【満員御礼】「食べない食べ歩きツアー」を敢行!? 攻める「別視点」が貫く“情熱の守り方”

「14時間耐久 山手線一周珍スポウォーキングツアー」

【満員御礼】「食べない食べ歩きツアー」を敢行!? 攻める「別視点」が貫く“情熱の守り方”

「14時間耐久 山手線一周珍スポウォーキングツアー」

……なにそれ? 本当にあるツアーなの?

大手旅行会社では絶対に取り扱わないような、こんな珍テーマのオリジナル企画のツアーを本当に敢行しているのが「別視点」です。

「人とは違う、変わった場所に行ってみたいけれど一人じゃ不安」そんな層のツボを逃さずついたヘンテコな旅行。参加者の評判がさらに評判を呼び、ネットを中心に注目を集めています。

ユニークという言葉では足りない事業を「別視点」が始めるにはどんなきっかけがあったのでしょう? 人形町に佇む秘密基地のような会社を訪れ、代表・松澤茂信さん(35歳)にお話を伺いました。

マイナスに傾くほど面白い!「リアル大喜利」感が珍スポットの魅力


「別視点」の事業は現在3本柱で展開されています。

1つ目は、大手の旅行会社では絶対にピックアップしないような珍スポットを紹介するWebメディア「別視点ガイド」の運営。2つ目は「別視点ガイド」で紹介した珍スポットを、ガイドを立てお客さんを案内する「別視点ツアー」の開催。3つ目は厳選された愉快なグッズを販売している「別視点ストア」の運営です。

別視点ガイドでは「東京でもっとも狂気に満ちた居酒屋」のように、エキセントリックなスポットを代表・松澤さんがレポート形式で紹介しています。行こうと思えば1人でも行ける場所ばかりですが、ちょっと腰が引けてしまう……そこで「みんなで行けばこわくない」と、ツアー形式で敢行してしまったのが「別視点ガイド」。珍スポットだけでなく、「なんでもない普通の植木鉢を8年観察している植木ウォッチャー」をガイドに招き、いつもの町並みを普段では意識しない「別視点」から観察できるようなツアーも開催しているそう。

そんな斬新な会社「別視点」はどのように生まれたのでしょう? そもそもどうして珍スポットに注目して事業化したの? はやる気持ちをおさえ、代表の松澤さんに、まずは珍スポットの魅力から伺います。


―まだ珍スポットを訪れたことのない読者に、松澤さんの考える珍スポットの魅力について教えてください。

1つは珍スポットを経営する店主の「尖った発想」です。

よく自分の趣味でもある「大喜利」に例えるのですが、大喜利で面白くなるお題は「こんなお店は嫌だ」のようなマイナスのテーマ。チェーン店に当てはまる「こんなお店が便利」というポジティブなテーマではどうしても面白くならないんですよね。だから「こんなお店は嫌だ」を現実でやってしまっている珍スポットには、“リアル大喜利”と呼べる面白さがあります。

例えば新橋の居酒屋「かがや」さんは振り切っていて、セリフ調のコース名を気持ちを込めて読み上げないと、店主に何度もやり直しさせられます。「日本」という名前のドリンクを頼んだ場合、それ1杯を持ってくるためだけに店主が5分も日本舞踊を舞うので、全員分運び終えるまでに1時間近くかかることもある。これって普通に食事したい人からしたらマイナスじゃないですか。でも「かがや」は誰に対してもその姿勢を貫いている。どんなにクレームがきても、やり続けてきたんです。お店としては効率が悪くチェーン店とは対極の存在ですが、だからこそ「リアル大喜利」的な強烈な面白さがあって熱烈なファンがつくんですよね。

もう1つは「人」の魅力。こんな常識から外れたお店を続けている店主たちは、もれなく常人離れしたとてつもないバイタリティーを持ち合わせています。彼らに会うと勇気づけられるようで、僕もずっと通っていられるんです。そうした人と会えるスポットを紹介することで、見ている人に勇気を与えられるのも魅力です。

前衛的なグッズの数々。それぞれのバックグラウンドや手にした経緯を、松澤さんが愉快に聞かせてくれた。

自分の限界を知って選べた「キャリアの選択肢」


―松澤さんは2011年に現「別視点ガイド」のもととなるブログを開設し、魅力的な珍スポットの紹介を始めています。その後2016年1月に「別視点」を事業化し、旅行としてのツアーも開催するように。そこまでの経緯をお伺いしたいのですが、まず松澤さんは新卒でコンサル会社の内定を辞退して、友人と3人でイベントカフェを設立されていますね。

