仕事をするうえで、自分の行動を振り返り、改善することは大切です。「内省」を日々の習慣に取り入れることによって、自分自身だけでなく、組織全体の成長にもつながります。
この記事では、内省の意味と反省との違い、内省できる人の特徴、内省する方法について、「組織論から考える ワークショップデザイン」の著者であり、株式会社北野商会代表の北野清晃さんに伺い、わかりやすく解説していきます。
内省とは?
「内省」という言葉は、主にビジネスにおいてどのような意味で使われているのでしょうか。似た意味を持つ言葉の「反省」との違いなどを含めて解説します。
ビジネスにおける内省の意味
内省は、英語で「リフレクション(reflection)」とも呼ばれ、自分の行動や行為、いわゆるアクションについて、さまざまな視点から向き合うことを意味します。内省では「なぜ自分はそのような行動をしたのか?」「なぜ自分はそのように考えたのか、感じたのか?」と自問自答し、その結果を自分なりの「仮説」や「理論」に落とし込んで、さらにその仮説や理論を新しい状況下で試すという「行動(アクション)」につなげます。
内省の重要なポイントは、単に出来事を「振り返る」のではなく、前後にアクションがあるということです。内省を習慣にできると、このような「行動→内省→仮説→行動」という、成長のサイクルを回すことができるようになります。一流のビジネスパーソンは「内省の達人」といっても過言ではありません。
内省と反省の違いは?
反省は過去を振り返り、事実や問題点を挙げることを意味します。例えば、イベントを企画・実施した場合を考えてみましょう。反省の場合は、イベント実施までの過程や結果を振り返り、そこから「時間が足りなかった」「内容を盛り込みすぎた」と事実や問題点を洗い出します。
一方、内省の場合は、過去を振り返ったうえで「時間的余裕のある構成にすると柔軟に対応できるのではないか」と仮説を立て、「内容がブレないようコンセプト設定を熟考するとよい」と理論に落とし込み、「そのために企画段階でコンセプトづくりを丁寧にしよう」と次のアクションへつなげます。反省は、事実や問題点を振り返るだけで、内省のような前後の行動がありません。また、問題点を振り返るだけでは、ネガティブな項目に焦点があたりがちになってしまいます。
内省するメリットは?
ではビジネスシーンにおいて、内省することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。具体的な例を紹介します。
自己成長につながる
内省することで、自分の成長サイクルが回りはじめます。自分が「体験したこと」「考えたこと」「感じたこと」を振り返って、従来の自分の思考パターンを見直し、「新しい自分の思考パターン(持論)」へ昇華できれば、能動的に次の行動がとれるようになってきます。このサイクルを回すことで、経験を成長へと効果的につなげることができるでしょう。
業務改善につながる
ビジネスシーンで行動を起こしたときに内省する習慣をつけておくと、業務内容を改善するサイクルが生まれます。例えば、ある作業に想像以上に時間がかかってしまった場合も、ただ反省するのではなく、「こうするとさらに時間を短縮できるのでは」と仮説を立て、実践することで、業務の効率化に結びつけることができるでしょう。
組織の成長につながる
職場やチームで内省を行うことで、組織の学習サイクルが回りはじめます。複数人が関わる仕事であれば、節目となるタイミングで、ともに内省しましょう。自分以外の視点が入ることによって、意外な解決方法が見つかる場合もあります。内省する際の思考も深まり、発想をより豊かにすることができるでしょう。
【無料診断】あなたの仕事力はどれぐらい?リモートワークにも役立つ仕事力をチェック
内省できる人の特徴は?
