将来の自分のために時間やお金を使う「自己投資」には、さまざまなメリットがあります。自己投資は何歳からでもできますが、早期に行うことでキャリアアップや健康維持、自信の向上などが期待できます。
今回は、経営コンサルタントの横山信弘さんにお話を伺い、自己投資の意味やメリット、年代別のおすすめの自己投資の具体例について解説します。
自己投資とは?

そもそも、自己投資とは、どのようなものなのでしょうか。まずは、自己投資の意味と目的、金融投資との違いやメリットについて解説します。
自己投資の意味と目的
自己投資とは、端的にいうと自分の成長のためにお金や時間を使うことです。すぐに効果が見えなくても、仕事に役立つ資格の勉強をしたり、本を読んだり、ジムで身体を鍛えたりすることで、将来的には収入アップや健康維持につながります。
自己投資の目的は、目先の小さな報酬や成果のためというよりは、将来の大きな報酬を得るためといえるでしょう。娯楽に使うお金を少し我慢して、知識やスキルの習得のために投資すれば、5年後・10年後のキャリアも大きく開けてくるはずです。
自己投資と金融投資の違い
自己投資は、自分の能力・価値を高めるための投資ですが、金融投資は資産を増やすことを目的とした投資のことを指します。
また、金融投資は非課税になる制度を除き、投資によって得た資産に税金がかかりますが、自己投資で得たスキルや知識によって収入が上がっても、当然のことながらそれを理由に税金が取られることはありません。語学、プログラミング技術、専門資格など、一度身につけた知識は一生の財産になります。
金融投資で得た資産も、自己投資で得たリターンも、複利で増えていくという点では似ていますが、年齢が若いうちは自己投資を優先することで、将来の選択肢が増えていくでしょう。
自己投資を行うメリット
自己投資によって得た知識や体験は、仕事だけでなくプライベートの充実度を上げる効果も期待できます。スキルアップへの投資は転職時の選択肢の幅を広げ、健康や美容への投資は精神面での安定や、長期的な医療費の削減にもつながるでしょう。また、自己投資に時間をかけることで人脈が広がり、幸福度の向上といった効果も期待できます。
さらに、自己投資は特に20代などの若いうちから始めることで「脳の基礎体力」を維持しやすくなります。継続的な学習習慣が自然と身に付き、感情のコントロール維持や認知力の向上にもつながるでしょう。生涯学習の土台作りという意味でも、自己投資は早いうちから行うのがおすすめです。
【目的別】おすすめの自己投資の例
自己投資といっても、さまざまな種類があります。ここでは、横山さんおすすめの自己投資の具体例を目的別に紹介します。
知識や教養を身につけるための自己投資
知識や教養を身につけることで、会話の引き出しが増えたり、新しい発想で柔軟性が身についたりといった効果が期待できます。カルチャースクールで学んだり、外国語を習得したりといった方法がありますが、横山さんのおすすめは、月に2冊の本を読む習慣をつけることだそうです。
近年はスマートフォンやパソコン、さらにAIの普及により、語彙力や言語力の低下が懸念されています。しかし、読書の習慣を取りいれることで、深い思考力と構造的に物事を理解する読解力を身につけることが可能です。
キャリアアップのための自己投資
キャリアアップのための自己投資は、多くの社会人が関心を寄せる投資といえるでしょう。ITスキル、語学、マーケティングなどの仕事に関連する資格の取得や、読書などで専門知識を習得するといった方法があります。
横山さんによると、キャリアアップのための自己投資は、資格取得や実務で必要なスキルの習得だけでなく、それにプラスして「ナイストゥハブ(あったらいい)」のスキルを習得するのがおすすめとのこと。
例えば、厚生労働省が推奨している「ポータブルスキル」は、業界や職種を超えて活用できる汎用的な能力のことを指し、「仕事のし方」(課題設定、計画立案、実行力)や「人との関わり方」(社内調整、社外交渉、部下育成)などのスキルが挙げられています。
セミナーや研修などで知識を習得し、さらに実践で経験を積みながら習得できるスキルなので、長期的なキャリアの安定につなげたいという方はポータブルスキルの習得も選択肢として検討してみてください。
