ビジネスシーンでは、多くの人と協力して仕事を進める必要があります。たとえ実力があっても、それを誇示して驕った態度を取れば、周囲の反感を買いかねません。謙虚であることは、自分自身だけでなく、周囲のモチベーションも高め、組織全体の成長にも貢献します。この記事では、人材育成事業会社で代表取締役を務める高田貴久さんにお話を伺い、「謙虚」の意味と「謙遜」との違いをはじめ、謙虚であることのメリットや謙虚さを身につける方法について解説します。
謙虚とは?
「謙虚」という言葉を聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。ここでは、ビジネスにおける「謙虚」の意味や、謙虚と似た言葉である「謙遜」との違いについて詳しく解説します。
謙虚の意味
謙虚とは、広辞苑によると「ひかえめですなおなこと」と定義されています。
ビジネスにおける謙虚とは、自分の実力を過信せず、周囲にひけらかさない人柄や態度のことを指します。「能ある鷹は爪を隠す」という言葉を連想するといいかもしれません。
一方、謙虚の対義語である「傲慢」は、偉そうにして人を見下すような態度を指します。いくら実力があっても、それを誇示すると、周囲の反感やひんしゅくを買うことにつながるでしょう。
謙遜との違い
謙虚と似ている言葉に「謙遜」があります。「謙虚」と「謙遜」の違いは、見方によれば「意識」と「行動」のどちらに焦点が当てられているかの違いと捉えることができるかもしれません。
謙虚は「心のなかでどのように思い、実際にどう受け止めているか」という「意識」に焦点を当てた言葉です。一方、「謙遜」は「相手に対して自分がどのように振舞うか」という「行動」に焦点があてられています。
例えば、謙遜する人は、褒められる機会があっても「自分だけの功績ではない」とへりくだった態度を示します。ただし過度な謙遜は、「言葉は丁寧だが、内心は違うことを考えているのではないか」という印象を抱かれる可能性があるため、注意が必要です。ビジネスシーンにおいては、謙虚と謙遜のバランスが保たれていることが重要だと考えられるでしょう。
卑下との違い
ほかにも謙虚と混同されがちな言葉に「卑下」があります。
卑下とは、実力があったとしても、それを正しく自己認識できていない状態を指します。それに対して謙虚は、自己の実力を正しく認識している状態です。これは、内なる自信を持っているとも言えます。
例えば、大きな案件でリピート受注を取った時、謙虚な人は、案件の重要性を適切に評価します。同時に、自分の能力を客観的に認識し、「みんなのおかげでいい仕事が取れた」と感謝の言葉も述べることができるでしょう。
しかし、自分を卑下する人の場合は、「どうせ私はこの程度なので」と自分の能力を実際よりも低く見積もってしまいます。「リピート受注は誰でも取れる」といった発言をして、周囲のモチベーションを低下させ、信頼を失う可能性もあるでしょう。
謙虚さがビジネスで重要視される理由
ビジネスでは、常に成果が求められます。成果を出すためには、自分に足りない部分を改善して次につなげることと、成果が出るまで継続することが大切です。謙虚な人は、自然とこのような行動をとることができます。
例えば、謙虚な人は自分の実力を正しく評価し、周囲に協力を求めることができるでしょう。すぐに成果が出なくても、自分の力を信じているので、簡単に諦めることはありません。また、柔軟に周囲の意見を取り入れ、改善に努めながら、粘り強く努力を続けることができるはずです。
必要性が高まる「知的謙虚さ」とは?
「知的謙虚さ」とは、「自分の知識や見解に限界があることを認識している態度・状態」を意味します。いわゆる「無知の知」と似ているかもしれません。
グローバル化やテクノロジーの革新が進み、目まぐるしく変化していく世界の中で、ビジネスにおいても将来の予想が困難となっています。知的謙虚さを持つことは、自分の常識を超えた未知の状況に柔軟に対応するためにも、今後必要とされる姿勢です。
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謙虚な人の特徴
謙虚な人には、どのような特徴があるのでしょうか。具体的に解説します。
内なる自信を持っている
謙虚な人は、自分の非を素直に認めることができますが、それは内なる自信を持っているからだと言えます。反対に傲慢な人は自分に自信がなく「周りの人に認めてもらいたい」と考えるため、自分の実力を誇示してしまうのです。また、卑屈な人が自分の実力を客観的に評価することができないのも、内なる自信が足りないことが原因かもしれません。
自己研鑽を怠らない
謙虚な人は、自分の能力を正しく認識しているため、自己研鑽を怠りません。最初は実力がないと中々成果が出せず、周囲に迷惑をかけてしまうことがあるかもしれませんが、「自分ならできる」と信じ、努力を続けることが重要です。
世界が広いことを理解している
「世界が広い」と理解していることも謙虚な人の特徴です。これは「知的謙虚さ」にもつながります。世界にはさまざまな文化があり、価値観や考え方も異なります。
こうした認識を持つことは、ビジネスにおいても非常に重要です。自社や同業種の常識ばかりに目を向けていると、「自分は何でも知っている」といった勘違いにつながりかねません。
感謝の心を持っている
謙虚な人は常に感謝を忘れません。「いかなる成功も自分一人の力ではなし得ない」と考えているのです。そのため、自分の限界を認めて、それを補完し支えてくれる、周囲へ感謝の気持ちが自然と生まれるようになるのです。
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謙虚さを身につけるメリット
