「向き不向き」は必ずある。受け入れてあきらめるのが最初の一歩
ーー新刊『凡人の戦略 暗躍する仕事術』では、「良くも悪くも、人には向き不向きがある」ということが、重要なテーマになっているかと思います。サトミツさんは、幼少期に始めたサッカーを通じてそのことに気づいたそうですね。
そうですね。「自分はサッカーに向いていないんだ」というのは、わりと早い段階で気づきました。というのも、僕が子どもだったころは、多様性が重視されている今と違って、「誰しも頑張れば頑張っただけ報われる」という考え方が一般的だったんです。
でも、現実的に考えてみると、そんなわけないじゃないですか? 身長も体重もDNAもみんな違うんだから、同じような結果が出るわけがない。もしも努力した分だけ結果が出るような優秀な子どもだったら、いきなりそんな結論には辿り着かなかったと思うけど、僕の場合は、そうではなかった。
地元のサッカーチームに入ったのは小学1年生の春だったから、スタートは早いほうだったのに、あとから入ってくる子たちにあっという間に抜かれていくんです。みんなと同じ練習をしているし、なんなら、練習が休みの日にも一人で練習していた。練習の総量や練習への意識も高いほうだった。そこで出た明確な差はなんだろうって。
もちろんそういった積み重ねが数年後に急に華が開くタイミングもあるので一概に言えることではありませんが、ほぼ練習もしていない最初にボールを蹴りにきた子にレギュラーを奪われる日々には思うところがありました。
勉強も同じです。まじめな子どもだったから勉強もある程度は頑張っていたのに、成績もそんなに上がらない。まじめにやってるのに勉強ができないってなんかおかしいな、話が違うぞと思いました。いや、これもいま考えれば勉強の仕方もあるし、集中力もあるし、全然違って当たり前なんですけどね。
ーー努力していたからこそ、「努力=結果」ではないのだと冷静に受け止められたんですね。
はい。だからと言って努力をやめる必要はないし、僕自身も努力は続けていたんだけど、センスの良し悪しや生まれ持ったものの違いはあると思いました。
もしうまく結果が出ないなら、強みはもっと別のところにあるはずなんです。それは、いろんなことをやって、うまくいかない経験も積み重ねた上で、「こういうところがいいんじゃない?」と周りに言われて、初めて気づいていくものだと思います。僕自身、そうやって今の仕事に辿り着いたので。自分の強みがどのタイミングで見えてくるかは、人との出会いや運によると思いますが、自己評価を当てにせず、いろんなことを試してみると見えてくるんじゃないかなと。
他人の評価を受け止めて「絶望」すれば、自分らしさが見えてくる
ーー『凡人の戦略 暗躍する仕事術』では、「やりたいこと」「向いているもの」「やるべきこと」を切り分けて見極めることが大切だと書かれていましたね。具体的にどうしたら見極められるようになるのでしょうか?
まずは、信頼できる人の評価を冷静に受け止めることが大事だと思います。
僕は『スッキリ』の放送作家を13年ぐらい担当して、現在は、後継番組の『DayDay.』を引き続き担当しています。そのほか、『ヒルナンデス!』や『ズームイン!!サタデー』、短期間だけど『ZIP!』もやり、日テレの朝番組を全部担当しているのでは?という時期がありまして。日テレの朝を制圧したのかな、と冗談で言ってたくらいで(笑)。
これだけの番組を任せられているということは、朝の情報番組に向いてるってことだと思うんですよね。少なくとも、番組の予算が限られている中、お金を払って僕に任せたいと思ってくれた人がいたわけで。
こんなふうに、自然と任せてもらえる仕事を自分のストロングポイントだと自覚して、期待に応えられるように筋肉をつけていけば、「やりたいこと」「向いているもの」「やるべきこと」を切り分けて考えられるようになるんじゃないかなと。あとは、いろんなことにちゃんと絶望することも大事ですね。
ーー「ちゃんと絶望する」とは、どういうことでしょうか?
僕の話で例えると、「日テレの朝番組はいろいろ担当しているけど、フジテレビのゴールデン番組は一つも担当していない」ということを直視する、みたいなことですかね。
お笑い芸人としてキャリアをスタートしたのであれば、バラエティの超面白番組も、一つくらい作れそうなものじゃないですか? でも、僕にはバラエティ番組を作る才能もスキルもないんです。そもそもテレビのバラエティ番組って、今は『キョコロヒー』と『ハマスカ放送部』くらいしか担当していないし。
2024年11月には、作・演出・出演を担当している『劇・佐藤満春』を4年ぶりに開催したけど、場所は150人くらいのキャパのホールで、期間も2日間、3公演のみだったんです。久しぶりの開催ということもあって、チケットはすぐ売り切れたけれど、「次はもっと大きい会場にしよう」とか、「2日間じゃなくて1週間にしよう」とか、「将来的には全国ツアーみたいになったらいいな」とか、そういうことはまったく考えていないんですね。この劇が何かの賞を獲ることもないし、獲りたいとも思っていない。
若いころだったらそんなことも考えたかもしれないけれど、時を経て、自分の実力や軸が分かった今、等身大の公演をやろうと思ったら、やっぱり「小さめのホールで2日間3公演」というのが、僕にはすごく合ってると思うんです。
こんなふうに、自分の実力とか向き不向きをちゃんと理解した上で、はっきり割り切るということが「ちゃんと絶望する」ってことなんじゃないかなと。
ーーご著書の中でも、「向いていないことは潔く諦めることが大切」と書かれていましたね。
僕の場合、打ち上げがすごく苦手なんです。お金も時間もかかるし、ずっと人の機嫌をうかがっていないといけないし。「行ったとしてもいい気持ちにはならない」と判断してからは、打ち上げや飲み会に行くのをきっぱり諦めました。
でも、飲み会に参加しなくなった分、仕事関係の人とコミュニケーションを取る機会はどうしても減ってしまうんですよね。だからこそ、仕事の結果やクオリティで穴埋めすることで、信頼関係を作っていこうと意識しています。
大切なのは、自分の実力や性質に向き合って、諦めるべきことは諦めること。誰しも向いていないこと、苦手なことはありますから、諦めるのは全然悪いことじゃない。諦めた部分をどうやってカバーしていくのか、自分に合う方法を考えていけばいいんじゃないかなと思います。
「成長」がすべてではない?サトミツ流・仕事の広げ方
ーー仕事やキャリアの幅を広げていくには、どうしたら良いのでしょうか?