<関連記事>ポータブルスキルとは? 仕事や転職にも役立つスキルの鍛え方
収入アップにおすすめの自己投資
収入アップにつながる自己投資としては、投資や資産運用について学ぶという方法もありますが、横山さんによると、前述したポータブルスキルの習得がおすすめなのだそうです。
例えば、プレゼン力や交渉力、課題解決力、プロジェクト管理力などは、業界を問わず評価されやすく、転職や昇進の際にも一つの強みになります。
収入アップの手段としては副業という方法もありますが、「投資」という考え方は、中長期的な視点で捉えることが重要です。そのため、もし副業する場合は、本業には関係しない短期的な収入を得るための副業よりも、本業との相乗効果が期待できるものが理想です。本業での成果や評価につながるスキルを磨くことで、結果的に安定した収入アップの可能性が高まるでしょう。
人間関係を広げるための投資
人脈を広げるための自己投資には、コミュニティへの参加やボランティア活動などがあります。その中でも横山さんのおすすめは、「コミュニティへの参加」。同じ業界の人が参加するコミュニティはもちろん、業種や世代が違う人が集まるオンラインサロンなどへの参加も選択肢として検討してみましょう。
また、ボランティア活動は、新たな視点・価値観に気付くなど、人生において素晴らしい経験をもたらしてくれることがあります。ボランティア活動が意外な出会いを生むきっかけになることがあるので、地域のボランティア活動など、身近なものから参加してみるのもいいでしょう。
横山さんによると、人脈を広げるのに重要になるのが、「ギブ=与える」の精神だそうです。自分の知識や経験を、SNSなどを通じて発信したり、身近な人に共有したりすることで、自然と同じ価値観や志を持つ人との出会いにつながることがあります。そうしたつながりは、将来的に大きな財産になる可能性もあるでしょう。
創造性や感性を高めるための自己投資
創造性や感性を高めてくれる、“新しい体験”への自己投資は、AIが進化する時代にこそ重要な投資といえます。仕事では効率や合理性が重視される場面が多く、どうしても感情やゆとりが後回しになりがちです。だからこそ、時間をつくって、心が動くような体験に触れることが、日々の生活や仕事にも良い影響を与えてくれるはずです。
主な具体例としては、旅行、異文化体験、芸術鑑賞、アナログな体験などが挙げられます。美術館での感動や、演劇鑑賞での涙、旅先での出会い、料理を作る喜びなど、感性が刺激されることで自分の知らなかった一面を知ることができるでしょう。
デジタル技術やAIが進化していく中で、人間に残された人間性を磨くためにも、アナログな体験への投資が重要になってきます。旅行先での体験や登山での達成感、ボランティアでの共感、手紙を書く温もりなど、心を豊かにする体験が、AIにはない価値を生み出してくれるはずです。
心を整えるための自己投資
メンタルヘルスの安定は、長期間安定して仕事を続けるためにも重要な要素です。そんな、心を整えるための自己投資の一例には、マインドフルネスや書く瞑想(ジャーナリング)があります。
その中でも横山さんのおすすめは、紙とペンでのジャーナリングだそうです。方法はとてもシンプルで、毎日10分でも時間を作り、その日の感情や出来事を紙に書き出して、頭の中を整理するだけ。デジタルではなく、あえて紙に書くことで、情報や感情を咀嚼する時間が生まれるので、マインドフルネス的な効果が得られるとのこと。
怒りや不安も文字にすることで客観視できるため、感情のコントロールが上手になる効果も期待できるでしょう。マインドフルネス瞑想も良いですが、どうしても気が散ってしまうという人は、手軽なジャーナリングから始めてみましょう。
健康を維持するための自己投資
運動、食生活・睡眠環境の改善など、健康を維持するための自己投資は、将来の医療費削減や、人生をより充実させることができるといったメリットが見込めます。
健康への自己投資でポイントになるのは、「睡眠」、「食事」、「運動」の3つ。特に横山さんがおすすめするのが、「運動」です。睡眠や食事は常にするものですが、運動は意識しないと毎日ゼロになる可能性があります。
