人類、頑張りすぎ問題。ティモンディ・前田裕太が語る、肩の力を抜いて生きていく方法論

お笑いコンビ・ティモンディとしての活動のかたわら、近年は多方面での活躍も目覚ましい、前田裕太さん。後編では「自己承認と目標の関連付け」など、人生規模のトピックについて、さまざまにお話しいただきました。

高校野球の名門・済美高校で出会い、2015年に結成されたお笑いコンビ、ティモンディ。そのツッコミやネタづくりを担当されているのが、前田裕太さんです。近年はコンビとしての漫才芸だけでなく、コラム執筆、MCなど、前田さん個人の活動にも精力的に取り組まれています。後編では「自己承認と目標の関連付け」、さらには「結果と過程のどちらを大切にすべきか」といった人生規模のトピックについて、さまざまにお話しいただきました。

※インタビュー前編はこちら
“目標”を決めよう。“目的”も決めよう。ティモンディ・前田裕太が考える、人生を楽しむためのメソッド

ブレイク後に抱いたのは、仕事と人生の着地点を模索したいという思い

――お笑いの世界に入ったとき、「こういうふうに売れたい」という目標はありましたか?

いや、なかったですね。1〜2年目はただただ楽しく過ごしていました。何をしていたかと言ったら、相方の高岸(宏行)と公園で毎日キャッチボール、ってだけなんですけど(笑)。あとは衣装のスーツを買いに行ったり、お客さんが1人しかいないライブに出たり、先輩たちとご飯を食べてくだらないことを話したり。

並行して通っていた大学院は3年目になるぐらいで「さすがに出席日数が足りなさ過ぎない?」と言われて、「そりゃそうだ」ということで、中退を選びました。より楽しかったのが芸人の方だったので、そちらに費やす時間が増えた形でしたね。

――ティモンディさんがブレイクのきっかけをつかんだのは、2019年頃だったと記憶しています。2015年の結成から4年と、かなり早いですよね。ただただ楽しく過ごしているだけでは、決して達成できなかったと思うのですが、芸人としてやっていくことに本腰を入れたタイミングがあったのでしょうか。

事務所の大先輩、サンドウィッチマンさんの単独ライブツアーに毎年同行させてもらって、前説をやったり衣装の着替えを手伝わせてもらったりしていたんです。打ち上げにも参加させてもらって富澤(たけし)さんと話していたときに、「お前らはちゃんと考えれば売れる。もったいないよ」って言われて。

その時、「たしかに、“楽しい”だけでやっていたな」と思いました。高岸も「売れたい」と言っていたし、「じゃあちょっと頑張って、目標と目的を定めてやってみるか」と思って、2年計画を立てたのが芸歴3年目のことです。

――それはどんな目標と目的だったんですか?

表現が難しいんですが、簡潔に言うと目標は「テレビを作っている人たちに『出したい』と思われる芸人になること」で、目的は「この業界でご飯を食べていけるようになること」でした。そのためにどんな人がテレビマンから需要があるのか分析して、そうなるのに必要なものだったり、やるべきことだったりを逆算して考えましたね。

例えば、ライブで「最初はお客さんに笑ってもらえなくても、もし関係者が見たら興味を持ってもらえるようなことをやってみよう」と試してみたり、その映像を撮って「テレビの人がこれを見て仕事を頼もうと思えるか」という目で見返したり。そういうことを繰り返して2年で行くぞ、と思っていたら、ちょうど1年経ったあたりで『アメトーーク!』さんと『ゴッドタン』さんが声をかけてくれました。

ティモンディ・前田さん_インタビューの様子4

――想定よりも早く目標と目的を達成されて、今に至るまで仕事の絶えない人気芸人になられました。前編で「金銭的に豊かじゃなくても精神的な部分を満たしたい」とおっしゃっていましたが、ブレイク後はどんな目標と目的を設定されたのでしょう?

最初の目標と目的に向かって熱量を持って頑張ってきて、それは楽しかったんですけど、次の着地点はどうしようかなと考えたとき、自分の人生でやってみたいことや楽しそうなことに、力を入れたいと思いました。例えば、僕は本が好きなので、そういう仕事が来たり自分で本を出せたりしたらいいな、とか。

僕もそうなんですが、日本人って人生における仕事の割合が多いですよね。以前アメリカに行ったとき、いろんな人種や宗教、さまざまな属性の人たちと話していて「意外とみんな、仕事は人生の1ピースぐらいに過ぎないんだな」と感じました。僕自身も「野球が全て」という人生からの反動もあって、「仕事が全て」とはあまり思いたくなくて。だからワーク(仕事)の部分とライフワーク(人生)の部分の両方で、いろいろな着地点を見つけていきたいと思っています。

「幸せになるために頑張る」という、自己承認へのアプローチ

――以前、とある連載コラムで「夢の実現と自己承認に因果関係はない」と書いていらしたのが印象に残っているんです。一般的には、夢や目標などを達成することで自分を認められるようになるという考え方が主流かと思いますが、前田さんはその2つは関係ないと考えていらっしゃるんですね。

いろんな側面があるので説明が難しいんですが、「達成できた」というのはあくまでも結果に過ぎなくて、本当の自己承認はプロセスの中にあるのかな、と。自分だけの力で目標を達成できることって意外と少ないと思うんです。誰かに手助けされたり、周囲に対して「みんなのおかげだ」って感じたり。そういうふうに謙虚であろうとしたら、いつまでたっても自分を承認することは難しいですよね。それに、結果に対して自分が納得できないこともあると思います。

でも結果に至るまでのプロセスで、1%でも自分の力が反映されているなら、それは「私が携わったから達成できたんだ」と、本来は考えていいはずなんですよ。自分自身に対してはそれぐらいわがままに、やっていることを認めてあげていいんだと思います。

