自己実現とは?心理学的な意味や叶えるためのプロセスを解説

「自己実現」と聞くと、目標達成や、社会的な評価を得ることをイメージする人もいるかもしれません。しかし、実は自己理解や自己受容など、心理的な意味合いも多く含まれています。本記事では、自己実現とはどのような状態なのか、その意味や具体例などについて解説します。

自己実現をするために計画を立てている人のイメージ

自己実現という言葉は、教育現場や経営、ビジネスシーンなどでよく聞かれる言葉です。

この記事では、臨床心理士として活躍されている関屋裕希さんにお話を伺い、自己実現の心理学的な意味や自己実現をしている人の特徴、自己実現の必要性、自己実現をするための具体的な方法や注意点について解説します。

自己実現とは?

自己実現をしようと仕事に励む人のイメージ

「自己実現」とは、そもそもどのような意味があるのでしょうか。心理学的な意味やビジネスシーンにおける自己実現の意味について解説します。

自己実現=「自分のやりたいことができる状態」ではない

自己実現とは、自己が本来持っている自我を、個人の目的に向けて実現することを指します。しかし、自己実現は単に「自分のやりたいことができる」といった一時的な欲求を満たすことを指しているわけではありません。

自分の価値観を明確にして自分の能力や可能性などの強みを活かし、行動し続けることで、深い喜びや納得感、人生の意味を実感できる状態が自己実現です。自己実現は短期的に成し遂げられるものではなく、長期的・持続的に目指していくという側面を持っています。

心理学的な意味での「自己実現」とは

心理学における「自己実現」で最も有名なのは、アメリカの心理学者・アブラハム・マズローによる定義です。マズローは自己実現について、「個人が自分の潜在的な能力や可能性を最大限に発揮するために努力して、あるべき自分になること」と定義しています。目標達成といった外的な成功というよりも、自己理解を経て内的な成長を遂げることが心理学的な意味での自己実現といえるでしょう。

マズローが提唱する「欲求5段階説」

マズローの欲求5段階説

マズローは、人間が自己実現を達成する過程について、「欲求5段階説」の中で具体的に示しました。欲求5段階説とは、人間の欲求論を5段階に分けた心理学論のことで、4つの欲求を満たしたあとに最後にたどり着く欲求が自己実現であると提唱しています。

欲求5段階説のそれぞれの意味と、ビジネスシーンにおける具体例について簡単にまとめましたので参考にしてみてください。

①生理的欲求(生きるための基本的な欲求、食事・睡眠、休息など)

ビジネスシーンの例:適切な労働時間・休憩時間が確保されていて、定常勤務ができている状態。

②安全の欲求(身体、生活、健康などの安全・安定への欲求)

ビジネスシーンの例:雇用が安定しており、健康が守られる職場環境で働けている状態。

③社会的欲求(仲間に受け入れられたい、居場所がほしいという欲求)

ビジネスシーンの例:上司や同僚と良い関係を築けており、チームの中での役割が明確で、職場を自分の居場所として感じられる状態。

④承認の欲求(他者から認められたいという欲求)

ビジネスシーンの例:仕事の成果に対して、適切な評価とフィードバックをもらいながら働いている状態。

⑤自己実現の欲求(自分の可能性を最大限に発揮したい、自分らしく生きたいという欲求)

ビジネスシーンの例:自分の能力や価値観を仕事の中で発揮することで、納得感や充実感を得ている状態。

ビジネスシーンでの「自己実現」の意味と具体例

ビジネスシーンでの自己実現は、マズローの定義をベースにしつつ、自分の能力や価値観を仕事の中で発揮することで納得感や充実感を得ること、という意味で使われることが多いです。基本的には成果や出世のみを追求するのではなく、自分の強み、意志、やりがいを反映した働き方をすることを指します。