朝のウォーキングは、神経伝達物質セロトニンを分泌させ、メンタルを安定させるといわれています。毎日10分くらいから気軽に始められるので、ぜひ習慣にしてほしい自己投資です。食事については、何を食べるかよりも「食べすぎ・飲みすぎ」を防ぐことを意識し、睡眠については睡眠時間をしっかりと確保することを意識してみましょう。
年代別・おすすめの自己投資例

次に、年代別におすすめの自己投資の例と、なぜその年代におすすめなのかについて、横山さんに伺いました。それぞれ詳しく見ていきましょう。
20代におすすめの投資
・読書習慣を身につける
・デジタルリテラシーの習得
【おすすめの理由】
20代で身につけた知識やスキルは、30代以降のキャリアにもつながっていきます。20代のうちから読書で思考力と語彙力を鍛えておけば、さまざまな分野・業種でも通用するような土台を作ることができます。
また、集中して何かを考える力、つまり脳の基礎体力を維持する習慣も同時に身につくでしょう。デジタルリテラシーについては、デジタル技術に比較的なじみやすい20代だからこそ、強みを発揮しやすいでしょう。
30代におすすめの投資
・ポータブルスキルの習得…プレゼン力、ファシリテーション力、プロジェクト管理力、体系的な経営知識
【おすすめの理由】
30代は、管理職やプロジェクトのリーダーを任せられる人が増えてくる年代です。専門知識だけでなく、チームを動かす力や管理能力が求められることも多くなるでしょう。
専門知識に加えてポータブルスキルを磨いておけば、転職の際にも有利になる可能性があります。30代での投資が40代での飛躍につながり、さまざまなシーンで通用するビジネススキルが身につきます。
<関連記事>【ビジネススキル一覧】身につけたいスキルとは?鍛え方も分かりやすく解説
40代におすすめの投資
・人脈形成への投資…信頼できるコミュニティへの参加
・健康への投資…ウォーキングやジムでの筋トレの習慣化 など
【おすすめの理由】
40代は人脈が仕事の成果につながっていく年代です。信頼できる人間関係が、新しいビジネスチャンスを生むこともあるでしょう。そして、30代よりも体力が気になってくる年代でもあるため、何かしらの運動習慣は必要といえます。
朝のウォーキングはメンタル安定にも効果的ですが、経済的に余裕があるのであれば、ジムに通うのもおすすめです。
50代におすすめの投資
・新しい体験への投資…一人旅や芸術鑑賞、ボランティア活動への参加 など
【おすすめの理由】
50代になってくると、定年後の生活や社会との関わり方について意識するようになるのではないでしょうか。人生の後半戦の設計時期ともいえる50代ですが、AIが急速に進化する中、情緒性豊かな体験が人間性を深めていきます。
50代からでも決して遅くはないので、地方創生や地域活性化に繋がるようなボランティア活動など、人生100年時代を見据えた投資を検討しましょう。
自己投資にはいくらお金をかけるべき?
自己投資にかける金額は、個人の状況や目標によって異なりますが、無理のない範囲で行うことが大切です。手取りから計算する場合、手取りの10%を一つの目安と考えてみましょう。(例:手取り25万円なら月2.5万円程度)
せっかくお金を使ったのに無駄になってしまうと、人はその無駄になってしまった分を回収しようとさらにお金を使いたくなることがあります。これは、心理学では「サンクコスト効果」と呼ばれています。
サンクコスト効果は支払った分を取り戻そうとする心理ですが、実はこの心理を活用すれば、自己投資の継続にもつながります。例えば、セミナーは無料の場合もありますが、有料のほうが「お金をかけている」という心理から真剣に学ぼうとすることもあるでしょう。
自己投資にいくらお金をかけたらいいのか分からないという方は、最初は月1万円くらいからスタートし、徐々に手取りの10%まで増やしていくなど、効果測定をしながら設定金額を検討してみるのもおすすめです。
横山さんによると、「本を読む習慣よりも、本を買う習慣が大事だと私は多くの人に伝えている」そうです。お金をかけるのは少しもったいないと考える人もいるかもしれませんが、あえてお金をかけることで、前述したサンクコスト効果が働き、自己投資を長期間にわたって継続することが可能になっていくのです。
良い自己投資と悪い自己投資の違いは?

