なんだか“会社人”になってない? リディラバが社会問題への『無関心』を解決する理由

「食の安全」「介護問題」「ワークライフバランス」。

なんだか“会社人”になってない? リディラバが社会問題への『無関心』を解決する理由

「食の安全」「介護問題」「ワークライフバランス」。

私たちの生活にも関わるこのような社会問題を解決することは、とても重要なことらしい。でも、自分ではどうしようもないし難しい課題だから、遠いことのように思っている――。

そんな社会問題への意識を変え、身近にしていこうとしているのが一般社団法人のリディラバです。リディラバが掲げるミッションは、私たちの意識を社会問題に向け、「関心を持ってもらう」こと。

今回はリディラバで代表を務めている安部敏樹さんに、リディラバのお仕事やミッション、安部さんが社会問題に取り組まれるようになったストーリーについて伺いました。

実は、社会問題へは、もっと気軽にアクションを起こせるものなのかもしれません。社会の一員であるビジネスパーソンとして、あらためて社会問題への向き合い方を考えてみませんか?

もっと気軽に社会問題へアクセスできる世の中へ!


リディラバは個人も参加できるスタディツアーや修学旅行・企業研修を通じて、社会問題や地域課題の現場へ訪れる事業を展開する一般社団法人と株式会社です。コンセプトは、「社会問題への無関心の打破」。社会問題そのものに限らず、私たちの「関心」にフォーカスして変えていこうとするのはなぜなのでしょう?

代表・安部敏樹さんは「社会問題を根本的に解決するにはその仕組みを知ることが不可欠。しかし今、社会問題はまるで橋のない川の向こう側にあるかのように思われていて、理解ばかりか関心を持たれるにも至っていない」と話します。

「休日に何をしようか考えたときに、例えば『橋がかかっていない激流の向こう側に行こう!』とは思わないですよね。危険だし、大変だから。そのように、なかなかたどり着けない遠いところにあるというイメージが社会問題についてしまっているんです。本当は僕たちの日常のちょっとした段差やくぼみくらい、身近にあることなのですが」(安部敏樹さん、以下同)

現在、私たちは介護や待機児童に悩む当事者ではなくても、もしかしたら数年後にはその問題に直面しているかもしれません。それほど身近なことかもしれないのに、『自分事』として想像がつかない。社会問題と私たちの間にある、大きな隔たりの正体とは何でしょうか?

リディラバではそれを“3つの壁”と考えているそう。1つ目は、そもそも社会問題に関心が向かない興味の壁。2つ目は、社会問題が可視化されていない情報の壁。3つ目は、知っていても行動に結びつかない現場の壁。この3つの壁の存在が、社会問題との関わりを遠ざけているとのこと。

社会問題への関心を高めてアクションを起こせる世の中を目指すため、リディラバではこの3つの壁それぞれにアプローチする事業を展開。1つ目の「興味の壁」を打破する「修学旅行・研修旅行」。2つ目の「情報の壁」を打破する、社会課題に関するニュースを配信するメディア「TRAPRO・リディラバジャーナル」の運営。「現場の壁」を打破する3つ目の「スタディツアー」では、社会問題の現場を訪れるツアーを実施。200以上のテーマを開催し、これまでに6,000人もの人を社会問題を肌で感じる旅へ送り届けています。

扱うテーマは200以上。気軽に現場を訪れ、解決策を考えられるツアーをデザイン

 

高齢化、過疎化の問題を抱える山間地方。アソビを通じて楽しく山と関わり、地方と都市の交流を増やすことを目指して開催された「世界一の山アソビを作る」ツアー



「スタディツアー」の内容は扱うトピックによってさまざま。例えば「障がい者の就労事情」のトピックの場合は、障がい者と一緒に働き彼らとコミュニケーションをしてみる。「風俗の労働問題」ならば、風俗業に従事している方と女子会をして、気軽に話をしてみるなど。

「ホームレス事情」について理解を深めるために行ったスタディツアーでは、路上で生活されている方と一緒に池袋を散策。ホームレス状態の方々の生活を見聞きし、さらにその後のワークショップにて必要な支援を考えることで、近年の路上生活事情を知る機会を提供しているそう。参加者からは「一人では踏み込みにくいところをツアーで参加することで、実際の自分の目と耳から現実を見ることの大切さを今回学ぶことができ、また彼らをどうやって社会復帰させるかなど、さまざまな課題が見えた」という声も届いているのだとか。

普段はできない特別な経験をして、それをきっかけに自分の頭で解決策を考えてみる。旅行のように気軽に参加し自分で体験できるこの仕組みは、従来の社会問題への取り組み方の構造を打破するためのものでした。

