「パソコン腱鞘炎」という言葉を聞いたことがありますか?
パソコン腱鞘炎とは、パソコンのキー操作で指―とくに親指を使いすぎることにより起こる腱鞘炎のことで、最近では現代病の1つになっているのだとか。
特にパソコン・スマホの使いすぎで、手首・肘の腱鞘炎を発症してしまう人が20代を中心に若年層で増えているといいます。パソコン腱鞘炎・スマホ腱鞘炎の原因・対策について、『腱鞘炎は自分で治せる!』の著者であり、アスリートゴリラ鍼灸接骨院の院長・高林孝光さんにお話を伺いました。
現代人を悩ますパソコン腱鞘炎・スマホ腱鞘炎(スマートフォン・サム)
そもそも腱鞘炎とは、どのような症状のことをいうのでしょうか?
腱鞘炎とは…
腱鞘のなかを腱が頻繁に通過しすぎることで起こる炎症のこと
人間の体は筋肉によってさまざまな動作を行うことができます。この筋肉と骨をむすびつけているのが「腱」という組織。さらに、手や足にある細長い腱を鞘(さや)のようなもので包んでいる組織があり、これは「腱鞘」と呼ばれています。手にまつわる腱鞘炎は、手や指の使いすぎにより、この腱鞘のなかを腱が頻繁に通過しすぎることで起こる、そんな炎症のことを言うのです。
アスリートゴリラ鍼灸接骨院の院長・高林孝光さんいわく「パソコン、さらにはスマートフォンの普及により、腱鞘炎は世界的に見ても激増している」のだとか。
「パソコンのキー操作で指、とくに母指(親指)の使いすぎで発症するのがパソコン腱鞘炎です。さらにスマホ操作による腱鞘炎―『スマートフォン・サム』(編者注:サムは「親指」の意味)という腱鞘炎も増えています。画面を片手でスクロールしたりスワイプしたりする作業により、手首のところにある2つの筋肉の腱が、同じく手首のところにある骨の突起の上を通ってこすれる。そのことで腱鞘炎を引き起こします」
今、スマートフォンからこの記事を読んでいるあなたも、親指や手首に痛みを感じていたりしませんか…?
指から連動して、肘の腱鞘炎を引き起こす場合も…!
腱鞘炎は「指の腱鞘炎」「手首の腱鞘炎」「肘の腱鞘炎」の3つに大別され、それらを総称して「3大腱鞘炎」とよんでいます。
「なかでも若い人たちに多いのが、手首の腱鞘炎と肘の腱鞘炎」と高林さん。先述したスマートフォン・サムも「手首の腱鞘炎」に該当します。ところで、「肘の腱鞘炎」とはどのようなものなのでしょう?
「肘の腱鞘炎といってもただ肘だけが痛くなるのではなく、肘から手の甲にかけて痛みが出ます。人間の体の内部には、肘の外側から指のほうへつながる筋肉があり、指や手首の使いすぎで、連動して肘まで痛くなるというケースも。そこで、手首が痛いからと病院に駆け込んだら、手首の腱鞘炎だと診断され治療を受ける。だけどなかなか治らない。この場合は肘の腱鞘炎も併発していることが多く、肘の腱鞘炎を治さないかぎり手首の痛みはなくなりません。
こうした肘の腱鞘炎は“隠れ腱鞘炎”とも言われ、パソコン腱鞘炎やスマートフォン・サムの方にもよく見つかるパターンです。最近はスマホの機器自体が大きくなっていますし、特に男性より筋力が少なく手の小さい女性はスマホを片手で持つだけでも大変ですよね。それでも片手で操作をしていたら、手が震えてきた、なんてケースも。そうした手の震えは、肘の腱鞘炎を起こす黄色信号だといえるでしょう」
手首・肘の腱鞘炎の症状とセルフチェック
では一連の腱鞘炎とその具体的な症状について見てみましょう。
手首の腱鞘炎
〈主な症状〉
□手首の母指(親指)側に腫れ・痛みが生じる
□スマホの片手操作時に痛みが生じる
肘の腱鞘炎
〈主な症状〉
□タオルを絞るときなどに痛みが生じる
□ペットボトルのキャップを開けられない
□把握動作時に痛みが生じる(例:スマホを片手で握っているとき、書類をつかんで手首を返したとき等)
「初期症状は手首や肘に“だるさ”や“違和感”が現れ、それを放置したままさらに手を使い続けると、上記のような症状が現れます。さらに放っておけば、手を使っていなくても痛みが現れるようになりますし、ひどい場合は、握力がゼロになったり、痛みでまったく手を使えなくなったりすることも。当然、これらは仕事の効率を下げます。
対処法として湿布やスプレーなどがたびたび取りざたされますが、これらは痛みを緩和する対処療法にすぎず、原因療法ではないんです。ですので、根本的な治療にはなりません」
手首・肘、それぞれの腱鞘炎は、セルフチェックもできるのだとか。それぞれの方法を、高林さんに教えていただきました。
〈手首の腱鞘炎〉(フィンケルシュタインテスト)
(1)親指を握るようにして握り拳をつくります。
(2)次に、手首を小指側に曲げます。このとき、印のあたりに少しでも痛みが生じたら手首の腱鞘炎の疑いありです。
〈肘の腱鞘炎〉(中指伸展テスト)
(1)チェックは2人で行います。チェックを受ける側(写真左側の手)は、手を前に差し出し、力を入れて5本の指をぴんと伸ばします。このとき中指は上の方向に上げるようにしましょう。
(2)次にチェックする側(写真・右側の手)は、相手の中指を下方向へ強く押します。このとき、チェックを受ける側は、肘の外側から前腕にかけて痛みが誘発されたら、肘の腱鞘炎の疑いありです。
「肘の腱鞘炎では、床に置かれた椅子の背もたれの上の部分をつかみ、そして持ち上げたときに痛みが誘発されるかどうかを見るチェック方法もあります」
どうでしたか? あれ、なんか違和感があるかも…と感じたあなたは、次にご紹介する予防法や解消法を今すぐ試してみてくださいね。
腱鞘炎に手首や肘のストレッチは禁物?
