【プロ監修】アンガーマネジメントを身につけて仕事のイライラに対処

仕事中に怒りを感じることは誰にでもあるはず。それによりストレスが蓄積したり、人間関係に悪い影響を及ぼしたりすることも。そこで実践したいのが怒りをコントロールするスキル「アンガーマネジメント」。怒りと上手に付き合う方法を専門家に伺いました。

【プロ監修】アンガーマネジメントを身につけて仕事のイライラに対処

日々時間に追われてイライラしたり、コミュニケーションの行き違いが生じていらだちを覚えたり…。さまざまな怒りを感じながら仕事をしている人は多いはずです。近年、怒りをコントロールする技術「アンガーマネジメント」が日本でも浸透してきています。どういうものかは知らなくても、「アンガーマネジメント」という言葉自体は聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。今回は、怒りと上手に付き合うための方法を一般社団法人日本アンガーマネジメント協会トレーニングプロフェッショナルの松崎晃一さんに教えていただきました。 

怒りをコントロールするスキル「アンガーマネジメント」とは?

――アンガーマネジメントとは、そもそもどういうことを意味しているのでしょうか?

松崎さん:日本アンガーマネジメント協会では、アンガーマネジメントの目的を「怒りで後悔しないこと」としています。

アンガーマネジメントはもともとアメリカで1970年代に始まった心理トレーニングで、司法制度にも組み込まれるなど広く普及しているものです。日本では2011年に日本アンガーマネジメント協会が設立されました。

多くの人は怒って後悔すると思うんですよね。言い過ぎてしまったとか、部下にパワハラと言われたとか。もしくは、怒っていることを言わなくても後悔します。本当は嫌なのに「嫌だ」と言えず、あとで後悔する。アンガーマネジメントは「怒りの感情を上手に扱うこと」を目指しています。

――自分の怒りをマネジメントするわけですね。

松崎さん:どうやるかというと、心理トレーニングなのでメソッドがあり(入門講座では:削除)「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール3ステップで練習していきます。

――衝動に思考? それらをどのようにコントロールしていくのでしょうか?

松崎さん:平たく言えば、売り言葉に買い言葉はやめようね、ということです。怒りで失敗する人は、たいてい怒りが言葉に出ます。言葉に出なくても顔に出る。人間だからそれもしょうがないのですが、職場でやり続けるとギスギスしてしまいがち。そのギスギスを止めるだけでも人間関係は変わりますし、生産性は上がります。

――トレーニングするとして、時間はどれくらいかかるものですか?

松崎さん:習慣化するのは3週間と言われていて、まず対処法身につきます。そこから自分の中に染み込んで腑に落ちるまでは、人によって感覚が違うのでなんともいえません。半年の人もいれば、1年かかる人もいます。

ただ、それも取り組み度合いで変わってきます。よく「心の筋トレ」と言うのですが、筋肉は運動すればつくイメージがありますが、心も一緒で、トレーニングすればするほど鍛えられていくんです

たとえば毎朝遅刻ギリギリに出勤してくる人にイラっとすることがあると思います。でも、そのイラっとする感情を止める。反射的にイラっとしないことを意識的にやることが大切です。それが身につくと、業務上支障がないようなら「そういう人もいるよね」という感覚になってきます。

――それはイライラが減るというか、心が寛容になるようなことですか?

松崎さん:そうですね。心のキャパシティーが広がる感じです。実際に「思考のトレーニング」の中でもキャパシティーを広げる練習をします。

――アンガーマネジメントの講座はどのようなものが用意されていますか?

松崎さん:90分の入門講座や叱り方講座など色んな講座があります。最近は企業研修でも多く取り入れられていますね。 

すぐに始められるアンガーマネジメント

自分がいつ怒ったかを記録する「アンガーログ」

――アンガーマネジメントは心のトレーニングということですが、どんなトレーニングが必要ですか?

松崎さん:最初にできる第一歩は怒ったことの記録をつけることです。

これをアンガーログといって文字通り記録をつけることで日記のように、その日の中で怒りを感じたことを書き起こして点数をつけるんです。10点満点なら「これは自分にとって許し難いから9点」とか、「怒ったと思ったけど実はなんでもなかったから0点」でもいい。点数化することで自分の“怒り”を客観視します。

そもそも怒っている人がなんで怒るかというと、自分が怒っていることに気がついていないんですよね。日常的にしている主観的な物の見方を客観的に見てみるためにいったん書き出して、あとから見返してみるんです。

アンガーログをつけられる 「アンガーマネジメント手帳 2020年版」

――なるほど。アンガーマネジメントの目的が「怒りの感情を上手に扱うこと」とすると、時には怒ることも必要だと思うのですが、「怒る必要があること」の見極め方はあるのでしょうか?