「従来、社会問題の現場へアクセスするには、NPOなどに所属することが思いつきますよね。ただ、自分の関心のある社会問題のテーマとNPO団体とのテーマのマッチングが難しかったり、NPOで人間関係を築くために長い時間をかけなくてはならなかったり、人によってはハードルが高く感じられることもある。

せっかく興味を持ったのに、関わっていく負担が大きいゆえに結局離れてしまってはもったいない。もっと気軽に、効率的に、しかもいろんな出会いがあって楽しく社会問題に向き合える。そういうポジティブな機会があれば関心を社会に引き寄せることができると考え、ツアーをデザインしているんです」

社会からあぶれた落ちこぼれ…彼を救ったのは『ドラゴン桜』プロジェクト!?


東大卒で、母校でも教鞭をとっている安部さんですが、本人いわく、中高時代は意外にも落ちこぼれだったのだとか。俗にいう不良少年で、時には親に手を上げてしまったこともあったそう。安部さんご本人が世の中からはみ出した、まさに社会問題の当事者だったといいます。

「高校へはなんとか入学しましたが、学年最下位のうえに出席日数も足らず仮進級だったこともあり、『君は付属大学へは進学させられない』と先生からは見放されてしまうほど。10代半ばのグレていたころは、僕も周りの友人も、みんな自分に自信がなかった。社会にいる誰もが、自分たちに関心を持ってくれなかったからです」

社会は冷たい、誰も助けてくれない…。

そんな気持ちを抱えた10代の安部さんに転機が訪れます。当時はやっていたマンガ『ドラゴン桜』にならって、クラスメイトが「安部さんを東大に行かせよう!」というプロジェクトを始めたんだそう。

「周囲の人から関心を持ってもらえたこと。ただそれだけがうれしくて、周囲の期待に応えるように勉強を始めるようになったんです」

現役生のころは東大には届かず、別の国立大学に入学。しかし安部さんは中退し、その後再び挑んだ受験で見事、東大への合格を勝ち取るのです。

そして大学の実習で訪れた最後に通り過ぎたダム見学での経験が、スタディツアーの構想のつながります。ちょうどその当時、八ッ場のダムの建設が問題となっていた時期で、安部さんもこのころには社会問題へ関心が向き始めていたそう。

「意外にも、交渉をすればダムの中を見学することもできたのです。それから林業や学校での性教育など、いくつかの社会問題の現場を訪れて気がついたのが、どの社会問題も世間の『無関心』が解決に至らない根底なのでは、ということでした。

自分が社会問題のもともとの当事者だったこともあって、そういう人に目が向いていたのかもしれません。当事者は現状を改善しようと頑張るけれども、実際にはなかなか変わらず、だんだんと諦めていく。当事者の中だけで変えていくには問題は複雑で巨大すぎる。僕は運がいいことに、周囲が関心を持ってくれたことによって変わろうと思えたし、諦めずにすんだ。社会問題の当事者が救われるためには、もちろん自分の努力は必要です。それを理解した上で、みんな変わるきっかけを求めているのだと思うんです。そういうチャンスは社会から提供していかなくちゃダメで、個人に責任を押しつけるだけでなく社会もそういうふうに変わっていかないと。

一方で、大人になると自分のことに精一杯になって社会に関心を持つ機会がなくなってしまう。そのままだと社会問題の当事者たちが救われるきっかけは巡ってきません。だから、もっと誰もが社会に関心を持てるようになる機会をつくりたいと思ったんです」

そのようにして生まれた、スタディツアー。安部さんは2009年、大学3年の時にボランティア団体を結成。その後2012年に法人化し、現在の形に至ります。

社会に関心を寄せれば“会社人”から“社会人”へなれる、はず


今年の7月には、社会問題の構造を解き明かして理解を深める、大人のためのメディア「リディラバジャーナル」開設のためのクラウドファンディングを達成しました。これまでリディラバが蓄えてきた社会問題への知見をフルに活用し、社会問題の構造を捉えることができるようなニュースを配信していく予定だそう。

これの狙いは、私たちの持っている時間のうち、社会問題に目を向ける時間を今より少しでも、このメディアを使って多くしてもらうため、と安部さんは教えてくれました。

「リディラバジャーナル」は社会問題に対する関心を高めるための新しいチャレンジ



「子どもたちや学生に社会問題に触れる機会をつくると、意外にも結構喜んでくれるんですよね。その後自主的にプロジェクトをつくって、課題解決に取り組んだりしてくれる。しかし社会人になると、自分の仕事をサバイブしていくことに精一杯で、社会のことには無関心になってしまう。社会人とは言いつつも、実際には“会社人”になってしまうんです。皆さんも振り返ってみると、今よりも学生のころのほうがよっぽど社会問題のトピックを見聞きしていたのではないでしょうか?

