【為末大の未来の授業Vol.4】為末流人生哲学 ー成功体験で得た自信の脆さー

為末大/元プロ陸上選手。

【為末大の未来の授業Vol.4】為末流人生哲学 ー成功体験で得た自信の脆さー

為末大/元プロ陸上選手。

1978年広島生まれ。2001年のエドモントン世界選手権において、男子400mハードルで日本人初の銅メダルを獲得。05年ヘルシンキ世界選手権にて、再び銅メダルを獲得。トラック種目で2つのメダル獲得は日本人初。12年に現役引退を表明し、現在は株式会社R.project取締役としても活躍。著書に『走る哲学』(扶桑社新書)、『走りながら考える』(ダイヤモンド社)、『諦める力』(プレジデント社)など。

為末大の未来の授業<時間割>


1) 現代キャリア学 ―理想に近づくには遠回りも必要?-
2) 職業選択学 ―選択、それすなわち他を選ばないことなり-
3) 日本人論 ―日本人の世界観は孤立している?-
4)為末流人生哲学 ―成功体験で得た自信の脆さ-

祭りの時間は一瞬で終わる

 

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僕は2001年のエドモントン世界選手権*で最初のメダルを獲得したとき、この高揚感や充足感を伴った祭りの時間は一生続くのかと思っていました。でも、その高揚感はある程度経つと終わり、また普通の日常に戻っていくわけなんです。ただ、その日常に回帰していくのが、一度祭りの時間を味わうとスゴく難しいんです。メダルを取ることを目標にして生きてきたのに、それが達成され、終わりを告げる。そしてまた新たな目標を立てて、自分を奮い立てて生きていく。これは陸上選手に限ったことではなくて、すべての人にあてはまる人生のサイクルなんですよ。極端なことを言ってしまうと、目標を打ち立て、それを目指して追いかけているときが一番幸せだとも言えるんです。

*エドモントン世界選手権 … 為末選手が初の銅メダルを獲得した大会。400mハードルで日本人初のメダルを獲得。為末選手が当時打ち立てた47秒89の記録は、自己ベストの記録であり、未だ破られていない日本記録である。

長いスパンで考えると「失敗」は存在しない


結果として、僕は二度メダルを獲得しましたが、今自分の競技人生を振り返ってみると、22歳の頃、大学生にして臨んだシドニーオリンピックの予選で転倒して敗退したことが、結果として、後のメダルにつながっていると感じているんです。もちろん当時は少なからず落ち込み、挫折しましたけど、長い目で見るとそれが僕の成功の足がかりになっている。
そう考えると、人生って何が失敗で何が成功かなんて本当に分からないなと思うんです。

若い頃って、誰もが「何でもできる気がする」というある種の全能感を抱いていると思うんですけど、それはなるべく早く打ち破られるべきなんです。「思い通りにならない」っていうことを体験しないと、人間、工夫をしないんですよ。その「思い通りにならない」中で、どのように自分のやりたい方向にもっていくか、モチベーションを維持させるかを考えることで、自分をより高みへと導いてくれるんですよね。
だから、「思い通りにならない」ことを身をもって知るというのは、幸せになるために必要な一要素だと思うんですよね。

ポジションに支えられた自信は脆い

 

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僕は日本記録を持っていますけど、これはいずれ必ず打ち破られると思います。過去の栄光とか勝利で得た自信や成功体験っていうのは、他の世界に身を移したときにほとんど役に立たないんですよ。
でもそれに比べて、困難を耐え抜いたっていう自信ははるかに強固で、自分の記憶にある限り絶対失われないものなんです。そういう自信を得るためには、やっぱり敗北とか挫折という要素が絶対必要だと思うんです。

皆さんも、周囲から出遅れたとか、仕事でやりたいことと現実が違ったなど、様々な悩みを抱えているかもしれません。でも後になってそれがプラスに転じる事はよくあるので、今を否定し過ぎないでほしいなとは思いますね。
まあ、実際そのように思考を転換させるというのは、渦中にいるときはなかなか難しいんですけどね(笑)

Mr.スポーツになりたい


人生最後の方がどうなっているかは分かりませんが、40歳くらいまでに、僕はスポーツという分野を体系的に語れる人の第一人者になりたいんです。
例えば野球だったら長嶋さん、サッカーだったらカズさんって超一流の人がいると思うんですけど、スポーツ全体を社会学や平和利用の視点、医療などの観点で語れる人はまだいないと思っていて。しかもその分野は今後増々ニーズが高まってくるであろうと。同時にスポーツに関するビジネスをプロデュースしたり、スポーツで社会の問題を解決しようとしている人にベンチャーキャピタルとして協力したり、何かしらの形で協力もしていきたいです。

もちろん100mを9秒台で走れる選手を育てるコーチになることも、偉大ですけど、そこにはやりたい人がたくさんいるし実際とても難しい。
しかも、僕のトレーニングの仕方が他の選手にどこまで汎用性があるかは分からないし、皆がみんなQちゃん(高橋尚子選手)をメダルに導いた小出監督みたいになれるわけではない。
でも、僕が目指したい領域はまだ未開拓で、ライバルも少ない分野でもあると思うので、自分がこれまでの陸上選手としての経験も活かして、そこで大きなインパクトを与えられる人になりたいなと考えていますね。

本日の授業のおさらい


1.掲げた目標を達成しても、そこに留まらずに、次の目標を打ちたてよう
2.短いスパンで見た「失敗」に、クヨクヨしすぎてはならない
3.仕事での成功体験を誇らず、その過程の困難を乗り越えた自分を誇ろう
4.現役を退いても、第一線で社会にインパクトを与える人=為末大


※この記事は2013/07/17にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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