ビールの世界に新たな価値を! 知的な変わり者が集まるヤッホーブルーイングの「チーム力」

『よなよなエール』に『水曜日のネコ』、『インドの青鬼』…。あなたもコンビニやスーパーなどで目にしたことはありませんか?

ビールの世界に新たな価値を! 知的な変わり者が集まるヤッホーブルーイングの「チーム力」

『よなよなエール』に『水曜日のネコ』、『インドの青鬼』…。あなたもコンビニやスーパーなどで目にしたことはありませんか?

聞いただけでは何か分からないこの個性的なネーミングと独特なプロモーション手法は、ビール業界の常識を大きく覆しました。国内にクラフトビールを普及させ、人気製品を数々と展開している株式会社ヤッホーブルーイング(よなよなの里)。かつては8年連続で赤字だった同社も、2005年から11期連続で増収増益を続け、若者を中心に新たなビールファンを開拓しています。

既存のビール業界のなかではちょっと“異端”ともいえる同社のチームづくり&組織づくりはどうなっているのでしょうか? 名物社長である井手直行さんにお話を伺いました。

チームビルディングプログラムで一致団結する「チーム力」


――今年4月に発刊された貴著『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります―くだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話』(東洋経済新報社)では、2008年に社長就任されたとき、当時の会社を指して「チーム力が足りない」と感じられたそうですね。

社長就任以前から感じている課題ではありました。現在、従業員は140名ほどの規模になっていますが、その当時はまだ20名弱程度。しかしそのくらいの規模でも、みんなが遠慮し合って仕事を敬遠しているような雰囲気があり、このままでは会社の急成長は見込めないと思っていました。

ちょうどそのころは会社の売上にも鈍化傾向が見られ、業務の執行状況が売上に表れるようになっていました。僕自身、以前から営業担当の枠を超えて組織づくりに入り込むようにしていましたが、名実ともに社長になったとき、自分の意思で責任をもってチームづくりに注力していこうと決意をしたんです。

――現在実践されているチームビルディングプログラムは、具体的にどのような内容・手法で行っているのでしょう?

今は年に一度、全5回の「チームビルディングプログラム」を行っています。

例えば、フラフープを使ったアクティビティ(共同作業)があって、これは約10名で輪になり自分たちの人さし指でフラフープを支えるというものです。支えることまではできるのですが、このフラフープを指から離さずに地面に下ろすとなるとなかなか息が合わず、何度やっても成功しないんです。

プログラムの最後には、みんなの心が一つになる。 プログラムの最後には、みんなの心が一つになる。



――チームで挑んでいるのですから、みんなでやり方を模索しますよね。

はい。でも即席でつくったチームなので、誰かが「こうしてみよう」と提案しても、周囲が本気で聞いてくれない。あるときは、せっかくいい提案を出してもその声が届かず、別の声が大きい人の提案が選ばれてしまう……。こうなると次第に不平不満が出てきますよね。いろいろな個性が集まっても、まとまるものがまとまらない。それがチームというものです。

しかしこうした状況下で、各自が参加者の合意を得ながら、与えられた課題をどうやって成し遂げるか、議論を繰り返します。次第に互いを認め合う雰囲気も出来上がり、ついには課題を成し遂げる。こうして研修が終わるころには、完全に一致団結したチームになり、参加メンバーは自信をもって卒業していくんです。

――そうしたチームビルディングが、会社全体に浸透していると感じていますか?

今は毎年20名ほどを新規採用しているので部署間での人の入れ替わりもあります。組織全体がいきなり変わるのはなかなか難しいことですが、プログラムを通して意識を変えた人が増えてくると、自発的な雰囲気も会社のなかに広がっていきます。成長しているかぎり、完全な組織体にはなれないものですが、以前に比べれば雲泥の差だと感じていますよ。

“よなよなエール愛の伝道師・てんちょ”と呼ばれるワケ


――一方で、遊び心を取り入れた“社内風土”の改革にも着手されていますよね? 例えば、互いがニックネームで呼び合っていたり、「六〇隊(流通営業)」「ヤッホー盛り上げ隊(人事・総務)」など一風変わった部署名で統一したり……。

ニックネーム制度の発端は、僕らの親会社にあたる星野リゾートに「フラットな組織文化」という基盤があることでした。星野リゾートでは役職・社歴・雇用形態・男女など一切の関係がなく、みんなが平等に議論をする組織文化があり、みんな“さん付け”で呼び合っていたんですね。僕らも最初はそれに倣っていました。

星野リゾートのようなリゾート業であればそれも自然なのかもしれませんが、僕らはビール業界の人間。製品にも特色がありますし、当社のファンを集めたイベントなんかも企画しています。そうすると“さん付け”では、まだ距離感を感じさせてしまうんです。

よなよなエール愛の伝道師の姿。



ならば「いっそニックネームで呼び合えば、お客さまから見ても楽しいのでは?」と思いました。部署名が「○○部」みたいに“おカタイ”のもまたアンバランスですから、僕を含め部員の自己申告でニックネームに変えていったんです。

「知的な変わり者」の文化が浸透していった


――そうして井手さんご自身も“社長”ではなく“よなよなエール愛の伝道師”になり、社員やファンの方々からは“てんちょ”って呼ばれているんですよね(笑)。販売店など、取引先の反応はいかがですか?文