いま、大人が“会社人”から“社会人”に変わらないと、いまの子どもたちも結局同じ道をたどっていってしまう。リディラバジャーナルは『無関心の打破』のための新しい試みなんです」

またリディラバジャーナルのもう一つの狙いとして、社会問題の複雑な実態を解きほぐし、理解していく機会を提供することがあります。

「社会の仕組みは徐々に複雑になってきていて、それに伴い社会問題の構造もまた複雑なものとなっています。一方、単純化された情報が拡散されるSNSを使うことが多くなった私たちは、得る情報に偏りがあり、かつ複雑な物事を複雑なまま理解する練習をしていない。社会問題を解決するには、複雑な問題の構造を理解し本質をつかまないと、そこに至らないんです」

安部さんは、そんな社会問題を解決する考え方は、ビジネスにもきっと活きてくると教えてくれました。

「ビジネスって、誰かが抱える問題を解決することでお金をもらっているものですよね。問題に取り組むときに一番大切で難しいところは『何が問題なのか』設定するところ。正しく問題を立てられたら、後は解いていくだけ。その中で発生するルーチン的なところは今後AIが引き受けてくれるようになるんじゃないでしょうか。そうすれば、僕らにはますます問題を立てる能力が必要になってくる。社会問題を理解することは、ビジネスにも役立ってきますよ」

社会問題に向き合うのはカッコイイ!


社会問題の複雑な実態を解きほぐして理解していく仕組みを、ツアーやメディアの運営によってつくりあげようとするリディラバ。安部さんに、20代のビジネスパーソンたちへメッセージを伺ってみると、「社会問題に取り組むことはかっこいい、モテるよ!」と笑顔で教えてくれた後、こんなことをおっしゃっていました。

「いつか自分が社会問題の当事者になることがあるかもしれない。もしそうなったら、すぐに誰かが助けてくれる社会だとうれしいですよね。社会を変えようと一歩踏み出すことは少し腰が重いことかもしれませんが、ちょっと関心を持つだけならばそんなに大変なことではないはずです」

また、「現場に行ったら邪魔になるかも…なんて思わなくていいんです。震災の時など、そう思うこともあったかもしれませんが、少なくとも現地にいる当事者の方たちはみんな、来てくれてうれしいと思っていますよ。まずは実際に行ってもいいものか現場に確認してみてください」というメッセージもいただきました。


最後に、やりがいを持って携われる仕事を見つけるためのアドバイスも。

「自分で燃える人もいれば、他人に燃やされる人もいます。やりたいことがない人って、実は後者なのかもしれないですよ。そういう人は『この人と一緒にいると自分も燃える』っていう人と一緒にやればいいんじゃないかな。誰かのやりたいことをサポートして、実現させてあげられることがやりがいの人ってたくさんいます。誰かの夢を、自分の夢にしてもいいんです。

ただ、自分には何もないと言っているだけでは、やりたいことなんてみつからない。誰かと何かと付き合っているうちに、どんどん人は感化されていくもの。何かを経験して衝撃を受けて、初めて感情が乗っかるんです。まずは行ってみて、飛び込んでみましょう。人は体に経験を伴って初めて、『これがやりたい』という驚きと出会えるんですよ」

社会人になったはずが、気がつけば“会社人”になってしまっている。安部さんのこの言葉にハッとした方もいるかもしれません。

テレビのニュースやネットから流れてくる情報だけでは分からないこと。今まで見えていなかった誰かや何かに関心を向けてリアルな現場を知ることで、社会への関心が高まるばかりか、自身も大きく成長できそう。

そうした新たな経験から視野は広がり、いつの間にか自分のミッションも見えてくるかもしれませんね。


(取材・文:東京通信社)

識者プロフィール


安部敏樹(あべ・としき)
1987年生まれ。東京大学在学中に、社会問題の現場を学ぶ旅行「スタディツアー」を提供する「リディラバ」を立ち上げる。24歳のときに史上最年少で東京大学にて授業を担当し、同大学で教員向けにも講義を持つ。現在も東京大学大学院博士課程に在籍中で、複雑系を専攻。2017年にはForbes誌が選ぶ“アジアを代表する30歳以下の社会起業家30人”に選出された。

※この記事は2017/08/21にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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