
YouTubeやショート動画など、動画クリエイターとして人気のパーソナルトレーナー片倉岳人さん。誰にでもできるダイエット法やユーモアにあふれた動画が注目されていますが、その活動を振り返ると、実は初期には今とはまったく異なる、ストイックなダイエットを訴えるトレーナーでした。なぜ現在のようなスタンスへと変化したのでしょうか?
インタビュー後編では、片倉さんがどのように自分の考え方を変えてきたのか、そのきっかけや経緯について聞くとともに、キャリアプランに対する考え方や好きなことの見つけ方についても伺いました。
※インタビュー前編はこちら
あえて先のことを考えすぎない。パーソナルトレーナー・片倉岳人が価値を置く「今を大事に生きる」感覚
「意味のない正しさ」を押し付けていた過去の自分
──パーソナルトレーナーとして働きながら、YouTubeチャンネルを開設しようと思ったきっかけを教えてください。
当時働いていたジムのオーナーがパーソナルジムのポータルサイトを作るといい出して、そのポータルサイトに集客するために始めました。もともと映画が好きだったので、映像を作れるのは最初から楽しかったです。
ただ、当時の動画は映画に影響されていたので今見るとかっこつけ過ぎてますね。見た目もロン毛で売れないバンドマンみたいだし。過去には黒歴史的な動画もたくさん出してしまったんですが、自戒として消さずに残しています。
──長髪時代はストイックなダイエットメソッドをレクチャーし「痩せたいならジムに行くのが正解」と伝えていたものの、現在は「頑張らなくていい」「努力は0.1パーセント」と、無理せずできるダイエット法を伝えるスタイルに変化しています。なぜここまで考え方が変わったのでしょうか。
正直、方法として正しいと思うことは今も変わってないんです。でも、その正しさはめちゃくちゃ自分勝手だったなという反省がある。経済的・地理的な理由でジムに行けない人もいるし、運動のための時間を確保できない人もいます。そんな人に「ジムに行って運動しましょう」なんていっても、その人にとっては全然正しくないですよね。
ダイエットをサポートするのがトレーナーの仕事なのに、これって仕事してないのと同じじゃないかなと思って。だったらその人にとって現実的に結果が出る方法を採用したほうがいい。ジムに通うのは余裕ができてからでいいじゃないかと思うようになったんです。

──決定的な出来事があって考えが変わったのではなく、仕事を続けるうちに少しずつ変わっていったんですね。
そうですね。でもいちばん大きかったのは、コロナ禍でジムを閉めた時に「大変でしょうから」と、当時の僕のYouTubeを見てくれていた人が一万円を寄付してくれたんです。この人を裏切るようなことはできない、多くの人に悪い影響を与えてしまうような情報は絶対に発信できないなとその時思ったんです。
自分勝手に生きるのはもうやめようと思いました。そんな思いで過去の自分を振り返ると「うわ、これは失礼過ぎたな……過去の自分、怖!」と怯えるような気持ちになりました。
──でも、過去の片倉さんも間違ったことはいっていなかったですよね。どの発信も科学的根拠に基づいた内容だったと思います。
意味のない正しさだったと思うんです。配慮が足りていなかったし、実用的でもない。完全に空回りしていましたね。あの時からすぐに変われたわけではなく、髪を切って金髪にしていた時期はその変換期でした。具体的に何をどう変えればいいのかわからなかったから、じわりじわりと変わっていったと思います。

