常見陽平さんが問う、「自由な働き方」の幻想と現実

近年注目を集めている「自由な働き方」。しかし、『自由な働き方をつくる』や『普通に働け』などの著者であり、人材コンサルタントである常見陽平さんは、「基本的には、自由な働き方という考え方は幻想」と語ります。

常見陽平さんが問う、「自由な働き方」の幻想と現実

近年注目を集めている「自由な働き方」。しかし、『自由な働き方をつくる』や『普通に働け』などの著者であり、人材コンサルタントである常見陽平さんは、「基本的には、自由な働き方という考え方は幻想」と語ります。

なぜ自由な働き方は幻想なのか? 自由に働くことはできないのか? できるとすれば何をしたらいいのか? 今回は常見さんに、「自由な働き方」の幻想と現実を伺いました。

「ノマド=自由」という幻想



―そもそも、いま世間で言われている「自由な働き方」とはどのようなものなのでしょうか。

常見さん:今ブームになっている「自由な働き方」は、主に「会社を辞め、所属、時間、場所から自由になり、好きな仕事をする」ことを指している言葉です。

―いわゆる「ノマド」的な働き方ですね。あらためて聞くと、とても魅力的な働き方のように思えます。

常見さん:しかし僕は、基本的には自由な働き方という考え方自体が幻想だと思っています。「自由に働いている人なんていない」と思っているんですよ。いるとしたら『釣りバカ日誌』の浜ちゃんぐらいです(笑)。

―やはり現実には、浜ちゃんのようになるのは厳しいと……。

常見さん:例えば会社を辞めても、仕事をしていて定期的に人に会うことになれば場所の制約が出てきますし、仮に場所にとらわれずどこでも仕事ができるとしたら、24時間仕事に追われる可能性もあるということです。さらに、所属を離れるとそれまで会社がやってくれていたことを、全て自分でやらなければいけません。所属、時間、場所の制約から解放されることが、本当に自由だといえるのかは疑問ですね。

―なるほど。自由な働き方を求めて会社を辞めたり、ノマド的な働き方を選択したりすることで、逆に制約を受けてしまうことがあると。常見さん自身はフリーランスという立場ですが、自由に働いているという感覚はありますか?

常見さん:僕がしている執筆業のような自由度の高い仕事も、健康管理、金銭的リスクを考えることは最低限必要です。さらに業界の環境もどんどん変わるので、例えば「本を書くだけじゃ食えない」という状態になったりもしている。そのリスクを抱えながら、あらゆる業務を自分ひとりでやっていくのは、あまり自由だとは考えづらいですよね。

「地方=自由」という幻想


―「ノマド」の他にも、「地方で働く=自由」という考え方もあります。

常見さん:これは、速水建朗さんの著書にあったと思うのですが「都会でやっていけない人は、地方でやっていけない」のです。地方の方が厳しいと思いますよ。

―具体的にはどういった意味で、地方は自由がないのでしょうか。

常見さん:移動や情報など、あらゆる面で非効率ですし、物価が安いかもしれないけど賃金も安い。なにより人間関係が狭い。地方出身の人は分かると思うんですが、村社会での狭い人間関係は、自由とは程遠いと思うんです。さらに、仕事も一からつくらなきゃいけないという場合もあります。自由を求めて会社を辞めて地方に行っても、現実は結構厳しいのです。

現実の「自由な働き方」とは、好きなように仕事をすること


―では、「自由に働く」ということは不可能なのでしょうか。

常見さん:先ほどは「自由な働き方は幻想」だと言いましたが、突き詰めると「好きなように仕事をする」ことなのだと思います。

―「好きなように仕事をする」ことが「自由な働き方」だと。

常見さん:そう。「好き」と「好きなように」は違います。「好き」というのは、例えば「音楽が好きだから、音楽の仕事だけをやる!」というようなことじゃないですよ。そう言って会社を辞めても、やりたい仕事をもらえるかは分からないですし。そうではなくて、「どんな環境でも与えられた仕事の中で、自分のやりたいことにつなげていく」ことが、好きな仕事をすることだと思います。より具体的に言うならば、「好きなように仕事をする」という。

―なるほど。「自由な働き方」というと、自由な「環境」に目がいきがちですが、それよりも好きなことを仕事につなげていくという「態度」にこそ、自由な働き方のポイントがあるのですね。そうした意味では、雇用形態は関係ないのでしょうか?