謙虚であることは、仕事にどのような良い影響をもたらすのでしょうか。ここでは、謙虚さを身につけることのメリットを紹介します。
自己成長できる
謙虚な人は、自分の欠点や未熟な部分を素直に認めて改善ができます。また、すぐに大きな成果が出なくても、諦めずに地道な努力を続けることができるため、結果として自身の成長につながることが多いでしょう。
周囲からの信頼を得られる
謙虚な人は、成功を自分だけの手柄として過信することがありません。周囲への感謝や気遣いも忘れないため、一緒に働くメンバーから信頼を獲得しやすい傾向にあります。また普段から信頼関係を築いていることで、自分が困った時にも手を差し伸べてもらいやすいでしょう。
裁量権を与えられやすい
謙虚さがあれば、驕らずに努力を続けることができます。この姿勢は周囲からの信頼獲得につながり、顧客や上司からの期待も高まるでしょう。その結果、仕事を任せてもらう機会が増え、キャリアの可能性も広がります。
謙虚さがない場合のデメリット
では謙虚さがない場合には、ビジネスにおいてどのようなデメリットがあるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
共感を得にくい
謙虚さがない人は周囲の人から苦手意識を持たれやすくなります。意見に対して反発を受けたり、納得してもらえなかったりすることがあるかもしれません。周囲の共感を得にくくなることで、仕事でも不都合が生じやすくなる可能性があります。
チャンスを逃しやすい
謙虚さがない人は、独断で仕事を進めてしまう傾向があります。そのため、周囲と協力することが難しいと認識されてしまい、仕事を頼まれにくくなる可能性があります。結果として大きな仕事のチャンスを逃してしまうかもしれません。
成長の機会が少なくなる
謙虚さがないと、他人の意見にも耳を傾けにくくなり、自分の改善点に気付くことが難しくなってしまいます。このような状態が続くと、誰からも欠点を指摘されない状態になり、成長する機会を失いかねません。
人間関係でストレスを感じやすい
謙虚さがなく、傲慢な態度や卑屈な言動を続けていると、周囲と円滑なコミュニケーションをとることが難しくなります。これにより職場での人間関係にストレスを感じやすくなり、仕事のモチベーションも低下してしまう場合があります。
謙虚さを身につける方法
謙虚になるために、日ごろから心がけるべきことはあるのでしょうか。ここでは謙虚さを身につけるための具体的な方法を紹介します。
日頃から周囲への気遣いを忘れない
周囲への気遣いを忘れないためには、まず「自分だけの力では何事もなし得ない」と自覚することが重要です。この意識をふまえ、周囲に対していつも感謝の心を持つことが、謙虚さを身につける第一歩となります。感謝の言葉をこまめに伝え、自分の行動で周囲に負担をかけた場合には、誠実に謝罪することを心がけましょう。
常に学ぶ姿勢を持つ
狭い世界の常識だけにとらわれると、謙虚さを身につけることが難しくなります。同時に、自分が居心地の良い人間関係の中だけで過ごしていると、「井の中の蛙」になりがちです。知的謙虚さにも通じることですが、謙虚さを身につけるには、学ぶ姿勢を持つことが重要です。そのためにも、積極的に新しい環境に身を置くようにしましょう。
フィードバックを積極的に求める
謙虚さを身につけるには、フィードバックを意識することも重要です。特に課題点については、自らフィードバックを求める姿勢を心がけましょう。フィードバックをもらう際は、不足している部分だけでなく「できている所」も必ずセットで受け取ってください。これは内なる自信を高めることにもつながります。
「自分は正しい」という考えを捨てる
他人の言動に腹が立つことがあっても、必ずしも自分の捉え方が正しいとは限りません。相手の言動や考えに対し、感情的にすぐに反応せず、「そういう考えもある」と一旦受け止めることが大切です。こうした客観的な視点を持つことが、謙虚さを身につけることにつながります。
心身を健康に保つ
謙虚な気持ちを持つには、自分に対する内なる自信が必要です。心身が疲れている状態では、謙虚になることは難しいかもしれません。ストレスを抱えていたり、自信を失っていたりする場合は、まずはしっかりと休息をとりましょう。出来る限りベストなコンディションで仕事に臨み、前向きな気持ちで日々を過ごすように心がけることが大切です。
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謙虚な姿勢は成功の鍵
謙虚な姿勢は周囲に好感を持たれやすく、努力を怠らないことで自分自身の成長にもつながります。特に変化の激しい現在のビジネスシーンでは、未知の状況にも柔軟に対応することが求められます。紹介した方法を参考に謙虚さを身につけて、周囲から信頼されるビジネスパーソンを目指しましょう。
監修:株式会社プレセナ・ストラテジック・パートナーズ 代表取締役CEO 高田貴久
東京大学理科1類中退・京都大学法学部卒業後、戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル(ジャパン)でプロジェクトリーダー・教育担当・採用担当を務める。その後マブチモーター株式会社へ転職し、経営企画部員・事業基盤改革推進本部 本部長補佐として改革を推進。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2006年に起業。現在は約100名の社員とともにトヨタ自動車をはじめとした幅広い企業で人材育成を手掛けている。
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