ただ難しいと思うのが、最初の尖った時期があるからこそ「この人は根っこは正しい」と評価してくれる面もあるのかなと。文脈がないとただの胡散臭い人に見えてしまうんです。
昔の自分は良くなかったと思う反面、あの頃のストイックな自分に救われたといってくれる人もいるので、やっぱりこれも自分は運が良かったんだなと思ってしまいますね。
──正しいと思っていた考えを改めるのは難しいことだと思うんです。仕事でも自分はこう教わったし、それを実践して結果を出してきたんだからと、自分の正しさを部下や後輩に押しつけてしまう、そんな人は少なくないと思います。
あるあるですよね。踏襲するタイプの人。それも良いことだとは思うんです。僕はそこから少しずらすことやバランスをいじることが大事だと思っていて。
僕が新卒時代に上司からいわれたことも、今考えると正しかったと思うんです。当時はできるだけ関わりたくないと思っていたし、社内営業みたいなのも大嫌いだったけれど、チームで働くんだったら必要なことなんですよね。
今の自分のメンタルだったら、上司の誘いにも乗っていたと思うんです。その必要性がわかっているので。ただし、プライベートがゼロになるのはバランスが悪いので、参加できる時は参加するみたいな。いわれたことを全部受け入れるのではなく、自分が無理のない範囲で受け入れるように、バランスをとることが大事なんじゃないかなと。
──自分なりの落とし所を見つけるということでしょうか。
そうですね。若い頃ってすぐに0か100かで考えがちなんですけど、少し冷静になって真ん中あたりを選ぶイメージです。時速100キロで進むのでもなく、バックするのでもなく、法定速度を目指して進むというか。
仕事って少しバランスをとるだけで快適になることはいくらでもあると思うんです。ダイエットと同じで、極端に考えすぎないほうがいいと思います。
人の意見はいったんすべて受け入れ、その後、検証してみる
──片倉さんといえば「問題ないです」や「三流、二流、一流」といったショート動画のイメージがありますが、どんな時にそういった片倉さんらしいフォーマットのアイデアを思いつくんでしょうか。

実はフォーマットはまったく重視していません。たまたまできちゃっただけ。思いついたらやってみて、評判が良ければ少しずつずらして続ける。最初からフォーマットを作ろうとしたことは一度もないんです。
フォーマットに意識が行くと視聴者は離れると思っているんです。だからむしろ避けているかもしれない。結果的にフォーマットになるのは良いけれど、意識的にやりたくはないんですね。
自分らしさを出すために、ひとつ大事にしていることがあるとすれば、それは動画を見終わった後の感情です。特に、ポジティブな気持ちで見終われるかどうか。その点「三流、二流、一流」は「三流」で言及する内容が人によってはキツすぎることがあるので、やめました。
結局のところ、三流に当てはまったり、実際に三流の人につけられた経験のある人は、ネガティブな気持ちのまま終わってしまうんですよね。
アイデアを思いつくタイミングはバラバラですね。映画やドラマを見ている時や、移動している時など、生活の中で思いつくことが多いです。
共通しているのは新しい刺激に触れた時かもしれません。家の中でじっとしていて思いつくことはほとんどないです。机の前でじっくり考えて、みたいなことも一度もありません。

──普段の生活の中でインプットは意識しますか?
意識どころか、インプット自体、全然していないと思います。強いていえば、コメントでインプットしている感じですね。視聴者のリアクションを見て考える。だからコメントはめちゃくちゃ参考にしています。
──他の筋トレ系YouTuberの動画なんかも見ないんですか?
全然。むしろ今は見ないようにしているくらいです。見ると無意識のうちに影響されて似てしまうから。見るのは全然違うジャンルですね。
──視聴者からのコメントを大事にしているというお話がありましたが、人の意見をどこまで取り入れるか悩むことはありませんか? 仕事でも周りの人にいろんなことをいわれてどうすればいいのか迷ってしまう人は多いかと思います。
そういったアドバイス的なものっていったん全部受け入れてみて、自分の中で検証することが大事だと思います。そうすれば何が正しいのか確認できる。一度確認してしまえば、その後、何を採用するかは簡単です。
ダイエットでも「こういう方法が良いっていう人いるけど、こっちのほうが良いって人もいるんです」みたいなコメントをけっこうもらうんですが、検証したらすぐわかるんですよね。その検証を省くから悩んでしまう。
YouTubeでも基本は検証ですね。いただいたコメントを採用してみて、やってみて伸びなければ「なんでだろう? こうかな?」と検証する。そうやってひとつずつ潰していくうちに、伸びる方法ってそんなに多くはないんだなと気づきました。
仕事でも同じようにもらったアドバイスを実際にやってみて、なんか違うなと思ったらやめて、しっくりきたら続ければいいんです。
──お話を聞いていると、片倉さんって真面目な方なんだなと感じます。その検証がめんどくさいからみんなスキップして人に聞きたくなっちゃうんですよね。
真面目というか、たまたま凝り性だっただけです。僕はむしろ外交的スキルを持っている人がうらやましいと感じます。そのスキルを持っていたほうが人間関係が豊かになると思うから。だからすべては良し悪しだし、フィールドの違いでしかない気がします。
動画を作る人や企画を考える人は凝り性なほうが良くて、YouTuberとして矢面に立つ人は、そこまでこだわったり、検証したりしない人のほうが向いているのかもしれませんね。
自分のキャラクターや向き・不向きがあると思うので、自分に合うと感じる方向に行くのが良い気がしますね。
「楽しいこと」を見つけるためには、今に集中し行動バリエーションを増やそう
──今後の活動で何かビジョンや目標などはありますか?
キャリアビジョンは昔と変わらず今も全くなく、夢もないんです。強いていうならチャンネル登録者数100万人を達成できればいいなとは思うけれど、正直にいうと、べつに行かなくてもかまわないとも思っている。ああでもないこうでもないと考えながらやっている今が楽しいので。

