引継書はどうやって書けば? 部署異動になった時の6つの引き継ぎポイント

異動が行われる秋。異動の内示を受け取ったら、後任者が困らないよう引継書を作成しますが、どんなことに注意すればいいでしょうか? そんなときに役立つ書籍が、異動の作法について詳しく説明している「公務員の『異動』の教科書」(学陽書房)。本書のタイトルには“公務員”と書かれていますが、一般企業勤務のビジネスパーソンにも役立つ引き継ぎポイントを分かりやすく解説されています。今回は、著者の堤直規さんに引継書作成のポイントと注意点を伺いました。

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引継書に取り掛かる前にやるべきこと

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内示が出たらまず取り掛かるべきことは、担当している仕事をすべて書き出して、異動までに処理しておくべき「残務処理」と、異動後に後任が担当するべき「引き継ぎ事項」の2つのリスト作りです。

急な内示で残務があっても、処理を終えることができないことは全て「引き継ぎ事項」に入れることが重要です。真面目な人ほど何とか自分で終えようとしがちですが、そんな時間はありません。新たな職場で次の仕事が待っています。

次に取り組むべきなのは、後任に引き継ぐ文書を仕分けることです。任期中に溜まった紙の文書とデータファイルを、「引き継ぐもの」と「捨てるもの」に分類していきます。不要なものは後任者の混乱を招くので、処分するように。「引き継ぐもの」に仕分けた文書やデータは、引継書に保存場所を指示し、後で分かるようにしておきます。

その時に注意するべきなのは「名刺」です。担当者の連絡先が記載されているので、後任者が困らないよう、忘れずに引き継ぐようにしましょう。

引継書には何を書けばいいの? 6つのポイント

引継書については、社内で書き方の研修があるわけではないので、最初は上司が作成したものを見せてもらい学ぶようにしましょう。「勉強したいので見せてください」と素直にお願いすれば、大抵の上司は見せてくれるはずです。

それでは、引継書に記載するべき内容と、注意点を順番に説明していきます。

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(1)担当業務

まず記載するのは担当業務の内容です。所属する部署や係の中で組織的にどんな役割があり、どんな業務を行っているのか、具体的に記載します。災害時など業務外の特別な役割などは、それも忘れずに記載しておきましょう。

(2)役割分担

部署や係にどんなメンバーがいて、どのような雇用形態なのか(パート、アルバイトなども)、人数や名前も含めて記載します。また、上司の情報など誰の下で業務に取り組んでいるのか分担も書いておきます。業務や役割によって、管轄する上司が異なる場合があるので、それぞれの業務ごとに記載するようにしましょう。

(3)予算および支出状況

自分が扱う事業にどれくらいの予算がついているのかを記載します。支出金額も記入し、これから払う予定の金額や、予算のうちどれくらいの残高が残りそうなのか見通しも書くようにしましょう。また、予定よりも支出が少ない場合は、その理由を伝えることが大切です。決算・監査で必須の内容になります。会議などで上司に説明した内容があれば、それも引継書に入れます。 

(4)当該業務の状況

現在取り組んでいる業務について、何に取り組んでいるのか、課題はどんなことなのかなど、端的に記載します。例えば、「〜の業務に位置付けられていて、計画通りに進んでいる」と書きましょう。その詳しい内容は次の懸案事項に書きます。

(5)懸案事項

懸案事項については、保身の気持ちで控え目に書こうとする人もいますが、会社と後任者にとって最も重要な内容になります。「今後の事業運営で課題になると想定される事項」「上司からの指示」「取引先やお客様からの指摘」「部署や係で検討するべき課題」など、しっかりと書いておきます。参照する資料やデータについても、分かりやすく記載しましょう。

特に「取引先やお客様からの指摘」については、どのように答えたのかも記載しておきます。検討・対応の約束をしている場合はそれを明記し、ニュアンスにズレがないよう注意してください。

また、引継書は多くの人が見ることにも留意しましょう。例えば、ある案件の進行が滞っている理由として、「担当者同士の関係が悪い」など他者の感情に関わることがある場合は、記載せずに口頭で伝えるようにします。

(6)その他

最後に「その他」として、参考情報を記載しておきます。懸案事項には関わらないものの、担当案件のために役立つ資料や書籍を伝えておくと、後任者の業務がよりスムーズになります。引き継ぐ相手に感謝の気持ちが生まれ、円滑なコミュニケーションにも役立つので、積極的に書くようにしましょう。

引き継ぎのときに口頭でも伝えるべき内容とは?

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引継書に記載した内容のうち、次の2つのことは口頭でも伝えることで、引き継ぎのトラブルを避けることができます。

(1)重要なこと 

引き継ぎの時間は限られているので、事前に重要なポイントを整理しておきましょう。引継書を見せながら要点をしっかりと伝えます。

(2)ニュアンスを含めて伝えたいこと 

文書では表現が難しい内容や、引継書に記載しづらい内容(関係者の感情に関わること)を詳しく説明します。

口頭で伝える際には一方的に説明するのではなく、後任者の確認を取りながら進めることが大切です。「重要なのはこの3点なのですが、ご理解いただけましたか?」など、相手の理解度を確かめながら話すようにしましょう。

また、内示が出てからは残務処理などで忙しいので、日頃から引継書を少しずつ書いておくことをオススメします。引き継ぎがラクになるだけではなく、キャリア形成につながることもあるからです。例えば、「3年後にこんな引継書を作ろう」とイメージすることで、1年目、3年目の目標が明確になります(どんな知識やスキルを習得すればいいのか、など)。

自分の視野が広がり、「会社としてどのように物事を捉えるのか」というビジネスパーソンとしての理解も深まるので、引継書作成には早くから取り組んでみてはいかがでしょうか。

文=平原健士(iPPON COMPANY GROUP)
編集=野田綾子+TAPE 

【監修者プロフィール】

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堤 直規(つつみ なおただ)
小金井市行政経営担当課長、キャリアコンサルタント(国家資格)
東京学芸大学教育学部卒業、同大学院社会教育専攻修了。2001年小金井市入所。前職はIT関係。情報システム係、国保税徴収担当、企画政策係長、納税課長を経て、2016年から現職。2018年にキャリアコンサルタントとして登録。著書に『公務員1年目の教科書』(学陽書房)、『公務員ホンネの仕事術』(時事通信社)など多数。
ブログ「一歩先行く市役所職員となるための仕事術」

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