常見さん:関係ないですね。例えばある旅行会社の人が、アーティストのファンクラブツアーを企画しました。それも担当者の趣味から始まった企画です。アーティストと直接関われたわけではないと思いますが、そうやって「自分の興味あるものを仕事として成立させていく」ことが「自由な仕事」だと思います。そうした意味では、会社にいながらでも自分の好きな分野でニーズを開拓したり、企画を提案したり、好きなことを仕事につなげることはできますよね。

―なるほど。会社の中でも自由に働くことは可能なのですね。

常見さん:そうですね。一番自由なのは、「会社の中では異端児なんだけど、好きに仕事を任せてもらえる人」だと思います。会社にいるからこその自由というものがありますし、会社のブランドや規模があるからこそできる仕事もある。雑務が多く、スケジュール的にも自分を管理しないといけないフリーランスに対し、会社員は自分の担当する範囲の仕事をやれば、保険や年金、その他の手続きは会社がやってくれます。これによって時間とストレスは相当軽減されることになりますよね。つまり会社って、社員を守ってくれるし、どんな人でもある程度の自由度を手に入れられる場所なんです。

好きを仕事にして自由に働くために必要な3つのこと


―それでは、好きなことを仕事に結びつけるために、必要なことはなんでしょうか?

常見さん:就活みたいですけど、まず自己分析をすることです。自分のやりたいことと、今の環境とのギャップが分からないと行動ができませんから。社会人こそ自己分析が大事だと思います。自己分析をして「自分は仕事として何がしたいのか」、「その分野で勝ち残っていけるのか」を考えること。甘えで自由を求めずに、厳しい現実を直視してください。

―まずは自分の立ち位置を知るということですね。他には何か、好きなことを仕事に結びつけるために必要なことはありますか?

常見さん:自分だけのワザを持つことですね。会社でもフリーでも、自分のやりたいことを仕事にしていくなら、「その人に頼みたい!」と他人が思うだけのワザがないとやっていけません。例えば僕はトークが得意なのですが、これは営業マン時代の下積みがあったからこそのワザ。ただし、何が自分の武器になるかは若いときには分からないので、若いうちはどんな仕事でも本気で取り組んで、ワザを磨くべきです。

―ワザを磨くためには、仕事に本気で取り組むこと以外にできることはありますか?

常見さん:仕事している仲間、分野、クライアントなど、あらゆる面で変化がある環境に身を置くことが大切です。同じ環境で仕事をしていても、仕事の価値は下がっていくんです。好きだからといって、同じ仕事だけをやっている状態のときは危機感を持った方がいい。「高いレベルを目指した結果、憧れの人と一緒に仕事ができる」というのが理想的だと思いますね。周囲の人間が当たり前とする基準の高さが仕事の質を変えるので、そういった意味でも人脈は大事です。プレッシャーのない安全地帯で仕事していても、能力って伸びないんです。もちろん、横ばいは横ばいで立派ですけど。

―なるほど。仕事に本気で取り組むだけでなく、変化があり、高い結果が求められる環境で働くことが、自分の芸を高めることにつながるのですね。ほかには、好きなことを仕事に結びつけるために必要なことはありますか?

常見さん:いざとなったら別の道を選択できるように、準備をしておくことも重要です。独立や転職にはリスクがありますし、会社にいても業界ごと傾くときもあります。なので、そうしたリスクを踏まえて、「今後自分の好きな分野で食べていけるのか」ということを考えなければいけませんよね。

いかがでしたでしょうか。「自由という言葉に踊らされて、不自由になっていく人がたくさんいる」と常見さんは語ります。さて、皆さんが考える「自由な働き方」は、じつは自分を縛りつける「幻想の自由」ではないでしょうか。あらためて、皆さん自身にとっての「現実の自由」とは何か、ぜひ考えてみてください。

識者プロフィール


常見陽平(つねみ・ようへい)/
評論家・コラムニスト。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社を経てフリーに。
雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。2015年4月千葉商科大学に新設される国際教養学部の専任講師に就任予定。著書に『リクルートという幻想』(中央公論新社)、『普通に働け』(イースト・プレス)、『自由な働き方をつくる』(日本実業出版社)など。

※この記事は2015/01/15にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

page top