――「結果を出せたからすごい」のではなく、「結果に至るまで頑張ったことがすごい」のだ、と。

はい。そもそも100年生きたらすごいといわれる生き物が、生きている中で成し遂げられるものなんてそんなに多くないわけです。地球規模で見たら一瞬チカッと光って終わるものにしては、頑張りすぎている気がするんですよね。望んだわけでもないのにこの世界に産み落とされて、その中でよくやっているなと、みんな自分を褒めてあげたほうがいい。それが自己承認につながると思います。

――一瞬、スケールの大きい話にも思えましたが、たしかにそれくらい俯瞰してみるのも大事かもしれません。

自分で自分にマルをしてあげないと、マルをくれない社会ですから。自分の幸せに対して真摯に向き合うと、他人に評価されなくても「やっていて楽しいんだし、『楽しい』にちゃんと向き合えているからマルでしょ」と思えると思います。逆にいうと、働いていて自分にマルをしてあげられない業種・業界はもしかしたら向いていないのかもしれないですね。

――ここまでお話を聞いてきて、「楽しい」「幸せ」が重要なキーワードだと思いました。ただ、日々仕事に追われていると自分にとっての幸せとは何か、何を楽しいと感じるのか、見失ってしまいがちです。

誰でも、赤ちゃんの頃は関心を示すものが、何かしらあったはずなんですよ。つまり人間はみんな、目から入ってくる情報に脳みそが反応してしまうもの=好きなものを持っているわけです。でも大人になるにつれて、やらなければいけないことや人から背負ったものでいっぱいいっぱいになって、疲弊してしまって好きなものが分からなくなってしまう。それでも、誰しも何かしらの好きなものを持っているはずということは、忘れないでほしいです。

それから、この世界には人が人を楽しませようとしているものがたくさんあるのに、受動的にSNSのタイムラインを眺めているだけで、何かを満たした気になっていたらもったいない。それって結果として、人生をないがしろにしてしまっている気がします。仕事と同じぐらいの興味関心と熱意を持って、自分の人生を豊かにするために取り組むべきだと思うんですよ。

――ああ、耳が痛いです……。

自分に対してもうちょっと長い目で見てあげられるようになるといいですよね。それは自己承認ともつながっていると思います。例えば休日、「大人になってからゲームセンターに行ったことないな」って行ってみて、結果として「楽しくなかった。この時間は何だったのか」となったとしても、それは仕事と同様に頑張っていて尊い行為なんですよ。

自分の人生を幸せにするという大きな命題の中で、「やってみることリスト」にチェックを入れられたわけで、「楽しくなかったけど、でも幸せになるために頑張ったよね」って、自分にマルをしていい。そういう繰り返しの中で、自分が楽しいこと・幸せなものを見つけられたらラッキーですよね。

キャリアを拓くヒントは、「楽しいもので満たした人生」を送ること

ティモンディ・前田さん_インタビューの様子6

――「自分自身を長い目で見る」という言葉が出ましたが、近年は「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉が流行し、目標達成の過程においても効率や合理性を追い求める人が増えているといいます。こうした風潮をどう思われますか?

僕は「矛盾しているな」って思っていますね。「めちゃくちゃ忙しい」と言いながらX(旧Twitter)をずっと流し見している人っているじゃないですか。それと似たようなもので、タイパを極限まで高めて、そのぶん捻出できた時間を何に使っているのかといったら案外みんな「いや、無駄じゃん」ってことばっかりしているんじゃないかなと思います。自分の人生を豊かにするために使えていたらいいでしょうが、時間という側面だけで見たら矛盾していることも多いんじゃないかと。

――合理性を追求していたつもりが、実態としてはそうなっていないのではないか、と。

そうですね。人間なんて、本来は別に合理性のない生き物ですから。誰かと暮らしたいと思って結婚したのに「1人の時間が欲しい」と言ってみたり、悲しいことがあって泣くんじゃなくて、泣くためにわざわざ悲しい映画を観に行ったり、矛盾している部分がいっぱいある。そんな生き物なんだから、1つの側面だけで合理性を追求しようとするのは違う気がするんです。

――地球規模で考える自己承認のお話もそうだったように、物事の捉え方がとても広く根源的で、ハッとさせられます。最後に、キャリア形成を前に漠然とした不安やモヤモヤを抱えている20〜30代のビジネスパーソンに向けてメッセージをいただけますか。

かっこいいものや美しいものは意外と1つじゃないし、居場所はいくらでもあるものだから、「ここじゃないかもな」と思っている仕事を変えるのは1つの手だと思います。もちろん、そのまま続ける選択肢もある。どちらにしてもなぜそれを選択するのか、自分の人生を見つめて掘り下げてみると、もし続けたとしても働き方は変わるんじゃないでしょうか。

「自分がどうしたいのか」と自問自答したとき、何も出ない人もいると思います。でも、先ほども言ったように、世の中にはすごく素敵なものがいっぱいあります。人生は思っているより短いし、耐えていたらそのまま終わってしまう。短い人生を楽しいもので満たしてあげられるといいですよね。

 

※インタビュー前編はこちら
“目標”を決めよう。“目的”も決めよう。ティモンディ・前田裕太が考える、人生を楽しむためのメソッド

【プロフィール】
前田裕太(まえだゆうた)
1992年、神奈川県生まれ。済美高校卒業後、駒澤大学に進学ののち、明治大学法科大学院中退。2015年1月、高岸宏行とともにお笑いコンビ・ティモンディを結成。趣味はサッカー観戦、読書。近年は、コラム執筆、イラスト力の披露、料理などマルチな活動で注目を浴びる。
ティモンディ・プロフィールページ
X:TimonD_Maeda

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