アンガーマネジメントとは? イライラのコントロール方法を専門家が解説

怒りの感情と上手に付き合う「アンガーマネジメント」が注目を集めています。誰でも仕事で思わずイラッとしてしまった経験はあるでしょう。そうしたときどう対応すればよいのか? 日本アンガーマネジメント協会の松崎晃一さんに話を伺いました。

アンガーマネジメントとは

アンガーマネジメントを単に「怒らないこと」と思っている人もいるかもしれません。しかしアンガーマネジメントではそもそも怒らないことを目指しません。では何を目指すのでしょうか?

アンガーマネジメントとは、怒りで後悔しないようにすることです。衝動的に他人に怒りをぶつけると多くの人は後悔します。しかし怒らないで後悔することもある。そこで怒る必要があるときに上手に怒る。本来怒る必要がないときには怒らないようにすることが重要です。そのための心理トレーニングだと思ってください」(松崎さん・以下同)

なぜ人は怒るのか?

怒りをコントロールするために重要なのは、怒りのメカニズムを理解すること。日本アンガーマネジメント協会では怒りをライターに例えて説明しているそうです。

「日頃からストレスや不安を抱えている人は多いと思います。そんな状態で自分の『べき』が裏切られたとき、人は怒りを抱きやすい。人はそれぞれ自分なりの『べき』があります。その自分の『べき』に沿わない行動・言動をしている人を見ると、怒りのスイッチを押してしまいます。

だから怒りをコントロールするためにはストレスを溜めないように規則正しい生活を送ること。そして自分の『べき』を理解することが重要です」

なぜアンガーマネジメントが注目されている?

なぜ昨今、アンガーマネジメントは注目を集めているのでしょうか。松崎さんは「価値観の多様化」が背景にあると言います。

「かつては仕事に関してもテンプレート化された価値観がありました。『男性がやるべき』『年功序列にすべき』といったような価値観ですね。しかし今は異なります。『性別・年齢に関係なく能力を評価する』『男性も育休をとる』など。その変化はもちろん素晴らしいことですが、一方で自分と異なる『べき』に出合う機会が増えているのです。自分と異なる価値観の人を認識する機会が増えてきたのだと思います」

ビジネスにおけるアンガーマネジメントの効果

ビジネスシーンでは怒りの感情が職場の雰囲気や人間関係に影響を及ぼします。

「特に後輩や部下の指導などでは効果が高いと思います。自分と部下の年齢が離れていると価値観も異なる可能性が高いからです。自分の『べき』に沿わない部下の行動も、『自分とべきが違うから』と考えれば怒りも軽減されるでしょう」

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怒りには6つタイプがある。あなたのタイプは?

怒りのスイッチになる「べき」。しかし人によってそのポイントは異なります。自身の「べき」を理解していれば、怒りのスイッチを押すべきか、押すべきではないかを判断しやすくなるそうです。ここでは「べき」と感じるポイントを6つのタイプに分けて説明します。

公明正大タイプ

正義感や道徳心が強い人で、間違ったことやルール違反に対して怒りを感じます。

「アンガーマネジメント協会では『熱血柴犬タイプ』とも呼びます。自分の正しさを他人にも強要してしまう傾向があります。電車内で電話をしている人など、マナー違反に怒りを感じやすいです」

博学多才タイプ

完璧主義の傾向が強い人で「優柔不断であること」や「中途半端さ」に対して怒りを感じます。

「敵か味方か、好きか嫌いか。白黒ハッキリさせたいという傾向があります。そのため『白黒パンダタイプ』とも呼びます。しかし世の中は白黒が付けられないグレーゾーンも多いことを理解すれば、怒りをコントロールできると思います」

威風堂々タイプ

自尊心が高い人で「思い描いていた方向に物事が進まない」や「不当な評価」に対して怒りを感じます。

「プライドが高く、リーダーシップがある『俺様ライオンタイプ』です。自分が考えていることを他人にも強要してしまう傾向があります。また虚勢を張っているがゆえに、不安も抱えています。そうした不安を指摘されて頭に血が上ってしまうことがあります」

外柔内剛タイプ

芯(しん)が強く、自分が決めたことをやり通すタイプです。「自分の信条に反すること」がストレスの原因になり、怒りを感じます。

「にっこり笑って人の言うことは聞かないタイプで『頑固ヒツジ』とも呼びます。仕事の手順ややり方などに、良くも悪くも自分なりのルールがあります。その手順から外れるとイライラして怒りを感じやすいです。そのマイルールが本当に譲れないほど優先すべきなのか、考えてみるとよいでしょう」

