固定概念は誤用?固定観念との違いや具体例、とらわれない方法を解説

何気なく使っている「固定概念」という言葉。「固定観念」との違いや具体例、「固定概念」にとらわれない方法などについて解説します。

固定観念(固定概念)にとらわれず議論を交わす様子

凝り固まった考えや先入観によって「固定概念」にとらわれてしまうことは、誰しもあるかもしれません。ビジネスシーンにおいては、できる限りそれらを手放し、柔軟な発想やアイデアを持つことが求められます。この記事では、「固定概念」の意味やデメリットについて、コミュニケーション論の専門家であり、企業の組織づくりにも携わっている拓殖大学商学部教授の長尾素子さんに伺った内容をもとに、分かりやすく解説します。

固定概念の意味とは?固定観念とはどう違う?

書類作成中に固定概念と固定観念で困惑している様子

固定概念は、一般的に英語で「stereotype」を意味する言葉として知られています。

新英和大辞典(研究社,第6版,2002)によると、stereotypeは、「固定観念、紋切型態度、ステレオタイプ(一定の社会的対象に関してある集団の中で共通に受け入れられている単純化された固定的概念、イメージ)」と定義されています。もともとは、印刷道具であるステロ版(鉛版)に由来する言葉であり、まるで型を用いたかのように同じものが作り出せることから、同じ考え方が繰り返され、凝り固まってしまうことを意味する言葉として知られるようになったのです。

固定概念は誤用?

「固定概念」は「固定観念」と使われている意味が近く、誤用とも言われています。そもそも、「概念」とは物事を整理し、理解するための客観的で論理的な枠組みのことです。

例えば、「時間の概念は国や文化によって異なる」のように用いられ、ある集団の中で共有される客観的なイメージを指します。一方で、「観念」とは個人の主観的、感覚的な考えのことで、「抽象画は、現実と異なる観念が表現されている絵画である」のように用いられ、個人の感覚的なアイデアを指します。

上記のように、「固定観念」とは個人の凝り固まった考えを指しますが、「固定概念」については、本来なら交わることのない「固定」と「概念」が合わさって、誤用されてきました。日本国内で各出版社が発行している国語辞典などの中に「固定観念」の記載はありますが「固定概念」という言葉はありません。よって「固定概念」という言葉は、意味は通じるけれど正しい表現ではないと言えるでしょう。この記事では、以後誤用されて一般的に広がっている「固定概念」を正しい表現の「固定観念」に統一し、説明します。

固定観念の類語

固定観念と似たような言葉としては「既成概念」や「先入観」が挙げられます。それぞれの言葉の意味については下記の通りです。

既成概念

「既成」は、「すでにできている」という意味です。「既成概念」は、「すでに広く知れ渡っている考えや価値観」のことですが、例えば「既成概念にとらわれずに新しい意見を出してください」など、「古い考え」といった文脈で使われることもあります。

先入観

「先入観」というのは、人や物事に対して、あらかじめ持っているイメージや思い込みのことです。「先入観」は、事実と異なることがしばしばあり、誤った理解につながることがあります。「先入観を持たずにAさんの話を聞いていただけませんか」など、「ネガティブな前情報」を指す場合が多くあります。

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ビジネスシーンで見られる固定観念の例

同僚に対して固定観念を持っている人

ビジネスシーンでも、固定観念にとらわれてしまうことは多々あります。よくある場面について、具体例を挙げつつ詳しく解説します。

人と所属を同一視する

ビジネスシーンにおいては、最初に関わる人のネガティブなイメージが、組織すべてに当てはまるように思ってしまうこともあるかもしれません。

例えば、たまたま取引先の営業担当者がミスをしたり、対応がよくなかったりするだけで、その所属先は信頼できないと判断されてしまいます。このように一人の印象だけで、ほかの社員や仕事ぶりを評価することは固定観念の一例であると言えるでしょう。

最初の印象を引きずる

最初に接した時の印象が、全体的なイメージに影響を及ぼすことを「初頭効果」、または「ハロー効果」と呼びます。ハローとは「後光」のことであり、最初の印象が後光のように強く影響して、その人の本当の姿が見えなくなってしまうことを指した言葉です。

例えば、ビジネスシーンにおいて初対面の人の服装がカジュアルすぎる場合、「この人はだらしない人に違いない。仕事をちゃんとやってくれるのだろうか」と疑念を持ち、固定観念を抱きやすくなることがないでしょうか。その印象は一定期間続きますが、あとから得た情報により、さらに上書きされる傾向にあります。

ほかにも、「今度来る課長は有名なA大学を卒業しているらしい」といった前情報によって、課長に対する固定された印象が作られると、課長が言うことは「正しい」と思ってしまいがちです。このように、後から得た情報を前情報に合わせて判断する心理的なバイアスが生まれるのです。