──あまり先のことは考え過ぎないようにしているんですか?
そうですね……意識して考えないようにしているというよりは、本当にただ考えてないって感じです(笑)。でも、今の視聴者さんたちに役立つ情報を届けるとか、迷惑をかけないようにするとか、そういうことは常に考えています。
食い気味に先のビジョンを語られたところで置いてけぼりになっちゃうと思うんです。「……それで?」みたいな。だから、これからこういうことをしたいとか、こういう方向に行きたいみたいな未来のことはあまり言わないようにしていますね。将来的にYouTubeをやめるとか、そういうこともあまり考えたことがないですね。
──何事も目標を立ててそこから逆算して行動しなければ、みたいな風潮があると思うんですが、そんなのは関係ないんだと。
個人的には経験やスキルがないまま逆算するってあまり意味がない気がするんです。だったら行動した後で考えればいいんじゃないかなと。
今考えているのはとにかく今の視聴者さんたちのことだけで、その点に関してまだわからないことがたくさんある状態なんです。将棋みたいに1マスずつ進んでいる感覚に近くて。だから今やっていることに集中して、それを楽しんでいる感覚です。
──片倉さんのように仕事で「楽しいこと」を見つけるためにはどうしたらいいでしょうか? 楽しい仕事、やりたい仕事が見つからない人も多いと思います。なぜ片倉さんは楽しさを見つけられたと思いますか?
とにかく行動のバリエーションを増やすことが大事なんだと思います。僕の場合、パチンコ屋やジムでバイトをしてバリエーションを増やした時、自分に合うことが見つかりました。以前は陸上しかしていなかったから、陸上以外にときめくものが見つからなかったんです。
それが行動の種類を増やしたらたまたま見つかった、単純にそれだけな気がします。いろんなことをやれば、その中に引っ掛かるものがあるかもしれない。やりたいことがわからないのは、そうやって行動をしていないからかもしれません。だから悩むよりも先にとりあえず「やってみる」のが良いのかもしれないですね。
とはいえ、今の自分という成功例だけから判断しているのでこれもただの生存バイアスなのかもしれません。いろんなことをやるのではなく、大学で体育会に所属してひとつのことに集中できる環境にいたからこそ陸上を続けられた知り合いもいるんです。
もちろん、人によって向き・不向きはありますよね。僕の場合はこうだったというだけなので。だから、繰り返しになりますが、選択肢がいくつかある場合は、自分が楽しいと感じるほうを選ぶのがいいと思います。

※インタビュー前編はこちら
あえて先のことを考えすぎない。パーソナルトレーナー・片倉岳人が価値を置く「今を大事に生きる」感覚
【プロフィール】
片倉岳人(かたくらがくと)
2019年にYouTubeチャンネル「ダイエットの知恵袋」を開設。パーソナルトレーナーの経験を活かし、おすすめの食べ物や運動法などの役立つダイエット情報を発信中。著書は『結局これが一番やせる! 努力0.1%ダイエット』(KADOKAWA)。
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