では、腱鞘炎を予防するにはどうしたらよいのでしょうか?
「“把握”の動作を取れば、どうしても筋肉は働いてしまいます。そのことで腱の動作も活発になり、腱鞘炎を引き起こす―。ですからスマートフォン・サムを予防するには、日頃スマホを強く握ることを極力抑えること。たまに見かけるスマホリングを使うのは、実は腱鞘炎予防の観点でも効果的なのです」
痛くなった部位(手首や肘)をストレッチするのは効果がありそうですが、高林さんいわく「ストレッチは症状を悪化させることもあるのでNG」なんだそう。
「プラグがささったコンセントを思い浮かべてください。コードの部分が「腱」です。これが引っ張られることで、プラグの部分(腱鞘)に負荷がかかる。こうして炎症を起こすのが腱鞘炎なのです。一般的に病院などの腱鞘炎治療にはバンドを使います。すなわち、プラグ部分に負荷がかからないように、コード(腱)をバンドで留めておき、炎症を抑えていこうとする治療です。ストレッチは“留める”とは反対の“引っ張る”行為ですから、逆効果になってしまいます。
手首が痛いときなどには、ただストレッチをするのではなく、人差し指と中指の付け根あたりのマッサージをするのが一番効果的。予防にもなりますし、腱鞘炎を治す手段にもなります(下写真参照)」
中指伸展テスト 手の甲全体を、指の腹でマッサージすると解消法にもなるそう。もちろん自分でも簡単にできますし、仲のいい同僚とコミュニケーションをとりながらでも良さそう。
猫背を治すストレッチで腱鞘炎が解消できるってほんと!?
さらに、高林さんが腱鞘炎の予防としておすすめしているのは「下半身のストレッチ」です。
「『手首や肘の腱鞘炎に、下半身のストレッチ?』と不思議に思うかも知れませんが、カラダがカタく、猫背の人は腱鞘炎になりやすいんです」
これは意外かも…その理由は何でしょうか?
「背骨、骨盤、股関節、ひざ、足首と筋肉がつながっているなかで、お尻からひざの後ろにかけての筋肉が伸びている人は、前屈したときにべたっと地面に手がつきます。これに対して手がつかない人(体のカタイ人)はお尻からひざの後ろにかけての筋肉が短くなっている。そうした方は、通常水平になっているはずの骨盤が倒れやすく、猫背になりやすい。
猫背状態でのデスクワークは、肩が内側に入るので、その分、肘・手首に負担をかけてしまい、結果として腱鞘炎になりやすいんです」
高林さん指導のもと、猫背&体のカタイ筆者もストレッチを体験してみました。
「かかとを浮かさないようにしながら椅子に座り、ももの下に両手をクロスさせるようにしてうずくまります。このとき両手と胸は足にぴったりとくっついて離れないようにしてください。
この状態で、お尻を上げていきます。
この状態で10秒だけ我慢!
「これでお尻からひざの後ろにかけての筋肉が伸びた状態になっているはずです」
このストレッチを終えて前屈してみると、たしかにいつもより地面に手が届くようになっていました。なお、慣れていない方の場合はストレッチ中に倒れてしまうと危険なので、サポートしてくれる介助者とともに行ってくださいね。
ほかにも高林さんから、写真のような体勢で片足を体の内側に折りたたむようにし、もう片方の足を伸ばして上半身を前に倒すストレッチを伝授いただきました。
ストレッチ 「10秒ずつ、両方の足で行います。2~3週間続けることで、前屈のときに手が地面に着くようになるはずですよ」
さらに腱鞘炎の豆知識として「妊娠期の女性も、腱鞘炎を引き起こしやすい」と高林さん。
「おなかの中の赤ちゃんが成長しておなかが大きくなるにつれ、おなかをへこませるときに使う“腹横筋”の動作が少なくなり、この筋肉が衰えてしまうんです。すると深部体温が下がり、それによりホルモンバランスが崩れ、通常であれば修復しやすい腱がなかなか修復されなくなってしまう。更年期の女性もこれと近い症状が起きます。こうしたホルモンバランスの崩れが引き起こす腱鞘炎の場合は、腹横筋の動きが活発になるようにストローで飲み物を飲むなど、生活の改善をすることで徐々に和らいでいきますよ」
腱鞘炎は治るもの! 気づいたら早めに正しい対処法でケアを
腱鞘炎というと、ねんざや打撲といった軽微なけがと並べて考えてしまいがちですが、悪化させてしまうと、仕事がまったく手につかなくなることにもなりかねません。
「誤った対処法は、腱鞘炎を悪化させる」とは高林さんの弁。正しい対処法で、早いうちから腱鞘炎を診断&予防しましょう。あなたの仕事を毎日支えてくれている大事な手。隙間時間をうまく利用して、簡単にできるマッサージで疲れをとってあげてくださいね。
(取材・文:安田博勇/編集:東京通信社)
※この記事は2017/11/15にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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