4月の新人研修が終われば、今度は社会人3~5年目くらいの先輩が、後輩に対してマンツーマンで教える体制になるのが一般的。皆さんが入社数年目なら、「OJT(オン・ザ・ジョブトレーニング)トレーナー」を任される可能性は少なくありません。
「そもそもOJTトレーナーが何かも分からない!」という状態で、後輩から白い目で見られないためにも、OJTトレーナーの役割を学んでおきましょう! 今回はOJTトレーナーがどのような役割を持っているのかを、アルー株式会社のOJT制度構築・運用のスペシャリストである中村俊介さんにお話を伺い、まとめました。
OJTトレーナーの定義とミッション
そもそもOJT(On-the-Job Training、オン・ザ・ジョブトレーニング)とは、上司や先輩が部下や後輩に対し、実際の仕事を通じて、仕事に必要な知識・スキル・心構えを指導していくことです。
中村さんによれば、OJTで後輩を教える立場になると、「入社1年目という大切な時期において、新人の精神的成長を促し、自己成長力と社会人基礎力を高めること」がミッションとなるそうです。
また、このミッションを実現するためには、教える先輩自身がOJTトレーナーとしての心構え、知識、スキルを高めるのはもちろん、経験から学ばせたり、職場ぐるみで新人を育成する風土をつくるための打ち手を考え、実行したりすることも大切とのこと。そう考えると、OJTは後輩を成長させるだけでなく、自分を成長させることも必要になりますね。
OJTトレーナーとして意識すべき3つの心構え
OJTトレーナーには、次の3つの心構えが必要だと中村さんは言います。いずれも、関係性を重視し、新人の成長をとことん考えることがポイントになります。
■I’m OK,You’re OK,~不完全さを受け入れる心構え~
「教える相手と良い関係を構築するために必要なスタンスです。完璧な相手や完璧な自分だけでなく、相手や自分の不完全な部分も認め、受け入れることが重要。長所・短所を含めて一つの人格として受け入れ、『自分と相手』の両者を受け止めて、率直にコミュニケーションをとるという心構えです」(中村さん:以下同じ)
■For You,~相手と向き合う心構え~
「後輩の成長をとことん考え、しっかりと向き合い、諦めず、言うべきことを言う心構えです。やればできると信じ、強みを見つけて伸ばす。そのためには、高い目標を設定し、その実現に挑むという『ストレッチ』だけでなく、相手のキャパシティーも考えて、世話や配慮、気配りといった『ケア』をすることも必要です」
■Ownership~責任感を持ち、相手にも持たせる心構え~
「OJTトレーナーは育成の責任感を持ち、同時に新人には成長の責任感を持たせます。新人が本人の意志で変わり、成長していけるように導くことが大切です。また、自分が発揮するべき“価値”がなんであるのかを考えさせ、仕事のオーナーシップ(責任感、当事者意識)を持たせます」
OJTで後輩へ教えるべき5つのこと
では、後輩へはどのようなことを教えればよいのでしょうか。主なものとして、中村さんは以下の5つを挙げます。
1.企業文化・風土
自社のDNAとなる企業理念や行動指針、社員の行動習慣や特有の文化など
2.仕事の進め方
相手の期待に応えるために、自分から考え、自分から行動する仕事の基本動作
3.「ホウ・レン・ソウ」
仕事を進める上で基本のコミュニケーションとなる「報告・連絡・相談」
4.G-PDCAのサイクル
目標(Goal)を軸に計画・実行・確認・改善のPDCAサイクルを回す行動習慣
5.社内における有効なコミュニケーション手法
上司や先輩など、周囲の人と良い関係性を構築するための心構えとスキル
これらの内容を後輩が頭で理解するだけではなく、体で覚えて自然と行動できるように、日々の業務の中で繰り返し挑戦の機会をつくり、継続的にサポートしてあげることが大事だそう。そして、「後輩が成功体験を積み上げていき、行動が習慣化すれば、成長スピードが加速して、社内でやれることが増えていきます。その結果、自発的・継続的に成長することができます」と中村さんは言います。
【注意点!】
このときに注意してほしいのが、決して非現実的な目標を立てないこと。中村さんは「実行が難しいと、成長スピードが鈍化したり、“周囲から言われているからやる”というネガティブな動機から脱却できなくなったりしてしまう」と言います。
後輩の教育を通して、OJTトレーナーが学ぶべきスキルとは?
後輩への教育は、教える側にとっても大きな学びのチャンスです。OJTを行う立場として、自分自身が学ぶべきスキルは次のようなものだそうです。
■関係構築のコミュニケーション
OJTでは相手の存在を認識し、話をじっくりと、思い込みをなくして聞き、相手が話しやすい環境をつくることが大切になります。
「例えば、後輩が悩んでいるのに『私が新入社員のころは、そんなこと当たり前だったよ』と話に耳を傾けないと、後輩は『自分と一緒にしないでほしい』と不信感を持ち、心を閉ざしてしまいます」(中村さん:以下同じ)
望ましいのは、相手の話を積極的に聞くスキルを身に付けることだそう。そうすれば、後輩は「話を聞いてもらえている。いい先輩なんだな」と認識してくれ、安心感を持ってくれます。コミュニケーションが活性化されれば、指導やフィードバック、質疑応答が円滑に進みます。
■フィードバック
フィードバックとは、あるべき姿と現実のギャップを伝えることで、相手をより良い状態にするための働きかけのこと。
「このスキルがつくと、先輩は褒めたり叱ったりがうまくなりますし、後輩は今の自分の状態を知ることで、自分をコントロールできるようになり、自信を持って行動・改善することができるようになります。存在の承認を強く受けることは、後輩の自信にもつながります」
■ティーチング
自分が持っている知識・スキル・心構えを相手に教えるスキルです。山本五十六の名言※にもあるように、“やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒める”という4ステップで教えるのが効果的だそう。
「やってみせないとイメージできず、言って聞かせないと要領が分からず、させてみないと実際にできるか分かりませんし、褒めないと継続しないからです」
※山本五十六は、新潟県長岡市生まれの海軍軍人。太平洋戦争時には連合艦隊司令長官を務めた。人を動かすコツについて「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ」と語った。
■コーチング
対話によって、相手が持っている知識やスキル、心構えを引き出すスキルです。相手が目標を達成することや課題を解決することを目的としています。
「目標設定や目標達成の主体はあくまでも相手(新入社員)であるため、コーチングでは『聞く』ことが重要であり、相手の力を引き出す双方向のコミュニケーションを前提としています。上のティーチングとコーチングを使い分け、相手の力を最大限引き出していくことが重要です」
新人研修は経験のバトンを渡す機会
最後に、中村さんに、初めて後輩社員を教える立場になった先輩社員に向けて、メッセージをいただきました。
「新人研修は、皆さん自身も通った道です。自分の経験という貴重なバトンを、ぜひ後輩に引き継いで、生かしてください!」
後輩へ教えるべきことを教えることで、後輩が大きく成長してくれれば、喜びもひとしお。教える立場になったらチャンスと思い、とことん注力して取り組みたいものですね。
識者プロフィール
中村俊介(なかむら・しゅんすけ)/アルー株式会社HRC総合企画部マネージャー。アルー株式会社の代表取締役社長である落合文四郎(おちあい・ぶんしろう)が推薦するOJT制度構築・運用のスペシャリスト。
※この記事は2015/05/11にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています
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