内省できる人にはどのような特徴があるのでしょうか。考え方や行動パターンなどを詳しく見ていきましょう。
自分の意思で行動を起こせる
新しい仕事に挑戦するなど、自分の意思と責任で行動を起こす人は、自然と内省し、次の行動につなげることができます。逆に他者に言われてから行動する人は、内省のモチベーションが湧かず、「やりっぱなし」になりがちです。
学ぶ意欲が高い
知識をインプットするだけではなく、「経験を通した学び」への意欲が高い人は、内省することができるでしょう。未知の仕事や人に出会ったとき、勇気を持って踏み込める場合は、たとえ失敗しても、それを学びに変えられます。逆に、学ぶ意欲が低いと、失敗のリスクが少ない、安全な範囲での行動にとどまるので、内省も浅くなりがちです。
俯瞰的に物事を考える
自分が体験したこと、考えたことや感じたことを俯瞰的にとらえ、思考を整理できる人は、内省によって「自分の思考パターン(持論)」を創り出すことが得意です。逆に、俯瞰的に物事をとらえられないと、場当たり的な対応しかできず、結局同じような結果しか生まれないことが多いでしょう。
【無料診断】そのモヤモヤの原因は?キャリアのヒントが見つかる「モヤモヤ解消診断」
内省はどのようなビジネスシーンで活かせる?
内省はどのようなビジネスシーンで活かすことができるのでしょうか。具体的な例を紹介します。
頑張った仕事で成果を出せなかったとき
熱心に取り組んだものの成果を出せなかったとき、内省が役に立ちます。例えば営業職の場合、頑張って提案したのに受注できなかったという経験がある人も多いのではないでしょうか。この結果だけを受け止めて「ドンマイ」で済ませてしまうと次につながりません。内省できる営業担当者は、「なぜ価値が相手に届かなかったのか?」「そもそも提案内容は正しかったのか?」と自問自答し、提案方法を改善するなど、次の行動につなげます。
場合によっては、顧客に「競合他社の何が良かったのか?」「どうしたら受注できたのか?」をヒアリングし、顧客を巻き込みながら内省する人もいます。一流のビジネスパーソンは、失敗したタイミングからすでに次の行動を始めているのです。
マネジメントがうまくいかないとき
管理職になって直面する壁を乗り越えたいときに内省が役に立ちます。今までプレーヤーとして成果を出してきた人ほど、何でも自分でやろうとしがちです。しかし、結果としてメンバーが主体性を失って、指示待ちや受け身になってしまうことがあります。
「自分の行動を部下はどう思っているか?」「どうやったら部下はイキイキと活躍してくれるか?」を自問自答し、「自分が動くスタイル」から「メンバーを動かすスタイル」へと少しずつ自己変革していきましょう。活躍する管理職は、深く内省することで、柔軟に行動スタイルを変えることができます。
資格試験や面接、コンペなどに受からなかったとき
資格試験や面接、コンペなどに向けて対策をしたものの、うまくいかなかったときに内省が役に立ちます。結果だけを受け止めて「今回は運が悪かった」ですませてしまうと、次につながりません。次に合格できる人は、「具体的にどこが問題だったのか?」「自分の勉強方法は正しかったのか?」と自問自答し、次に向けての行動につなげます。大人になってからの試験は、能力よりも行動によって差がつくことも多いでしょう。
効果的に内省する方法
では、内省はどのように行うと良いでしょうか。効果的に内省を行うためには、次の3つのフレームワーク(物事を考える上での枠組み)が便利です。これらのフレームワークは思考を整理し、未来を考える視点や切り口を教えてくれるため、目的に応じて使いやすそうなものを使うと良いでしょう。ここで重要なのは、前述したようにすべてのフレームワークに「次の行動」につながる項目が入っていることです。
KPTで考える
これは、職場や仕事の問題など、いわゆる「問題解決」に使いやすいフレームワークです。自分自身を振り返り、下記の3つに当てはまる問題をそれぞれ記載しましょう。
Keep(うまくいっていて、続けたいと思うこと)
Problem(現在問題となっていること)
