【後編】『WORKSIGHT』山下編集長と未来のオフィスと働き方について考える

今回のミライカンパニースタイルは、いつもと少し趣向を変えて、『WORKSIGHT』の山下編集長に、国内外の働き方を取り巻くトレンドや、未来について伺いました!

【後編】『WORKSIGHT』山下編集長と未来のオフィスと働き方について考える

会社概要

 

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名称:コクヨファニチャー株式会社
本社所在地:大阪府大阪市
社員数:約1044名
設立:2004年4月1日

今年で創業108年を迎えるコクヨグループ内でファニチャー事業を展開する会社。1960年にファニチャー事業を開始後、2004年に分社化し、オフィス家具の販売のほか、オフィス空間の価値向上を実現する、さまざまなソリューションサービスを提供している。

良いオフィスの条件って? 前衛的なデザインのクールなオフィス? ネットワークインフラが整備された超高機能オフィス? 100社100通りあるだろう、そんな問いに答えるべく、日夜オフィス環境の可能性を追求し続けているメディアが、コクヨが発信する『WORKSIGHT』。
年2回発行の情報誌で、ハードとしてのオフィスだけでなく、その背景にある思想や制度にも踏み込み、先進的な新しい働き方について発信しています。

今回のミライカンパニースタイルは、いつもと少し趣向を変えて、『WORKSIGHT』の山下編集長に、国内外の働き方を取り巻くトレンドや、未来について伺いました!

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氏名
山下正太郎
会社
コクヨファニチャー株式会社
職種
ワークスタイルコンサルタント/WORKSIGHT編集長
略歴
大学時代より、オフィスや働き方の研究に取り組み、『WORKSIGHT』の前身である『ECIFFO*』に出会ったことをきっかけに、コクヨへ入社。設計者として、さまざまな企業を手がけた後、働き方のコンセプトを構築するコンサルタントとして活躍。
現在は『WORKSIGHT』編集長も兼務して、国内外さまざまな企業を取材し、オフィスのみならず、働く環境の可能性を包括的に追求している。

*ECIFFO…コクヨが1988年から2009年まで刊行していた、海外の新しいオフィスやトレンドをテーマにした年2回発行の研究誌。1986年に通産省より発表された「ニューオフィス化推進運動」などを背景に創刊。

海外ではお洒落なオフィスは投資!?


---日本と海外のオフィスの違いは?

まず、オフィス投資に対する動機が全く違うと思いますね。海外の企業がどうしてあれだけ考えてオフィスを作るのかというと、優秀な人材を集めたいというのが第一の目的です。人材が流動化しているので、優秀なタレントは放っておくとすぐ逃げてしまう。
あるいは、そもそも集まってこない。ですので、働く環境を少しでも気に入ってもらって長く働いてもらい、そういった場に集まるセンスの良い人々と刺激的な仕事ができるとアピールして人材を得るというのが基本的な考え方だと思います。

---それに対して日本はどうですか?

そういった意味では、日本は人材の流動化はまだ少ないので、長年勤めている社員を元気にして、モチベーションを高めたいという動機が多いかもしれません。本当にオフィス環境で元気にできるのかもはっきりしないし、そうなると投資よりもコスト意識で見てしまうという部分がまだあると思います。
ただ、日本でも新しい事業で急成長しているベンチャー企業や、歴史がまだ浅く前例主義の無い会社、あるいは人材が生産性の根源にあるようなコンサルティングファームや、システムエンジニアが大勢いるような会社は、人のモチベーションが上がればその成果は確実に上がるので、オフィスに対する考え方は、海外とあまり変わらないという気がします。

事例:日建設計 「アイデアのシェアを加速するコワーキングスペース」

 

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*WORKSIGHT『プロジェクト型オフィスで従来の組織限界を超える』より転載



---日本ならではの、世界に輸出できるようなオフィスのスタイルはありますか?