本のほうで詳しく紹介していますが、まずは付加価値をつけて希少性を高めること。でも、希少性だけを求めてオリジナリティーを身につけても見透かされてしまうので、好きなことを突き詰めていくのがいいと思います。結局、うそってバレちゃいますからね。
僕の場合は、昔から好きで興味があった「トイレ」や「トイレ掃除」を自分なりに掘り下げて研究していくうちに、「トイレ博士」としてイベントに出演したり、取材を受けたりするようになっていったんです。
ただ、最初はそれで食べていこうとか武器にしようとか、そんなことは全然思っていませんでした。結果的に付加価値になっただけ。今回の本のタイトルは『凡人の戦略』になってますけど、あとから振り返ってみると戦略になっていたのかなっていう、結果的な戦略なんですね。
だからまずは、付加価値にしようとか、希少性を高めようとか、そういうのは抜きにして、好きなものを追求する「アクセル」を踏むことがすごく大事だと思います。
僕の場合、トイレ関連の仕事をもらうようになってからは、ある程度語れなきゃいけないから、もちろん追求の仕方も変わったけど、まずはやっぱり、恥ずかしげもなくトイレのショールームに行ってみるとか、突っ込んで歴史を調べてみるとか、そういうことがすごく大事だった気がします。そうやってどんどん深く掘っていけばいくほど、点と点がつながって、ある時、線になり、結果的に希少性になる。好きなことじゃなかったら、点と点はつながっていなかったかもしれないですね。
これは芸能活動に限らず、会社員やフリーランスとして働いている人にも言えることだと思います。例えば、キン肉マンについて語れる営業の人がいたら、それが役に立つかは分からないけど、一つの名刺にはなりますよね。横浜DeNAベイスターズを愛しているってことが、何かの仕事につながるかもしれない。
とにかく、自分が感動できることや楽しめること、自我を忘れて取り組めること。そういうものを大事にすることが大切なんじゃないかと。それが今なかったとしても、そういう出会いって運でしかないから、別に卑下する必要は全然ないと思います。僕も、もともとそれがゼロだった側ですし。
ーー「成長」を重視するビジネスパーソンは多いかと思います。仕事を始めてすぐは、できることが増えていくので、成長している実感も感じやすいものですが、数年、数十年経つと、自分の成長を感じる瞬間というのはどうしても減っていきますよね。佐藤さんご自身もそういう感覚はありますか?
そうですね。僕は生放送のラジオパーソナリティを計9年やって一旦辞めたのですが、実力的にそこから飛躍的に化け物パーソナリティになるかというと……考えにくい。いや、別になる必要もないんですが。
ーー成長している実感がないことに対して、「このままでいいのかな」と不安や迷いを感じているビジネスパーソンは少なくないかと思います。そうした人に対して、アドバイスをいただけますでしょうか。
成長曲線が横ばいになって、なんならそのあと下がっていく……なんてことはいろんなジャンルであると思うんです。だけど、長く続けることで成長が失われる代わりに、僕らは「経験値」を手にしているんですよね。しかも、この経験値には、成功した経験も失敗した経験も加算されていく。それが年を取る強みだなと僕は思っていて。もし成長を感じられなくなったら、今ある経験値を活かす役割や立場を担っていけばいいんじゃないでしょうか。
経験値がいつどんなふうに役立つかは、自分で操作できないから分からないけど、成長曲線なんかいずれ止まるに決まってるので、別の成長曲線に乗り移るタイミングをいかに作っていくかが重要だと思います。僕自身も、あと数年で50歳を迎えるので、次はどんな成長曲線に乗り移っていくのか、それまでにゆっくり考えていこうと思っています。
まとめ
「今の仕事が自分に向いているのか分からない」「キャリアを広げていくにはどうしたら良いんだろう……」。仕事をしていると、こうした問いに直面することも少なくありません。良くも悪くも、自己評価が外れることは往々にしてあります。自分の目標や可能性を決めつけすぎず、他人からの評価を受け入れてみると、自分らしく輝ける仕事や役割が見つかるかもしれません。
『凡人の戦略 暗躍する仕事術』では、裏方として活躍されている佐藤さんの仕事術やマインドが詳しくまとめられています。ビジネスパーソンに役立つヒントがたくさん紹介されているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
『凡人の戦略 暗躍する仕事術』
著 佐藤満春
発行 KADOKAWA
話を聞いた人:佐藤満春さん
1978年2月17日生まれ、東京都町田市出身。岸学とのお笑いコンビ「どきどきキャンプ」や、『DayDay.』『ヒルナンデス!』(日本テレビ)などを担当する放送作家と、さまざまな顔を持つ。2023年2月、自身の人生観・仕事観・芸人観などをつづった書き下ろしエッセイ『スターにはなれませんでしたが』(KADOKAWA)を発売。2024年11月1日には、『凡人の戦略 暗躍する仕事術』(KADOKAWA)を発売。
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