
仕事で毎日が充実しているはずなのに、なぜか「満たされない」と感じてしまう……。こんな経験はありませんか? 満たされない状態をそのままにしてしまうと、ストレスが溜まりやすくなったり、周囲から孤立しがちになったりしてしまうことも。
この記事では、臨床心理士として活躍されている関屋裕希さんにお話を伺い、満たされない状態の特徴や原因、状況を改善するための対処法について解説します。
満たされないと感じやすい場面

「満たされない」とは、物事や欲求に満足できず、心に空白感や不安を抱えている状態を指します。まずは、満たされないと感じやすい具体的なシーンを見ていきましょう。
周囲との関係がうまくいっていないとき
周囲との人間関係がうまくいっていないと、「満たされない」と感じることがあります。
例えば、職場では業務の話だけで雑談がなかったり、仕事がなかなか終わらずに家族やパートナーとのすれ違いが続いてしまったりするなど、他者と距離ができてしまう場面が考えられます。
仕事にやりがいを感じられないとき
自分の仕事と会社のビジョンにつながりが見えないときも、「満たされない」と感じやすいです。
例えば、いつも指示通りに資料を作るだけで意見を言う余地がなかったり、せっかく成果を上げても社内で評価されなかったりといった状況が挙げられます。
自尊心を感じられないとき
自尊心とは、自分自身を尊いと感じる気持ちのことです。自尊心が低下し、自分自身に価値を見いだせなくなると、満たされないと感じやすくなります。
会議などで意見を出しても採用されず、後から同じ意見を他の人が言ったら採用されたというような場面や、SNSで同世代が活躍する投稿を見て落ち込む場面などが例として挙げられます。
将来の見通しが立たないとき
将来の見通しが立たないときも不安を感じて満たされないという感覚が強くなります。
奨学金の返済や、家賃・物価の上昇によって毎月ギリギリの生活を余儀なくされるなどの状況が考えられます。
特に若手の場合、将来への貯蓄がなかなかできずにいると、結婚や子育てのことを考える余裕がなくなってしまう可能性にもつながるでしょう。
満たされない状態が続くとどうなる?
満たされない状態が続いてしまうと、どうなってしまうのでしょうか。ここでは、考えられるケースを5つ紹介します。
ネガティブな感情が慢性化する
不安や焦り、落ち込みといったネガティブな感情が慢性化しやすくなり、ポジティブな感情が減ってしまうことがあります。仕事をしていても、喜びや楽しみ、興味などが感じにくくなってしまうのです。
その結果、仕事への意欲やモチベーション低下につながり、同僚の雑談にも笑えず、「自分だけが疲れている」と感じたり、プロジェクトが一区切りついても達成感を感じられなかったりすることがあるでしょう。
否定的な自己評価や世界観になってしまう
「自分は何をやってもうまくいかない」、「周囲の人が冷たく感じる」など、否定的な考え方に陥りやすくなります。これにより、自尊心低下がさらに進み、悲観的な未来予測、他者不信などにつながってしまうことも。
せっかく上司に意見を求められても、「自分の意見はどうせ評価されないだろう」とマイナス思考になってしまったり、仕事でうまくいかなかった日には、「自分には能力がない」と決めつけてしまったりすることがあります。否定的な考えが強くなると、「自分だけ取り残されている」と落ち込みやすくなってしまうのです。
現状維持にとどまってしまう
人との関わりや新しい挑戦を避けて、現状維持にとどまる傾向があります。その結果、新しい経験の機会が減り、満足感がさらに低下してしまいます。
「意見はありますか?」と言われても発言しなかったり、資格取得などの機会があっても「今さら遅いかも」と手を出さず諦めたりしてしまうことも。人間関係においても、飲み会やランチの誘いを「疲れているから」と断ったりします。
ストレスが溜まってしまう
睡眠や食欲に影響が出るなど、ストレス反応が生じることがあります。夜ベッドに入っても、頭の中では仕事のことばかり考えて眠れなかったり、朝起きても疲れがとれておらず、「また一日が始まるのか」と憂鬱な気持ちになったりします。
否定的な考えが強くなったり、発言を控えたりすると、感情のコントロールが難しくなってストレスが溜まってしまうのです。
周囲から孤立してしまうことも
他者への興味や関心が減ると、対話の機会を持つこと自体を億劫に感じたり、対話をしても内容の薄い会話になってしまったりすることがあります。
それだけではなく、たとえば同僚が悩んでいたとしても「今は自分にも余裕がないから」と声をかけないなど、自発的な行動も減ってしまいます。その結果、周囲から信頼を得られず、サポートを受けにくくなってしまいます。
仕事以外でも、家族や友人に近況を聞かれても、特に言及することがなくて答えられなかったり、休日には一人でスマホを見ながら過ごして誰とも話さないまま終わってしまったりするなど、孤立が加速することがあります。
満たされない原因は?