できない理由を探す

人は変化に対して不安を感じる「現状維持バイアス」でものごとを進めようとする傾向があります。「現状維持バイアス」とは、過去と同じことを繰り返せば安心という心理的傾向のことです。

例えば、新しい提案や改革を命じられたとき、できない理由を探して現状に満足しようとする人もいるかもしれません。未知のものに対して漠然と感じる不安から、できればやりたくないといった気持ちが生まれ、無意識のうちにできない理由を模索することは誰にでもあることです。

新しいプロジェクトを進行するときに、あらかじめ障壁となり得る課題をリストアップし、リスクに備えることは大切です。しかし、単にできない理由を並べ立てるのは思い込みやバイアスがかかっていると言えるでしょう。

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固定観念にとらわれるデメリット

固定観念にとらわれるデメリットを理解する様子

ビジネスシーンにおいて、固定観念に凝り固まってしまうとどのようなデメリットがあるのでしょうか。主なものについて解説します。

偏見や差別につながりやすい

固定観念にとらわれてしまうと、偏見や差別につながりやすくなります

例えば、「男性は女性に比べて力が強い」という固定観念は、その条件に当てはまらない人に対して男らしくない、女らしくないといった偏見や差別を助長することがあります。また、固定観念は個人差を軽視し、それぞれを個別のケースとして考えることができないので間違った判断もしやすいのです。特に人種、性差、年齢、身体的な問題に関わることは、慎重に考えることが必要です。

問題や課題を解決するのが難しい

仕事を行う際は、日々さまざまな「問題」や「課題」に取り組むことになります。日常的に「問題」や「課題」という言葉を何となく使用することがありますが、それぞれの意味は違います。厳密に言うと、「問題」とは「現状うまくいっていない事柄」ですが、「課題」とはそうした現状から理想に近づくために「やるべき事柄」なのです。

例えば、コピー機が壊れて印刷できない状況が「問題」、コピー機の修理を手配する、情報をデータで共有するなどやるべきことが「課題」といえます。

私たちは普段、無意識のうちにいくつもの固定観念にとらわれています。気づけば現在置かれている状況に対してやるべきことの選択肢が狭まっていて、課題解決が難しく思えるときもあるかもしれません。「課題」を解決するなかで、多くの固定観念をクリアにする必要があります。試しに、下記の課題を考えてみましょう。

例)下記の9つの黒丸をすべて通る4本の直線で結んでください。ただし、一度通った線を戻らず、一筆書きにします。

9つの黒丸

 

いかがでしょうか。

 

9つの黒丸をすべて通る_失敗例

 

5本の直線だとできますが、4本だと黒丸がひとつ余ってしまいますね。

 

9つの黒丸をすべて通る_正解例

 

9つの黒丸の枠からはみ出せばできました。このように固定観念は視野を狭くし、課題解決を難しくする可能性があります

イノベーションが起きにくくなる

イノベーションを起こしにくくするのもデメリットの一つです。イノベーションとは、既存のものや新たなアイデアの組み合わせによって、新しい価値を生み出す創造的活動のことです。今ある便利なサービスやモノは、こうしたイノベーションによって生まれてきました。必ずしも高い技術による革新が必要なのではなく、身近なアイデアでもイノベーションは可能です。

例えば、オンライン英会話を考えてみましょう。オンライン会議と対面で行う英会話レッスンを組み合わせることで、国境を越え、時間や場所に縛られずにレッスンを行えるようになりました。オンラインツールが会議のみに使われるものであり、英会話レッスンはスクールで行われるものだという固定観念にとらわれていたら、オンライン英会話は生まれていなかったかもしれません。

個人および組織の成長を妨げる

固定観念にとらわれると、時代の変化に追いつけなくなることがあります。過去の前例にこだわって現状維持を続けていると、周囲から遅れを取ることは避けられません。また、周りのアドバイスやフィードバックに対し、聞く耳を持たないので、結果的に新しい考え方や価値観を学ぶチャンスを逃して、成長の機会を失ってしまいます。

組織も同様に、役職にある人が「仕事熱心な人は残業を厭わずやるべきだ」という固定観念を持っている場合、仕事を効率的に行うための新しい仕組みを生み出しにくくなります。このように、新しい考え方やツールを取り込みにくい組織は、固定観念にとらわれて、成長が妨げられていると言えるでしょう。

固定観念にもメリットはある?

