【連載】あの人だって元ビジネスマン! 芸人 GAG・福井俊太郎┃芸人の夢を語らなかった男がある事件で翌日退職。芸人の道へ

今回は、3年連続「キングオブコント」ファイナリストのトリオ、GAGのキーマン・福井俊太郎さんが登場! 「芸人になりたい」と誰にも語ったことのなかった一介のサラリーマンがなぜ、芸人を志したのでしょうか。

【連載】あの人だって元ビジネスマン! 芸人 GAG・福井俊太郎┃芸人の夢を語らなかった男がある事件で翌日退職。芸人の道へ

いま、新たな舞台で活躍しているあの人にも、実はビジネスマンとして会社勤めをしていた日々があったそうです。

しかし、なぜ彼らは会社員を続けなかったのでしょうか。ただ単に向いていなかったのでしょうか。どんなビジネスマンだったのかを訊いてみました――。

今回は、3年連続「キングオブコント」ファイナリストのトリオ、GAGのキーマン・福井俊太郎さんが登場! 「芸人になりたい」と誰にも語ったことのなかった一介のサラリーマンがなぜ、芸人を志したのでしょうか。

GAG・福井俊太郎
1980年生まれ。兵庫県出身。NSC 大阪校27期生。近畿大学経済学部卒業後、子供服メーカーに就職。約8カ月、子供服の営業マンとして勤める。その後、NSCに入校。2006年に「GAG少年楽団(現・GAG)」を結成する。2017年以降3年連続で「キングオブコント」ファイナリスト。2019年には4位に入賞し、今注目の芸人として人気を集める。

 

小学校6年生の服を着用して子供服を販売

 

――福井さんは、現役で近畿大学に進まれたんですよね。勉強はできるタイプだったんですか?

福井:いやいや。全然、頭良くないですから。近大といっても経済学部ですし、そう言うと通われている方に申し訳ないか。なんて言えばいんだろう(笑)。

――そもそもお笑い芸人を意識されたのはいつからなんですか?

福井:潜在的には「やってみたいな」という意識はあったと思うんです。昔からお笑いが大好きで、芸人さんに対するリスペクトもすごくあったので。でも、自分がやるなんてまったく思っていませんでした。

――遅めのスタートだったんですね。

福井:そうなんです。サラリーマンを経験して、どの仕事をしてもキツいなら「やりたいことをやったほうがいいな」という気持ちが芽生えたんです。

――それほどサラリーマン生活がつらかった?

福井:ブラックだとか、ハードワークだったとかではないんです。とにかく向いていなかったんでしょうね。

――入社されたのは子ども服メーカーと伺っていますが、もともとアパレル志望だったのですか?

福井:特別やりたいこともなかったので、いろいろ受けて、受かった会社の中から選んだ感じですね。むちゃくちゃな氷河期の時代でした。

――最終的になぜ子ども服メーカーだったのでしょうか?

福井:その会社の人事の方が、すごく柔らかい対応をしてくださる方で。とても好印象だったという理由だけです。

――職種のこだわりもあまりなく?

福井:まったくなかったです。採用されたときに「営業で」と言われたのに従っただけで、別にどの部署でも構わないというか。

――「サラリーマンはつらいな」と思った最初の体験は何でしたか?

福井:百貨店で販売体験をする研修があったんです。会社の決まりで、自社製品を着て店頭に立たないといけなくて。でも、子ども服だから一番小さいサイズがジュニアの160~170cmなんですよ。

さすがに、着るとパツパツになる。しかも、子ども向けのデザインだからワッペンがたくさん付いていて、その角が肌に当たってチクチクするんです。それが一番キツかった。

――そこですか!?

福井:「社会人は、つらくても黙って我慢しないといけないんだ」って。そう最初に思わせてくれたのがワッペンでした。

――あははは。

福井:もともと接客が苦手で、アルバイトでも避けてきたんですよ。なので販売体験も楽しくはなかったですね。

――具体的には?

福井:新人の僕を含めて販売員が4人いて、彼女たちはお客さまが来店すると素早くマンツーマンでつくんです。でも、5人目のお客さまが来たら僕も行かないとダメじゃないですか。お客さまのほうも「なんでヒゲを生やした男が?」ってヘンな顔をしているし。

――子ども服を着たヒゲの男!

福井:そうなんです。商品知識もたいしてないですし、嘘もつけないので、ただ黙ってお客さまの横に寄り添うという。

――それは恐い(笑)

福井:毎日「客、来るな!」と願っていました。お客さまがいないときは、ひたすら子ども服をたたんで、たたんで、たたんで……昼休憩みたいな。しんどかったです。

――精神的なキツさはありつつも、とくに失敗はなかったんですか?

福井:東京での研修中に、ひとつ大きいのがありました。会社主催ではない営業部の飲み会があって、「おまえ、何かしろ~!」みたいな体育会ノリになったんです。

――アパレル系って意外に体育会なんですね。

福井:一発芸があるわけでもなく、でも頑張らなきゃいけないという気持ちもあって、僕にネタを振った人の股間を、いきなり後ろからガッと掴んだんです。

――えっ?