Try(上記を受けて、今後解決・改善する必要があること) = 次の行動
KDAで考える
これは、業務項目の見直しなど、いわゆる「業務改善」に使いやすいフレームワークです。
自分自身を振り返り、下記の3つに当てはまる問題をそれぞれ記載してみましょう。
Keep(うまくいっていて、続けたいと思うこと)
Discard(問題解決のために、やめる必要があること)
Add(上記を受けて、今後新しく取り入れること) =次の行動
YWTで考える
新しいイベントを企画・実施した後など、いわゆる「実験・試行」に使いやすいフレームワークです。このフレームワークのみ、日本語の頭文字からできています。自分自身を振り返り、下記の3つに当てはまる問題をそれぞれ記載してみましょう。
Y(これまでに自分がやったこと)
W(これらの経験から、わかったこと)
T(上記を受けて、次にやること) =次の行動
状況に応じてこれら以外のフレームワークを使っても構いませんが、必ず「次の行動」につながるような「未来志向の問い」を盛り込みましょう。
内省する際のポイント
ここまで内省のメリットや方法について紹介してきましたが、効果的に内省するためにはどのような点に気をつけるべきでしょうか。知っておきたいポイントについて解説します。
「最初に行動ありき」を忘れずに
繰り返しになりますが、内省は「最初に行動ありき」です。行動を起こしたからこそ、内省できるわけです。行動する前から考えこんでしまっていては、何も始まりません。最初に行動する時、新しいテーマや、難易度の高いテーマであるほど勇気がいりますが、思い切って挑戦したときほど内省も深くなるため、結果として自己や組織の成長につながるはずです。
対話を通じて内省を深めよう
自分だけで内省することもできますが、ぜひ他者と内省することをおすすめします。ワークショップ形式で対話ができれば、内省を通したチームづくりや、新たなアイデアの発見にもつながるでしょう。自分が内省したことを他者に共有するだけでも意味があります。話すことでさらに思考が深まるとともに、他者からフィードバックがもらえれば、内省はより豊かになるはずです。
内省はタイミングも重要
内省するタイミングも重要です。長期的なキャリアや人生に関わるテーマの場合は、昇進・昇格、3〜5年に1回など、自分にとって節目となるタイミングで内省するようにしましょう。数カ月にわたるプロジェクトの場合は、各プロセスの終了時など、内省のタイミングをあらかじめ計画しておくことをおすすめします。短期間のプロジェクトの場合は、終了後の記憶が新しいうちに早めに内省を行うと良いでしょう。
内省は創造的な思考の習慣
以上のように、内省は、ビジネスパーソンの自己成長や成果を生み出す、「創造的な思考習慣」とも言えるでしょう。仕事では、成功することもあれば、失敗することもあります。しかし、失敗しても内省して次の行動へとつなげることが重要です。すぐに結果が変わらなくとも、長い目で見れば、いずれ成功につながるはずです。ぜひ、「内省の達人」を目指してみましょう。
監修:株式会社北野商会 代表取締役 北野清晃
ワークショップデザイン研究所 代表
組織の学校 校長
金沢大学大学院を修了後、都市計画コンサル会社に入社。その後、人材育成や組織開発を支援する公益法人にて、研修やワークショップの企画業務に従事する。退職後は、実家の事業承継に取り組みながら、京都大学大学院情報学研究科博士課程にて組織デザイン、ワークショップデザインの研究に取り組み、博士号を取得する。現在は、人・組織・事業に関する実践的知識を学ぶ場づくりを目指し、企業や自治体の研修講師、各種ワークショップのファシリテーターとして活躍している。著書に『組織論から考えるワークショップデザイン』など。
【関連記事】
朝活のプロに聞く! 仕事にも将来にもポジティブに向き合うための「モーニングルーティン」
ビジネスにおける企画力とは?高め方と具体的な企画立案フローを紹介
ブレストとは?ルールや効果的な進め方を分かりやすく解説
あなたの本当の年収がわかる!?
わずか3分であなたの適正年収を診断します
