大企業幹部からNPOへ。ドクターストップで見えたセカンドキャリアの成功

1分間に1人の子どもの命が失われていく……。そんなマラリアの脅威から世界を救うために日々奔走する認定NPO法人「マラリア・ノーモア・ジャパン」専務理事兼事務局長、水野達男さん。

大企業幹部からNPOへ。ドクターストップで見えたセカンドキャリアの成功
1分間に1人の子どもの命が失われていく……。そんなマラリアの脅威から世界を救うために日々奔走する認定NPO法人「マラリア・ノーモア・ジャパン」専務理事兼事務局長、水野達男さん。

大企業の幹部としてアフリカでの事業を経験し、50代にしてマラリア撲滅を目指すNPO法人へ転身。そんなセカンドキャリアに果敢に挑戦する水野さんの、キャリアへの思いを伺いました。

ルーティンに満足する仕事に疑問


外資系企業を経て、住友化学のベクターコントロール(媒介害虫制御)の分野において、東アフリカでのマラリア制圧(特に予防の分野で蚊帳の現地生産・普及)で成果を挙げていた水野さんですが、大企業の風土に疑問を抱いていたといいます。

「大きな組織は、やっぱりスピード感に欠けます。また、私の担当したアフリカ、マラリアの分野には、前例のないことに積極的にチャレンジしようとする風土がすべての人にあるわけではなく、むしろ、多くの人はチャレンジよりルーティンで満足していました。

だから、現地で起きている問題に対する理解と支援を得ることは、必ずしも十分というわけではなかったんです」(水野さん:以下同じ)

子どもたちの命をマラリアから守るために、蚊帳を配布。

 

ドクターストップを余儀なくされて気づいたこと


最初のうちは、マラリア制圧事業が軌道に乗らず、多くの在庫を抱え、現地での製造工場の立ち上げが思うようにはかどらない、品質の管理も思うように進まない、さらには人手不足といった、思いもよらない課題が山積みだったそう。

「今は、笑ってお話しできますが、事業を本格的に開始して1年半後に、体も心も病んでしまい、40日間の完全休養(=ドクター・ストップ)を余儀なくされました」

この「40日間の完全休養」が、結果的に水野さんの意識を大きく変えることになります。

当時は、焦りや絶望感から日常的にネガティブな会話が多くなり、「被害者を演じていた」という水野さん。しかし休養する中で、自分がいない間も、周りの同僚たち、上司たちのカバーで仕事はしっかりと流れていくことに気づきます。

「以前のようにガムシャラではなく、周りのみんなと調整しながら進めていく。そうやって『被害者』から『当事者』へと意識が変化していきました」

この意識の変化が、その後のビジネスの成果、好転につながったと感じているという水野さん。その後は、できるだけ自分を当事者と思えるように、自分をコントロールし、周りにも仕事を任せるようになりました。

「自分よりしっかりやってくれる人がいれば、その人にお任せするのが一番です。私は皆ができないところをカバーする。事業全体をしっかり把握し、方向性を決め、よりリアリティーのある戦略と解決策を提示し、それを仲間と協議する立場に徹することが大切なことだと、考えるようになりました」

水野さんに当事者意識を芽生えさせ、自分の使命を実感した光景。セネガル_マラリアで子どもを亡くした母親。ビジネスやプライドは関係なく、子どもを亡くして悲しむ人を少しでも減らしたいという思いを抱いた。

 

死ぬ前に自分で自分を褒めてやりたかった


2012年、アメリカのNGO「マラリア ノーモア」本部から、アジアでの拠点づくりの話が、水野さんが以前勤めていた住友化学のCSR(社会や地球環境が抱える問題を解決する体制)に持ち込まれていました。

また、同時期に、水野さんが参加していた世界の課題を英語で考え、何か実行するという「グローバル・アジェンダ・セミナー」(略称:GAS)で、世界の課題解決に対するさらなる好奇心が湧いたこと、予防だけでなく、診断・治療という分野でもまだまだやるべきことがあると感じたことが、マラリア撲滅へ挑むという、セカンドキャリアへのきっかけとなりました。

「そのとき、『本来あっていいものが今ないのであれば、自分でつくって始めてみたらいい』というアドバイスをいただき、日本でマラリアに特化したNPO(NGO)法人の立ち上げに参加しようと本気で考えるようになりました。

もし、次のキャリアでその一助になることができたら、死ぬ前に自分で自分を褒めてやれるかなぁと思ったんです」

アフリカ最高峰キリマンジャロへ挑む水野さん。NPO法人を設立しゴールへ向かって着実に一歩一歩前へ進んでいる。

 

「ユニークな存在」になりたい


水野さんは現在、マラリア制圧に、政策提言や日本企業の感染症対策へのさらなる資源の投入と、現地でそれを早期実行へ移す機動性の確保を支援するために尽力しています。

「今後はマラリアに特化したNPO(NGO)法人として、ユニークな存在になりたい」と話す水野さん。そのためには、企業的なセンス(ある程度成果にこだわり、社会的なインパクトを与える>資源の導入)を取り入れるようにしていきたいと続けます。

「アジア・アフリカで活躍する日本企業をさらに増やしたいんです。彼らが抱える従業員の健康管理(マラリア・デング熱、ジカ熱などの感染症対策)に積極的に企業責任を果たして事業としても成功し、従業員からも信頼される企業として、持続的に発展していってほしい。そこに、われわれの活動を生かしたいと考えています。

この活動は、そのまま日本の継続的な発展と、次世代がより良い社会を実現していくことに間違いなくつながっていると確信しています。内部、外部の若手(次世代を担う人)の育成にも、関与していきたいですね」

他団体とのチャリティーディナーにて。

 

20代は「現場主義」を知るべし


61歳の現在も精力的に活動を続けている水野さん。最後に「20代のうちにやっておくべきこと」を伺いました。

「現場主義を知ることです。常に自分、自分の周り、現場(現実と直面しているところ)に解決策があることを信じ、理解して、自分事として考え、行動・実践することが大事です。

かといって、Do-Do-Doだけではなく、しっかり、頭で理論武装して、それを実践で試すこと。そのために、書籍や優秀な先輩のセミナーや講演会を通じて、理論的にフレームワークを身に付けましょう。さらに、優秀かつ異質な人間とも付き合うことで、異文化コミュニケーション能力の育成にもつながります。

なぜ、その人はそのような行動を取るのか……。そういった人の背景や、本質を自分なりに理解するために苦手な相手でも交流し、話を傾聴する。そして、その人の考え方の本質をベースに、共通のゴールを目指せる相手なのかを判断して、真の仲間づくりを目指してください。できれば、仕事の内外にそのようなネットワークを長期に、継続的に形成していくことをおすすめします」

まとめ


大企業で働く経験を通して、本当に自分がやりたいことを見つけた水野さん。思い切ったキャリアチェンジから、現在は世界を変えるために奔走しています。とてもパワフルでグローバルな彼の挑戦は、まだまだ続きそうです。

※この記事は2016/06/14にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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