NON STYLE・石田明の「はたらき方改革」。週休2日で心の余裕を大切に

「爆笑オンエアバトル」チャンピオン、「M-1グランプリ」優勝など輝かしい成績を残すお笑いコンビのNON STYLE。そのネタ作りとボケを担当する石田明さんのインタビューをお届けします。後半では長い休暇中に気付いた「余裕を持つ大切さ」や、後輩への接し方について伺いました。

近年、舞台の演出や脚本も手掛け、仕事の幅を広げているNON STYLEの石田明さん。長年忙しい日々を送ってきた石田さんは、コロナ禍をきっかけに「はたらき方改革」を行ない、週2日の休みを取って家族との時間を大切にしているそうです。さらに40代となった現在、お笑い養成所で講師も務められています。責任の重い「教える」ポジションに就くことで感じるやりがいや、生徒とのコミュニケーションで大切にしていることとは?石田さんの考えをお聞きしました。

※インタビュー前編はこちら
小さな目標の設定が大きな成果に。NON STYLE 石田明が学んだ「無理をしない」仕事術

コロナ禍ではたらき方改革を宣言。週休2日の生活で、変化したこと

――石田さんが「はたらき方改革」に取り組み始めたきっかけを教えてください。

きっかけはコロナですね。パルコ劇場で演劇をやる予定が中止になって、稽古と本番の3カ月間がほぼ休みになったんですよ。吉本が仕事を入れてくれようとしたのですが、芸人を始めてから長い休みを取ったことがなかったので「一回休んでみたい」とお願いしたんです。もちろんお金がある環境だからできたことなのですが、その3カ月間、本当に豊かな時間を過ごしました。

コロナ禍以前から「バリバリ仕事をしつつ、家族との時間も過ごしている」と自分では思っていたんです。でもその3カ月間と比べると雲泥の差で、「日常に喜びがこんなに落ちていたのか」と実感しました。そして、過去の家族写真の少なさを見て「こんなんで家族との時間を作れていると思ってたんや。自分、きも!」って。

――休ませてほしいと思ったのは、どこかで疲れがあったのでしょうか。

それはもう好奇心です。人生で3カ月休むなんてあまりないじゃないですか。「インドに行って考え方が変わる」ということを家の中で体験したかったと言いますか。そして休みをお願いすると同時に、吉本に「これからは週休2日でお願いします」と言いました。

――それ以来、仕事や生活にどのような変化がありましたか?

仕事の質も効率も上がって、良い効果が出ました。当時コロナ禍で舞台関連の仕事を3カ月間お休みしたとはいえ、別の仕事がもとから入っていました。その仕事に対する意気込みとか、移動の新幹線でネタや脚本を書く集中力とかが、今までとはまったく違ったんです。「流れ作業のようにやってしまっていたんだな」ってそのとき痛感しましたね。

――忙しく仕事をする生活と、家族を大切にしたメリハリのあるはたらき方の両方を経験した今、振り返ってみていかがでしょう。

忙しいときって家族との時間も仕事も楽しめていないんですよ。でも今の自分は違う。本来「楽しいこと」って疲れにくいじゃないですか。大変でも「楽しい」が勝てば全然問題ないと思います。

ぼくの場合は好きなことを仕事にしているし、家族とも仲が良いから、楽しいことばかりのはずなんです。でも余裕がないと、段々と苦痛になってくる。だから自分の中に余裕を作れたことが一番大きいですね。

好きだったものを嫌いになりたくない。余裕を作るために取り入れている「駅でのひととき」

――忙しさに追われて、生活にも仕事にも疲弊していく人も多いかと思います。

ぼくは好きだったものが嫌いになるのが一番寂しいと思うんです。食べることが大好きだった人が、食事を「ただ栄養を吸収する行為」と感じていたら、それは今良くない環境にいるからやろうなって。

仕事もそうですけど、好きだったことが嫌いになるのは「SOS」だと思うんです。ぼくにとって漫才も家族もそうでした。一番大切な「楽しむ気持ち」が欠けた状態で続けていても、良いことって一個もない。

嫌な仕事をしている人もいるかもしれないですけど、そういう人にも楽しいことは何かしらあるはずです。でもそうしたささいな面白さに気付けるのって、ちょっとした余裕やゆとりがあるからだと思います。だから今のぼくは、常に「面白いことに気付ける」状態です。

――忙しい渦中にいたら、なかなかその考えに至らないですよね。

気付きにくいですよね。そういう人におすすめなのは、電車に乗るとき、いつも通りの時間か一本前の時間に駅に着いて、ホームのベンチに座って電車を1、2本見送ってみることです。周りの人はいつも通り動いているのに、自分だけがそこに座っていると世界の見え方が全然違ってくるんですよ。

例えば同じ電車に乗っている女子高生とおじいちゃんが世代を越えて同じ機種のスマホを使っていることに改めて驚いたりします。誰も気にも留めないことが、余裕があると見えてくる。そうやって自分の中に余裕がある状態でいると「余裕を持って行動するのはいいな」って気持ちに変化していきます。

キャリアを重ね、「教える」立場へ。責任のある仕事をする良さとは?

――確かに、それなら明日からできそうです。石田さんは現在、吉本興業のお笑い養成所であるNSCの講師をされていますが、そのきっかけを教えてください。

(吉本興業の)社長から呼び出されて「NSCを変えてくれ」と言われました。今までのNSCは生徒にただアドバイスをしている状態だったけど、これからはちゃんと教えようとなったみたいで、ぼくに声が掛かりました。

――後輩に教える立場になって、気付いたことはありますか?

