- テクノロジーを「知る」と、人生の可能性が増えていく
- 「知らない」を「知る」に変える「テクノロジー脳」とは?
- 文系の人が「テクノロジー脳」を鍛えるためのコツとは?
- 日常と仕事で「テクノロジー脳」を鍛えるメリットは?
- 「テクノロジー脳」を鍛えるために、何をすればいい?
- まとめ
テクノロジーを「知る」と、人生の可能性が増えていく
みなさんは普段の仕事において、よく知らない単語や概念に出会ったとき、どのように対処していますか?もちろん、すぐにインターネットで検索しますという人もいれば、周りの人に質問する人、あとで確認しようと思って忘れてしまう人……さまざまなパターンがあるかもしれません。
その場で「知らない」けど「知っている」フリをしてやり過ごし、家に帰ってから調べることも悪くはありません。本当に危険なのは、自分の脳が「知らない」と認識せず、情報が素通りしている状態だと齊田先生は指摘します。
人が新しい情報や概念である「知らない」に出会ったとき、どのような心理状態に陥るのか、これから詳しく説明します。
「知らない」に出会ったときの3つの心理パターン
「知らない」ことを「知る」に変えるためには、最初に自分が「知らない」状態であることを認識することが重要です。まずは、「知らない」に出会ったとき、自分はどのような心理状態に陥るのかを自覚しましょう。
「会議で初めて聞く単語が出てきたとか、取引先との商談中に聞き慣れない用語が出てきたといったことは、よくありますよね。そんなふうに、人間が『知らない』ことを目の前にしたとき、次の3パターンのいずれかを選択していると思います。
1:「知らない」ことを「知らない」と認める(自認する)
2:「知らない」ことを「知らない」と認めない(自認しない)
3:「知らない」ことをスルーする
2の『自認しない』もしくは3の『スルーする』を選んでしまうと、『知る』機会を逃すことになり、それはとてももったいないことです。1の『自認する』を選べば、『知る』ための行動を起こして、知識が身につきます。それを今後の仕事に活かせるかもしれないし、プライベートでも役立てられるかもしれない。すぐに興味を持てなくても、後々に別のことと結びついて、キャリアチェンジをする未来があるかもしれない。
『知らない』ことを認めて『知る』努力をし、自分の引き出しを増やしておくと、意外と大きなチャンスや可能性につながることがあります(齊田先生・以下同)」
「知らない」を「知る」に変える「テクノロジー脳」とは?
それでは、齊田先生の提唱する「テクノロジー脳」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
「テクノロジー脳とは著書のイメージ画像にもあるように、階段を一段ずつ登っていくことで、思考プロセスを身につけることだと考えてください。
最初は自分が『知らない』ことの範囲や分野を理解して、自分が『知らない』に出くわすときのパターンなどを知ることです。それができるようになったら、次は『理解の仕方』を学び、本当に理解ができているのかを確認していきます。
階段を登り切ったら、『テクノロジー脳』を身につけているあなたがいるはずです」
図:『テクノロジー脳のつくりかた』(アルク出版)p.17
身につけたテクノロジー脳を用いて、実際に物事に対してどういった考え方をすればいいのでしょうか。
「テクノロジー脳を用いた考え方とは、よく知らない用語や概念に出会ったときに恐れたり面倒くさがったりするのではなく、新しく知った概念同士の共通点や関連性を導き出して、それぞれの解像度を上げていくことです。既に知っている概念との共通点を見出して、知らないことを理解しようとするプロセスがテクノロジー脳を用いた基本の考え方なのです」
そうとは言っても、自分は理系ではないので、テクノロジー自体に苦手意識があって…という人はいるかもしれません。齊田先生は次のように説明します。
「研究者や学者並みにテクノロジーを理解しなければいけないわけではありません。理解レベルにも段階があって、自分なりになんとなく分かって、感覚的に使えれば良いのです。普段からテクノロジーに目を向けて、分かることを増やしていき、理系的なものの見方や考え方ができるようになることを、私は『テクノロジー脳』と呼んでいます。これはあくまで『理系的』であって、文系の人でも意識すれば鍛えられるものです。
みなさんもよく知っている国民的アニメで猫型ロボットと同居している少年はテクノロジー脳の持ち主だと私は思っています。勉強ができないキャラですが、未来のテクノロジーを使いこなしていますよね。テクノロジーを怖がっていないし、この道具は何のために役立てられるかを考えて使っています。こうした視点こそ、これからの時代に必要な『テクノロジー脳』なのです」
文系の人が「テクノロジー脳」を鍛えるためのコツとは?