以下は、ビジネスシーンにおける自己実現の具体例です。どちらも、自分の能力や価値観をよく理解し、自分らしい選択ができたことで得られた自己実現の形といえるでしょう。

ビジネスシーンにおける自己実現の具体例①

長年自己研鑽してきたデータ分析のスキルを活かして、自社の新製品開発のプロジェクトに参加。その結果、提案内容が採用されて注目される商品となり、自分の知識やスキルなどの強みが役に立ったと実感。数字的な成果だけでなく、長年データ分析のスキルを磨いてきたことに意味を感じられる成果につながったことで深い充実感を得ることもできた。

ビジネスシーンにおける自己実現の具体例②

人の暮らしを豊かにする仕事をしたいという強い想いがあったため、社内のジョブチャレンジ制度を活用して、地域密着型のリノベーション事業に携わることに。希望する部署に配属され、さらに事業の中で関わるステークホルダーからの「ありがとう」という感謝の言葉に、やりがいだけでなく、仕事を通じて自分の想いや信念が形になる手ごたえを感じた

自己実現をしている人の特徴は?

自己実現の意味については前述した内容で理解できたかと思います。では、実際にビジネスシーンにおいて自己実現をしている人には、どのような特徴があるのでしょうか。ここでは、4つの特徴を紹介します。

現実をありのまま受け入れる

自己実現をしている人は、現実をありのまま受け入れる傾向があります。物事を先入観や偏見を持たずに観察し、楽観的・悲観的のどちらにも偏らない中立的な視点を持っていることが多いようです。

自分の価値観を理解している

自分の価値観をよく理解しているため、他者に合わせすぎず、自分の価値観に基づいて行動する傾向もあります。自分自身の強みや弱みをよく理解し、自己理解ができているといえるでしょう。

広い創造性を持っている

常識にとらわれず、新しい発想や視点を持っている人が多いのも自己実現をしている人に見られる特徴です。そのため、変化にも柔軟に対応し、物事を多角的に捉えながら新しいアイデアを積極的に取り入れることができます。

他者と深い信頼関係を築くことができる

多くの友人と付き合うのではなく、ごく少数の友人と誠実で深い人間関係を築くことを好む傾向もあります。広く浅い人間関係を築くよりも、信頼できる相手との深い結びつきを重視することが多いようです。

自己実現は必ずしないといけないの?

自己実現について考えている人のイメージ

自己実現には、自己成長やモチベーションの向上といったメリットが期待できます。しかし、「必ず達成すべきこと」「必ず目指さないといけないこと」というわけではありません。

自己実現は、自分の価値観を明確にし、それを反映する行動をとり続けることを意味します。つまり、目標を達成することよりも、目標を達成するまでの過程で自分自身が成長することこそ自己実現の大きな意義といえるでしょう

「これができたら、自己実現が成功する」というものではなく、「目指し続けること」が自己実現の本質なのです。

例えば、職場で高く評価されていてもプライベートを犠牲にして働くことで自分らしさを見失うことがあります。その場合、精神的な負担が大きくなり、継続して自己成長することが難しくなることがあるでしょう。

自己実現は、努力するプロセスで成長することが大切であり、一時的な成果だけがすべてではないことを忘れないようにしてください。

また、自己実現は必ず目指さないといけないというものでもありません。もちろん「自分が大切にしていることに沿って行動を選び、人生を歩んでいる」という実感は、私たちに深い喜びや充実感をもたらしてくれるものです。

しかし一方で、子育てや介護、経済的な事情などで、自己実現よりもまずは「生活の安定」や「誰かを支えること」が最優先になる時期もあるでしょう。そんなとき、自己実現をしていないことが自分を責める原因になってしまっては、自己実現の真逆ともいえる自己否定につながってしまいます。

たとえ自己実現をしていないとしても、人は価値がある存在だという前提に立って考えることが重要なのです。

自己実現をするために必要なプロセス

自己実現するためのステップを踏んでいる人のイメージ

本来の意味を理解したうえで、自己実現を目指していく場合は、どうすればよいのでしょうか。必要なプロセスについて、ビジネスシーンにおける具体例も交えながらステップごとにポイントを紹介します。