松崎さん:アンガーマネジメント的に普遍的なここまで怒っていい、ここまでは怒らないという明確な線引きは残念ながらありません。怒るラインと怒らないラインは、「これは怒らないと後悔する」「これは怒ったらあとで後悔する」と普段から自分で区別するというトレーニングをします。

そして自分にも線引きがあるように、相手にも線引きがあります。相手の価値観も受け入れることで心のキャパシティーも大きくなり、無駄に怒ることもなくなります。

誰かを受け入れられるようになると、相手も安心してくれる。結果、心地良いコミュニケーションが増えていくのでアンガーマネジメントは人生をより豊かにしてくれるライフスキルでもあるんです。

――上手な怒り方はありますか?

松崎さん:自分を傷つけない、相手を傷つけない、ものを壊さない。怒っていることを上手に表現できることですね。でも日本人は空気を読んで合わせてしまうことで怒れない人も多い。今の時代背景では怒るとパワハラと言われてしまうこともありますしね。 

別のことを考えて「6秒間待つ」ことを身につける

――気持ちを落ち着かせるために「6秒間待つ」という方法がありますよね。でも6秒間は何をして待てばいいのでしょうか。

松崎さん:何もしない6秒は長いです。でも怒って頭に血が上っても、6秒やり過ごすと理性が介入できるようになります。怒ることを考え続けると、どんどんヒートアップしてしまうので止まらない。そこで違うことを考えるトレーニングをします。

一番オーソドックスなのは点数をつけること。たとえば(誰かが仕事で遅刻した時に)、「この人はまた遅刻!」と遅れてきたことに注目するのではなく、それが自分にとって何点の怒りなのだろう、という感じです。先ほどのアンガーログと同じですね。

―――その場で点数化するのですね。

松崎さん:その場で、頭の中でです。他にも言葉でやり過ごすコーピングマントラというテクニックがあります。僕の場合は、イラッとすることがあると「これは何のチャンスだ?と頭の中でつぶやくんです。

―――それはどのように?

松崎さん:この間も、電車に乗り遅れてイラッとしたことがあったんです。実は僕、もともとは怒りっぽくて(笑) 

それで頭にきて、その状態を続けていたら何も考えられなくなってしまう。じゃあこれは何のチャンスだろう、と考えるんです。6秒待つ時はいつもチャンスなのだと思っています。

何のチャンスなのか自分に問いかける、それが僕の6秒でできたこと。落ち着くために頭の中でつぶやく言葉は何でもいいんです。

ゴルフが好きだから「ナイスショットと繰り返していると落ちつてくるという人もいます。その人その人の落ち着く言葉を探して、用意しておくといいです。ペットの名前やお子さんの名前などでもいいですね。

自分の怒りを止めることが、誰かの怒りを止める第一歩になる

――アンガーマネジメントを通して伝えたいことはありますか?

松崎さん:「怒りの連鎖を断ち切ろう」というのが協会の理念です。どんなに我々がアンガーマネジメントを普及したところで、世の中からすべての怒りはなくならないでしょう。怒りは人間にとって必要な感情です。ただ、アンガーマネジメントが広がれば、むやみな自分の怒りを他人にぶつける、他人からぶつけられるということはなくなるはず

まず自分自身が止めることで、誰かの怒りを止める第一歩にもなります。だからすべての人にアンガーマネジメントを学んでほしいし、知ってもらいたいです。

―――

日本では2019年半ばの時点で100万人以上が受講しているアンガーマネジメント。

今回紹介したのは基本的には「怒る」側の話でしたが、「怒られる」側になることもあると思います。日本アンガーマネジメント協会のコラムに、次の一節がありました。

「怒られ強い」人は、怒られたときに、「この人は、どういう考えからそれを言っているのだろう」と思い、相手を理解しようとします。そして、「自分に対して何を求めているのか」「どうして欲しいのだろう」と考え、対応できることは対応しようと思います。けれども、「怒られ弱い」人に、その余地はありません。
引用:よく怒る人は、怒られ弱い? https://www.angermanagement.co.jp/blog/15308

「怒られる」側も、松崎さんのお話にあったように、心のキャパシティーを広げることが大切なのかもしれません。興味を持った方は、ぜひアンガーマネジメントを体験してみてはいかがでしょうか。

 

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