じ、葛藤する時期に入ります。そうした葛藤を経て、偶然糸井重里と出会うチャンスに恵まれて、気づけば糸井重里事務所に7年間在籍し、今日に至るという状況です。

佐藤:皆さん、こんにちは! 佐藤です。私は新卒でマーケティングの会社に入社しました。3年ほど働いて、「やっぱり最後は人だ」という考えに至りまして、株式会社リクルートエイブリックにいきました。いずれ人材ビジネスで独立するつもりではいましたが、気づけばはや12年、リクルートグループに在籍していることになります(笑)。

35歳だった2012年に子どもが生まれてから、半年間育休を取って主夫になりました。その後、昨年4月から志願する形でリクルートエグゼクティブエージェントに移りました。

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自身のキャリアを振り返り、お話をされる佐藤雄佑氏

 

「これまでの延長線上にないキャリアを」と思い転職


菊池:お二人の「働く」という考え方は、20代から今に至るまでどのように移り変わっていったのでしょうか?

篠田:20代のころは、長時間労働をバリバリやっていましたね。忙しい時期は、会社の近くのワンルームマンションを借りて、ほとんど会社と家の往復でした。 それが、子どもが生まれてからは、生産性アップのために時間のやりくりを工夫するようになりました。

今は朝8時半出社17時半退社です。気持ちとしては子どもを寝かしつけた後、もう一仕事したいのですが、だいたい子どもと一緒に寝てしまいます。労働時間は1日8時間、1週間で40時間、プラス週末に少々くらいです。

考え方の転機になったのは、やはり子どもですね。それまで本当にバリバリ働いていたのですが、徐々に自分の長期的な目標が分からなくなったんです。37歳のときに事業部長が突然いなくなって、空席を埋める形で私が事業部長代行を務めたのですが、そのとき子どもは1歳から2歳。仕事は修羅場ですし、子どもは手がかかるしで、大変でした。

不思議と辞めたいとは思わなかったのですが、業績をあげて昇格を打診されたときに、全く喜べなかったんですよ。そんな自分を発見したことにショックを受けました。仕事を頑張りたいという気持ちはあるのに、どこに向かえばいいか分からない。これはつらかったです。そういうふうな葛藤を抱いているときに、糸井に偶然出会って仕事をもらえるチャンスを得たんです。

このチャンスは絶対つかむべきだなって思いました。というのも、現状のキャリアの延長に興味を持てなかった自分にとって、これまでの延長線上にないキャリアを試す機会はここしかないと思ったからです。

目指すは「仕事」と「学校」と「子育て」の三冠王


菊池:佐藤さんはいかがですか?

佐藤:私も仕事が大好きで、120%かけて仕事をやってきたような人間です。そんな自分にとっての働き方の転機は、リーマン・ショックのときですね。それまでがむしゃらに働けば結果がついてきたのですが、急にそれが通用しなくなりました。

そのとき初めて、ただ「圧倒的に頑張る」ではダメだと思ったんです。その経験から、もっと価値ある仕事の仕方や働き方を考えるようになりました。具体的にいうと、メンバーが自律自走して、ボトムアップしていけるような組織をつくらなくてはいけない、と考えるようになったんです。

菊池:お子さんが生まれた影響はありますか?

佐藤:そうですね。労働時間を適正にコントロールするということを人事として全社に要望していく中で、そもそも自分が全然できていないことに気づいて。半年間、主夫をさせてもらおうと思ったんです。

主夫の難しいところは、会社で自分がどれだけ仕事ができようが、部下がたくさんいて偉かろうが、主夫としてはど新人なんです(笑)。本当に奥さんに嫌な顔をされましたね。まるで、「できない新人が自分の部下としてやってきた」みたいな感じでした。でもその時間を使って、本当に働き方について考えることができたのでよかったですね。

今は自分の時間を仕事だけにフォーカスするのではなくて、自分の強みとか自分らしさを生かしたいと考えて、働きながら大学院に通っているんです。昔の自分では考えられなかったですね。今の自分は「仕事」と「学校」と「子育て」の三冠王を取りにいきたいなって思っています。

篠田:昔と同じくらい、圧倒的な目標じゃないですか(笑)。

佐藤:いやいや、分散投資しているんですよ(笑)。3つのバランスをとりながら頑張ろうと思っている次第です。

会社が与える“おもつらい”仕事が社員を伸ばす


菊池:お二人が所属している会社では、働き方に関して、どのような決まりごとがありますか?

