会社員からアイドルへ転身、アイドル卒業後は会社員としてeスポーツ関連の企画運営に携わり、現在はキャリアコンサルタントとして活動中の十束おとはさん。他にもゲーマータレントやMC、ライターなど複数のキャリアを持ち、独自のキャリアを築いています。
インタビュー前編では、学生時代やアイドルになるまでの経緯、アイドル時代の葛藤や会社員に転職した後のお話など、「異業種への転職」を遂げてきた十束さんの道のりについて語っていただきました。
※インタビュー後編はこちら
必要なのは、立ち止まる勇気。キャリア支援に励む十束おとはに聞く、迷ったときの処方箋
新卒で入った会社をやめて引きこもりに。人生を変えたオーディション
――十束さんはどんな子どもだったんでしょうか?
幼少時代からインドアだったのですが、自分の意思ははっきりしている子で、「これがやってみたい」と親にはっきり言う子でした。ゲームとアニメはもちろん、本も大好きで、小学校に入る前から簡単な活字の本を読むのが好きだったみたいです。
小学生のころはポケモンに夢中で、中高生になると、ゲームやアニメだけでなく、映画などのサブカルチャーも大好きになりました。中高生のころは、学校生活に馴染めなかったので、当時の私は居場所を求めていたのかなと。でも、結果として今になってそのころの経験や知識が仕事に活きているので、人生って何があるか本当に分からないなと感じていますね。
――大学時代はどうでしたか?
中高一貫の女子校に通っていたので、大学生になってから初めて外の世界に触れたんです。授業やバイトを通していろんな人に出会って、「今の私のままでいいのかもしれない」と思えるようになりました。
でも、叶えたい夢とか目標は特になくて。社会福祉学科に入ったんですけど、なんとなく身近な人の役に立てそうだと思ったから入っただけで、福祉の分野で働くイメージをつかめていませんでした。実習に行ったときに、素敵な仕事だけど、自分にはこの仕事は務まらないんじゃないかと思ってしまったんです。
自分が本当に何をしたいのか、分からないまま大学3年生になって、就職ガイダンスを受けたときに急に選択を迫られた感覚があって。「この先どうしよう……」と悩んでいましたね。
――アイドルになる前に一度、会社員になっているんですよね。その会社を数ヵ月で辞めてしまったそうですが、理由はなんだったんでしょうか。
軸がぶれた状態で就職活動をしていたときに、たまたま内定をもらって入った会社だったというのもあって、なかなか社風になじめなかったんです。このまま続けても、会社のためにも自分のためにもならないと思って、すぐに辞めてしばらく家に引きこもっていました。家からまったく出ず、好きなゲームをする気も起きなくて、何もせずにただ療養していましたね。
――その後、セガグループから発売されている格闘ゲームの公認応援団『電撃FIGHTINGガールズ』のオーディションを受けて2014年に芸能界入りするわけですが、そもそもなぜオーディションを受けようと思ったのでしょうか。
好きな作品だったというのはもちろんなのですが、好きなキャラクターのコスプレをして広報活動できることが一番の魅力でしたね。いちばん好きなキャラクターだったので、「他の人にやらせたくない!」「この仕事だけは譲れない!」と思って応募しました(笑)。
人前に出ることになるとか、そういうところまで考えが及ばないくらい、とにかくやりたいっていう気持ちが湧いてきたんです。『電撃FIGHTINGガールズ』がなければもっと引きこもっていただろうし、アイドルにもなっていなかったと思います。
――アイドルグループ「フィロソフィーのダンス」には、どういった経緯で加入したんですか?
応援団の活動は、最初から任期が1年と決まっていたので、次に何をやるかを考えていたときに、「フィロソフィーのダンス」のオーディションがあることを知りました。
自分がアイドルになるなんてそれまで考えたこともなくて、自分とは別の世界の人たちだと思っていたんですが、でんぱ組.incさんとかももいろクローバーZさんとか、アイドルが昔からずっと大好きで。せっかくなら好きなことを全部やってから芸能界をやめようと思って、オーディションを受けることにしました。
ただ、アイドルになるためのトレーニングなんてもちろんやってこなかったので、オーディションでは、緊張して声が出なくて歌えなかったんです。歌はボロボロだったけど、当時見ていたアニメの話をしたら、それがプロデューサーさんに刺さったみたいで加入が決まりました。
アイドルをがんばれたのは、一度失敗した経験があったから
――アイドル時代にいちばん大変だったことはなんでしたか?
やっぱり歌とダンスですね。もともと運動がすごく苦手だったし、歌うときの筋肉の動かし方も分からなかったんです。カラオケも人とはあまり行ったことがなかったので、「どうやって声を出せばいいんだろう?」というところからのスタートでした。
苦手なことばかりだったから、気合と根性で頑張ったというか……。私の場合、すごく勇気を出して外に出たことや、過去に就職で失敗していたこともあり、簡単にはやめたくない、もうちょっと頑張ってみたいという気持ちがありました。
――失敗していたからこそ、頑張れたんですね。
そうですね。もし学生時代にアイドルになっていたら、頑張れていなかったかもしれません。あとはやっぱり、仲間や応援してくださる方がいたからですね。
――フィロソフィーのダンスは、ファンクやR&Bを基調とした音楽性や高い歌唱力が評価され、早くから注目されていました。2020年にメジャーデビューを果たすなど、グループとしては順調でしたが、十束さんは2022年にグループを卒業します。きっかけはなんだったんでしょうか?