就活はしましたが、大学生のときからいつかは自営業をしたいと思っていました。卒業間近になって会社に就職するのは遠回りに思えたので、結局初めから自営業をすることに。

そこで「イベントをやりたいね」という友人と3人でカフェをやることにしたのですが、それぞれやりたいイベントの方向性が違っていて……。気を使いながら経営をしていましたが、無理を感じて28歳のときにこのカフェ経営から抜けたんです。

―同じ「イベント経営」という志で集まったメンバーでしたが、方向性の違いからカフェを離れた松澤さん。その後のお仕事は?

コールセンターの派遣で生活費を稼ぎながら、やっぱり「面白いことができる店を開きたい」と思っていたんです。そのために尖ったことをやっているお店が日本にどれだけあるか調べる必要を感じました。どこのお店ともかぶったことをやりたくなかったので。そうやって2010年ごろから珍スポットを見て回り始めました。

―なぜお店を開くのではなく、紹介する「別視点ガイド」を作ることになったのでしょう?

当時20代の僕がお店を作っても「この人たちには絶対にかなわない」と思ったからです。いわゆる珍スポットとして成立しているお店って、50代、60代ぐらいの人が“背水の陣”状態で経営しているんですよ。さっきの「かがや」さんはもう20年以上経営されてますしね。そんな彼らに、勝てるわけがない(笑)。ならば珍スポットの魅力を伝えていくことから始めようと、2011年に「首都圏珍スポットブログ『別視点』」を開設しました。

―ブログでライター的に珍スポット紹介を続けていた松澤さんは、2016年1月にいよいよ会社を設立し、今までの知見や知識を生かしてツアーを開催するに至ります。

実は、満を持して会社を立ち上げた……というわけではなくて。2つの選択肢があるうち、「別視点を会社化してツアーを行っていく」ことを選んだんです。


―2つの選択肢とは?

「ライター」と「起業」の道ですね。

ライターの道を選ばなかったのは、2015年ごろに「世界別視点ガイド」を作ろうと海外の珍スポットへ行き始めたことが転機でした。世界ならば日本とは違うエキセントリックな場所を発見できると期待していたのに、なぜか日本と同じようなところばかり目につくんです。

「これ、日本でも見たな」という既視感をいつも感じて。それって世界の珍スポットが退屈なわけではまったくなくて、「今の自分だとその景色しか見いだせないせいだ」と感じたんです。当時の僕は数年にわたり珍スポットの魅力を書き続けて、それを見慣れてしまったせいか、発見して紹介する力がもう限界に達していて。1人でこのまま紹介を続けても、同じことをループするばかりになると思ったんです。

だったら、分からないことが多いほうが楽しいんじゃないか? そう思って「別視点」を会社にしてメディア運営はそのままに、お客さんを連れていくツアーを運営する、今のスタイルを始めることに決めました。

新たな発見に届くまで「飽きずに続ける」工夫が肝心


―「今までにないことをする」のはチャンスである一方、不安がつきものだと思いますが。

起業は何があるか分からないリスクもありましたが、それでも会社としての「別視点」で得る経験を通じて、新しいことをかじってみたかったんです。

何かを続けていくと、ある経験がまったく関係のない別の物事につながる瞬間って訪れませんか? 僕が続けているのは珍スポット巡りと大喜利だったのですが、ライター業に大喜利での経験は生きています。インタビュー時の雰囲気づくりや、こうすれば話が引き出せるんじゃないかって、感覚的に分かるみたいに。

珍スポット巡りを始めたときは、経験と経験がリンクする感覚があった。でも、ライター目線でスポット巡りを8割ほどこなしてからはその感覚がガクンと減ってきた。恐らく残りの2割を極めたら新たに見える景色があるかもしれませんが……。だけど今は「別視点」での新たな挑戦を通じて、珍スポットの店主やガイドさんなど、“極めた人”の話を聞いて回りたかった。自分が点と点をつながる瞬間を多く得られるのは、いまの道なんです。


―自らもツアーのガイドとして「日常をこんな角度から見ると面白い」というヒントを参加者に伝えている松澤さん。「新たな視点で物事を見てアイデアを創出すること」はビジネススキルとしても欠かせません。角度を変えて物事を捉えるために、良い方法はありますか?