教えることで自分の考えが深まっていくし、自分のネタにも厳しくなっていけるなと思いました。同じく講師をしているパンクブーブーの哲夫さんとお互いの授業を見せ合ったのですが、全然違う角度からお笑いの話をしているのに、結局言っていることは同じなんやなってことが多かったんですよ。違う言い方をしていても、結局教えたいことって同じなんです。

――後輩と向き合っているときに意識していることはありますか?

本人たちがやろうとしていることは、基本的に否定しないようにしています。ぼくの教えが正解だとは言わないです。基本、ぼくは皆さんより面白くないと思っているし、面白くないからこそ漫才について考えている時間が長い。だから後輩によく言うのが「めちゃくちゃ面白い人の考える時間より長く考えているか?」ということです。

――先ほど、アドバイスではなくて教えることをしてほしいと社長から頼まれたとおっしゃっていました。石田さんの中で「教える」と「アドバイス」の違いは何でしょうか?

アドバイスって無責任といえば無責任で。教えるのはめちゃくちゃ責任がいるんですよ。教科書とHOW TO本くらい違うと思います。HOW TO本にも良いものはあるけど無責任なものもあるじゃないですか。でも教科書に無責任なものがあったらダメなんです。もちろんお笑いって画一的な答えがあるものではないので、教科書だけではすべてを表現できないですけど、少なくともぼくは教科書として接しないといけないと思っています。

――責任の重い仕事は、大変なことも多いと思います。

そうですね。だから「教師コント」の気持ちでやらんと乗り切れないです(笑)。でも性格的に講師の仕事は合っていると思います。

「なんでそこまで手の内を教えるの?」と言う人もいるんですけどね。ぼくは板前だったころ、料理長に包丁の研ぎ方からレシピまで全部教えてもらっていました。だからぼくが教えられるものは全部、後輩たちに教えます。

――そのように思えるのは、周囲の期待に応えたい、役立ちたいという気持ちが根底にあるからでしょうか?

そうですね。講師を始めたときに、周りの芸人から「よくそんなことするよな!」って言われました。でもぼくからしたら「こんだけ芸人がおる中でぼくを選んでくれるなんてうれしい」と思ったんです。

アイデアが生まれたら「人に言っちゃう」。小さなコミュニティが世の中を楽しくする

――講師の仕事だけでなく、近年は、脚本や舞台の演出なども手掛けていらっしゃいます。新しいことに挑戦するときに、最初に始めてみると良いことは何でしょうか?

アイデアのカケラでもいいので「やりたいことを人に言っちゃう」ことですね。自分の中に留めていたり、メモに書いていたりするだけでは何も発生しません。でも人に言うと、全然違う角度からそのアイデアが肉付けされていきます。

それに相手からもらう言葉が肯定的な意見か否定的な意見かによって、肉付けできるポイントも変わってくる。すると形が歪(いびつ)ながらもアイデアが大きくなっていくから「これはどうにもならないかも」ってジャッジするところまでいけるんですよ。アイデアが良い方向に膨らんでいけば「これいけるんちゃう?」って自信にもなる。メモだけではどうにもならないので、まずは発信していくことが大事ですね。

さらに良いのは「人に言うこと」を日々やっていると好奇心を持った人たちが「おもろそうなことやってんな」って周りに寄ってくるんです。そういう小さいコミュニティがいっぱいあったほうが世の中は楽しくなるはず。だからぼくは今、責任と関係なしにアイデアだけを出しまくっています。

――はたらき方改革をして、仕事の価値観や幅も広がった石田さんですが、最後にこれからどうはたらいていきたいかを教えてください。

はたらき方っていうのは人それぞれなので、どれが正解というのはないと思います。自分に合ったスタイルで、心が安定している状態を維持できるのが良いはたらき方だと思います。ぼくは週2日くらいの休みがあるほうが心の状態がいい。

さらにこれからのビジョンで言うと、最終的には東京にいないかもしれません。大阪でも、ほかの街でもいい。そうやってはたらき方の選択ができるように努力しています。これからも漫才は続けていきたいですけど、それ以外の仕事に関して言うと、もっとゆとりを持ちながら自分が面白いと思うものをじっくりと作っていきたいですね。

※インタビュー前編はこちら
小さな目標の設定が大きな成果に。NON STYLE 石田明が学んだ「無理をしない」仕事術

【プロフィール】
NON STYLE・石田明●1980年生まれ、大阪府出身。井上裕介とともに2000年にお笑いコンビ「NON STYLE」を結成。2007年に「爆笑オンエアバトル」9代目チャンピオンに輝き、翌年に東京進出。同年に「M-1グランプリ」で優勝を果たす。2010年には「S-1バトル」初代グランドチャンピオンを獲得。その年の12月23日には「S-1バトル」の賞金1億円を元手に、さいたまスーパーアリーナで無料ライブを行う。また現在は、NSC講師や舞台の脚本など活躍の幅を広げている。
YouTube:NONSTYLE石田明のよい〜んチャンネル

取材・文=青柳麗野
撮影=寺内暁
編集=久野剛士

【関連記事】
“思い切り”が人生を切り開くカギ。コットン・きょんが考える、仕事をする上で一番大切なこと
会社が何もしてくれない…がすべての元凶。ソラシド・本坊元児が脱・東京で学んだキャリアを「更新」する術
“芸人”中間管理職!次長課長・河本が語る「先輩に気に入られる力」と名MC芸人たちの処世術

page top