そもそも、どうして満たされない状態になってしまうのでしょうか。満たされない原因はさまざまな要因が考えられます。ここでは、主な原因について解説します。
自律性の低さ
自律性とは、「他者からの制約を受けず、自分の価値観に基づいて自主的に行動すること」です。
自律性の低さは、自分で選び納得して行動するのではなく、他者や社会の期待に応える選択をしているということの現れです。自分の価値観に基づいたアクションがないと、満たされない状態に陥りやすくなります。
成長を実感できる機会が少ない
自分のスキルや知識を発揮し、成果を実感できる機会は、満足感を大きく支えています。その感覚が得られないと、自分が停滞していると感じてしまい、満たされなさにつながります。
心理的つながりの不足
信頼できる人間関係が不足していると、孤独感や寂しさから心の土台が揺らぎ、満たされない状態になることがあります。
友人の数の多さや、SNSでつながっている人の数が多いかどうかは、この場合関係ありません。心理的なつながりや安心感を得られる関係性があるかどうかが重要なのです。
否定的な側面に注目する思考の癖
物事に対する考えや受け入れ方は、人によってさまざまです。しかし、思考の癖が偏っていると、満たされない状態になることがあります。
たとえば、「うまくいかないこと」、「自分にないもの」、「持っていないもの」、「できないこと」など、否定的な側面ばかり注目する思考の癖は、心理学では「認知の癖」と呼ばれています。この認知的なパターンに陥ると、満たされない状態になりやすいです。
他者と比較をしすぎている
他者の基準を物差しにすると、自分が何を大切にしたいのか見えにくくなります。本来の価値観が揺らぐことで、気持ちが満たされにくくなってしまうのです。
満たされない状態から脱するための対処法

もしも、「今自分は満たされていないかも」と感じているのであれば、行動や思考習慣を工夫することで改善することが可能です。ここでは、満たされない状態から脱するための方法を5つ紹介します。
自律性を取り戻す
まずは、自分の価値観に基づいて行動できるよう、「自律性」を意識してみましょう。
「今日やらなければいけないこと」を「やってみたいこと」に置き換えて考えてみたり、どんな小さなことでも自分に「どうしたいか?」と問いかけて、自分で「選ぶ」「決める」を習慣化してみたりするのがおすすめです。
決定の主体を自分に戻していくと自律性が回復し、他者からの指示で動いている感覚を減らすことができます。
自分の良い部分を考えてみる
ネガティブなことにフォーカスするのではなく、「うまくいっていること」、「自分にあるもの」「自分の強み」、「今できること」など、肯定的な側面に注目して考えるクセをつけるようにしましょう。
手軽にできるのが、寝る前に「今日良かったこと」を3つ書くことです。この「スリー・グッド・シングス(Three Good Things)」は、アメリカの心理学者が提唱した方法で、肯定的な側面に注目することで、ポジティブ感情を維持しやすくなります。
小さな成功体験をつくる
小さな成功体験を可視化していくことで、その達成感が「自分はできる」という自己効力感を構築します。
たとえば、5分で終わるくらいのタスクでもリスト化し、終えたらチェックをつけていきましょう。また、「誰かの役に立ったこと」のメモを作るのもおすすめです。小さな成功の積み重ねが自信につながっていきます。
人とつながる時間を意識的にもつ
人とのつながりを避けないことも大切です。雑談や挨拶を増やしたり、感謝を伝えるメッセージを1日1回誰かに送ったりと、人とふれあう時間を意識的に持つようにしましょう。
他者との関係性に満足することは、人生満足度の予測因子のひとつといわれています。社会的なつながりが、「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンを分泌し、安心感と信頼感を高めるのです。
自分の価値観を再確認する
「自分が大切にしたいこと・大切にしていること」を3つずつ書き出し、今の仕事や生活がどのような形でその価値に関係しているかを確認してみましょう。
満たされない状態をなくすためには、毎日の行動が、自分の価値観とどう結びついているかを考え、実際に行動にうつしていく姿勢が重要です。
自分が大事だと思えること、意味を感じられることを行動にうつせるようになると、満足感と幸福感につながり、満たされない状態から脱することができます。
「満たされない」という自分の気持ちに気付くことが大事
満たされない状態が続くと、仕事をしてもやりがいを感じられなかったり、家族や友人との時間が億劫に感じてしまったりすることがあります。
しかし、もし今「自分は満たされていないかも」と感じるのであれば、それは自分の習慣や行動を振り返るチャンスです。自分のポジティブな側面に注目したり、価値観を再認識したりすることで、満たされない状態から脱することができます。今回紹介した対処法を取り入れて、少しずつ前向きな気持ちを取り戻していきましょう。
監修:心理学博士、臨床心理士、公認心理師 関屋裕希
東京大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座所属。
早稲田大学文学部心理学専攻卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了。専門は、産業精神保健(職場のメンタルヘルス)であり、業種や企業規模を問わず、ストレスチェック制度や復職支援制度などのメンタルヘルス対策・制度の設計、職場環境改善・組織活性化ワークショップ、経営層・管理職・従業員それぞれに向けたメンタルヘルスに関する講演や執筆活動を行う。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)、『モチベーションの問題地図』(技術評論社)など。
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