釣りをイケてる趣味にする! 福岡のベンチャー「ウミーベ」があげた仕事の「釣果」

アクアブルーの海が一面に広がる福岡市西区の今宿駅前に、オフィスを構えるウミーベ株式会社。同社は他にはみない、釣り人をターゲットにした事業を手がけるスタートアップ企業です。

釣りをイケてる趣味にする! 福岡のベンチャー「ウミーベ」があげた仕事の「釣果」

アクアブルーの海が一面に広がる福岡市西区の今宿駅前に、オフィスを構えるウミーベ株式会社。同社は他にはみない、釣り人をターゲットにした事業を手がけるスタートアップ企業です。

2016年には週刊東洋経済の特集「すごいベンチャー100」に選ばれたほか、複数社からの資金調達を完了させるなど、その勢いはとどまることをしりません。

「なんで釣りなの?」「どんな人が働いているの?」「どうして福岡なの?」

湧き上がる疑問を解決すべく、いざ福岡へ。答えてくれたのは、同社を創業した代表のカズワタベさんです。

開放感たっぷりの窓から海を望める最高のロケーションで、創業時のエピソードから未来像までお伺いしました。

「釣りを、やさしく」をビジョンに掲げるウミーベのサービス

 

眼前に海と山が広がるウミーベのオフィス。ハンモックで昼寝も。



―海辺のオフィスなんて最高ですね! まずはウミーベの事業内容について教えてください。

カズワタベさん(以下、ワタベ):弊社では現在、国内最大級の釣りの総合情報サイト「ツリホウ(釣報)」と、釣った魚の写真を共有して釣り人同士で交流できるスマートフォンアプリ「ツリバカメラ」を運営しています。

ツリホウ

 

ツリバカメラ



ツリホウは分かりやすくシンプルに情報がまとまっていること、ツリバカメラは釣り人同士のコミュニケーションが活発になることを意識していますね。

―「釣りを、やさしく」というビジョンには、どんな思いが込められているのですか?

ワタベ:釣りって始めてから、楽しめるようになるまでにけっこう道具や知識が必要な趣味なのですが、これまでその敷居を下げるための初心者向け情報やサービスがほとんどなかったのです。釣り具の選び方や釣れるスポットなど、釣りの初心者に向けて、彼らがつまずきがちな問題を解決できるサービスが作りたかったので、「釣りを、やさしく」をビジョンに掲げています。

―なぜ「釣り」に関するサービスを立ち上げようと思われたのでしょう?

ワタベ:もともと、僕自身が釣りにハマっていろいろネットで調べていたときに、ほしい情報が全然得られなくて。情報が古いままだったり、サイトが使いづらかったり…。食べログで飲食店を調べるのと同じくらい手軽に、釣りに関する情報がまとまったサイトがあったらいいなと思ったんですよね。

―ツリホウはたったの4日で作ったメディアだそうですが、現在は50万PVを超える記事もあるそうですね。

ワタベ:ツリホウは2015年5月にローンチしたのですが、うまくいかなかったら1、2カ月で閉じようと思っていたんです。立ち上げ当初は1年後に30万PVを目標にしていましたが、半年で100万PVまで伸びて。予想以上にニーズがありました。「とりあえずやってみよう」というフットワークの軽さが良かったのでしょうね。

―社内のライターさんが書かれている記事も多いそうですが、ソースはどこから得ているのですか?

ワタベ:プロの方や釣り具メーカーに取材へ行くこともありますが、そもそもメディア運営スタッフは全員、根っからの釣りバカなんです。あるスタッフなんて、25歳で釣り歴20年とかいいますから(笑)。だから、自分たちの実体験をベースに、いろんなところで情報収集をして記事にすることが多いですね。

―ツリホウに続いて2015年の9月にローンチされたツリバカメラは、釣り好き同士で気軽にコミュニケーションがとれるSNSという感じですね。

ワタベ:FacebookやTwitterの友達がみんな釣り人なわけじゃないので、そこに釣った魚の写真を載せてもあまり反応がないんですよ。でもツリバカメラはユーザー数がまだ少ないのに、釣った魚の写真に100「いいね」がついたりします。普通のSNSでも100「いいね」をもらうのは難しいですし、ましてや釣った魚の写真にそれだけつくことはほとんどないので、ツリバカメラのコミュニティーって独特の濃さがあるんですよね。

―ツリホウとツリバカメラの相乗効果はあるのでしょうか?

どちらも対象は釣り人ですが、それぞれメディアとコミュニティーサービスなので補完し合う関係にあります。今後は連携をさらに深めていく予定です。

バンドマンから社長へ、福岡移住で見えた可能性

 

仕事中のワタベさん。晴れた日は透明度の高い海がオフィスから見られるそう。



―ワタベさんは東京から福岡に移り住んで起業されたそうですね。これまでのキャリアが気になります。

ワタベ:2009年に音楽大学を卒業したあと、インディーズバンドのギタリストをしていました。その後は東京で仲間3人と起業。クリエイターを支援するウェブサービスを2年半ほど運営したもののうまくいかず、2013年の頭にフリーランスとして独立。その年の年末に福岡に移住し、翌2014年8月にウミーベを立ち上げました。なので、いわゆる会社員を経験していないんですよね(笑)。

―ちなみに、なぜご自身のお名前をカタカナで「カズワタベ」と表記されているのですか?