良い自己投資とは、セレンティピティ(偶然の幸運な発見)を大切にしながら行う、中長期的な取り組みです。たまたま読んでいた本が、思わぬキャリアチャンスにつながるということも、あるかもしれません。
一方で、短期間で成果を出そうとしすぎると、自己投資が窮屈に感じてしまうこともあります。「役に立つ本だけを選ばなきゃ」と考えすぎると、読書そのものが負担になって続かないこともあるでしょう。
自己投資で大切なのは、習慣化を意識することです。「毎月〇冊、ジャンルを問わず本を読む」、「毎朝15分散歩する」など、できる範囲から始めることで、予想外の出会いや気づきが生まれるかもしれません。自己投資を“種まき”と考え、どの種が花開くか楽しみにしながら未来の自分のために行動してみましょう。
自己投資を成功させるためのポイント
自己投資を成功させるコツは、効果測定ではなく、継続を意識することです。知識や教養が身についてくると、自然と自分にとって必要な自己投資のみを選択できるようになるでしょう。
継続する際に大切な心掛けは、「我に返らないこと」です。「何のためにこれをやっているんだろう?」と立ち止まって考えると、目的思考になりすぎて、続けられなくなってしまうこともあります。
例えば、10年以上読書クラブに参加し続けている参加者のほとんどが、難しく考えず、「とにかく本を読むのが好き」、という人だったというケースがあります。
何となく習慣で続けていたら、気付いたら10年以上経っていた、ということは珍しくありません。難しく考えない人こそ、ある日大輪の花を咲かせるということも起こり得るのです。
毎日の歯磨きのように、理由を考えずにまずは習慣化してみるといいでしょう。「継続するために、継続する」くらい割り切っていれば、3カ月続いて習慣になり、1年続けて人生が変わり始めるかもしれません。
自己投資の注意点
自己投資を続けていく中で、周囲の声に戸惑うことがあるかもしれません。例えば、「何のためにやっているの?」と聞かれたり、「最近頑張っているね、何を目指しているの?」と声をかけられたりすることもあるでしょう。
体験や知識をシェアすることは大切ですが、周囲に対しては冷静にありのままの事実を告げ、もしやっていることを否定されても気にしすぎないことが重要です。
自己投資を長期間継続できる人は、少数派ともいわれています。たとえ誰かに否定的な意見を言われたとしても、自分の選択を信じることが大切です。
黙々と続けていれば、3年後には周囲と圧倒的な差がついているかもしれません。周りの声はあまり気にせず、自分を信じて続けましょう。
自己投資は継続していくことが大切
自己投資は、時間をかけて自分を成長させるもので、自己投資によって身についた知識やスキル、体験などが、新しいビジネスチャンスや内面の成長、さらに年収アップなどの金銭的な利益ももたらしてくれます。自分のライフスタイルや将来設計などもふまえたうえで、まずは手軽にできる自己投資から始めてみてはいかがでしょうか。
監修:株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ 代表取締役社長 横山 信弘
企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。15年間で3,000回以上の関連セミナーや講演、コラム執筆、昨今ではYouTubeチャンネル『予材管理大学』を通じ「予材管理」の普及に力を注いでいる。大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持ち、各種ビジネス誌への寄稿、多数のメディアでの取材経験がある。メルマガ「草創花伝」は3.8万人超の企業経営者、管理者が購読。主な著書には「絶対達成」シリーズのほか、「『空気』で人を動かす」「キミが信頼されないのは話が『ズレてる』だけなんだ」等多数。
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