STEP1:過去の経験を内省し、自分らしい価値観を見つける

まずは、自分の価値観や持っている能力について理解しましょう。社会や他者の基準を参照するのではなく、過去の経験を内省して自分らしい価値観を見つけることがポイントです。

具体的には、過去の経験を振り返り、どのような状況で喜びややりがいを感じたのか、周りからどんな点を評価されたのかをノートやメモなどに書き出してみるといいでしょう。

その結果、例えば「管理職になるべきだ」と思っていたものの、これまでの経験を振り返ってみると、自分は現場で「人を育てる」ことにやりがいを感じることに気づいたといったこともあるかもしれません。自分の価値観に基づいてキャリアを選択できるようになれば、自己実現を通して自分自身の幸福にもつながります。

STEP2:自分で選んで決めた行動をとる

STEP1で見つけた自分の価値観をベースに、人から指示されたままに動くのではなく、自分で「選んで」「決めた」行動を取ってみましょう。

具体的には、指示された通りに業務をこなすのではなく「どうやるか」に自分の考えを反映させてみたり、与えられる仕事を待つのではなく「このプロジェクトに携わってみたい」と手を挙げてみたりするなどの行動が挙げられます。上司や同僚に相談や報告をする際には、「私はこう考えています」という自分の意思を伝えてみることも重要です。

自分の価値観に基づいて実現可能な目標を設定し、自ら行動してそれを達成することが自己実現につながります。能力に応じて目標を再設定しながらその先を目指し続けてみるのも良いでしょう。

自己実現を目指す際の注意点

最後に、自己実現を目指す際に注意しておきたいポイントについても解説します。

自己実現はゴールではない

自己実現=理想の自分というように解釈してしまうと、自己実現をしていない状態の自分を責めてしまう傾向があります。繰り返しになりますが、自己実現は目指し続けるものであり、ずっと続く旅のようなものです。「今の自分にも十分に価値がある」という考えを前提に、少しずつ自己理解を深め、自己実現に近づいていく、もしくは育てていく感覚を持つことを意識してみましょう

自己実現は自分の価値観で決めることが重要

周囲の期待と自己実現を混同しないことも重要なポイントです。周囲の期待というと、親、会社、上司や同僚からの期待などが代表的なものです。自己実現で目指すことと周囲の期待を重ねてしまうと、自分らしさを見失ってしまう可能性があります。

「これは本当に自分が興味を持っていること?」「これは本当に自分が望んでいること?」「これは本当に自分が充実感を感じられること?」と自身に問いかけるようにし、自己探求を続けるプロセスを忘れないようにしましょう。

自己実現は自己成長につながるプロセス

自己実現は、自分が持っている能力や強みを活かして、自分らしい生き方を実現する重要なプロセスです。心理学的には人間の最終的な欲求として位置づけられており、ビジネスシーンでも自己成長を促すためにマズローが提唱する自己実現の概念が用いられています。必ずするべきものではなく、あくまでも可能な範囲で自己実現について意識することがポイントです。自分の価値観が明確になると、キャリア選択にも役立てられるはずです。

監修:心理学博士、臨床心理士、公認心理師 関屋裕希
東京大学院医学系研究科デジタルメンタルヘルス講座所属。
早稲田大学文学部心理学専攻卒業、筑波大学大学院人間総合科学研究科発達臨床心理学分野博士課程修了。専門は、産業精神保健(職場のメンタルヘルス)であり、業種や企業規模を問わず、ストレスチェック制度や復職支援制度などのメンタルヘルス対策・制度の設計、職場環境改善・組織活性化ワークショップ、経営層・管理職・従業員それぞれに向けたメンタルヘルスに関する講演や執筆活動を行う。著書に『感情の問題地図』(技術評論社)、『モチベーションの問題地図』(技術評論社)など。

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