ワタベ:バンドマン時代にこの名前で周囲に浸透していたので、そのまま使っています。最近名刺に本名を追記したのですが、それまでは誰も本当の名前を知りませんでした。カタカナ5文字の名前って覚えられやすいんですよ。僕はこれを「スガシカオ効果」と呼んでいます(笑)。

―なるほど(笑)。ワタベさんが福岡に移住されたキッカケもお聞きしたいです。

ワタベ:長野に生まれて地方都市を転々としながら育ったので、東京の環境が合わなかったんです。ぶつかってしまうぐらいの人混みとか街頭ビジョンの爆音とか、僕にとってはしんどかった。その点、福岡は人口密度が低くて家賃も安く、各方面へのアクセスもいい。何より食事が最高においしい! バツグンの住環境ですね。

―福岡に移住する前から、ウミーベの立ち上げを考えていたのですか?

ワタベ:起業することだけは決めていましたが、事業領域までは決めていませんでした。東京より福岡でやるからこそ面白い事業にしたいと思ったときに、たまたま釣りがマッチしたのです。

これは総務省が統計を出しているのですが、東京より九州のほうが釣り人の割合が多いし、大手の釣り具メーカーも西日本に多い。東京近郊でも釣れますが、こっちのほうが魚は圧倒的においしいんですよね。

「ウミーベ食堂」と銘打ち、自分たちで釣った魚をオフィスでさばいて食べることも多いそう。



―地方の会社のメリットは、どんなところでしょうか?

ワタベ:さまざまな面でコストが安くつくことは大きなメリットですね。また弊社のように自然に近いところにオフィスを作っても、利便性が損なわれづらいのも良いところだと思います。あと満員電車にも乗らずに済むので、それだけでもだいぶストレスが軽減されますね。最後にこれは地方だからというより弊社だからこそですが、新鮮でおいしい海鮮が定期的に食べられます(笑)。

ITを武器に「釣り業界の未来」をデザインしたい

 

オフィス近隣のスポットで釣りをするウミーベのスタッフ



―複数社からの資金調達など、各方面からの評価が高まっていますが、ワタベさんご自身はなぜ評価されていると思われますか?

ワタベ:評価いただけているのは本当にありがたいです。おそらく市場規模が一定以上あるにもかかわらず、テクノロジーやデザインが浸透していないし、あまりプレイヤーがいない領域を攻めているからだと思います。さまざまな面で、ITやデザインの力で改善できる部分が他のジャンルに比べてたくさんあるんです。

―ツリホウとツリバカメラ両者とも持続し成長していくために、どんな努力をされているのかお聞きしたいです。

ツリホウは、釣り人の課題解決や技術向上につながるようなコンテンツを精力的に作ること、ツリバカメラは、釣りがより楽しくなる機能の開発に注力しています。また、そのために自分たちもいろいろな釣りをやるようにしています。

―ワタベさんが考える「釣りの魅力」ってなんですか?

ワタベ:なんといっても釣りたての魚のおいしさを味わえること。一度釣りたての魚を口にしたら、お店で買ってきたものでは物足りなくなってしまいます。あとは魚を釣ったときの達成感。釣り上げた瞬間はアドレナリンが出てますね(笑)。

―釣りをしてみたくなってきたのですが、やっぱりなんとなく敷居が高い気がしてしまうんですよね。

ワタベ:まさしくそこが釣り業界の課題です。釣り人って中年の方が多いと思われているかもしれませんが、実際はどの年齢層も一定数います。ただ、「釣りが好き」だと自ら主張する人は少ない。これはレジャー自体のイメージが良い状態じゃないから起きているのです。

―では、その課題をどのように解決したいと考えられているのでしょうか?

ワタベ:僕らの強みであるITやデザインの力を使って、釣りというレジャー自体の改善や、ブランディングをしていきたいと思っています。それがウミーベの使命だと感じています。

興味があるのに、実際に釣りをするところまで至っていない人って実はたくさんいるんです。であれば、彼らに適切なサービスやモノを提供していけば、おのずと釣り人って増えていくはずですよね。

―ワタベさんが仕事をするうえで、一番大事にしていることを教えてください。

ワタベ:心身ともに健全な状態を保つことですね。起業家はがんばりすぎて体調を崩したり、精神を病んでしまったりする人が少なくないのですが、これって事業にとって大きなリスクなんです。海辺にオフィスを作った理由も、ひとつは自分やメンバーが日々楽しく働ける環境を実現するためです。

石の上にも3年なんて関係ない。好きなことをしようよ

 


終始フランクにインタビューに答えてくれたワタベさん。天気がいい日はスタッフ同士で、ワイワイと釣りに出かけることも多いそう。最後に20代の若手ビジネスパーソンへのアドバイスをお願いしたところ、こんなアドバイスを送ってくれました。

「よく“下積み3年”と言いますが、そんなことは全然気にしなくていいと思います。スタートアップに関していえば、3年後にはなくなっていることだって珍しくない。無理にガマンするより、夢中になれるような好きなことをしたほうが、幸せな働き方ができるんじゃないかな」

経営者として慎重に事業をハンドリングしつつ、直感の大切さも忘れないワタベさんだからこそ、バランスを保った心地良いライフスタイルが実現できているのでしょう。「こんなことができたら面白いかも」、そんなふとした思いつきから、すぐにアクションを起こすフットワークの軽さが、ワクワクする未来を創っていくのかもしれません。

(取材・文:小林 香織)

識者プロフィール


カズワタベ(渡部・一紀)/ウミーべ株式会社 代表取締役CEO
1986年4月長野県松本市生まれ。音楽大学卒業後、クラブジャズバンドの活動を経て2011年にGrow株式会社を創業。その後独立し、福岡に移住。フリーランスとして1年半ほどウェブ、デザインに関わる制作、ディレクション、コンサルティング業務を行い、2014年8月にウミーベ株式会社を設立。代表取締役CEOに就任。

ウミーベ株式会社:https://umee.be/
ツリホウ(釣報):https://tsuriho.com/
ツリバカメラ:https://tsuriba.camera/

※この記事は2017/04/10にキャリアコンパスに掲載された記事を転載しています。

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