用心堅固タイプ

何事にも慎重で、石橋をたたいて渡るタイプです。

「用心深い性格のため、他人を信用しきれません。こうした『慎重ウサギ』タイプは簡単に他人に頼れない、甘え下手な側面があります。自分の領域に介入されるとイライラすることがあり、人間関係で怒りを抱くケースがあります」

天真らんまんタイプ

自分の気持ちに正直に生きるタイプ。自由な生き方を好むため、「自分の言動や行動を制限するもの」に対して怒りを感じます。

「『自由ネコ』タイプとも私たちは呼んでいます。好奇心旺盛で、自分のやりたいことを素直に表現できる人です。ただマイペースも度を超えると協調性のなさにつながっていきます」

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イライラと向き合うアンガーマネジメントの方法

怒りの原因が理解できたら、実際にどうすれば怒りをコントロールできるかを考えていきます。日本アンガーマネジメント協会では衝動のコントロール・思考のコントロール・行動のコントロールという3つのステップを実践しているそう。

6秒時間を空ける

まずは衝動のコントロール。具体的には、怒りを感じても6秒待つという方法です。

「怒りに任せて反射的に言葉を発すると、売り言葉に買い言葉の発言をしてしまいがちです。すると人間関係や信頼関係が崩れ、後悔することになります。

怒りを感じると、アドレナリンが出て興奮状態になる。すると自分が思う以上に強い言葉が出たりします。そうした場合6秒ほど待ち、気分を落ち着かせましょう。理性が介入できるようになります。もちろん6秒待っても怒り自体はなくならないこともあります。ただし理性が介入できるので、衝動的な言葉を発する事態を避けやすくなります」

自分の怒りに点数を付ける

アンガーマネジメントのトレーニングを行っていない人が、いきなり6秒待とうとしても難しい場合があります。そこで松崎さんはまず怒りの度合いを点数にする=スケールテクニックを実践することをおすすめしています。

「怒りは目に見えません。だから自分でもイライラしている状態なのか分かりづらいことも多い。少しでもモヤモヤを感じたら数値化する習慣をつけていきましょう。そうすると怒りを感じてもまず点数をつけようとするので、自然と6秒ほど時間が過ぎているのです」

「まぁ許せる範囲」を広げていく

次に「思考のコントロール」です。具体的には、自分の「まぁ許せる」と思える範囲を認識し、広げていくという方法。

「図のように人間には自分と同じ価値観の『許せるゾーン』と、異なる価値観の『許せないゾーン』があります。異なる価値観のゾーンに対して人は怒りを感じます。そしてその間に価値観は違うけど許容できる『まぁ許せるゾーン』があります。この『まぁ許せるゾーン』を広げていくのが思考のコントロールです」

怒ったときの行動を選択する

最後は「行動のトレーニング」。具体的には「コントロール可能か」「重要か」という2つの軸で「怒り」の要因を4つに分類する方法です。

「例えば部下に仕事のやり方を変えてもらう、取引先に納期を守ってもらうなどはコントロール可能です。天候などはコントロール不可能に分けられます。

4つに分類した上で、コントロール可能でかつ重要であれば適切に怒りましょう。しかし例えば『電車が止まって取引先との会議に遅れそう』など、『重要だけどコントロール不可能』な場合もあります。そのケースでは『イライラしても事態が変わるわけではない』と受け入れた上で、別の選択肢を模索する必要があります。

そして、『重要でない』の項目に関しては怒る必要はないと理解できるでしょう。このように分類すれば怒る意味がある項目と、怒る必要がない項目を視覚的に把握できると思います」

相手にリクエストをする

4つに分類した中で「重要でコントロール可能」の場合、適切に怒る必要があります。では適切な怒り方とはどのようなものでしょうか。

怒る目的は相手をやり込めることではありません。『次はこうしてほしい』『これはやらないでほしい』と、相手にリクエストすることが目的のはず。アンガーマネジメントの『適切な怒り方』とは、リクエストを明確に伝えることです。感情をぶつけることではありません」

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まとめ

「怒り」は人間に必要な感情です。しかし衝動的に怒りを爆発させると仕事のトラブルを引き起こしかねません。アンガーマネジメントのトレーニングを実践し、後悔しないような怒りとの付き合い方を学んでみてください。

【プロフィール】

松崎 晃一(まつざき こういち)
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 参事、合同会社アロー・パートナーシップラボ 共同代表。大学卒業後、大手販社にて入社2年目で全国セールスコンテスト1位を獲得。その後、企業後継者としてさまざまな心理学を学び、アンガーマネジメントと出合う。現在は創業五十年の企業を経営しながら、講師として研修や講演を行い年間受講者数1,000名以上。「受講者に寄り添う研修」をモットーにリピート率は80%を超える。
https://www.angermanagement.co.jp/facilitator/1933

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