篠田:糸井事務所で働くことの大原則が、「自己管理をしてください」ということです。それだけ聞くと「社会人だから当たり前だ」と思うんですけど、これは決して甘いものではないです。また、そもそもの組織の考えとして、一般的な企業は「自分の部署の仕事だけをしてください」という考え方だと思うんです。一方で糸井重里事務所は「基本、全部やってください」というスタイルなんです。

だから何か案件が入ってきたときに「おもしろそう、やりたい」と声あげたら、その人にその案件が振られる。通常の業務に加えて、自分のなかでうまくやりくりしてくださいね、ってことなんです。それも含めての「自己管理」。だから仕事はおもしろいんだけど、つらい。これを糸井が“おもつらい”と称していますが、そうした実感がありますね。

菊池:リクルートグループの場合はどうですか?

佐藤:話を聞いていて、近い部分や共感できる部分がたくさんありました。リクルートも“おもつらい”会社です。特徴や仕組みについて話すと、半年に一回必ず「Will(やりたいこと)/Can(できること)/Must(しなければならないこと)」を確認されます。そこではWillを一番大事にしていて、本人が何をしたいのかというところから、目標を定めて、そのためにどこを補わないといけないのか……といった考え方をするのです。そうすることで仕事に対してモチベーションを持って臨めます。

さらに、CDC(CAREER DEVELOPMENT CYCLE)という考え方があります。「現場での経験が人を育てていく」という価値観なんです。なので計画的に、その人が成長できるような仕事、その人のノウハウでは太刀打ちができないような仕事を振るようにしているんです。そういう“おもつらい”仕事を与えることで、どこの会社に行っても通用する仕事力が身につくんだと思います。

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糸井重里事務所での働き方をお話される篠田真貴子氏

 

会社員でも「個の自立」が重要


菊池:最後になりますが、企業と人がいい関係を築くには、どのようなことが必要だと思いますか。

篠田:終身雇用で定年まで働くことができる会社もありますから、一概にはいえないのですが、私の意見を言うと、これからは「個の自立」が必要だと思っています。会社に居続けるにせよ、辞めるにせよ、少なくとも「自分で自分の人生をコントロールできている」と思えないと、組織と良い関係は築けないですよね。

佐藤:僕も篠田さんに同感です。結局のところ、「個の自立」の精神があって、どこに行っても通用する力を身につければ、どんな状況でも大丈夫ですからね。Willをかなえるために仕事をしていると思えれば、「嫌だけど上司の言うことを聞かないといけない」という気持ちではなくなりますし、主体的になれるはずです。

企業側、人事の立場から言うなれば、優秀な人材は外に出て行く時代なので、惹きつけるのが本当に難しい時代になってきている気がします。今までは釣った魚に餌をやらなくても一つの会社にいてくれましたが、そうはいかない。優秀な人材を育てて、そこにとどまってもらうために、どんなことを社員にできるのか、企業側も考えていかなくてはいけないと思いますね。

篠田:それからもう一つ、常に「他の選択肢が会社の外にもある」ということを知っておくことは重要かなと思いますね。実際私も、仕事が順調なときでもヘッドハンターにお会いしたりして、自分の仕事ぶりが外側にいる人からどう見られているのかをチェックしていたので。外側への視点を常に持つことで、チャンスが巡ってきたときに、迷わずよりよい選択を選び取れるのではないかと思います。

組織のなかで役割を果たせる人は、「個の力」で自走できる人でもある


いかがでしたでしょうか? お二人が口を揃えて話すのは、会社員であったとしても「個の自立」がとても重要だということ。

たとえば、カフェブームの立役者としてカフェ「Sign」をはじめ、アパレルブランドのカフェや「bills」などの運営を手掛けてきたプロデューサーの中村貞裕さんは会社員だった時期に、「クビになる覚悟で突出する」という思いでパーティーの企画を実行したり、NYコレクションやパリコレのショーを視察したりしていたそう。(参考:「【中村貞裕の未来の授業Vol.2】ビジネスパーソンの会社活用術 -クビになる覚悟でできることをやってみる-」)

皆さんも、「クビになる覚悟で」とまではいかなくとも、会社に寄りかかりすぎることなく、個人として自立するためには何をしたらいいのかを一度じっくり考えてみると、今後の企業との付き合い方が見えてくるかもしれませんね。

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※この記事は2015/12/22にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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