福井:いま考えても、なんであんなことしたのか分からないんですけど。勢いだけで乗り切ろうとする学生ノリっていうか……。そしたら、その人が本気でキレちゃって。「そういうの、おまえ、マジでちげーから」って東京弁で怒られて。

――あぁ……。

福井:そのまま飲み会もお開きになっちゃったんです。しかもまだ研修の中盤で、残りの日々は相当気まずかったですね。普通にしとけばいいのに頑張りすぎちゃって。

芸人さんなら喜んでくれますけど、サラリーマン生活では、アタマの線一本切って行動するのは絶対にダメですね。

 

研修が終わって初めて感じた、“むき出しの社会”での限界

 

――そんな散々な研修も終わりが見えて、その後は?

福井:大阪支社の営業部に配属されて、師匠と弟子みたいな感じで先輩と百貨店を回っていました。

――先輩はどんな方でしたか?

福井:杉山さんという方なんですけど、いい意味で適当で。なんかあるとすぐに「タバコ吸いに行こう」と言い出す人でした。当時30代前半で、結婚して子どももいらっしゃったんですけど、家庭での恐妻エピソードが本当に面白くて。いつも笑っていました。

とにかく良い人で。研修が終わってからの営業は、ほぼ杉山さんと2人で動いていたので本当楽しかったですね。気楽というか、会社員的な厳しさを感じることはありませんでした。

――いい関係だったんですね。

福井:帰りは毎日「立ち呑み行こうや」と誘ってくれて、会社近くの天満橋で飲んでいましたね。意外と可愛がられていたように思います。

――杉山さんからは怒られることもなく?

福井:そうですね。でも、ある日いつものように「タバコ行こうや」と誘われたんですけど、なんかヘンな間があって。

「ヒゲ生やしている俺が言うのもなんやけど……。周りの人というか……部長とか……まぁそういう上の人たちから、新入社員でヒゲ生やしてるのはよくないんちゃうかって……。そういうお達しがあってやな、まぁ、もうちょい我慢してくれるか?」って言われたんです。

――新入社員に対してその回りくどい話し方、杉山さんいい人じゃないですか!

福井:いい人でしたね。何もできない新入社員でヒゲを生やすのはよくないということなんですけど。学生時代から生やしていたこともあって、僕はそういう空気も読み取れない奴なんです。言われてからは剃るようにしました。

――ここまでの話だと、辞める理由が見当たらないです。

福井:ですよね。それまで自分は共学で、男女の割合が半々くらいだったんです。でも、その会社は社員の8割が女性という環境で。そこで初めて、女性の強さを知ったんです、絶対に逆らえない。

――何があったんですか?

福井:新しい百貨店にブランドをオープンすることになって、ディスプレイとか什器とかを準備していたんです。そこにはブランドのコーディネーターとかも来ていて、彼女たちは杉山さんのように優しくないわけです。仕事のできない僕に相当イライラしていたみたいで、仕事終わりの飲みの席でも「ほんとできへんな。そんなんやったらおらんでもよかったのに」みたいな厳しい言葉を投げつけられて。

――まぁ、新人のころはありますよね。

福井:でも、タバコを吸いたいときにいつでも吸えるような、杉山さんとのぬるま湯生活が続いていたので、“剥き出しの社会”ってこうなんだろうなって、働くってこういうことなんだろうなって。そのときに「どこで働いても厳しいなら、やりたいことをやっていたほうが我慢できる」と思ったんです。

翌日には、「やりたいことができたので辞めさせてもらいます」と杉山さんに言いました。

――突然の展開! その時点で本当にやりたいことが決まっていたのですか?

福井:「やりたいことをやった方がいい」と思った瞬間に、「芸人をやりたい!」と思ったんです。

(後編に続く)

―――

この連載では、会社勤めの経験がある著名人に会社員時代のちょっとやんちゃなエピソードを伺っていきます。

後編では、福井さんの巻き返しが始まります。就職活動同様、エンジンのかかりが遅めだった福井さんは、NSCに入っても遅めのスタート。巻き返しの芸人人生の始まりです。


後編:GAG・福井俊太郎┃NSC授業料は15秒で40万?! 芸人Cクラスからの巻き返し

【連載】あの人だって元ビジネスマン!
〇ダニエルズ・あさひ┃破天荒な会社員時代 浮気がバレてホームレス状態になったことも
〇フランスピアノ・山本┃「辞めないでくれ!」先輩のメッセージに応えられなかった9ヵ月間のAD生活
〇フランスピアノ・なかがわ┃ 辞めるときは自分で言うから「芸人になりたかったら早く辞めろ」とか言うな!
〇やさしいズ・タイ┃大阪勤めで経験した「面白ければオールOK!」の文化。笑いとともにあった会社員時代
〇ルシファー吉岡┃会社を辞めるに至った3つの出来事。ピン芸人、ミスチル、○○○!

文/富山英三郎 撮影:佐坂和也

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