著書内でターゲットとして想定した人は文系の人、テクノロジーの用語に苦手意識を持っている人だと齊田先生は説明します。
「『テクノロジー脳』の考え方を身につけたからといってすぐに新しいテクノロジーへの知識や理系的な思考を身につけられるわけではありません。しかし、日常的な訓練を繰り返して考え方のコツを変えることによって、『知らない』から『知る』への橋渡しができるのではないかと考えています。今後、AIや新しいテクノロジーと共存して生きていくことが当たり前になる時代において、自分はこれが苦手だからと決めつけてしまうことはもったいないことです。自分の世界を広げて、さらに好きなことや目標を増やすためにも、ぜひこれから説明する思考方法を試してみてください」
テクノロジーを仕事や日常と結び付けて考える
「最近はDXが流行していて、多くの企業で経理や勤怠管理、顧客管理や営業事務などがデジタル化されていますよね。DXがうまくいっている企業とそうでない企業の違いは、DX化の目的が明確かどうかです。
『この課題を解決したいから、このシステムを導入しよう』というやり方は成功しますが、一方で『とりあえずシステムを導入すれば、何かしら便利になるだろう』ということでは、失敗してしまうのです。
それと同じで、テクノロジーを自分の仕事や生活に引き寄せて考えられるかどうかが、テクノロジー脳を鍛える明暗を分けると思います。難しいシステムを仕事で使いこなすだけがテクノロジーを知ることではありません。
日常生活では、例えば買い物をする時に『電子マネーはどういう仕組みなんだろう』と疑問を持ったり、ドラマの空撮シーンを見て『ドローンって他にはどんなことに使われているんだろう』と関心を持ったりして、そこから調べていくことだって、テクノロジー脳を鍛えるための立派な行動なのです」
「知らない」をスルーせず、すぐ調べる癖をつける
「テクノロジー脳」を身につけるための第一ステップである、「知らない」を「知る」に変えるために重要なことは、「知らない」を忘れないこと、置いてきぼりにしないことだそうです。
「聞き慣れないことや知らないことがあったら、そのままにせず調べることから始めましょう。そうしてざっくりと頭に知識が入ったら、実際に体験してみるのがおすすめです。ChatGPTで文章を作ってみる、ドローン操作の体験をしてみる、家電量販店でAI家電を試してみるなど、体験することによって理解を深めることができます」
日常と仕事で「テクノロジー脳」を鍛えるメリットは?
「テクノロジー脳」を身につけるために、多くのチャレンジをしながら「知る」を増やしてきた齊田先生。自身の反省点も振り返りながら、身につけたときのメリットを解説していただきました。
物事の関連性や因果関係を知ることができる
ビジネスシーンや日常生活では、主に物事を「構造化」する訓練として「テクノロジー脳」が役立ったと齊田先生は話します。
「構造化というのは、ある技術と別の技術の関係性に気づいたり、ある技術が知らないところで社会課題の解決に役立っていることを知ったりと、さまざまなものを俯瞰して見られる手法や考え方のことを言います。
『テクノロジー脳』の考え方、調べ方を身につけていると、なんとなく分からない用語や概念についても、用語を一度解体して、単語や意味のまとまりに分ける習慣が身につくようになります。
結果的に視野が広くなって、1つの物事がどのように成り立っているのか、成り立ちや関係性に目を向けることができるでしょう。
『構造化』の考え方を身につけると仕事においても、相手にとって読みやすい資料を作成することができるようになります。企画書やプレゼン資料なども、俯瞰して見るとほとんどが以下の構造に分かれているんです。
①タイトル
②要旨
③序・はじめに(背景や目的を説明する箇所)
④本文(資料の主張・伝えたいことの詳細)
⑤今後の見通し
⑥まとめ
プレゼンの目的や資料の用途によって、構造の中のどの要素を重視するべきかが変わってきますが、例えば自分の企画を通したいときには④の箇所から集中して資料を作成する。周りの人から依頼されたときは、共通の目的や趣意をまずはお互いに共有したいので③から作成するなど、物事の概念や構造を理解すると、効率的に結果を得られる行動が取れるようになります」
何が大切かを見極められ、要点をつかんだ話ができる
「テクノロジー脳」の考え方を身につけると、物事の重要度や関連性が手に取るように見えてくると話す齊田先生ですが、それなりに苦労をしたそうです。
「私は若い頃、出張の報告を長文で書いて上司に送り、『こんな長い文章を誰が読むんだ』と注意されたことがありました。長く書いた分、自分では達成感があったのですが、確かに何が言いたいのかわからない報告をされたら、受け手側が困ってしまいますよね。
上司への報告や顧客への提案など、ビジネスシーンでも『テクノロジー脳』の思考方法は役立ちます。物事の『構造』を知ることで、それぞれの重要度や関連についての理解が広がります。そのため最終的に要点をつかんだ上司への報告や、顧客が必要としている提案までできるようになるのです」
本当に必要な仕組みがわかって、改善提案ができる
「テクノロジー脳」を活用できる職種として、営業や企画系の仕事を連想しがちではありますが、総務や経理など管理部門で働く人にも役立ちますと齊田先生は話します。
「例えば、社内システムDX化の影響を一番先に受けるのは、管理部門で働く人です。業務上にどんな課題があるのかを身をもって実感している立場から、どんな仕組みがあれば解決ができるかを提案できるようになります。システムに合わせるのではなく、自ら必要なシステムを開拓していくくらいの気持ちで、『テクノロジー脳』を活用していただけたら、どのような職種でも成功するのではないでしょうか」
「テクノロジー脳」を鍛えるために、何をすればいい?
