いま、新たな舞台で活躍しているあの人にも、実はビジネスマンとして会社勤めをしていた日々があったそうです。
しかし、なぜ彼らは会社員を続けなかったのでしょうか。ただ単に彼らは向いていなかったのでしょうか。どんなビジネスマンだったのかを訊いてみました――。
連載第3回目。お笑い芸人のフランスピアノ・山本さんのインタビューをお届けします。「辞めないでくれ!」と先輩からそれとなく送られるメッセージに応えられなかった9ヵ月間のAD生活をお話しいただきました。
1993年生まれ。埼玉県出身。グレープカンパニー所属のお笑いコンビ・フランスピアノのボケ担当。日本大学卒業後、NHKのフロアディレクターとしてテレビ制作会社に勤務。相方のなかがわりょうとともに、会社勤めを続けながらフリー芸人として活動。2018年4月からグレープカンパニー所属。独自の切り口で漫才もコントもこなす若手として注目を集めている。
面白さが必要とされない報道番組のAD
――お笑いサークル出身で、大学時代から活動されていたんですよね。
山本:そのままプロの芸人になりたかったんですけど、いろいろと不安もあって就職したんです。
――テレビの制作会社を選んだのは、芸人に近い業界だったからですか?
山本:そうなんですよね。就職してからでもお笑いはできるかなって思って、周りが就職してるから就職しなきゃいけないのかなみたいな。芸人になるにはすごい覚悟いるのかなとか、続けられるのかなとかいろいろ考えていて。
制作会社の仕事なら、面白い企画を考えることが好きですし、漫才やコントのネタを作るのと近いのかなと思ったんですよ。
――働いてみてどうでしたか?
山本:全然違いましたね(笑)。主なクライアントがNHKの制作会社だったからかもしれないですけど。
――一番カタそうなところじゃないですか!
山本:そうなんです。しかも、BSのマジメな報道番組の担当だったので、あまり面白くはなかったです。
――あははは。仕事内容はどんな?
山本:タイムキーパーをしたり、カンペでキャスターさんに指示を出したりとか。
あと、夜勤もありましたね。22時から朝7時までなんですけど、夜中にやってるスポーツ番組の間に10分間だけのニュースがあって、それだけのための夜勤がありましたね。夜中なんでスタジオでやることもなくて、めちゃくちゃ暇なんですよ(笑)。
――面白い企画を考える余地はなさそうですね。
山本:はい。演出も特にないんですよ。
――でも、そのなかでも楽しさがあったり?
山本:いや、もうずっと「お笑いやりてぇな」と思ってました。「俺はおまえらとは違ぇから」みたいな感じでトガってもいましたし。
――イヤな奴ですね……。
山本:最悪ですよね。同僚からはヘンな目で見られていたかもしれません。
優しい先輩の配慮もどこ吹く風、やる気のない日々
――そうなるとミスも増えそうです。
山本:いやいや、マジメにやってましたよ!
――そうなんですね。
山本:いやっ、ありました。仕事が終わると、最後に業務記録を書いて会社に提出するんです。でも、僕は面倒臭いので、毎日「特にナシ」って書いてすぐ帰宅してたんですよ。ある日もそうやって帰ったんですけど、よく考えたら大きな天災があった日で。さすがに、「そんなわけないだろ!」って怒られました。あとADの仕事には、キャスターさんが読む原稿が揃っているか、順番は間違っていないかを確認する作業があるんです。でも、ある日原稿が1枚抜けていたときがあって……。
――うわっ。
山本:どうにか放送事故は防いだんですけど、編集責任者の人にめちゃくちゃ怒られました。
何かあると、世間的にはキャスターさんが矢面に立っちゃうんですよね。会社では僕が怒られますが、叩かれるのはキャスターさんじゃないですか。それがなんていうんですか、自分のミスなのにキャスターさんのミスみたいになっちゃうんで、結構そこは真剣にやってましたね。
――とはいえ、芸人になりたいという夢はずっと持っていたんですよね。
山本:はい。なので、今考えると辞めないように先輩がすごく気にかけてくれたんです。でも、それに応えることができなかった。
――たとえば?
山本:通常、スタジオで3~4年修行してから、ロケの中継とかに出られるようになるんです。でも、僕の場合は早い段階で行かせてもらったり。
――ロケはどこが魅力なんですか?
山本:普通は入れない場所に行けたりするじゃないですか。それが「この仕事の楽しさを見つけろ!」「面白いだろう、この仕事!」ってメッセージだったんだなと今だから思いますね。
――先輩も気を遣ってくれてたんですね
山本:そうですね。大物芸能人が出演する民放の番組制作にも関わらせてもらったりもしました。「大物芸能人にカンペ出してるんだぞ」って、やりがいをそれとなく伝えようとしてくれてたんですよね。でも、応えられなかった(笑)。
――それはもう辞めるしかない。
山本:相方のなかがわも別の仕事をしていて、お互い「辞めたいよね」なんて話はずっとしていたんです。
先に動き出していた同僚を見て、芸人の道へ
――どうやって踏ん切りをつけたんですか?
山本:同じ報道番組を一緒にやっていた1個上の先輩が、「会社辞めることにしたわ」って突然言ってきたんですよ。仲良くしていた先輩だったので、すごくショックだったんです。
――先を越された、という意味で?
山本:というよりも、その先輩は地元に帰って地方創生の仕事をするとかで。そうやってちゃんと考えて、しっかり動き出していたことに対してですね。そのときにスイッチが入ったんです。
――辞めるときは番組のスタッフに報告されたんですか?
山本:キャスターの方には言ったんですけど、ディレクターとかのスタッフの方には「芸人になる」と言うことが恥ずかしくて、結局言えないまま逃げちゃったんです。
――そこは後悔ですね。
山本:NHKに仕事で行かせてもらうと結構すれ違うんですよ。そのときは、ちゃんと挨拶しているんですけど。「芸人やってることは、何となく聞いてるよ」って。
――9ヶ月で辞めた新人って、微妙な立ち位置ですよね(笑)
山本:でも先日、事務所の先輩であるサンドイッチマンさんのラジオでネタを披露させていただいて。それがAD時代によく使っていたスタジオだったんです。
当時、そのスタジオでケータリングを並べて、ただただ2時間くらい荷物番をしながら、「なんだよこの仕事!」とか思ってたんですよ。
でもそのときの自分に「お前、数年後に芸人になって同じスタジオでサンドイッチマンさんとかとろサーモンさんとかと仕事してるよ」って言いたいですね。そのとき芸人になって良かったなって思いました。
思い出のある場所に芸人として戻ってこれて、すごく感慨深かったですね。
――サラリーマンに戻りたいと思うことはありますか?
山本:ないです。それよりもいまは芸人として成功したいです。
この連載では、会社勤めの経験がある著名人に会社員時代のちょっとやんちゃなエピソードを伺っていきます。後編では、フランスピアノ・山本さんの相方、なかがわりょうさんのインタビューをお届けします。
後編:【連載】あの人だって元ビジネスマン!芸人 フランスピアノ・なかがわ┃辞めるときは自分で言うから「芸人になりたかったら早く辞めろ」とか言うな!
【連載】あの人だって元ビジネスマン!
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文/富山英三郎 撮影:佐坂和也
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