あまりに常識外れだったのか、最初こそ変な目で見る方もいましたが(笑)、これは僕らの組織文化が根っこにあることでしたし、譲れませんでした。でも「知的な変わり者」という文化が浸透してくると、段々その感覚に共感していただけるようになり、なかには、僕らと仕事をするときにだけ、自分たちのニックネームを用意してくる方もいらっしゃいます。

毎年「よなよなエールの超宴」というイベントを開催していて、今年5月には2日間で1,000人超のお客さまが集まってくれました。SNSや通販のメルマガでしか告知しなかったのですが、取引先の方々も決して義理ではなく、自ら楽しみに参加してくれています。

――これまでに伺ったような「知的な変わり者」の集団をつくる組織文化に加え、御社の製品やプロモーションもまた、ビール業界ではなかなか“異端”な存在だと思うんですよ。いわば“革新的”ともいえるそうした行動力は、過去のどの経験から培われたと思いますか?

今思いつく限りでは3つの経験があって、1つは売上がどん底まで落ちたときのこと。僕らみたいな田舎の中小企業は普通のことをやっていてはダメだと感じた経験が、まずはベースにあります。2つめは、創業者である星野佳路(星野リゾート代表)の存在。斬新なアイデア・戦略を練る人がすぐそばにいたのが大きかったです。

てんちょ自ら会場を盛り上げるためにパフォーマンスする。これか真のエンタテイナーだ。



そして3つめが、楽天市場でネット通販を拡充していったときの経験です。ネット通販も最初は赤字続きで、そのときは楽天の通販ページも単調なものでした。しかし楽天市場の母体である楽天さんは「ショッピング・イズ・エンターテインメント」と買い物に楽しさを追求していて、それに後押しされました。

通販ページで売上に直接はつながらないような企画やキャンペーンを展開するようになり、ビールのうんちくや日頃の冗談なんかも盛り込んだメールマガジンを始めたのもそのころのことです。

批判を恐れれば「誰も好きじゃないもの」が出来上がる


――現在の楽天市場「よなよなの里」のページを見ると、期間限定の「年間契約」「福袋」のキャンペーンがあったり、醸造所見学ツアーの募集があったり、さらにはエールビールの豆知識を披露していたり……。内容もその都度、拡充されていますよね。

過去のキャンペーンやメルマガも、なかには賛否両論をいただくことがありました。でも「ポイント2倍キャンペーン!」みたいな無難なメルマガでは、だんだんと反応が薄くなっていって、次第にメルマガ自体を解除する人が増えていくんです。一方で個性を振り切ったキャンペーンには両極端な反応がある。喜んでくれる人、怒り出す人、その両方が出てきます。

どちらにしてもお客さまを減らしてしまうのなら、賛否両論があってもやってみればいい。100人がいて1人でも批判票があれば、人はそれを消そうと丸くなりがちですが、やがて個性をなくします。これでは面白くないじゃないですか。

――御社のユニークな製品開発も、そのあたりが背景にあるのですね。

もちろん自分に手落ちがあったときの批判は真摯に受け止め、謝らなければいけません。僕らもそれを実践してきました。しかし「好き・嫌い」で選択されるような批判に対して、僕らは「それでいいんだ!」という道も選択してきました。

「嫌い」という声を除外すれば、それを嫌いな人はいなくなるかもしれません。でもその半面、「誰も好きじゃないもの」が出来上がってしまう。ある意味、つらい選択なのかもしれませんが、それをずっと続けてきたらこんな変な会社になっちゃいました(笑)。

ユニークで味わい深い製品は確固たる「チーム力」から生まれている。



――まだまだヤッホーブルーイングの挑戦は続いていくと思いますが、次の挑戦でいうと「2020年までに売上シェア1%」という目標が掲げられています。

ミッション(理念)として「ビールに味を!人生に幸せを!」を掲げています。これは会社の方向性を示すもので、これを上位概念とした次なるビジョンとして「2020年までに売上シェア1%」を実現したい。

大きな目標としては達成したいのは、どの店にもクラフトビールが置いてあって、誰でも気軽にビールを楽しめる、そんな「ビールの新たな価値」です。ゆくゆくはそれを世界にも浸透させていきたいし、ビールを通じていろいろな楽しみを与えることに僕らはチャレンジし続けたいです。

まとめ


ヤッホーブルーイングを支えているのは、井手社長がけん引してきた組織文化の醸成のようです。独特で個性的と思われる組織文化のなかには、ブレない哲学が深く根付いていました。

そのなかで井手さんが最も大切にしていることは、「自分たちの個性を見失わないこと」。その思いは業界に限定されることなく、誰もが共感できることなのではないでしょうか。


識者プロフィール
井手直行(いで・なおゆき) ヤッホーブルーイング代表取締役社長 1967年生まれ。大手電機メーカー、広告代理店を経て、1997年にヤッホーブルーイング創業時に入社。以降、営業を担当。2004年よりネット通販を推進し、8年連続で赤字だった業績をV字回復させ、現在まで11年連続の増収増益が続く。2008年に社長就任。2016年4月に初の著書『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります―くだらないけど面白い戦略で社員もファンもチームになった話』を上梓。

※この記事は2016/08/13にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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