折衝とは?ビジネスにおける意味や折衝力がある人の特徴、高めるポイントを解説

「折衝」とは、利害が一致しない人同士が合意点を見つけるプロセスのことを指します。この記事では、そもそもの意味や折衝力を高めるためのポイント、折衝経験が求められる仕事などについて解説します。

折衝の様子

「折衝」とは、異なる意見や利害を持つ人同士が、合意点を見つけるためにコミュニケーションを行うプロセスのことを指します。商談などで折衝を経験すると、「もっと上手くなりたい」「コツが知りたい」と思うこともあるかもしれません。

この記事では、そもそもの意味や折衝力がある人の特徴、高めるポイント、折衝経験が活かせる仕事について、経営コンサルタントで交渉術についても発信されている横山信弘さんに伺い、分かりやすく解説します。

「折衝」とは?

「折衝」に関する疑問を示した様子

「折衝(せっしょう)」とは、異なる意見や利害を持つ人たちが、話し合いや駆け引きを行ってお互いの合意点を見つけるプロセスを指します。「交渉」や「駆け引き」なども、折衝の類義語といえるでしょう。

ビジネスシーンにおける「折衝」とは?

ビジネスシーンで折衝が行われるのは、商談や資金調達などの場面です。場合によっては、社内の交渉ごとで行われることもあるでしょう。

こうした場面では、自身の利益にとらわれて、意見を押し通してしまうと、当初の目的は達成できません。そのため、相手の立場や目的などを理解し、お互いにとって最適な解決策を見いだす「折衝力」が求められます

「交渉」や「調整」との違いは?

一般的に、「折衝」は、利害関係が一致しない人同士が妥協点を見つけるために行うものとされています。そのため、ビジネスや政治など、フォーマルな場面で行われることが多く、成立させる難易度も高いでしょう。

一方、「交渉」は、納得の行く結論を導き出したり、互いのメリットを増やしたりするために行われます。両者の利害が一致しているため、落としどころが見つけやすく、日常的に行われる場合も少なくなくありません。例えば、「価格交渉」は、商品を売りたい人と買いたい人の間で行われるため、両者の思惑は一致していますが、「いくらで取引するか」という点をすり合わせるために、駆け引きが行われます。

「調整」は、共通の目標や課題を持つ人たちが、目的を達成するために、それぞれの立場や意見を尊重しながら、合意形成していくプロセスを指します。「折衝」は、目標が異なる人たちや敵対関係にある人たちの間で行われるため、「調整」とは意味合いが異なる言葉だといえるでしょう。

折衝力がある人の特徴

折衝力があるビジネスパーソンのイメージ

多くの折衝を成功させられる人には、どんな特徴があるのでしょうか。ここからは、折衝力がある人に共通する特徴を4つ紹介します。

リサーチ力がある

折衝において、自分の目的と相手の目的に折り合いをつけ、合意点を見つけるには、相手の価値観や抱えている課題、本音と建て前など、あらゆる情報を事前に調査しておくことがなにより重要です。事前準備を怠らず、こうした情報を綿密に調べ上げる力がある人は、折衝力が高いといえるでしょう。

推論力がある

折衝を成功させるには、譲歩できるラインをあらかじめ用意するとともに、相手の希望条件や限界条件を推論し、仮の妥協点を見定めておくことも大切です。そのため、折衝力がある人の多くは、推論力にも長けています

例えば、会社でとあるプロジェクトを任され、予算をなるべく多く確保したいと考えているにもかかわらず、上層部が経費削減の方針を掲げているとしましょう。そんなとき、相手の希望を考慮に入れず、「予算を1,000万円つけてください」と申し出れば、断られてしまう可能性もあります。推論力がある人なら、どのくらいの予算なら出してもらえるか、推論した上で折衝を進められるので、予算を最大化させられるでしょう。

提案力が高い

折衝でこちら側の希望条件をのんでもらうには、明確な根拠に基づいて提案する必要があります。そのため、客観的なデータや信頼のおける過去の事例など、相手が納得できる根拠を示しながら提案できることも、折衝を成功させられる人の特徴といえるでしょう。

提案力を高めるには、理路整然と話すことも重要です。結論の後に根拠を並べて最後に再び結論を伝える「PREP法」などを用いると、折衝の成功率を上げられます。

人間力がある

『人を動かす』で有名なデール・カーネギーの名言に「人間は感情の生き物である」という言葉があるように、論理性や合理性だけを重視していると、折衝がうまくいかなくなることも少なくありません。

人間には感情があるため、相手の主張が正論でも、感情的に受け入れづらい場合もあります。反対に、主張が理にかなっていなくても、つい受け入れてしまったということもあるでしょう。

さらに折衝では、相手が損失を被るケースも少なからずあります。そのため、折衝のような緊迫する場面こそ、メリットやデメリットだけを考えるのではなく、相手の感情に配慮し、関係性を築いていくことが大切です。日頃から礼節をわきまえ、感謝や気遣いを忘れずに折衝を進められる人間性も、折衝力がある人に共通する重要な要素といえるでしょう。

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折衝力を高めるポイント

経験を積んで折衝力を高めるイメージ

上記の特徴に当てはまらなくても、ポイントを押さえれば、折衝力を高められます。ここからは、折衝を成功させるためのポイントを見ていきましょう。

実際の業務を通じて経験を積む

折衝経験が不足している場合、実務で経験を積むことが大切です。例えば、頻繁に折衝を行う営業職などを通じて鍛えると良いでしょう。中でも、価格帯の大きい商材を扱う新規開拓営業は、折衝する相手が複数にわたり、背景も複雑になってくるため、折衝力を鍛える良い機会になります。