私自身も探し続けてはいますが、まだこれと言った答えはない感じです。ただ日建設計のケースは面白いなと思っていて、コンセプトも非常にユニークです。簡単に言うと、大企業の自社内にコワーキングスペースを作ったということです。これまでの日建設計のオフィスは「対向島型*」と呼ばれる、デスク島の端に管理者がひとりいて、その下に部下がつくスタイルでした。「島」には何となく結界が張られたような雰囲気があり、隣の島の人がアドバイスもしづらい。
でも、これから海外の国際コンペが主戦場になると、いかに優れたアイデアを出せるかが勝負になります。そうなれば、これまでの「対向島型」の欠点を補い、プロジェクト毎に色々な部門の人が混ざって、ひとつのテーブルを囲むスタイルでやれば、もっとアイデアのシェアなどが進むのではないかと考えたのです。
収納やテーブルといった家具もモジュール化されていて、組み合わせ自由になっています。これまで会議室で集合離散を繰り返していた仕事もプロジェクトのテーブル内で完結するので、進行状況が可視化できます。進行状況が可視化されることで、他の社員がそれをきっかけにコミュニケーションを取る状況も増えます。
この取り組みは、社内のリソースを掘り起こすという意味で、日本の大企業の参考になる事例だと思います。

*対向島型…部署や課ごとに机を向かい合わせ島を作る、日本の典型的なオフィスレイアウト

---働き方において、日本では「和」を大事にし、海外では「個」を大事にするとよく聞きますが、日建の例は「和」を大事にする日本企業の代表格と言えるのでしょうか?

そういった意味だと、私は日本よりも海外の方が「和」やコミュニケーションを大事にしようというマインドがあると思っています。欧米ではまず、お互いがわかりあえていないということが前提にあって、コミュニケーションを取っていると思います。日本では、逆にお互いがわかりあえているという雰囲気がコミュニケーションを阻害していると思います。最近の会社、特にアメリカの西海岸でトレンドなのが、オールハンズミーティングいう全社員会議です。
例えば、Yahoo!の社長に就任したマリッサ・メイヤーが、社内改革の先駆けとして着手したのがオールハンズミーティングだったと言われています。社員の考えを聞き、自分の考えを伝え、会話をして意識を合わせていく活動を第一に行なっていました。Evernoteも忙しい社員を毎週社内の吹き抜けのエリアに集めて積極的にコミュニケーションを取っています。こういった活動を日本の企業がどこまで熱心に行なっているのかなと。実は、海外企業の方がこういった、ある種の「和」を大事にする活動を熱心に行なっているように感じます。

未来のオフィスのキーワードは「流動化」と「オーセンシティ」

 

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---今後、経営環境が変わっていくなかで、ワークスタイルやオフィスはどのように変わっていくと思いますか?

確実な変化として見えていることは、働き方やビジネス環境がより流動的になる点です。これをリクイディティとよく言いますが、液体のようにどんどん変化していくということです。オフィスもそれに追従する形で変化していくのだと思います。具体的なイメージとしては、キャンプですね。いつでもどこでも、そのときいる場所がオフィスになるということです。例えば、「エアポートシティ」という空港併設の大規模なオフィス地域の開発が世界中で広がっています。例えば、フランクフルトやパリ、仁川など、人間の移動が盛んなハブにオフィスを構築しようという動きがあります。

一方で、人々が動き回ってさまざまな人々が交わり、多様化した環境は、ワーカーにとって不安な面もあります。シンプルに言えば、アイデンティティが揺らぐわけですよね。自分は何を拠り所に働いているのか、何を大切にしているのか。これは企業も同じだと思います。多様な価値観に触れすぎると自分自身を見失うこともあります。そのため流動化の一方で、働く環境としてオフィスに求められるのは「オーセンシティ」。つまり、歴史や正当性です。企業のアイデンティティを代表する施設という意味で、オフィスの重要性は揺るがないのではないでしょうか。今後のオフィスには流動性とオーセンシティの2つの性格がより強く求められ、オフィスは分化していくのでは考えています。

未来のワークスタイルはパッチワーク型!?


---では、ワーカーの生活と仕事の関わりは今後どうなっていくと思いますか?

私自身の働き方もそうですが、オン・オフもないですし、どんな場所で仕事をするかもあまり重要でなくなってきています。つまり、仕事かどうかを分けるものは、私の格好でも行動でもなく、いわば意思に依存しているわけです。遊びと思えば遊びだし、働いていると思えば働いていることになる。生活と仕事というのは、恐らくはそういうことだと思っています。仕事かどうかの感覚は、場所や行動に依存するのではなく、価値観や考え方次第ということになってくるのではないでしょうか。もしかしたら、自宅にいるときの半分以上は仕事しているかもしれないし、会社にいるときの半分以上を日常生活的な感覚で過ごしているかもしれないし。今後は、日常生活的感覚と仕事的感覚がパッチワークのようにどんどん折り重なっていくのではないかと思います。

※この記事は2013/07/22にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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