第三者に仕事を受け継ぐ「継業」のメリットとは?

家族や従業員に代わり第三者が事業を継ぐ「継業」は、いま後継者不足が嘆かれる地方を中心に広まっています。 昨年メディアで取り上げられたことをきっかけに、継業という働き方の是非はネットを中心に大きな話題を呼びました。

第三者に仕事を受け継ぐ「継業」のメリットとは?

家族や従業員に代わり第三者が事業を継ぐ「継業」は、いま後継者不足が嘆かれる地方を中心に広まっています。 昨年メディアで取り上げられたことをきっかけに、継業という働き方の是非はネットを中心に大きな話題を呼びました。

継業について、働き手のメリットは何なのかを、「リノベーション起業研究会」を主宰する奥村聡さんに伺いました。

継業の定義とは?


一般的には、後継者が不在の経営者と継承希望者がマッチングし事業を受け継ぐことを「継業」といいます。

ゼロから事業を起こす起業と異なり、いわば自分が経営者として“就職”する新たな就業スタイルです。

ときには従来のやり方を踏襲してほしい前経営者側と、新たな取り組みを始めたい継承希望者側で経営の食い違いが生まれてしまうこともあり、ビジネス的な面だけでなく当事者同士の感情も大きく影響してくる点も特徴といえるでしょう。

なぜいま継業が注目されているのか?


いま継業が注目されている理由として、「それだけ後継者が不足し、廃業間際の会社やお店が多いということ」だと奥村さんは言います。

しかし、継業が生まれた背景には、確かに後継者不足の問題があるものの、必ずしも「後継者不足=人手不足」ということではないようです。 奥村さんは、以前は司法書士資格を持ちながら会社再生や事業承継のコンサルティングをしていたという自身の経験から「後継者不足は、継承希望者からすれば重荷を背負わされるだけのような論調があったことが原因ではないか」と言います。

一方で、「時代の空気」も大きく影響しているとのこと。「若い人の間には、地元に帰って暮らしたいという希望を持つ人が増えていると感じます。そういう方々のマインドと『既存の事業を引き継いで自分の仕事をつくる』という継業の働き方は相性がいいはずです」

さまざまな継業のかたち


ひとりの経営者からひとりの継承希望者へと事業を受け継ぐだけでなく、継業には双方の状況や希望によって、さまざまな継ぎ方があるのだとか。

1.必要な部分だけを受け継ぐ

「そもそも継承希望者は事業のすべてを継ぐ必要はないと思っています。自分の仕事や事業をつくるために必要ある部分だけを受け継ぎ、時代に合ったかたちに活用すればいいという発想が必要ではないでしょうか。私は従来の事業承継やМ&A(企業の合併吸収)だけでなく、このような継ぎ方も含めて継業だと考えています」

2.複数人でひとつの店舗や会社を受け継ぐ

幅広く「自分の仕事をつくるチャンス」としての継業を発想し「リノベーション起業研究会」を発足した奥村さん。継業に関わるなかで、ある商店街の豆腐屋さんが廃業するという話を耳にし、女性グループが継ぐことになったケースが印象的だったそうです。

「彼女たちは、豆腐屋さんの業務をすべて1人で受け持つのではなく、製造・事務・販売を3人で手分けし、それぞれが仕事の内容を教えてもらいながら継業を実現しました。この件で、誰が仕事を継いでもいいし、実現のためにはみんなで力を合わせればいいと実感しました」


奥村さんが関わった神戸の商店街で開催されたイベント「リノベーション起業カレッジ」。 「商店街になくなってしまった店を復活させよう」というテーマのもと、グループごとに事業プランを練り、最終日に発表を行ったそう。

 

イベントがきっかけとなり、現地で漬物店を開業した2人。

 

継業のメリット


継業には大きくふたつのメリットがあります。

1.ゼロからものごとをつくらなくてよい

継業は、継承希望者がすでにある建物や設備を使用できることが多く、周囲の人間関係なども出来上がっています。それをどう生かすかは本人次第ですが、まったく“丸腰”から事業を始めることに比べると、資金面も含めハードルはぐっと低くなると考えられるでしょう。

2.「新しいことを始める」発想のベースがある

継承希望者が経営ノウハウを身につけていなくても、培われてきた理念などの「ビジネスビジョンのベース」を時代の流れに合わせて「発展させる」と捉えられる点も継業の強み。もちろん、その土壌をつくり上げた前経営者とコミュニケーションを取り、互いに納得したうえで経営していくことも重要です。

継業をしたいと思ったら?


継業は、農家や商店街にある昔ながらのお店が多い一方で、ITやネイルサロンといった業種においても、第三者が継いでいるケースもあるとのこと。

奥村さんは継業を考えている人々に対し「自分が継ぎたい事業やお店や技術、味などがあれば、とにかく飛び込んでみるべきです。こうした募集の声は、なかなか表に出てこないので、自分の足やコネクションをフル活用してチャンスを手にしなければなりません」と語ります。

まとめ


いまある資源を生かして次に受け継いでいくという考えをもつ継業。取り組み自体もいまだ新しく、事業者の思いや事業の継承方法も千差万別です。

今後、継業の事例が増えていくことで、働き方を模索していた若者にチャンスが広がりそう。「就職」と「起業」に加え、次世代の新たなキャリアの選択肢に仲間入りした「継業」という働き方に、今後も注目が集まりそうです。


識者プロフィール
奥村聡(おくむら・さとし) ビジネスバトンプロデューサー・司法書士。23歳で祖父の会社の倒産の鎮静化のために奔走する。その後平成21年からコンサルタントに転身。後継者不在や社長死亡、財務悪化など“存続の危機”にある 中小企業400社以上を支援している。「リノベーション起業研究会」主宰。

※この記事は2016/04/25にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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