外部環境や内部環境の分析を行う

説得力のある提案を行うには、市場の動向や政治の動きといった「外部環境」や、自社の経営資源など「内部環境」の分析を事前に行うことが大切です。主観的な意見だけを主張するスタイルでは、折衝を成立させることはできません。相手が社内の人であっても社外の人であっても、事前の分析を怠らないようにしましょう。

ステークホルダーとの関係を構築しておく

折衝では、数値のデータだけを根拠に提案を行うと、説得力を欠くことも少なくありません。そのため、折衝する相手の価値観や、経歴・信条といった背景にある情報を教えてくれる協力者が不可欠です。折衝する相手はもちろん、折衝に関わるあらゆる関係者と関係を構築しておくと、より成功しやすくなります。

経験を積んで胆力を養う

上司や他部署の役職者、取引先の社長など、立場が異なる人を相手に折衝する場合、しり込みしてしまうこともあるでしょう。しかし、弱気な姿勢で折衝に臨めば、不利な条件をのむことになる場合もあります。そのため、折衝には度胸も必要です。経験を数多く積んで、胆力を養うようにしましょう。

気持ちを切り替えて折衝に臨む

折衝経験を重ねていくと、ときには相手のペースに巻き込まれ、不利な条件をのまざるを得ないときもあるでしょう。そうしたときこそ、気持ちを切り替えることが重要です。

スポーツと同様に「今日も負けるかも」とネガティブな感情を持ったまま、折衝に臨むと、うまくいくものもいかなくなってしまいます。すべての折衝を成功させようと考えるのではなく、「前回は前回、今回は今回」と気持ちを切り替えて、さらに経験を積んでいくようにしましょう。

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折衝力や折衝経験が活かせる仕事

スタートアップを立ち上げた人のイメージ

最後に「折衝力に自信がある」「折衝経験を活かしたい」という人におすすめの仕事を4つ紹介します。

M&Aアドバイザー

M&Aアドバイザーは、M&A(企業の合併買収)にかかわるアドバイスや、契約成立までの一連のサポートを行う専門家です。企業によっては「M&Aコンサルタント」「ファイナンシャルアドバイザー(FA)」と呼ばれる場合もあります。

M&Aにおいては、財務や税務、法律などの知識はもちろん、折衝などのコミュニケーション能力が求められます。案件によっては、売り手と買い手の間に入って仲介する「媒介」を行うこともあるため、高い折衝力が必要です。

またビジネス全般に必要な知識やスキルが身につくため、起業家やフリーランスなどにも転身しやすく、やりがいを感じやすい仕事といえるでしょう。

ビジネスディベロップメント (Business Development:事業開発) 

ビジネスディベロップメント(Business Development:事業開発)は、「事業開発セールス」とも呼ばれ、近年注目を集めている職種の一種です。BizDev(ビズデブ)と略されることもあります。

BizDevは、その名のとおり、新しい事業を立ち上げる際の市場開拓を担う職種で、顧客やパートナー企業、プロジェクトメンバーなど、利害が異なるステークホルダーと関係を構築し、合意点をすり合わせる機会も少なくありません。既存事業ではなく、将来性が予測できない新しい領域で営業活動を行う必要があるため、高い折衝力が求められるでしょう。

起業家

起業家とは、自ら新しい事業を立ち上げる人のことを指します。会社を設立するだけでなく、革新的な事業を世にもたらしたときに、「起業家」と呼ばれる場合が多いようです。

新しい事業を始めるには、資金調達や営業、人材の採用などが必要になります。そのため、あらゆる場面で折衝力が求められるでしょう。

優れた折衝力があれば、事業に必要なリソースや顧客を集められるため、たとえ特別な技術や商品開発力がなくても、起業を成功に導く大きな力になります。

ヘッドハンター

ヘッドハンターとは、企業の経営幹部や、社長の右腕として活躍している人材など、重要なポジションを担う人を探し出し、スカウトする仕事です。「エグゼクティブサーチ」とも呼ばれています。転職を考えていない優秀な人材を引き入れるケースも多いため、高い折衝力が求められるでしょう。

エグゼクティブサーチは、エグゼクティブサーチファームに所属して行うのが一般的です。以前は外資系企業で用いられるケースが大半でしたが、人材獲得競争が激しくなった近年では、国内の企業でも注目を集めています。

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折衝は準備が9割。地道に経験を積んで鍛えよう

折衝の成功を握るのは、事前準備です。「折衝の9割は準備」と言っても過言ではありません。折衝を行う際は、外部環境や内部環境を徹底的にリサーチし、相手が提示する条件などを推論してから臨むようにしましょう。また、折衝には感情も大きく影響するため、相手の感情に配慮し、感謝や気遣いを忘れないことも大切です。

折衝力は、簡単に習得できるものではありませんが、経験を積むことで鍛えられるスキルです。一度身につければ、キャリアアップにも役立つでしょう。

監修:株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ 代表取締役社長 横山 信弘
企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。15年間で3,000回以上の関連セミナーや講演、コラム執筆、昨今ではYouTubeチャンネル『予材管理大学』を通じ「予材管理」の普及に力を注いでいる。大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持ち、各種ビジネス誌への寄稿、多数のメディアでの取材経験がある。メルマガ「草創花伝」は3.8万人超の企業経営者、管理者が購読。主な著書には「絶対達成」シリーズのほか、「『空気』で人を動かす」「キミが信頼されないのは話が『ズレてる』だけなんだ」等多数。

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