純粋に量をこなして、経験値を増やしていくことが必要かなと思います。先ほどの話と重なりますが「新たな気づき」にはとにかくつなぎ合わせる点を増やしていかないと到達できない。

僕は珍スポット巡りをするうちに、各スポットをカテゴリ分けできるようになっていました。さらに続けていくことで、自分なりに珍スポットを「店主の精神が具現化した空間」と定義づけをすることができたんです。

コンビニは「いかに効率的にお金を稼げるか」が重要です。では珍スポットはというと、存在自体が“店主の心”。お店の細部にわたるまで店主が説明できるのがその根拠ですが、こうやって説明できるようになれたのはかなりの数をこなしてからです。

カテゴリ分けは“気づき”の途中の段階。突き詰めるともう一つ上の段階が見えてきます。そこまで踏み込んだ新しい“気づき”を得るまでには場数を踏むことが大切で、それまでいかに情熱を消さずに取り組み続ける仕掛けづくりをできるかがポイントになります。

―経験に基づくオリジナルの定義があれば、そこからビジネスのコンセプトをつくり武器にすることができます。松澤さんは今まで800スポットも回られているそうですが、それこそ情熱が絶える、つまり飽きることはありませんでしたか?

飽きることもありますが、そうしたときは少し趣向を変えて見るようにしています。それこそ、日本を出て世界の珍スポットに行くとか。気持ちを切り替えるための方法があるといいと思いますね。横に広げたり、何か違う角度からそれに取り組んでみる。僕の場合は趣向を変えようと思って世界に出てみたら、結果として今の起業の道につながりました。選択肢がある場合は、「自分が退屈しない方」を選ぶ基準にしています。

「続けたいくらい好きなこと」を発見したら、情熱を持ち続けるための努力を欠かさない。さらに人生で訪れた「選択」のタイミングでも基準をぶらさない松澤さんに、「好き」にひたむきに向き合う信念を感じます。



いずれ来る厳しいとき。それでも「攻めの姿勢」を貫くために


―これからの松澤さん個人や「別視点」の目標は?

個人的には、ゴビ砂漠マラソンを完走したい(笑)。

そんな「割とどうでもいいチャレンジ」を個人でも会社でも続けていくことです。

別視点に来てくれるお客さんって「よくこんなことを続けているな」と思って来てくれていると思います。僕らが守りに入った途端にお客さんの心はきっと離れていく。どうでもいいことをずっと突き詰めてやり続けているからこそ、別視点はお客さんに選ばれているのだと思います。もし別視点が同じことを繰り返すようになったら、かつて僕が世界の珍スポット巡りで感じたように、お客さんを「ああ、またこのパターンか」と虚しい気持ちにさせてしまう。正解が分からないこの状況の中で歩みを止めないという意味でも、やってみたいことを全てやり抜くつもりです。

―100%振り切ったチャレンジを続けるのは「別視点」で紹介する珍スポットの精神に通じますね。

やってみるまでプラスかマイナスか分からないこともあります。だから、いつかのタイミングで厳しい声が届くことがあるかもしれませんね。

でもそれはあらゆる珍スポットの店主たちが通ってきた道でもあるわけです。彼らへの尊敬を込めて、またツアーへの参加を楽しみにしてくれるお客さんのためにも、振り切った挑戦を続けていかなきゃだめですね。いずれ厳しいときが来ても「攻めの姿勢」を守れるくらいに、お叱りの声に開きなおるわけでなく、受け止められるように、しっかり基盤をつくっていきたいと思っています。


「好き」を仕事にしてきた努力と信念、柔軟な別視点からの切り口で、松澤さんは今後、どんなことも乗り越えていきそうですね。

私たちも成長途中で、見たことのない大きな壁にぶつかるときが来るかもしれません。しかし、それは少しずつでも前に進んできたまぎれもない証拠。

いつもとは違う「別視点」を持つことで、アイデアの“点”を増やし、そこに今までの経験がつながることで、新たなひらめきを生むきっかけとなるかもしれません。そのひらめきはきっと壁を乗り越える武器となり、あなたを新たな景色へと導いてくれることでしょう。

(取材・文:東京通信社)

識者プロフィール


「観光会社 別視点」代表 松澤茂信。大手情報誌があまり取りあげないへんちくりんなスポットやイベントを紹介するサイト「東京別視点ガイド」、スペシャリストをガイドにお招きしたツアー「別視点ツアー」、世界の面白いオモチャや地方の面白い特産品を扱うネットショップ「別視点ストア」を運営。

※この記事は2017/06/22にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています

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