「テクノロジー脳」を身につけるための考え方について説明してきましたが、それでは実際に「知る」を増やすためには、どのような行動に落とし込めばいいのでしょうか。
齊田先生に、毎日のちょっとした癖や習慣を変えるだけで「テクノロジー脳」が身につくようになるコツを教えてもらいました。
「知らない」ことリストを作る
自分が「知らない」ことに出会ったときのことを忘れないため、何度も見返して「知る」に変えるために、リストの作成をするのがおすすめだと齊田先生は話します。
「『知らない』ことに出会ったら、とにかくメモを取ること。どんな場面でその言葉が出てきたのか覚えているうちに、調べるのがおすすめです。文脈がわかっている方が調べやすいし、あとから活かしやすいですから。
リサーチしてみて、もし英語など他言語のページが出てきても、怖がらなくて大丈夫。一言一句を理解しなくても良いですから、翻訳アプリなどを使って読んでみてください。日本ではまだ認知度が低い、海外の最先端情報が手に入るかもしれませんよ」
プレスリリースを読む習慣を身につける
「テクノロジー脳」を身につけて、さらには「構造化」を体得する上でも、プレスリリースを読む習慣をつけることが一番の近道だと齊田先生は話します。
「プレスリリースはとても構造的に物事が書かれている媒体だと思っています。タイトルを読めば何が書いてあるのかがすぐに分かりますし、冒頭に要約が書かれているので、まずはそこだけ読めば概要が分かります。そこから、背景や主張、今後の見通しといった流れで詳細を読み進めていくことができ、頭に入りやすいのです。
各社の最新情報が手に入るので、いち早くトレンドに触れられる点もプレスリリースの良いところ。新聞に掲載されないような、スタートアップ企業や中小企業の情報も入手できて、とても良い情報収集源ですよ」
<おすすめのキュレーションサイト>
・PRTIMES
・@Press
・共同通信PRワイヤー
新しい発見から世界を広げる
一人で家にいながら、インターネットで自分の興味のあることを調べているだけでは、「知らない」に出くわす可能性が減り、新しい正解が広がりません。積極的に「知らない」ことを見つけにいきましょう。
「食わず嫌いをせずに、興味や関心がないものに触れてみるのも良いと思います。全く興味がなかったアーティストのライブに誘われて行ってみたら、すっかりはまってしまったなんてことはよくある話です。新しい発見、未知のおもしろさに出会うことは、『知らない』ことに関心を持つのと同じこと。
ライブでは、映像や照明などの演出にいろんなテクノロジーが使われていますから、もし足を運んだら、そういうところにも目を向けてみてください。道を歩いていても、『以前より信号がずいぶん薄くなったな』と気が付いたら調べてみる。すると、電球からLEDに変わったからだとわかります。LEDの仕組みや活用分野を知ると、街中を見る目が少し変わるでしょう。『テクノロジー脳』は、そういうささいなことの積み重ねで鍛えられていきます」
まとめ
テクノロジーと聞いて、自分には関係ないことだと決めつけるのはとてももったいないことです。視野が広がるチャンスだと捉えて、身近なことから「知る」癖をつけていきましょう。世の中にあふれる「知らない」を「知る」に変えていくプロセスは、きっと人生を楽しくしてくれるはずです。
話を聞いた人:齊田 興哉さん
東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻博士課程修了、工学博士。JAXA(宇宙航空研究開発機構)にて人工衛星の仕事に携わる。その後日本総合研究所へ入社。宇宙ビジネスのコンサルティングの経験を経て独立。サイエンスの専門家×作家×ビジネスコンサルタントとして活動中。
note:https://note.com/saidatomoya/
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