固定観念にとらわれてばかりいるとデメリットが目立ちますが、実はメリットになることもあります。それは、社会の中で共有されている常識や道徳、マナーも集団で共有されている固定化された考えや行動であり、ある意味「固定観念」といえます。そのような「固定観念」、つまり常識があるからこそ共同体にいる人たちはスムーズに社会生活が送れるのです。

例えば、日本では電車内で静かにするものという考え方が当たり前なので、電車内で大きな声で通話する行為はマナー違反だという考え方を多くの人が身につけています。

また、固定観念があると、過去の前例をもとに将来起こりうることを予測し、適切な行動が取れることがあります。具体的には朝目覚めたときに空一面が厚い雲で覆われていたとしたら、雨が降ることを予測して傘を持って出かける、もしくは洗濯物を干さないでおくという決断ができるでしょう。

固定観念にとらわれない方法

固定観念にとらわれずに相手と接する様子

ビジネスにおいて課題にぶつかったときに、まずは「固定観念」にとらわれずに、取り組んでみることが大切です。ここでは、その方法について具体的な実践法を交えて解説します。

自分を相対化する視点を持つ

固定観念にとらわれないために重要なことは、自分を「相対化」する視点を持つことです。「相対化」とは周りとの関係性を考慮しつつ、客観的にものを見ることです。つまり、自分を「相対化する」ということは、「客観的に自分を見ること」とも言い換えられます。

こういった視点を持つことで、「私の考えは正しい」ではなく、「私の考えは周囲と比較して保守的な傾向にある」などととらえ直すことができるようになります。さらに、自己を相対化することは、自身のものの見方が過去の経験や教育に強く影響を受けており、極めて限定的な考え方であることを理解する助けになると言えるでしょう。

こうして自分に固定観念があることを認めると、自ずと謙虚になり周囲から積極的に学ぶようになります。すると視野が広がり、自分自身を相対化しやすくなるといった好循環も生まれます。

具体的には、自分の仕事ぶりを上司だったらどう評価するだろうか、後輩や顧客はどう判断するのか……と考えてみることが第一歩です。鳥の目になったつもりで空から自分を眺めてみることをイメージしながら、自分を相対化してみましょう。

周囲からのフィードバックを素直に受け止める

周囲からのフィードバックを素直に受け止めることも、固定観念にとらわれないための方法です。

例えば、顧客からのクレームやアンケートの結果に対して、落ち込むこともあるかもしれませんが、まずはその意見を真摯に受け止めることが重要です。結果を確認し、自身の行動や考え方のどこに問題や課題があるのか振り返ることができます。こうして他者の視点から自身を見つめ直すことで、いかに自身の考え方が固定観念にとらわれていたのかを認識することにもつながるでしょう。そのような気づきが得られたときに初めて視野が広くなったと実感できるのです。

さまざまな人と交流する

固定観念にとらわれない方法には、さまざまな人と交流することも挙げられます。そのためには、趣味のサークルや勉強会などに積極的に参加するのがおすすめです。アメリカの社会学者であるレイ・オルデンバークは、このような場を家庭と職場とは異なる、居心地がよい場所として「第三の場所(サードプレイス)」と名付けています。

さらに、オルデンバークは、こうした第三の場所でさまざまな人と交流し、良好な人間関係を構築することで、自身のアイデンティティに気づくことが重要であると述べています。こうして多様な価値観や知識に触れることで、自らが持つ固定観念に気づく機会を得て、自己成長を促すきっかけとなるでしょう。

新しいことにチャレンジする

自身のアイデンティティを知り、固定観念にとらわれていることに気づくためには、新しい世界に飛び込み、これまでとは全く異なる角度から自己を相対化してみることが大切です。もちろん、未知の世界に飛び込むのは相応の勇気が必要ですし、不安感や面倒な気持ちが生じることもあります。

まずは、今まで行ったことはないけれど、これから行ってみたい場所をリストアップしてみることをおすすめします。少しずつでいいので、新しい景色を見に行くなど行動に移すことで、次第に固定観念が薄れることもあるでしょう。

職場でも同様に、新しい仕事に積極的に手を挙げてチャレンジしてみると良いでしょう。仕事に対しても、異なる景色を見ることで斬新なアイデアが生み出されるかもしれません。

固定観念にとらわれずに世界を広げよう

固定観念は誰もが持っている心理的傾向といえます。ビジネスシーンでは、他者とのコミュニケーションを通して、自分の固定観念に気づくこともあるでしょう。それをなくすというよりは、自らの固定観念に気づき、周囲の人とコミュニケーションを取りながら多様な視点を取り入れることが重要です。

監修:長尾素子
拓殖大学商学部教授
株式会社TOKYO GLOBAL GATEWAY(東京都英語村)取締役COOおよび一般社団法人 社会人基礎力協議会 代表理事を兼務。コミュニケーション論を専門とし、グローバル人材の育成、社会人基礎力の育成に携わる。また、企業・団体における研修事業にも関わっている。

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