体調を崩したことが、最初のきっかけです。コンディションが崩れたまま、無理に続けるよりも、グループのために戦力として100パーセントを注ぎ込めるうちに卒業したいと思ったんです。
自分のキャリアを考えてみても、一度違うことをしてみるのもいいんじゃないかなと。それで、新メンバーにきちんと引き継ぎをして、卒業できる基盤が整った時期に卒業しました。
――卒業後、体調は落ち着きましたか?
卒業してからは落ち着いていますね。今思うと、当時は頑張ろうという気持ちがオーバーヒートしていた感じがありました。4人いたメンバーのうち自分だけが未経験者だったというのもありますし、ファンの方々が応援してくれているっていう気持ちに応えたくて、「頑張るしかない!」と思っていて。
実は、最近になって初めて、リフレッシュの方法が分かってきたんです。今まで休みがないのが当たり前だったので、「ああ、お休みの日ってこんな感じなんだ」って実感して。
当時は、人に相談することもあまりなかったですし、リフレッシュする方法も分かっていなかったので、八方塞がりだったのかなと今では思います。アイドルはすごくやりがいのある素敵なお仕事だし、楽しい思い出ばかりだけど、もう一度やるかと聞かれたら、同じようにはできないかなって。自分を一度、客観視することも必要だったんだと感じています。
アイドルを経験したからこそ、自分にも他人にも向き合えるようになった
――アイドルになったことで、自分が変わったという実感はありますか?
かなり変わったと思います。まず、人見知りだった自分が、どんな場面でもちゃんと相手の目を見て話ができるようになったんです。
それと、CDなどの特典会で、累計で何千という人とお話しさせていただいたんですが、その経験のおかげで、この人はこういう人なのかな、というのを短い時間で感じられるようになったんです。私はこれを「人読み」と呼んでいるんですが(笑)。これは、今やっているキャリアコンサルタントのお仕事でも活かせている気がします。
――「人読み」って技みたいですね(笑) インドアで人見知りだったところから、なぜそんなに変われたんでしょうか?
変わらざるを得なかったし、変わりたいってたぶん自分自身でも思っていたんだと思います。学生時代も就活の時期も、思い返してみると、環境だけでなく、自分の考え方や感じ方に少し問題があったかなと反省していて。
転生するみたいに、お仕事を変えた先でやりたいことをたくさん実践してきたからこそ、そんな自分を変えられたのかなと思っています。場所を変えると、自分の気持ちも人との関わり方も変わるので、私にはそれが良かったのかなと。
――アイドル卒業後はエンタメ系の会社に就職して、eスポーツなどの企画を担当していたとのことですが、どうして今までとはまったく違う会社員という道を選んだのでしょうか?
卒業を考えている時期から、キャリアコンサルタントの資格を取りたいとは思っていたんですが、いろんな方のキャリアのご相談を聞くには社会人経験が足りていないと思って。それで、もう一度ちゃんと働きたいと思ったんです。その中でも、好きなこととか今までやってきたことが活かせそうなお仕事に就きたくて、eスポーツ関係の会社に入社しました。
――企画の仕事は初めてだったわけですよね。
そうですね。企画書を書いたこともなかったし、議事録の取り方も分からない。メールの送り方にしても、どこまでをCCに入れるべきなのか……。そんな細かいことをいろいろ一から勉強しなければいけなかったので、最初は大変でした。
キャリアコンサルタントの資格を取るための学校にも通うつもりだったので、会社と学校の両立ができるんだろうかという不安もありました。でも人に恵まれて、ちゃんと両立させられたんです。その会社には1年半お世話になり、2024年にフリーのキャリアコンサルタントになりました。
――「人読み」以外に、今も活きているアイドル時代のスキルはありますか?
あいさつをちゃんとすること、人に好印象を持ってもらえるように努力すること。これは芸能界の掟みたいなものですけど、一般社会でも同じなんですよね。仕事は人でできている。そのことをアイドル時代に学べたことは、すごく貴重な経験だったと思っています。
※インタビュー後編はこちら
必要なのは、立ち止まる勇気。キャリア支援に励む十束おとはに聞く、迷ったときの処方箋
【プロフィール】
十束おとは(とつかおとは)
2015年8月、フィロソフィーのダンスのメンバーとしてアイドルデビュー。アイドルとしてだけでなく、ゲーマータレントとしても活躍。2020年9月にメジャーデビューし、2022年11月19日、日比谷公園大音楽堂にて卒業した。約1年半のOL生活を経て、現在はゲーマータレント、MC・ライター、さらにはキャリアコンサルタントとして活動の場を広げている。趣味はゲーム、自作PCやガジェット集め、映画鑑賞、アニメ、漫画、アメコミ。
【関連記事】
ハシヤスメ・アツコがBiSH時代に直面した理想と現実のギャップ。自分の役割との向き合い方
ハシヤスメ・アツコの夢のかなえ方。笑われても目標を口にする
元AKB48 島田晴香の「転身術」。新しい道を踏み出す0.5歩
あなたの本当の年収がわかる!?
わずか3分であなたの適正年収を診断します